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紅い月のもとで

第八話 リッカの攻防戦

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 僕たちは次の街に行く途中、森を通った。昼頃、森の中で響く銃声、飛び散る弾丸、僕は木に向かってMP7A1を撃っていた、木に近寄って弾痕だんこんを見る。

 どうやら僕の腕では、命中できるのはせいぜい20mといったところか、中距離戦闘では有効だが遠距離になると使えないな。

 遠距離と言えばスナイパーライフルだけど、残念だが僕にはスコープのような光学機器が創造できなかった。

 素人に長距離射撃は無理だ。だから使い勝手のいい短機関銃で訓練するしかない、まあ、弾をばらまけばいくつかは当たるし、今の僕向けだろう。だから僕は次の町へと移動する中、射撃練習を行っていた。

 銃に関する知識は僕にはあった、銃が好きでネットや本で調べたり、モデルガンを買ったりして趣味を楽しんでいた、まあ、ということで構造自体は理解できていたから、咄嗟とっさに創造ができたのだ。

 だが実戦となれば別だ、反動や手のぶれで命中精度が欠ける、訓練が必要だ。僕が集中して射撃訓練を行っている中、メリッサの声がした。

「特訓をしても、筋力はつかないから握力とかの関係で、急激に銃がうまくなるわけじゃないぞ──」

 想像が正しければ、メリッサは少し離れたところで、僕が朝、クロスボウで狩ったイノシシをさばいている。

「わかっているさ。だから訓練が必要なのさ。手のぶれや反動の銃口のそれ方、そういうのを修正をすればもっと命中精度は上がる。より、実戦的な武器になる」

 僕は知識で知っていた銃の構え方をとる、うーん、やっぱり、もっと水平に構えた方がいいな。有意義な休暇時間をすごし、メリッサはおしまいの声をかけてくれた。

「今日はそれくらいにして、そろそろ日が暮れるぞ。さあ、夕飯の支度をするからこっち来い!」

――――――――――――――――――――――――――

 たきぎを囲みイノシシ鍋を口にした、これは美味い、肉汁がぎっちりスープにしみこんでおり、甘くって、とろけそうな肉は口に入れると歯ごたえもあり独特の野性的な味と調味料の辛みが混ざり合っている。美味い! 美味い!

 幸運なことにメリッサは本当に料理が上手かった。微妙な味付けや食べやすく肉を切ったりするのが得意で、鮮やかにナイフを使ってどんな肉でもさばいてみせた。

 ふと見ると、メリッサがこっちの表情をじっと見ている。ああなるほど、感想を聞きたいのか。もちろん僕はにこやかに彼女に告げる。

「もちろんおいしいよ! 僕好みの味付けだ」

 僕がそう言うと、非常に喜び、「よかった! 頑張った甲斐があったぞ」と胸の前で手を合わせた。可愛いな、素直に喜んでくれるとこっちも気分がいい。もちろんこんな可愛い女の子が作った料理なら、僕は何でも美味いと答えるが、本当においしかった。

 彼女は料理を作るたびに、味付けは濃いか、どういう料理が好きか、とにかく詳しく聞いてくる。僕好みの料理を作るために一生懸命になってくれているのがたまらなく嬉しかった。

「もうすぐ次の町のリッカだ、前よりも大きな町で人も多い。外人がいても奇妙に思われないだろうな」

 彼女は料理を木の器につぎながら言った。

「だとすれば、エインヘリャルがいる可能性が高い?」
「そうだな、私もそう思う」

 戦闘になるか……。僕は少し身震いをしながら、心を落ち着かせる、メリッサを守りながら戦う、その困難をやってのけなければならない、できれば彼女を傷つけるようなことはしたくない。

 よし! 僕は決意を新たにしながら、顔つきを引き締めた、それを見透かしたのかメリッサは真剣な表情で言う。

「私のことはどうなろうとかまわない。むしろ盾にしろ。お前が生き延びることだけを考えろ」

 いや、それはできない。僕にはそんなことができない、メリッサを傷つけるくらいなら、死んだ方がましだ。心の中で彼女の提案を精一杯拒否する。

 そうやって僕たちは食事を満足のいった形で済ますとおなか一杯になり、森の中で夜を明かした。

 朝になるとずんずんと森を歩いて行く、長い道のりだったが、昼頃になると町が見えてきた。

「あれがリッカだ、予想通り人が多いな」

 メリッサが軽く語り掛ける、少し大きな町だ。城壁に囲まれていて、建物が数多く建っているのがわかる。だが、僕たちがリッカに入ると今まで見たのと違う風景だった、町は整備されており、壁にひび割れが少なく屋根もしっかりしている。

 入ってみると人は言っていたとおり多かった、と言っても僕が住んでいた日本ほどではなく、ちゃんとまっすぐ歩ける、どうやら町によって地方差があるらしい、この世界は。しかしそれは、大通りに来ると全然違った。

 道にいっぱいの人が引き詰められ、日本で言うとそう、花火祭りに行ったときの感覚だ、しばらく大通りを行ったところでメリッサは立ち止まった。

「いる……エインヘリャルがいる……」

 血の気が引いた、いるのか、この大通りの中で、僕は小さな声で尋ねた。

「エインヘリャルの気配はどれくらいの距離で感じられるのか?」

「だいたい80mから100m前後だ。なんとなくわかる。とにかく姿が確認できれば確実にわかる。こちらは人混みに紛れて相手を探そう佑月ゆづき、私と手をつなげ。人混みに流されたら離ればなれになって危険だ」

「いや、大丈夫だ」

 なんとなく、メリッサと手をつなぐのが恥ずかしかった、たったそれだけの理由だ、そんなバカな行動をしたのが間違いだった。すぐに人混みに流され離ればなれになったのだ。咄嗟とっさに、僕に危機が迫っていることが肌で感じられた。

 メリッサがいない、しまったどこにいったんだ。

「お~い、メリ……ヴァルキュリア!」

 僕は大声で叫ぶ。返事は人ごみにかき消される。

「お~いヴァルキュリア!」

 あたりを探し回すがどこにもいない。まずいなこの状況は……。

「おやおや、人をお捜しかい?」

 老婆が親切にも尋ねてきてくれた。捨てる神あれば拾う神ありというやつだ。地方出身の僕は老人と話しなれているせいか、自然、打ち解けてしまっていた。

「人を探しているんだ。銀髪の髪で目が碧い、民族衣装を着た美しい少女を知らないでしょうか」
「おお、そいつは大変だ、それはもしかして……」

 老婆は考え込む、僕は老婆の様子を中腰でのぞき込むように見ていた、──その時であった。

「こういうことじゃないのかい――?」

 なんだ⁉ 何が起こったのかよくわからない、喉が熱い、手を当ててみると血がべっとり付いていた。息が……息ができない!

「かあっ! あっ!」
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃは!!」

 老婆は悠然ゆうぜんと高笑いし大通りに響き渡る、手には僕の血に染まった銀色に光るショートソードがあった。

 ――こいつ、まさか、エインヘリャルなのか!?
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