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紅い月のもとで

第十二話 紅い月のもとで②

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 あやしくただよう紅い月の光、闇に沈む暗がりの町で、僕は血まみれの老婆と対峙たいじする。僕が銃の引き金を絞ろうとした瞬間、老婆はひっそりとつぶやいた。

「坊や影が少し見えているよ」

 ──瞬時、僕の心臓が鷲掴わしづかみになった。だが、僕はかまわず一心不乱に老婆にバースト射撃を行う。

 激しい音が夜の静寂を破り、つらなる弾丸が放たれて、その反動で手がしびれてしまった。視界に入る石造りの外壁を粉々にしていく、揺らめき動く老婆の影、よしこれで……。なっ!?

 だげ、よく見るとそこには無傷の老婆がいた。──しまった、老婆のつぶやきに動揺したのか!? 僕の射撃は外れていたのか?

 くそっ! 僕はその場から逃げようとした、が、空を見上げると月を背にしてしまっていた、しまった! それで、僕の影が見えたのか!

 老婆は恐ろしいスピードで追いかけてくる、速い! 老婆がショートソードを振り上げ光の刃がおそって来た。

 僕が逃げに徹したのが幸いし、なんとか刃をかわす、そして、僕は度々振り返りながら老婆と距離を取ろうとする、だが、老婆の足は僕と同じぐらいのスピードで追ってくる。何故だ、何故こんなにも早く動ける!?

 くそ、どうやって距離を取る……? とりあえず、僕は命からがら町を駆け巡った、そうこう考えているうちに、あたりが騒がしくなっていた。戦いの音でに人々の注目を浴びたのか?

 ──いや、違う、祭りだ。夜の中、松明たいまつ明々あかあかと灯し、人々が集まり、あるいは踊り、歌っていたり、僕はみたことのない形状の、おそらく楽器だろうもので演奏していた。

 この世界にも音楽を楽しむ文化があったのか? 少し感心しながら、ふとあることを思いつく。

 この人混みに紛れてしまえば僕は見つからないのではないのか――? 昼間は明るい、外人がいれば人混みの中でも目につきやすい。

 だが今は夜だ。顔かたちなどわからない、今、僕はこの世界の人々が着ている服と同じ服を着ており、フード付きのコートを羽織っている、考えた結果祭りの人々の中に紛れ込んで距離を取ることにした。これで老婆も追ってこないだろう。

 あたりがざわめく、血まみれの老婆が僕に向かって直線的に向かってくるからだ。あれでは逆に目立つ、策が功を奏したようだ、だがしかし、まっすぐこちらに向かってくる、なぜ僕の居場所がわかる!?

 僕は逃げ出した、殺されるわけにはいかない。僕が死ねば、メリッサもともに死んでしまう。ふと、メリッサのことを想った。老婆があんなに返り血を浴びていたということは、相当刺されたということだ、途端に胸が締め付けられる。

 ヴァルキュリアとはいえ痛覚はそのままだ、痛みはこらえようもないだろう、あの少女が痛みに苦しむ姿を思い浮かべると胸がはち切れそうになった。

 メリッサ……すまない……。

 心の中で懺悔ざんげすると同時に決意を新たにする、絶対にあの老婆を倒す。メリッサがうけた痛みは、千倍にして返す、呼吸を整え、心の臓を落ち着かせる。僕は冷静に、周りを見渡した、何か使えるものはないか。

 よく探すと空き家があった。ドアや窓は取り外されており、硬い石造りの小さな家で、部屋は狭い、中は真っ暗だ、これは待ち伏せにもってこいだ、入り口は限られているし、奇襲される恐れもない。

 中に入ってみると、外側はぼんやり月明かりで照らされており、外に置いてある木箱やらの影がはっきり見える。しめた! ここは使えるぞ、部屋の中の暗がりに入れば相手の視界に入らないだろう、また、中から外を見れば明るさの差で、敵の姿がはっきり見えるはず、僕はここをポイントとし待ち伏せることにした。

 静寂しじまの中しばらくすると、黒い影が伸びてくるのがわかった、ゆっくりと足を忍ばせてこの部屋の横をすごそうとしている。奴だな。姿がゆっくりと見え、胸あたりに照準が合ったとき、バースト射撃を行う!

 放たれた銃弾に呼応して影がうごめき、わずかながら老婆の体が跳ね飛ばされるのがわかった。当たった!

 しかし、老婆はうめき声一つあげずに体を隠す、仕留め損なったか? 近づいて確認してみるか? いや、まてよ、これはやつの手だ。その手には乗ってはならない。

 僕はじっと入り口に銃口を向けて待ち構えた、しばらく沈黙の時間が流れる、あたりは静かだ、そうやって時が流れていくと、しんとした緊張の中に奇妙な音が伝わってきた。

 ズッ、ズッ、ズッ……

 何か引きずる音が聞こえる、うっすらと闇の中から茶色い四角い物が見えてくる、そして入り口に大きな木箱が現れた。これを盾にして近づくつもりか!

 僕はセミオートで木箱を撃ちつくす。木箱がバラバラになったが、老婆は……いない? ひょいと影が伸びるのがみえて、それだと思って銃を放った。

 音が鳴り、銃がうなるが途中で音がしなくなる、トリガーを引いてもまん中で固く止まり動かない。射撃が途中で終わってしまった!?  弾倉マガジンが軽い、ロックがかかった、しまった、弾切れだ!

 絶望の中、辺りを見渡し僕は他の武器を探す、だが、残念ながら火かき棒らしき物しかなかった。僕はMP7A1を捨てて火かき棒に持ち換えようとする、──それが運の尽きだった、MP7A1を地面に落とした音がしたとき、老婆が一気に襲いかかってきた。

 そうだ……! どうせ相手はこの武器の弾の数なんてわからないんだ、僕の世界の人間じゃないから弾切れなんて知識はない、このまま銃を構えて外に出れば老婆は警戒して攻撃しなかっただろう。

 何故僕は、相手も同じ常識を持っていると思ったのだろうか。しまったことになった。火かき棒で殴ろうとするもあっさり木の部分を切られ、前のように切れ端を刺そうとするもたやすくかわされる。

 僕は簡単に老婆に組み伏せられて、ショートソードの刃を顔の方を向けられた。対して僕はそれを手をつかんで、なんとか攻撃を防ぐが、腕力は僕の方が上だろうになにせ体勢が悪い、体重をかけて光の刃が僕の顔に近づいてくる!

 機転を利かし、僕は相手の気を散らそうと話しかけた。

「何故僕をまっすぐ追跡できた? 何故そんなスピードで動ける?」

 僕の問いに対し嬉しそうに老婆は答えた。

「教えて欲しいかい?」

 老婆は自分のスカートをまくり上げる、そこには若い少女のような白い美しい足がついていた……!

「ヴァルキュリアと目と足を交換したのさ、ヴァルキュリアの目があれば、たとえ人混みに紛れてもエインヘリャルはわかるし、ヴァルキュリアの足があれば普通の男以上の脚力が持てるのさ。ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 何だと――!
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