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魔族大戦

第百六十六話 領地巡察

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 私のリーガン領の拝領後、ざっと領地経営の組織制度が固まり、安定した生活になり始め、私は学者兼科学者であるナターシャを呼んだ。軍備の再編にかかわる新装備が出来上がったそうなので、私の軍で試用をしてほしいとのことだ。

 彼女は透き通った薄い金髪を輝かせて、もしくはルビーアイを輝かし、嬉々として新装備の説明を始めた。

「お久しぶりですわ、無想転生以下略のロリータ伯爵が開発した、新兵器の数々のご披露に参りましたわ!」
「どうもどうも、最近出ないと思ったら、ちゃんと研究してたのね」

「まあ、まるでわたくしが科学者としての仕事をほっぽり出して、大砲で遊んでいたような言いぐさですわね」
「いや、その通りだったじゃない」

「戦争時もきちんと設計したり、アイディアを練ったり、いろいろ科学者は忙しいのですのよ。ただビーカーと試験管でにらめっこするのが研究ではありませんわ!」
「まあそれもそうね、自分の目で見て、兵器開発とか、実際のデータを見比べて実戦で通用するような兵器を作らないといけないから」

「その通りですわ! では新兵器のご披露とまいりましょう。まずは、マスケット銃ですわ」
「えーと、火縄銃アーキバスとの違いは何?」

「よくぞお聞きしました。もともと火縄銃アーキバスとマスケットは同じ先込め式銃ですが、区別は所々であいまい。違いは一般的にマスケット銃は威力がありましたが銃身がながく、銃架じゅうかが必要で、もち運びと歩兵の機動性に問題があり、しばしばパイク兵の邪魔になってたやつです」

「ああ、あのカメラの三脚みたいなやつね。マスケット銃は今まで一脚だったり二脚だったりするけど」

「カメラ? 実に面白そうな響き。まあそれは置いといて、研究の結果マスケット銃も銃架が不要にできるほど銃身を短くでき、さらに発火装置を火縄式から、火打ち式フリントロックに変更することで、より安定した射撃と運動エネルギーを得ることが可能になりました」
「火縄とどう違うの、火打ちフリントロックって」

「細かい技術的な話をしても、ちんぷんかんぷんになるでしょうから、イメージで言うと、火縄に火をつけて、ジジジと火が内部に行って、火薬に火をつけていたのから、金属部品で組み合わせて、発射の際、カチッと火打ちを行い、火花を散らして、火薬に火をつける方式に変わったのですわ!」
「わかんない、やってみせてよ」

「いいですわ」

 ナターシャがマスケット銃を取り出し、ハンマーを立ち上げ、ハーフコックにして、銃身に弾を詰めて、手元近くの金具のところに火薬を入れておいて、引き金をひくとハンマーが降ろされ、カチッと火打石と金属がかみ合って、火花が散り、ドンっと大きな音がしながら煙を吹き出して、勢いよく前方の木で作られた的を破壊した。

 うわー耳が痛ーい。

「すごい威力ね」
「ええ、マスケット銃は威力だけでなく、装填も簡素化されたことから、射撃速度が上がり、どんどん弾をぶっぱなすことが可能になりましたわ。

 また紙薬きょうも開発でき、さらに装填を早くすることも可能。これで少しぐらいの雨だったら、火縄銃みたいにしけって銃撃できなくなることも避けられます。

 あと大事なのは銃剣が取り付けられるよう、アタッチメント式に改造したのですわ」
「銃剣、ああー、なんか銃についてるなんかちっちゃい可愛い剣ね、それ付けたんだ」

「めっちゃ重要ですわ、そこ。これにより、銃兵であっても白兵戦闘が可能になりました。つまり、パイク兵がいらなくなったということです。

 パイク兵は長い槍を持って集団格闘する以上、訓練が難しく修練が難しい、兵の補充が一苦労。また、集団で固まって行動する必要があるため、歩兵の機動が遅くなっていました。

 しかし銃剣を取り付けることで、騎兵に対して、固まって剣の盾を作って、突撃の勢いをそぐことが出来、近接戦闘で敵を倒せる。また戦術面でも、機動力のある火力歩兵ができ、戦略そのものを変わるほどの大革命兵器ですのよ!」
「な、なるほど、よくわからん……。あとでジェラードに頼んで実践を見せてもらおう。口できいただけじゃわかんない」

「まあ、この素晴らしさをパンピーにわからせるには時間がかかるでしょう。そして次は、士官から要望があった、3ポンド砲ですわ!」
「この大砲ちっちゃく細くなったわね、なんか可愛い」

「ええ、カノン砲を動かし設置するのにこれまで大きさに難点がありました。しかし、砲を小さくして、野戦でも持ち運びしやすくなったことで、砲兵の移動がたやすくなり、また、大砲の大量導入ができるようになります。

 本格的な野戦砲、3ポンド砲、6ポンド砲、12ポンド砲などの開発によって火力の上昇が見込め、要塞戦でも発射速度が上がり、大量導入すれば、砲撃回数が上がり、敵にはもう炸裂弾を叩き込み放題。

 これまで要塞は攻略する側より守備側が強かったのがイーブンになるほどの軽砲の開発です。砲撃技術の革命がここでも起きましたわ! ちなみに紙薬きょうも開発済みです。発射速度上昇により、にっくき敵の血の海が見れますのよ! ああ、心が躍る!」

「あんた、前まで魔族にいたくせによく言うわねそういうこと……」
「敵なら人間だろうと、魔族だろうと、容赦しませんわ。あとはこれ、胸甲です!」

「あら、スリムな鎧ね」
「ええ、鎧はもう古い。胸当てだけで十分ですわ」

「大丈夫なのそれ、防御面で」
「そもそも、重いプレートアーマーを着ても、銃撃や魔族の強化弓にはないも同然です。兵器の進歩で戦闘で役に立たなくなった重騎兵はもはや不要。その代わりに、機動力、速度を上げるために胸当てだけを残す胸甲騎兵がこれからの時代は必要なのです!」

「胸甲騎兵……。よくわからん」
「まあ、防御で役に立たない重い鎧なんていらない、身軽になった騎兵がサーベルで突撃した方が戦いに役に立つってことですわ。

 致命傷を避けるために胸周りだけ保護し、皮の胸当てを中に仕込んだほうが良いですねって現場からのお言葉ですわ。時代は変わりましたわね。防御は紙装甲ですけど、そもそも騎兵は防御面を期待するのがおかしいのですから」

「まあ、それは騎兵の運用次第ってことね。ありがと、よくわかったわ。あとは実践訓練で確かめてみるわ」
「そうしていただけるとありがたいですわ。それと、船の建造も進行中ですわ。軍備は万全にとのミサ統一宰相のお言葉でしたから」

「うん、私が皆に言い聞かせたことね。成果が出て嬉しいわ」
「えっへん!」

 胸を張ったナターシャがロリータのくせに私より胸が膨らみやがってと思いながらも、頭をえらいえらいとなでた。

 私はレオと、投資開発会社社長となったラームを連れてリーガン領を巡察した。このころの近世、中世ヨーロッパの農村や都市状況は現代日本人からすればちょっと変わっている。

 地域によって状況は様々だけど、まず今まで農村には領主がおり、そこから土地を借りた農民、小作人が耕作に当たる。中世の農民は大きく分けて、自由農民、小作人、農奴の三種類がいる。それを荘園制度という。

 まずは農奴から説明すると、土地に縛り付けられた小作人で、畑を代々耕す農民でかつて一番数が多かった。重税払ったり、重い賦役ふえき、つまり道路工事や土木建設などを週三日やる義務がある。人権がなく物扱い。領主の所有物。

 また、領主の畑と自分の畑と開拓などの部分を耕作する義務がある。ここまで聞けばただの奴隷労働だと思うけど、実は財産権があったり、空き時間で物作ったり、領主がひどい奴だと都市に逃げ込んで、何年も見つからなければ自由民になったりできる。

 ほとんどホームレスになるけど。その農奴がまじめに働いて何代もお金をためると、金で自由農民になることができる。自由農民は土地を所有する富農で、農奴や小作人の管理をし、土地の地代を領主におさめており、ちゃんとした人権があったりする。

 割と裕福なところは金融業や商売を始めたりして、フランス革命でよく聞くブルジョワジーという感じの身分にグレードアップしたものもしばしば。新興貴族になった者もいる。

 小作人は日本人なら社会の時間で習うと思うけど、領主や自由農民から土地を借りて耕す農民。代々、土地に縛り付けられてないから、権利があいまいだけど、雇われ農民って言えばわかりやすい。中世は農民には実際厳しいけど、地域によっては成り上がりが可能だったりするので注意。

 異世界転生するときはぜひ、農民のスローライフでゆっくりしていってね!

 私はひろがる農地を見て一言、

「素晴らしいに尽きるわ、我が領は」

 と発したことにラームも同感のようで、

「かなりの価値が見込める農地ですね、小麦だけでなく、耕作可能な地域が多く、開拓すれば農産物の増産も見込めます。

 余った土地で何を耕作するかは専門家に任せればいいですが、土地の価値が高いということですからね。投資家たちも喜ぶでしょう」

 レオも同じ感想で、

「陛下は素晴らしい土地をくださりましたね、ミサ様」
「ええ、美しい農園風景から観光客も見込めるしね」

 との言葉に私はにこやかに返す。ラームは少し考えたあと、

「この農村風景を芸術家に書かせれば、良い観光地になるでしょうね。投資家たちも集まりやすい」
「そうね、私も領地もらったことだし、パトロンとなって、芸術分野を振興しましょう」

 ちなみに私の改革でネーザン国は農奴が居ない。みんな自由農民になるか小作人になった。私も貴族だけど、大地主っていう身分だ。固定資産税などの税金を国に納める義務がある。これが日本だったら相続税大変そう。

 改革により民間による大規模農業経営が可能になり、戦争でバブルだった奴らもいる。そのかわり土地を失ったやるきのない元農奴がホームレスになったりするから、資本主義は厳しいね。

 次に我が領の都市を見て回った。大体日本人が想像する中世ヨーロッパの風景はこの都市部だったりする。ゲームやアニメで出てくる、ファンタジーではフリーな感じだけど、実際はそういうわけにはいかない。

 都市は中世ヨーロッパでは大体人口20000万人から30000万人で、みんながイメージするパリが百万都市になったのは近代だ。都市の経営は領主や国王や皇帝などから自治が認められており、裁判も政治も全部都市民がやったりする。

 街が石の壁に囲まれており、内部はギルド制だったりして、結構閉鎖的。ギルドは私がほとんど解散したとはいえ、まだ風潮は残っている。

 自由民とはいえ貴族がいたりして、かなり身分差が大きい。問題なのが都市設計が難しいということだ。武士以外で農民が畑を自衛できていた日本と違って、中世ヨーロッパは騎兵が強すぎる。

 農民が集まっても即行やられるし、都市民に民兵や傭兵で守るにしても城壁がないと、騎兵がチャージ! して、トラック並みの衝撃を加えて馬にひかれるから、平地で騎兵に勝つことはほぼ無理。

 だから都市を守るために馬が役立たずになる城壁が必須だった。しかし問題なのが、中世後期から農業の発達により人口が増えていったということだ。壁で囲まれている以上、これいじょう都市を拡大するのが難しいところもあり、狭い土地でぎゅうーぎゅうー詰めになる。

 近世はペストなど伝染病がある程度静まり、人口が右肩上がりに増えて行く。自由を求めて都市に農民たちが逃げ込み始めて、都市部に人口が集まると、問題になるのが公害問題。

 近世で良くおこった公害が、糞尿の処理が人口に対して追いつかなくなって、クソまみれになって水が汚染されていたところもある。注釈をつけると、中世より、実は糞尿は問題視されており、何度も王や領主、自治政府から改善令がくだる。

 このころの糞尿はどうしていたかというとおまるがあり、そこで粗相して、農村では焼いて肥料にしていたらしい。都市部はというと糞尿業者がおり、内部で捨て場が決まっておりそこで処理をしていた。だがこの時代、ろくに汚染処理なんてできない。

 環境は悪化、外におまるの中身をぶちまける、モラルのない都市民もしばしば。よって、クソだらけでくせえ、何とかしろよーという記録が多数。

 でも大体これは近世になってからで、中世では割と機能しており、そもそも下水道が必要なほど、人口が多くなかったりするから、中世人はある程度衛生面には気を付けていた。

 風呂とかも中世では都市部には公衆浴場があり、教会に行く際は体を清める、つまり風呂や温泉に入っていた。だけど、のちに実質風俗店になってるところもあった。トルコ風呂……。実際のトルコの風呂はそんな風呂と違うからね! 風評被害。

 で、ペストが流行り、様々な伝染病が流行る中、風俗ソープ風呂で感染するといううわさが出回り、教会や領主から公衆浴場は閉鎖された。時代が進み、ルネサンスがおこり、宗教面での権威が失われ、体を清める習慣が無くなった。

 水に入るのが健康によくないとか学説が出回り、実はヨーロッパ人が風呂に入らなくなったのは近世であって、中世ではない。近代近くから、細菌学の発見や、風呂文化の見直しがあって、彼らもシャワーに入りだす。

 気を付けて欲しいのが、近世でも地方によっては温泉文化があったり、風呂文化が残っていたり、糞尿の始末が違うから、一概に近世、中世ヨーロッパ人は汚いというのは失礼。

 これも風評被害。貴族の城持ちは城に礼拝堂があるから、毎日風呂に入っていたという敬虔けいけんな貴族もいる。ある修道院では水洗トイレがある。

 問題なのはこの都市部の衛生面を改善しないといけないということだ。入ったらやっぱりクソまみれだった。私の領地の都市を見て回ったら、すぐさまレオに、

「下水道作ろう。そう、それがいい。これから投資が来て、人口が増えるから、衛生面が悪いと、経済にも悪影響。その方が幾分かまし」
「ええ、そうですね。レスターでは下水道があったので、このようなひどい臭いではありませんが、割とここは、うぷっ」

「私が公共工事でダム作りまくったし、水回りは期待できるからそうしよう」

 私とレオと無表情のラームはうなずいた。私の世界だった中世ヨーロッパでは下水道はどうなっていたかというと、パリに14世紀からあったり、イタリアはローマ帝国の遺産があるから存在する。

 ただ、それよりも人口増加が多くてパリがクソまみれから解放されたのは19世紀ぐらいだけど。ロンドンもそう変わらない。人の敵は人。女の敵は女なのと一緒。というかこのひどい臭いは女の敵だ。こんな話をしたくなかった。

 私たちは屋敷に帰り、これからの領地経営の方針をまとめた。まず私が発言をする。

「とりあえず、今ここにある5000万リーガンのうち、下水道工事に2000万、工場建設に3000万といったわり振りでどう、ラーム?」
「おや、借金の部分しか額面を考えておらぬ様子。もともと当行に2000万預けており、商人から寄付された4000万、あわせて6000万リーガンの現金が閣下はお持ちなのでは?」

「なんでそんなこと知ってるのよ」
「仕事の都合上申し上げられません。しかし一言申しますと、他人に金を貸す以上身元調査は必須なので」

「3000万リーガンは軍備に必要だから、投資に回すのは無理よ。2000万は手元に現金持ってた方がいいし、回せるのは1000万ぐらいしかないわ」
「いえ、わたくしが申したいのは何故投資家から我が投資会社に集まった、一億リーガンをつかわないのかということです」

「はい? 一億リーガン、なにそれ」
「私が早速投資家へとまわったところ、宰相閣下の名は大陸全土に響き渡っていますから、ちょっとネーザン近郊の金持ちを回るだけで、すぐに一億リーガンが集まりましたよ」

「それを早く言ってよ! レオ、それを会計に回して!」
「少々お待ちください、ミサ様」

 とレオに命じようと思ったらラームに止められた。

「現金1000万リーガンは貴女がたの屋敷にお使いなさい。というのも、貴族然としたところがミサ様に見受けられませんから。投資家からはひょっとしてミサ宰相閣下は金に興味ないんじゃないかとささやかれています」
「ああ、私貧乏貴族だったから。他人からそう言われても仕方ないか」

「で、一億リーガンの使い分けですが、農地改革に3000万リーガンを。ミサ様にコネクションを作るためにサロンを開くのもよろしいでしょう。上流階級や、知識階級へのコネがないと領地開拓などできませんから」

「なるほど、それに2000万リーガンを使おう。残り5000万リーガンはラーム、あなたに任せるわ。こんな短時間で、一億リーガンを集めるなんて予想外よ。

 私の目は確かだった。レオ、1000万リーガンをうちの家計に計上して」
「結局、僕じゃなくミサ様があれこれ指示している……」

 と涙目になるレオに対して、私は優しく言った。

「大人の仕事は少しずつ覚えればいい。私が教えるし、人材も集める。焦らないの。大人の階段は一歩ずつから」
「大人の階段……!」

 レオが顔が赤くなり私に熱視線を浴びせ始めて、あ、やば。ちょ、この子男子中学生ぐらいだった。あららー、女の裸で頭の中いっぱいの年代だわ。

 私は焦ってしまい、

「そ、そういうのは、もっと年を重ねてから、まだ早い!」

 と言い訳したので、側にいた女執事バトレスのレミィがジト目で言った。

「私にはエロ目線で見る癖に、自分の場合は一歩引いちゃうんだ」
「い、いいじゃん、別に……」

「ミサ、私と同じだったんだね……!」
「ひっ!?」

 しまった、私処女だとバレた! 何とかこの場はごまかして、笑うことで切り抜けようとする。合計65数歳で処女だなんて知られるなんて……。って、よく考えたら、私11歳の幼女だから、処女で当たり前じゃん。

 くう、レミィの勢いに騙された! くやしい、でも感じちゃう……! ビクン、ビクン!

 というわけで、今日もまったりした日々が過ぎて行ったのだった。
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