上 下
143 / 178
魔族大戦

第百四十三話 ストラトフォード要塞戦②

しおりを挟む
 私は寝ぼけていて、気が付いた時にはパステルをベッドで押し倒していた。「ひっ……」という彼女から漏れた声、よく見ると、私がパステルのささやかな胸をもんでいた。ああ、おっぱい、柔らかいわあ。

 自分のおっぱいを揉んでも何も感じないけど、他人のおっぱいを揉むと、やたらなんか幸せな感じになるのは何故だろうか。わかんないや。

 そんなところへ、ミリシアが駆けつけてくる。

「ミサ、大変よ……ってこっちも大変!?」

 この光景を見て、驚いて口を両手で抑えるミリシア。や、やあ……。

「し、失敬失敬。いやあ、大変だねえ」

 と私は半脱ぎのパステルから離れ、衣服を整える。当のパステルは、

「もう、お嫁にいけない……」

 とつぶやいていた。そこまでかしら……? 私は彼女を、

「まあ、よくあることよ、何事も経験よ経験!」
「ひどい! ひどすぎる……」

 と慰めたのに対し、彼女は涙ながらに悲痛の言葉を返す。ええやん、減るもんじゃないし、女同士だし。と、とりあえず状況を確認して、現在、テットベリー軍の指揮を執っているジェラードの方に向かった。

 大広間で、多くの兵たちが行きかうなか、ジェラードは毅然とした態度で冷静に要塞防衛戦の指揮を行っていた。

「正門から入ってくる槍で固く守り閉ざせ、パイク兵パイクメン!!」
「はっ!」

 と伝令はすぐさま立ち去り、命令を伝えたのだろう。遠くにいるこちら側にも大声が聞こえてくる。

槍衾スピア・ウォール──!!」

 続いて、ジェラードは援護射撃を命令する。

「砲兵隊たちで敵を蹴散らせ! カノン砲ホール・キャノン!」
「はっ!!」

撃ち方よしレディ……発射ファイヤー!!」

 また、他の銃歩兵たちに命令を送る。

「十分に相手を引き付けてから撃て! 火縄銃兵アーキバスメン!」
構えレディ……放てファイアー──!!」

 最後に、飛兵に対しての備えを命令した。

「我らには火砲がある。飛兵など今では遅るるに足らん! フレア砲兵フレアー・ガンメン!」
発射ファイアー──!!!」

 どうやら、あらかたの命令は終わったようで、最新式の要塞防衛戦に私はドキドキしていた。落ち着いたのを見計らって、私はジェラードに戦況を尋ねることにした。

「魔族軍の襲撃って本当!?」
「外を見ればわかる。だが、決して窓から外に顔を出すな、相手だって攻城兵器を持っているし、飛兵が突進してくるかもしれん」

「わかった!」

 どうやら魔族たちは急いで強襲したようで、攻城戦の構えすら見せていないようだ。外からは私たちの砲兵が援護射撃を行い、それを襲う女魔族の飛兵をパイク兵が叩き落している。

 遠くでは砲弾が魔族軍へと向かっている。でも、結構敵の数が多い。どうなってるのかさっぱり。現状把握のため詳しくジェラードに聞いた。

「こっちの兵はいくら? 相手は? 防備の準備は整っているの?」
「こっちの兵は3個師団ながらも、まだ全員がこのストラトフォード要塞に入ってない。兵は2万8000ぐらいだ。対し、強襲をしてきた魔族軍は2万ほど。

 急いで砲兵の陣を整えたため、防備は完全じゃない。それに重大な我が軍の欠点がある」
「欠点って何……?」

「我が軍はここに入城してからまだ、一日もたっていない。わずかしか食料を積み込んでいないんだ。兵力自体は守るには十分だが、もって三日といったところか。それ以上期間が過ぎると我らに勝ち目は薄くなる」

「三日!? 何でこんなことに!」
「おそらく敵側は我らがこの要塞に入ることをあらかじめ予想して、前もって明け渡し、こちらが占拠した際に、すぐさま奇襲する策だったんだろう。

 まんまとはまってしまったわけだ、我々は。弾薬もそう何日も持たん。後方の輸送部隊とは分断されてしまった形だ」
「もともとそんな計画だったの、敵は!? 相当のやり手ね」

「ああ、良い将が指揮をしている」

 はあ、一難去ってまた一難。戦争って、息つく暇がないくらいだ。でも今度こそは落城は嫌よ。2度も落城をしたんだから、3度目の正直と行きたいところ。

 そうじゃないと、私が貧乏神みたいに思われてしまう。一応カールトン会戦の勝利の女神として名が通っているんだから、私は。

 落ち込んだ気分であわただしい広間を見渡していると、一人甲高い声で、叫んでいるロリータがいた。ナターシャだ。彼女の方に向かうと、この状況をすごく嘆いていた。

「何やってらっしゃるの、砲兵たちは! あんな撃ち方じゃ、相手に打撃を与えられないじゃないの!!! この下手っぴ!! わたくしのカノン砲が台無しですわ!」
「どうしたの、ナターシャ?」

「聞いてくださる? ミサ。敵が迫ってきているのに、まるで馬鹿みたいに弓矢で狙うように大砲を撃ってますわ! 信じられませんわ。この国には大砲を扱える隊長がいないのかしら!?」

「何か問題があるの?」
「それはわたくしが砲兵たちに直接伝えた方が良いですわ。なにせ専門技量がいるものですから、砲撃は」

「わかった、ちょっと待ってて」

 彼女に待つように指示して私はジェラードにこのことを伝える。

「どうやら、ナターシャの言い分では砲兵たちが上手く機能してないみたい。良かったらだけど、彼女に砲撃を指導させてはどうかしら?」
「いくら学者とはいえ、戦場は危険だぞ。それに、あの娘が行ったところで、砲兵たちが言うことを聞くだろうか? 彼女の身分は魔族から亡命したようなものだしな」

「なら、私も付いていく。ねえ、ジェラード、外の方へに出るには砲兵の陣まで安全な通路があるの?」
「あることはある。要塞の中を伝って窓から降りれば、山に囲まれた砲兵たちの陣地に行ける。……なるほど、そうか、時が時だ、四の五の言ってこのまま負けるのは愚将のやることだな。

 わかった。本来ならお前を危険にさらすわけにはいかないが、我が軍きっての手練れを護衛につけよう」

 と彼は了解してくれ、私はナターシャと護衛を連れて要塞の外の陣地に向かった。途中の窓は小さく、大人が入るには苦労しそう。護衛の兵たちがつっかえてたのを無理やり外に出ていた。もちろん私は太ってないからスッと窓を通過したよ。

 何その不満そうな声は、私が子どもだからって言いたいんでしょ、失礼ね! スリムだから私。でも、スタイルのいいミリシアだったらお尻がつっかえそう。

 あっ、なるほど、女魔族はこんな小さな窓を入れないか、ボイン、ズドーン、ズガーンだし。そうか、なるほど。

 なんてことを思いながら無事に砲兵たちのもとへたどり着いた。到着するや否や、ナターシャは大声で、

「ここの砲兵隊長は誰ですの!?」

 とわめく。突然現れたロリータのブチギレ状態に不思議がりながらも、兵たちが私の顔を見ると、すぐさま少し豪華な軍服を着たちょび髭のおっさんがこちらに来た。

「君は誰だ、娘っこが来るような場所ではないよ」
「あなたこそどなたですの!? わたくしはカノン砲を開発した、学者のナターシャですわよ!」

「これは失礼を、技術監督官の方でしたか。私はこの砲兵隊を任されているアーノルド・ジェンキンスです。ご高名はかねがね──」
「アーノルド砲兵隊長! この無様な砲撃は何? 全然、敵に当たってないですわ!!」

「はあ、しかし大砲なんてこんなものですよ。まったく当たらないものだから、運ぶ馬の食料だけが高くつく、大飯ぐらいの役立たずって他の部隊の噂の的になるくらいですから、我々は。そもそも砲兵なんて、要塞攻略、包囲戦以外ではあまり役に立ちませんよ」

「なんと嘆かわしい、せっかくのわたくしの自慢の大砲が!! いい? 大砲とは人を狙って撃つものではありませんですのよ!

 地域を制圧して、クレーターまみれにして差し上げるのが常道ですわ。よろしい、わたくしが砲撃のやり方を指導してあげましょう!」

「いえ、ここは軍人のいる場所なので、我々に任せて、安全なところで貴女は……」

 と、アーノルドが渋っていたので、私は彼に言い含めた。

「宰相として、兵器運用が問題あるなら専門家の意見も必要よ。ここは彼女の指示に従いなさい」

「はっ!? 宰相閣下までそのような……。かしこまりました、砲兵は役立たずという評判は今後願い下げです。では、ナターシャ殿よろしくお願いいたします」
「いいですわ、アーノルド砲兵隊長。素直でいれば、貴方のむさいひげ面も我慢して差し上げますわ。これからは私の意見をよーくお聞きなさいまし。

 まず、砲撃とは目標地点を決めてから撃つもので、決して人個人に向かって撃つものではありません、よろしくて、アーノルド砲兵隊長?」

「かしこまりました、そのように」

 助言を受け、アーノルド砲兵隊長は兵たちに細かく指示をした。だが、砲撃準備をしたカノン砲を見たナターシャは不満げにストップした。

「ダメですわ! 大砲の角度は、地点までの距離を考えて、適切な構えをしないと! 敵との距離がわかってないのに、でたらめに撃っても当たらないのは当たり前。

 敵が集まっているあの地点なら、結構距離がありますから、もっと角度をつけてやりなさい、ほら! よろしい? アーノルド砲兵隊長!」
「かしこまりました、大砲の角度をあげろ」

 といって、細かいナターシャの注文にこたえようとする。いい人だなあ、アーノルド砲兵隊長。結構しぶいおっさんだし、割と私好きかも。

 砲弾が放たれ、敵の集団の数メートル近くに落ちた。突然、砲撃の精度が上がったため、魔族たちは慌てふためいている。こんな遠くの様子を見ていたナターシャは歓喜して言った。

「やればできるんじゃないですの! これからはきちんと弾道計算をして砲撃なさい。わかりました? アーノルド砲兵隊長!!」
「はあ、そうですか。では次の砲撃はどのようにしましょう?」

「角度と風の強さから考えて、砲門の向きをやや右に、角度はもうちょい上げて、そうそれくらい、これで撃ってみなさい、いいです? アーノルド砲兵隊長!」
「はっ、では皆のもの放て!!」

 ナターシャの指示に砲兵たちが従い、今度は敵の塊に弧を描きながら、砲弾が敵の陣に向かう。爆音で私が耳が痛くなる中、見事に着弾に成功をした。私は歓喜のあまり思わず言葉を漏らす。

「すごーい、やるじゃない! ナターシャ!!」
「ほーほほほほ! 私にかかればこんなのお茶の子さいさいですわ! 見てくださる? あのブドウ弾で血だらけになる魔族軍を! これが本物の砲撃ですわ! この地点にはぺんぺん草も生えないようにして差し上げなさい、よろしくて、アーノルド砲兵隊長!」

「はっ、かしこまりました──」

 と上手くいき始めた時、砲撃が着弾して相手はこちらに顔を向けた。どんどん飛兵たちがこっちに向かって来る。や、やばっ……、こっち狙われている……!

 女魔族たちが大きな翼をはばたかせ、こちらに勢いをつけて突撃してくる、うぎゃー!!

 と思っていた矢先、砲兵の防備隊として、フレア砲兵が飛兵に向かって火を放つ。

発射ファイアー──!!」

 目の前に火の束が解き放たれ、あまりもの高温の火を食らい、女魔族たちは叫び声をあげてどんどんこの陣地近くに落ちていく。それをパイク兵たちが追いかけ突き殺していく。

 近くで戦果を挙げた光景を見たナターシャは喜びながら、かつ、興味津々に叫んだ。

「そうだわ! 斬ろうとするから、武器の強度と刃の鋭さの調整が難しくなるのですわ! どうせみんな突いてしまえば、いくら魔族の固い肌とはいえ貫けますわ!

 なるほど、じゃあ、根本的に武器設計を変えないと……」

 とまあ、ナターシャが何やらメモを取っているのを見て、私は笑顔で彼女に言った。

「ありがとう、ナターシャ。貴女のおかげで、この戦い、先はどうなるかわからない。もしかするとこの戦局事態を左右するかもしれない。宰相としてあなたに感謝するわ」
「ほーほほほ! そうでしょう、私が付いてきて正解だったでしょう? これを予想してましてよ、実は! ほーほほほ!!!」

「とか言って、本当は寂しくてついてきたくせに……」
「……ち、違うもん!!!」

「へっ……? ナターシャ……」

 いつもと口調が違うことに気づいた私は、疑問に思って言葉を漏らすと、ナターシャは真っ赤な顔をして、首を大きく振って否定した。

「ちちちちち、ち、違いますわ! 今のは間違い、今のは間違いです。さっきの言葉は忘れなさい、よろしくて? いいですわね、ミサ!!!」
「はいはい……わかりました」

 などとの会話を繰り広げる。どうやら戦況が改善し、徐々に敵の士気が下がり始めたようだ。さあ戦いはここから。何とかこの不利な状況を打開しないと。
しおりを挟む

処理中です...