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序章
第三話 最初の敵
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すべての終わりにも始まりがある。僕にとっては小さな戦い。でも、これが僕の生きている第一歩なんだ。
周りの風景が認識できた頃にはすでに、いままでと全く違う、色あせた世界に僕は足を踏み入れる。見たことのない光景、もちろん日本じゃない。
石でできた家々、ところどころ壁がひび割れていた。屋根をみると煉瓦でできているのだろうか、とにかく瓦じゃなかった。僕は太陽の光に目を顰め、瞼を見開いた時にはここはもう、中世だった。
床は硬い土。ヴァルハラの扉から落ちてきて、尻餅をついたところ非常に痛い。僕が尻をさすっていると、どんどん周りには人だかりができて遠目におびえた表情でこちらをみている。
彼らは色彩があまりない服を着て、ところどころ破れていてボロボロだ。裕福そうなものは色とりどりの布を頭部から肩にかけ羽織っていて、それを首に巻き付けたり、首の後ろで結んだりしていた。
しばらくぼんやりと周りを眺めていると、突然のことだった。僕を見て、老婆が力強く目を開き、叫び出した!
「悪魔じゃー!! 悪魔が出たぞ!!!」
人々がざわめきはじめた。何だ何の言葉をしゃべっているのか? 老婆がよくわからない言葉を話しており、僕には何を言っているのかわからない。動揺が隠せなかった。こんなときどうしたいいかわからない。僕にとって初体験だったんだ。
「悪魔じゃー!! 悪魔じゃー!!!」
「殺せ! 殺せ!」
わけがわからない言葉で人々が騒ぎ出す。ただ僕は直感する――
――このままだと危険だ。
腹を決めると、僕は一気に走り出した。途中男が行く道をふさごうとしたが、こっちは勢いのまま体当たりをしようと構える。僕を見つめた男はおびえた様子で道を開けてくれた。
「ふむ、そういう適応力は評価できるぞ、たいしたものだ」
静かで笑みを含めたメリッサの声。見ると隣で走りながら、うんうんと可愛らしくうなずいていた。
「メリ……ヴァルキュリア。これはいったいどういうことなんだ!?」
「どうやら、彼らはお前のことを悪魔だと思っているらしい」
おい、悪魔って……。君のほうが悪魔っぽいじゃないか。メリッサは存分に楽しげに言った言葉に、僕は心の中で反論をしてしまう。
僕たちが言葉を投げ合っていると、突然、横から色彩豊かな羽織をまとい、鎧を着け、頭に羽を付けた男が現れ大声で叫んだ。
「止まれ!」
彼は僕の勢いに呑まれない。むしろこっちから呑み込んでやろうとばかりの怒声。手には機械仕掛けの弓がある、あれはまさか……! すぐさま弓をセットし、僕に向かって狙いを定めてくる!
「まさか、ボウガン!?」
「それは和製英語だ。ただしくはクロスボウという。威力はすさまじいぞ、胸にあたると鎧を貫通して心臓に達する」
胸と言われたので僕の胸のあたりを探るが、そこにあるのは僕がいつも着ているTシャツ。当たれば即死もあり得る。おいおいまじかよ、危険すぎるぞ異世界は。
危機を察知し、僕は人込みを避けながらできるだけ斜めにジグザグに走った、突然、激しく風を切る音がして矢が飛んでくる。放たれるや否や、側にいた男の足に矢が刺さったようで筋肉もろとも深々と貫いていた。
「うわああ!!!」
その男は矢が刺さってしまい、真っ赤な血が流れ、足を抱えながら悶絶している。恐怖のあまり、僕は脇道を曲がり、人がいない方向へ逃げた。
周りを見渡すが、メリッサ以外いない。息を切らしながらも安心してその場に腰を下ろし、とりあえず落ち着いた。
「一体何だっていうんだ!? 僕が悪魔だって?」
「その恰好」
楽し気にメリッサが僕を指さす。まじまじと自分の服を見直すとTシャツとジーパンを着ていた。対し、メリッサを見ると美しい民族衣装。ネットで見た北欧の少女の衣装だと思うものに着替え、鎧は着ていない。
なんだ着替えるのが早いな。どういうことだ。いじらしくしながらも、メリッサは面白おかしそうに語り始めた。
「ここの人々には、お前の恰好は異様だな。中世では人の行き来が少ない。見たことのない顔立ちをしている男は奇妙そのものだ。とにかく、お前のその衣装は、彼らにとってよくわからない裁縫で出来ている。
まあ、田舎者が多そうなこの町では外人には排外的だ。なら、悪魔と間違われても仕方ないだろ?」
メリッサのハスキーヴォイスの笑い声が僕の耳の中で鳴り響く。おいおい、なら君はさしずめ小悪魔そのものだな。くそっ、何だってんだ。
でも、そうか。中世ヨーロッパでは普通が違うのか。僕はつい異世界を同じ文化にあるとそう錯覚していたが、全く別の世界なんだ。よく考えれば、こういうことは最初に気を付けなければならなかった。
「なんでそのことを僕に教えてくれなかったんだ?」
「だって質問しなかっただろ」
僕の言葉に平然と銀髪の少女は答える。
「ちょっと待て、危うく殺されかけたんだぞ!」
「エインヘリャルが人間が作った武器で殺されるはずがないだろ」
「エイ、……何だって!?」
聞きなれない言葉がメリッサの口からもれたので驚いてしまった。くっ、しまった、やはりこの世界に来る前にもっと説明を受けるべきだった。
僕は殺し合いをしに来たんだ、旅行に来たんじゃない。もっと慎重になるべきなんだ。
「すまない。まずは、そのエイ……何とかを説明してくれ」
こっちが冷静になると、メリッサは軽くため息をつく。鷹揚な声をあげ、まるで上品なお嬢様みたいに衣装を落ち着かせながら、頬に手の平を当て、可愛らし気に首を傾けて語りだした。
「エインヘリャル。この世界において不老不死の肉体を持つ。お前の世界では肉体は死んでいるため、正確にはすでに死んでいる。通常、ヴァルハラにおいて魂は生まれ何の自覚もないまま、槍に貫かれ最期を迎える。
私のようなヴァリキュリアが魂に呼びかけると、ヴァルハラで意識が目覚めるんだ。そうしてヴァルキュリアが魂を引き上げると、その因果から解き放たれエインヘリャルとなる。
不老不死といっても、特別に肉体が優れるようになるわけではない。死んでいるその時の筋力、反射神経、視力、聴覚をもったままだ。ただこの世界では死なないだけ」
メリッサの冷静な語りに、疑問が浮かび上がる。
「呼びかけるとヴァルハラで意識が目覚めるんだな、なら生きたままヴァルハラで意識が目覚めることはあるのか?」
「それはない。というよりもヴァルハラでは時間軸が違う。私から見れば魂が生まれ、いつの間にか槍に刺さっている。
お前がヴァルハラで目覚めた時点で、すでに死んだ運命をたどり終わっており、その記憶を持ったままヴァルハラで目覚める。
死なない人間なんていないからな。今のお前は人間ではない、エインヘリャルという不老不死の生命体だ。ちなみにその肉体が動けるのはミズガルズとヴァルハラのみだ。お前の世界へは二度と戻れない。……寂しくなったか?」
珍しく彼女が心配そうに僕の表情をうかがう。あれ、意外と心づかいができる娘なのかな? まあいいさ。それよりも。
「いや、現実世界には未練がない。ただ生きたいだけだ」
メリッサに言葉に、はっきりとした答えを僕は伝えた。
「いい答えだ。他に質問はないのか?」
「戦う相手なんだけど、そいつはエインヘリャルなのか?」
僕の疑問に、彼女は急に真剣な眼差しになる。
「そうだ相手もエインヘリャルだ。むろんそいつにもヴァルキュリアが付いている。で、ヴァルキュリアは神だ。死ぬことはない」
じゃあ、どうやって相手を殺せばいいんだ……? 尋ねるまえにメリッサは立ち上がり、僕に言葉を投げかけた。
「どうやら、敵のエインヘリャルが来たようだぞ」
彼女はそう言うが、僕の視界の中にはそれが確認できない、どういうことだ? だが、メリッサは静かに続ける。
「近づいてくるぞ、相手もこちらに気付いているようだな」
周りをつぶさに見渡していると、フードとマントを被った背の低い人間が、鎧を着たセミロングで黒髪の少女とともに現れた。
「いました、あいつです!」
鎧を着た黒髪の少女は僕を指さした。僕が慌ててどうしていいかわからず悩んでいると、フードを着た人がこちらに走り込んでくる!
「佑月、早く武器を!」
メリッサは叫んだが、僕はどうしたらいいかわからない。こんな時どうすればいいんだ⁉
「佑月! 私に力を貸せと言え、早く!」
僕はパニックになって身動き一つできない、瞬く間にどんどん距離が詰められる。フードの人、いや違う、敵だ。
奴が手に持つ鞭を大きく振りかぶり、振り下ろすと、光の筋が曲がりくねって僕の方に向かって来る!
「ぐあっ!」
瞬時、肩に激痛が走った。するりと魂が抜ける感覚がし、頭に電流が流れる。激しい痛みをこらえ、悶絶していると、敵はすぐさま光の鞭を振りかぶってくる。
……ただ、メリッサは僕の肩に手を触れてくれていた。何故だろう、なんだか心が落ち着いてくる。彼女の手の平の温かさに、自然、頭の中で考えがまとまってきた。
とりあえず僕はこの場から逃げることにしよう。僕らは急ぎ、走り出す。ずいぶん走った後、敵が周りにいないことを確認し、息を整えた。とは打って変わって、彼女は非情な言葉を投げてくる。
「安心するな、まだ近くにいる」
やっと落ち着けると思いきや、メリッサの声は存外重かった。
「どうすればいい!?」
「まず武器を作ることが先決だ。私に力を貸せと言え」
力を貸す……? まあいい、彼女の言う通りにしよう。僕は小さくうなずき、僕は高らかに唱える!
「――ヴァルキュリア、僕に力を貸せ!」
世界がどんどん歪む。辺りは青く沈み込み、ただ、僕とメリッサだけの世界になった。母なる胎内を感じる世界。僕はふと赤ん坊になった気分になる。これは……いったい……?
「――イメージしろお前は何を思い描く――」
金色の瞳を輝かせるメリッサ。武器、武器……。そうだ剣だ。長い剣だ!
心の中でその形を思い浮かべると、ただ何も言葉を発せず、メリッサの指先が動き、僕がイメージした通りの剣を形どられる。創られた武器とともに彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
歪んだ世界が円を描くように、元に戻り、厳かにメリッサは僕に剣を渡した。
僕がどうしていいかわからず戸惑っていると、敵の気配を察したのだろう、メリッサは大声で叫んだ!
「さあ行け! ラグナロクの始まりだ!」
周りの風景が認識できた頃にはすでに、いままでと全く違う、色あせた世界に僕は足を踏み入れる。見たことのない光景、もちろん日本じゃない。
石でできた家々、ところどころ壁がひび割れていた。屋根をみると煉瓦でできているのだろうか、とにかく瓦じゃなかった。僕は太陽の光に目を顰め、瞼を見開いた時にはここはもう、中世だった。
床は硬い土。ヴァルハラの扉から落ちてきて、尻餅をついたところ非常に痛い。僕が尻をさすっていると、どんどん周りには人だかりができて遠目におびえた表情でこちらをみている。
彼らは色彩があまりない服を着て、ところどころ破れていてボロボロだ。裕福そうなものは色とりどりの布を頭部から肩にかけ羽織っていて、それを首に巻き付けたり、首の後ろで結んだりしていた。
しばらくぼんやりと周りを眺めていると、突然のことだった。僕を見て、老婆が力強く目を開き、叫び出した!
「悪魔じゃー!! 悪魔が出たぞ!!!」
人々がざわめきはじめた。何だ何の言葉をしゃべっているのか? 老婆がよくわからない言葉を話しており、僕には何を言っているのかわからない。動揺が隠せなかった。こんなときどうしたいいかわからない。僕にとって初体験だったんだ。
「悪魔じゃー!! 悪魔じゃー!!!」
「殺せ! 殺せ!」
わけがわからない言葉で人々が騒ぎ出す。ただ僕は直感する――
――このままだと危険だ。
腹を決めると、僕は一気に走り出した。途中男が行く道をふさごうとしたが、こっちは勢いのまま体当たりをしようと構える。僕を見つめた男はおびえた様子で道を開けてくれた。
「ふむ、そういう適応力は評価できるぞ、たいしたものだ」
静かで笑みを含めたメリッサの声。見ると隣で走りながら、うんうんと可愛らしくうなずいていた。
「メリ……ヴァルキュリア。これはいったいどういうことなんだ!?」
「どうやら、彼らはお前のことを悪魔だと思っているらしい」
おい、悪魔って……。君のほうが悪魔っぽいじゃないか。メリッサは存分に楽しげに言った言葉に、僕は心の中で反論をしてしまう。
僕たちが言葉を投げ合っていると、突然、横から色彩豊かな羽織をまとい、鎧を着け、頭に羽を付けた男が現れ大声で叫んだ。
「止まれ!」
彼は僕の勢いに呑まれない。むしろこっちから呑み込んでやろうとばかりの怒声。手には機械仕掛けの弓がある、あれはまさか……! すぐさま弓をセットし、僕に向かって狙いを定めてくる!
「まさか、ボウガン!?」
「それは和製英語だ。ただしくはクロスボウという。威力はすさまじいぞ、胸にあたると鎧を貫通して心臓に達する」
胸と言われたので僕の胸のあたりを探るが、そこにあるのは僕がいつも着ているTシャツ。当たれば即死もあり得る。おいおいまじかよ、危険すぎるぞ異世界は。
危機を察知し、僕は人込みを避けながらできるだけ斜めにジグザグに走った、突然、激しく風を切る音がして矢が飛んでくる。放たれるや否や、側にいた男の足に矢が刺さったようで筋肉もろとも深々と貫いていた。
「うわああ!!!」
その男は矢が刺さってしまい、真っ赤な血が流れ、足を抱えながら悶絶している。恐怖のあまり、僕は脇道を曲がり、人がいない方向へ逃げた。
周りを見渡すが、メリッサ以外いない。息を切らしながらも安心してその場に腰を下ろし、とりあえず落ち着いた。
「一体何だっていうんだ!? 僕が悪魔だって?」
「その恰好」
楽し気にメリッサが僕を指さす。まじまじと自分の服を見直すとTシャツとジーパンを着ていた。対し、メリッサを見ると美しい民族衣装。ネットで見た北欧の少女の衣装だと思うものに着替え、鎧は着ていない。
なんだ着替えるのが早いな。どういうことだ。いじらしくしながらも、メリッサは面白おかしそうに語り始めた。
「ここの人々には、お前の恰好は異様だな。中世では人の行き来が少ない。見たことのない顔立ちをしている男は奇妙そのものだ。とにかく、お前のその衣装は、彼らにとってよくわからない裁縫で出来ている。
まあ、田舎者が多そうなこの町では外人には排外的だ。なら、悪魔と間違われても仕方ないだろ?」
メリッサのハスキーヴォイスの笑い声が僕の耳の中で鳴り響く。おいおい、なら君はさしずめ小悪魔そのものだな。くそっ、何だってんだ。
でも、そうか。中世ヨーロッパでは普通が違うのか。僕はつい異世界を同じ文化にあるとそう錯覚していたが、全く別の世界なんだ。よく考えれば、こういうことは最初に気を付けなければならなかった。
「なんでそのことを僕に教えてくれなかったんだ?」
「だって質問しなかっただろ」
僕の言葉に平然と銀髪の少女は答える。
「ちょっと待て、危うく殺されかけたんだぞ!」
「エインヘリャルが人間が作った武器で殺されるはずがないだろ」
「エイ、……何だって!?」
聞きなれない言葉がメリッサの口からもれたので驚いてしまった。くっ、しまった、やはりこの世界に来る前にもっと説明を受けるべきだった。
僕は殺し合いをしに来たんだ、旅行に来たんじゃない。もっと慎重になるべきなんだ。
「すまない。まずは、そのエイ……何とかを説明してくれ」
こっちが冷静になると、メリッサは軽くため息をつく。鷹揚な声をあげ、まるで上品なお嬢様みたいに衣装を落ち着かせながら、頬に手の平を当て、可愛らし気に首を傾けて語りだした。
「エインヘリャル。この世界において不老不死の肉体を持つ。お前の世界では肉体は死んでいるため、正確にはすでに死んでいる。通常、ヴァルハラにおいて魂は生まれ何の自覚もないまま、槍に貫かれ最期を迎える。
私のようなヴァリキュリアが魂に呼びかけると、ヴァルハラで意識が目覚めるんだ。そうしてヴァルキュリアが魂を引き上げると、その因果から解き放たれエインヘリャルとなる。
不老不死といっても、特別に肉体が優れるようになるわけではない。死んでいるその時の筋力、反射神経、視力、聴覚をもったままだ。ただこの世界では死なないだけ」
メリッサの冷静な語りに、疑問が浮かび上がる。
「呼びかけるとヴァルハラで意識が目覚めるんだな、なら生きたままヴァルハラで意識が目覚めることはあるのか?」
「それはない。というよりもヴァルハラでは時間軸が違う。私から見れば魂が生まれ、いつの間にか槍に刺さっている。
お前がヴァルハラで目覚めた時点で、すでに死んだ運命をたどり終わっており、その記憶を持ったままヴァルハラで目覚める。
死なない人間なんていないからな。今のお前は人間ではない、エインヘリャルという不老不死の生命体だ。ちなみにその肉体が動けるのはミズガルズとヴァルハラのみだ。お前の世界へは二度と戻れない。……寂しくなったか?」
珍しく彼女が心配そうに僕の表情をうかがう。あれ、意外と心づかいができる娘なのかな? まあいいさ。それよりも。
「いや、現実世界には未練がない。ただ生きたいだけだ」
メリッサに言葉に、はっきりとした答えを僕は伝えた。
「いい答えだ。他に質問はないのか?」
「戦う相手なんだけど、そいつはエインヘリャルなのか?」
僕の疑問に、彼女は急に真剣な眼差しになる。
「そうだ相手もエインヘリャルだ。むろんそいつにもヴァルキュリアが付いている。で、ヴァルキュリアは神だ。死ぬことはない」
じゃあ、どうやって相手を殺せばいいんだ……? 尋ねるまえにメリッサは立ち上がり、僕に言葉を投げかけた。
「どうやら、敵のエインヘリャルが来たようだぞ」
彼女はそう言うが、僕の視界の中にはそれが確認できない、どういうことだ? だが、メリッサは静かに続ける。
「近づいてくるぞ、相手もこちらに気付いているようだな」
周りをつぶさに見渡していると、フードとマントを被った背の低い人間が、鎧を着たセミロングで黒髪の少女とともに現れた。
「いました、あいつです!」
鎧を着た黒髪の少女は僕を指さした。僕が慌ててどうしていいかわからず悩んでいると、フードを着た人がこちらに走り込んでくる!
「佑月、早く武器を!」
メリッサは叫んだが、僕はどうしたらいいかわからない。こんな時どうすればいいんだ⁉
「佑月! 私に力を貸せと言え、早く!」
僕はパニックになって身動き一つできない、瞬く間にどんどん距離が詰められる。フードの人、いや違う、敵だ。
奴が手に持つ鞭を大きく振りかぶり、振り下ろすと、光の筋が曲がりくねって僕の方に向かって来る!
「ぐあっ!」
瞬時、肩に激痛が走った。するりと魂が抜ける感覚がし、頭に電流が流れる。激しい痛みをこらえ、悶絶していると、敵はすぐさま光の鞭を振りかぶってくる。
……ただ、メリッサは僕の肩に手を触れてくれていた。何故だろう、なんだか心が落ち着いてくる。彼女の手の平の温かさに、自然、頭の中で考えがまとまってきた。
とりあえず僕はこの場から逃げることにしよう。僕らは急ぎ、走り出す。ずいぶん走った後、敵が周りにいないことを確認し、息を整えた。とは打って変わって、彼女は非情な言葉を投げてくる。
「安心するな、まだ近くにいる」
やっと落ち着けると思いきや、メリッサの声は存外重かった。
「どうすればいい!?」
「まず武器を作ることが先決だ。私に力を貸せと言え」
力を貸す……? まあいい、彼女の言う通りにしよう。僕は小さくうなずき、僕は高らかに唱える!
「――ヴァルキュリア、僕に力を貸せ!」
世界がどんどん歪む。辺りは青く沈み込み、ただ、僕とメリッサだけの世界になった。母なる胎内を感じる世界。僕はふと赤ん坊になった気分になる。これは……いったい……?
「――イメージしろお前は何を思い描く――」
金色の瞳を輝かせるメリッサ。武器、武器……。そうだ剣だ。長い剣だ!
心の中でその形を思い浮かべると、ただ何も言葉を発せず、メリッサの指先が動き、僕がイメージした通りの剣を形どられる。創られた武器とともに彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
歪んだ世界が円を描くように、元に戻り、厳かにメリッサは僕に剣を渡した。
僕がどうしていいかわからず戸惑っていると、敵の気配を察したのだろう、メリッサは大声で叫んだ!
「さあ行け! ラグナロクの始まりだ!」
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