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紅い月のもとで
第十話 つかぬ間の休息
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目が覚めるとそこには、涙ぐんだメリッサがいた。
「よかった! 無事で」
ああ、そうか僕は敵にやられて、命からがら逃げ出したんだった。メリッサが僕を強く抱きしめる、それに対し僕は彼女の頭をそっとなでた。彼女は涙ながら僕に訴えかけた。
「私が悪かった。盾になるとか言いながら、お前のそばから離れるなんて。お前が生きててよかった、本当によかった」
そうか、そんなに心配してくれていたのか、はは嬉しいな、そして僕は彼女の胸を痛めたことを、申し訳なく思った。
「すまない、僕がメリッサの手を放したのが悪かった。僕の責任だ」
「そうだお前が悪い」
そう言うとかえって彼女は胸を張った、
「だいたいなんだ! エインヘリャルがいるから、離ればなれになるなとあれほど言ったのにあっさり迷子になって。お前は子供か?
35にもなって気恥ずかしいとか思ったんじゃないだろうな。中学生か!? バカ者め! 現実はそんなには甘くない。一つの行動が命取りだ。いいか、次から私の手を放すな。絶対に離れるなよ! 絶対だ、いいな!」
いつもの罵倒が始まった、これでこそメリッサだ、僕はそれがなんとなく嬉しかった。
「ああ、わかったよ。メリッサの言うとおりだ。お姫様」
「よろしい、じゃあ何があったか詳しく説明してもらおうか」
僕は彼女のもとで老婆との戦いを事細かに話した。
「ショートソードの武器か。特段恐ろしい物ではないが、相手が戦闘経験が豊かなのはやっかいだな。老婆と思って侮らない方がいい」
彼女はそう言って一息つくとそばにあった木のコップで水を飲んで、語り始めた。
「お前に説明しておくことが2点ある。まず始めにエインヘリャルはこの世界の言葉は理解できないし話すことはできない。言語体系が全く違いお前たちの世界と相通じる部分はない。
よって現地の人間と話したいときは私を通して話せ。私は神だ。言語という概念を超えて第八識つまり阿頼耶識の部分を通じて深層世界までコミュニケーションが取れる」
なるほど、ということは彼女なしにこの世界で生きていけないそういうことか、強力な依存関係なんだな僕たちは。
「そしてお前が今話している言葉は日本語ではない。エインヘリャル独特の言葉だ。特段名前はないがまあ、エインヘリャル語と思えばいい。
よってエインヘリャル同士なら会話ができる。だから、会話ができたらエインヘリャルかヴァルキュリアだと思え」
僕はうなずいた、彼女はどうやら一息ついた様子でコップの水を飲み干す、そして間を置いた後、続きを語り始めた。
「もう一つだ、相手がエインヘリャルだと確認する方法は、ヴァルキュリアに見せて確認する以外ない。つまり、私が近くにいなければ相手が敵だと察知できない。だから常に私と離れるな。でなければ、今回みたいなことになる、わかったな」
ヴァルキュリアがいないと察知できない? なら疑問が生まれてくる。
「相手のそばにヴァルキュリアらしき人物はいなかったぞ。それをどう説明する?」
「どっかに隠れていたんじゃないか? 私が確認したわけじゃないからわからない」
隠れていた? 老婆のそばには誰もいなかった。じゃあ、人混みに紛れていたのか?
話を切り上げると、メリッサは話が終わるや否や、ベッドに入ってきた。お、おい、何やっているんだ? けがで倒れていた僕は、今、ベッドに寝かされていた、となると彼女の顔が僕の顔の間近にやってきてしまった。ちょ、ちょっと待ってくれ、近い……、近いって……!
「お、おいやめないか、僕をからかっているのか?」
「お前は単独行動が好きなやつだからな、私をおいてどっかに行きそうで怖い。これからは一緒に寝る」
冗談だろ、おい、彼女の息が鼻にかかってくる、ああ、普段は動かない心臓の鼓動が激しい。何だろうこの娘は前は僕の目の前で無防備な姿で寝たり、罵倒したり。それでまたこんなにも僕を想ってくれる、いったいなぜなんだ?
「や、やめてくれ」
どうにもこうにも僕の心臓が破裂しそうだ、にもかかわらず、メリッサが僕の胸あたりを触ってきた。そして彼女は静かに感じ入りながら語りだす。
「おまえ、心臓が動いているな?」
そう彼女が言うと優しく微笑んだ。えっ……?
「実はエインヘリャルも神も魂に大きく影響を受ける、魂が揺さぶられたとき、人間のように心臓が動くんだ。つまりな、お前は、私に恋をしているというわけだ、この意味わかるな……?」
そうメリッサが呟くと顔が熱くなるのを感じた。僕がメリッサに恋? 僕は彼女に惹かれていたのか?
こんな、傲慢で口が悪くて説明好きで悪態をつく女の子に? だがしかし、そう思うと心がなんだか温かくなる、なるほど、たぶん言うとおりこれは恋なんだ。こんなに美しくて、僕を心配してくれて、時には叱ったり褒めたり優しくしてくれる女の子はなかなかいない。
だから、前、思わず彼女の胸を触っちゃたんだ。どう考えても奥手な自分らしくなく、勢いで触ってしまった。メリッサの体にひかれていたんだ。こんなきれいな娘がそばにいて、おかしくならない男はいないよ。
安らいだ心地で彼女の顔を見つめていた、胸の鼓動が止まらない。その時突然メリッサは僕の手を、彼女の胸あたりに持ってきた。すると、メリッサの心臓がトクン、トクンと音がしているのがわかった、えっ──、こ、これは……?
「メリッサ、君はまさか僕を――」
「最初はな、ただのエインヘリャル探しで他人の人生を見ていた。そしてお前の人生を見た。無様でみっともない。でもそんなお前がなんだか愛おしく感じたんだ。不思議だなこんな気持ちは初めてだった。だからお前を選んだ。変か?」
僕は何も言えず押し黙った、だからか、だからこんなにも僕に優しくしてくれるのか。そうか、そうなのか……。僕は彼女の気持ちに深く感じ入ってしまった。このときの神聖な気持ちは決して生涯忘れることはないだろう。
しかし、突如、彼女が体を起こしだす。なんだ、何かあったのか……!
「エインヘリャルだ。こっちにやってくるぞ!」
何⁉ 僕はその言葉に身を引き締め、迎撃の準備を整えた。
「よかった! 無事で」
ああ、そうか僕は敵にやられて、命からがら逃げ出したんだった。メリッサが僕を強く抱きしめる、それに対し僕は彼女の頭をそっとなでた。彼女は涙ながら僕に訴えかけた。
「私が悪かった。盾になるとか言いながら、お前のそばから離れるなんて。お前が生きててよかった、本当によかった」
そうか、そんなに心配してくれていたのか、はは嬉しいな、そして僕は彼女の胸を痛めたことを、申し訳なく思った。
「すまない、僕がメリッサの手を放したのが悪かった。僕の責任だ」
「そうだお前が悪い」
そう言うとかえって彼女は胸を張った、
「だいたいなんだ! エインヘリャルがいるから、離ればなれになるなとあれほど言ったのにあっさり迷子になって。お前は子供か?
35にもなって気恥ずかしいとか思ったんじゃないだろうな。中学生か!? バカ者め! 現実はそんなには甘くない。一つの行動が命取りだ。いいか、次から私の手を放すな。絶対に離れるなよ! 絶対だ、いいな!」
いつもの罵倒が始まった、これでこそメリッサだ、僕はそれがなんとなく嬉しかった。
「ああ、わかったよ。メリッサの言うとおりだ。お姫様」
「よろしい、じゃあ何があったか詳しく説明してもらおうか」
僕は彼女のもとで老婆との戦いを事細かに話した。
「ショートソードの武器か。特段恐ろしい物ではないが、相手が戦闘経験が豊かなのはやっかいだな。老婆と思って侮らない方がいい」
彼女はそう言って一息つくとそばにあった木のコップで水を飲んで、語り始めた。
「お前に説明しておくことが2点ある。まず始めにエインヘリャルはこの世界の言葉は理解できないし話すことはできない。言語体系が全く違いお前たちの世界と相通じる部分はない。
よって現地の人間と話したいときは私を通して話せ。私は神だ。言語という概念を超えて第八識つまり阿頼耶識の部分を通じて深層世界までコミュニケーションが取れる」
なるほど、ということは彼女なしにこの世界で生きていけないそういうことか、強力な依存関係なんだな僕たちは。
「そしてお前が今話している言葉は日本語ではない。エインヘリャル独特の言葉だ。特段名前はないがまあ、エインヘリャル語と思えばいい。
よってエインヘリャル同士なら会話ができる。だから、会話ができたらエインヘリャルかヴァルキュリアだと思え」
僕はうなずいた、彼女はどうやら一息ついた様子でコップの水を飲み干す、そして間を置いた後、続きを語り始めた。
「もう一つだ、相手がエインヘリャルだと確認する方法は、ヴァルキュリアに見せて確認する以外ない。つまり、私が近くにいなければ相手が敵だと察知できない。だから常に私と離れるな。でなければ、今回みたいなことになる、わかったな」
ヴァルキュリアがいないと察知できない? なら疑問が生まれてくる。
「相手のそばにヴァルキュリアらしき人物はいなかったぞ。それをどう説明する?」
「どっかに隠れていたんじゃないか? 私が確認したわけじゃないからわからない」
隠れていた? 老婆のそばには誰もいなかった。じゃあ、人混みに紛れていたのか?
話を切り上げると、メリッサは話が終わるや否や、ベッドに入ってきた。お、おい、何やっているんだ? けがで倒れていた僕は、今、ベッドに寝かされていた、となると彼女の顔が僕の顔の間近にやってきてしまった。ちょ、ちょっと待ってくれ、近い……、近いって……!
「お、おいやめないか、僕をからかっているのか?」
「お前は単独行動が好きなやつだからな、私をおいてどっかに行きそうで怖い。これからは一緒に寝る」
冗談だろ、おい、彼女の息が鼻にかかってくる、ああ、普段は動かない心臓の鼓動が激しい。何だろうこの娘は前は僕の目の前で無防備な姿で寝たり、罵倒したり。それでまたこんなにも僕を想ってくれる、いったいなぜなんだ?
「や、やめてくれ」
どうにもこうにも僕の心臓が破裂しそうだ、にもかかわらず、メリッサが僕の胸あたりを触ってきた。そして彼女は静かに感じ入りながら語りだす。
「おまえ、心臓が動いているな?」
そう彼女が言うと優しく微笑んだ。えっ……?
「実はエインヘリャルも神も魂に大きく影響を受ける、魂が揺さぶられたとき、人間のように心臓が動くんだ。つまりな、お前は、私に恋をしているというわけだ、この意味わかるな……?」
そうメリッサが呟くと顔が熱くなるのを感じた。僕がメリッサに恋? 僕は彼女に惹かれていたのか?
こんな、傲慢で口が悪くて説明好きで悪態をつく女の子に? だがしかし、そう思うと心がなんだか温かくなる、なるほど、たぶん言うとおりこれは恋なんだ。こんなに美しくて、僕を心配してくれて、時には叱ったり褒めたり優しくしてくれる女の子はなかなかいない。
だから、前、思わず彼女の胸を触っちゃたんだ。どう考えても奥手な自分らしくなく、勢いで触ってしまった。メリッサの体にひかれていたんだ。こんなきれいな娘がそばにいて、おかしくならない男はいないよ。
安らいだ心地で彼女の顔を見つめていた、胸の鼓動が止まらない。その時突然メリッサは僕の手を、彼女の胸あたりに持ってきた。すると、メリッサの心臓がトクン、トクンと音がしているのがわかった、えっ──、こ、これは……?
「メリッサ、君はまさか僕を――」
「最初はな、ただのエインヘリャル探しで他人の人生を見ていた。そしてお前の人生を見た。無様でみっともない。でもそんなお前がなんだか愛おしく感じたんだ。不思議だなこんな気持ちは初めてだった。だからお前を選んだ。変か?」
僕は何も言えず押し黙った、だからか、だからこんなにも僕に優しくしてくれるのか。そうか、そうなのか……。僕は彼女の気持ちに深く感じ入ってしまった。このときの神聖な気持ちは決して生涯忘れることはないだろう。
しかし、突如、彼女が体を起こしだす。なんだ、何かあったのか……!
「エインヘリャルだ。こっちにやってくるぞ!」
何⁉ 僕はその言葉に身を引き締め、迎撃の準備を整えた。
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