幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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魔族大戦

第百四十二話 ストラトフォード要塞戦

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 私たち西部戦線援軍、テットベリー軍団はソールズベリーで部隊を編成し直し、チチェスタ―地方への補給路を断つように要請を受けた。ブラッドプール港からの補給の中心地、ストラトフォード要塞の奪還作戦の最中だ。

 ウェストヘイム南東部は森林が多く、あまり農業に適していないし、開拓もされていない。よって、平地の多い南西部から農作物を輸送をしないと、ウェストヘイムを防衛する場合、やがて戦闘続行不能になる。

 中南部は深い森林におおわれており、盗賊が多いことから、食料調達が難しい。食料の面で南東部を守るには、ウェストヘイム占領軍、魔王軍団にとって船での物資輸送が必要になる。だから港からの補給路を押さえないといけない。

 また、当のチチェスタ―地方は東北部と結ぶ要地で、ここを潰されると、ヴェスペリア大陸北部との補給が断たれ、魔王軍は窮地に立たされる。武器や騎兵など軍事物資は別大陸から持ってきているみたいだ。

 要は、チチェスタ―地方はウェストヘイム戦争にめっちゃ重要なので、そこを干上がらせるには先に食い物を奪っちゃえってこと。で、ストラトフォード要塞を落とせば、この西部の戦争でだいぶ有利になるということだね!

 軍事の説明って難しいね。あたしゃ宰相だから、全部ジェラードの受け売り。頭がごっちゃになるー。

 軍事用語でへなちょこになっているのは私だけではない、隣で馬に乗ってるパステルもだ。ふわふわオレンジ金髪のアホ毛をしんなりしながら、親衛隊たちからの報告をジェラードにたどたどしくしていた。

「はにゃー」

 はにゃーってアンタ……。ジェラードも困った顔で、「これも慣れだ、戦場に出れば覚えるだろう」と彼女を慰めるが、グロッキー状態が治らない。

 私は、「アイスクリーム」と彼女の耳元にささやくと、パステルは「はわっ!!」と言って、しゃっきりする。面白い娘だなあ。からかうよりも、パステルに状況を確かめないと。

「ねえ、パステル。戦況はどうなってるの? ジョセフから連絡がきたんでしょ」
「はにゃー」
「だめだこりゃ」

 私がお手上げ状態なので、代わりにジェラードが私に説明してくれた。

「どうやら、彼女が受け取った情報は……独特のパステル暗号を解析すると、現在向かっているストラトフォード要塞が放棄された可能性が高いということだ」
「えっ、放棄された? 軍事の要衝じゃないの。魔王軍にとって」

「という話だったが、裏で戦線をさらに引き直したらしい。今ではティンタジェル要塞がチチェスタ―地方の生命線のようだ」
「なんで?」

「私が考えるに、魔王は補給を重視して、より堅固に守れる要衝に要塞を構えたらしい。あっちにはあっちの軍事の都合があるだろうし、戦場は刻一刻と変化するものだ。こういうことはよくある」

「なら、私たちは手ぶらで帰るってこと?」
「いや、ストラトフォード要塞を使わせてもらおう。こっちからの補給線を考えると、新たな要塞の索敵、哨戒をしないと」

「はにゃー」
「なんでミサまでそうなる!?」

「はっ!? ジェラード、もっと簡単な言葉でお願い」
「様子見、警戒態勢だ」

「なるほど!」

 私もこの調子なので正気に戻ったパステルが笑顔で語りかけてくる。

「ですよね、軍事用語難しいですよね!」
「あんた軍人でしょ。私は宰相、政治家。役割が違う!」

「はにゃー」
「ごまかすな!」

 こんなやり取りを後ろから見ていたミリシアが馬を駆けて来て、私たちの輪に入る。

「あまり、パステルをいじめちゃだめよ、ミサ」
「そうですよ。私はか弱い、だからあまりいじめるな。ですよ!」

「パステル、私が昔言った言葉を使っちゃダメ! 変な影響が出るから」

 とぷんぷんと怒った私。下手に私と同じ言葉を使うと、世界観が崩れるじゃない! 私の悪影響を受けやすい娘がここにおるよ。ええやん、素敵やん。

 ミリシアは微笑ましそうに私たちを眺めて感想を述べた。

「ほんと飽きないわ、ミサといると。いろんな友達連れてくるし、刺激がいっぱいで」
「なんか私の周りに変な人が集中しやすいのかも」

 と語ったとき、ちょうど隊列の先行隊が到着したらしく、私たちはひとまず待機した。そこにすかさず、ナターシャが走ってきた。

「こら──、あ……はあ、はあ……!!!」

 ぜえぜえ言ってる彼女に私たちは「あっ、変な人発見」と金髪ロリータを指さした。

「だれ、が、変……です……の」
「はい、ナターシャ。水を飲んで」

「ありがとう……ご、ざいます……ミリシア、さま……」

 と、ミリシアから渡された水筒の水をごくごく飲んで、ナターシャは落ち着いて私に向かって嘆き始める。

「私、徒歩じゃない! おかしいんじゃないんですの! ロリータを走らすなんて!」
「走れとは言ってないじゃない。馬がないから歩けって言っただけでしょ。道が整備されてないから馬車通れないし、アンタが勝手についてきたから馬も足りないし。

 第一、 誰かと馬を二乗りするのは嫌っていったの貴女でしょ」

「わたくし、生き物に乗るのはちょっと……」
「怖いの? 生き物」

「ち、ちがいますわ!」

 なんだよ生き物苦手ちゃんか。可愛いじゃん。そんなことを思っていると、ナターシャが思い出したように文句を続ける。

「でも、わたくしはロリータですのよ。このままだと、足がクマレベルに太くなってしまいますわ!」
「いや、それはそれで可愛い」

「貴女、変な趣味でいらっしゃるのね……」

 いや、だって、ナターシャ。口を開くとこんなんだけど、金髪美少女白ロリータだから、足太くても可愛いと思うんだけどなあ。どうやら彼女の趣味じゃないらしい。まあ私は短足ですよ! 失礼ね!

 こんな会話を広げて時間を潰すと、ジェラードは前衛部隊から報告を受け取ったようで、私に告げた。

「思った通りストラトフォード要塞は放棄されているらしい。夜露をしのげるから、そこに泊まって、戦況を整理しよう」

「よっしゃー!!!」

 いきなり、ナターシャが大声出したから、みんなびっくりして彼女を見る。ナターシャは淑女のたしなみを忘れたことを恥じたようで、「よっしゃー……ですわ」と小さくつぶやいた。やっぱ、可愛いじゃん!

 ストラトフォード要塞は、周りを山で囲まれた城塞であり、入り口になる通路は二本。一本目は正門へと通じる跳ね橋。もう片方は城壁に包まれた迂回路だ。また山に囲まれているため、砲兵を設置しても守りやすい。

 でも、魔王軍は砲兵を持ってないから、あんまり意味ないと判断してここを捨てたのかなあと思ったりもする。

 私はジェラードに呼ばれて、元礼拝堂に呼ばれた。ここは魔族に荒らされて何もないが、どこからかテーブルを持ってきたのだろう、彼はヴェスペリア大陸図を広げていた。

 私が席に着くのを確認した後、彼は尋ねてきた。

「ミサ、お前は宰相として、どういう戦争がお望みだ?」
「えっ?」

「えも何も、どういう政治目的で我々軍人は戦えばいいんだ」
「あ、そういうことね。講和を目的として、魔族と全面戦争にならないよう、勝利を収めて停戦したい」

「ふむ、なるほど限定戦争か。目的ははっきりしているのだな。我々は局地戦で勝利を収めて、より有利な条件で外交によって解決したいと」
「うん、全面戦争になると、魔族が消滅するまで戦わないといけなくなる。そんなのいつまでたっても終わらない。第一、魔族たちには主権国家がなく、民だけがいる状態。

 生きるためにこの大陸にやってきたのであって、何も絶滅なんて野蛮な話だわ」
「だが、奴らが講和に応じるか? 相手は魔族だぞ」

「その辺は私の方が詳しいし、何とかやってみるわ。とにかくこの地方では魔王が指揮しているし、彼女を追い詰めたりしたくない。だから西部戦線は停戦目的で戦闘勝利を重ねて欲しい」

「なら、陛下がいる東部戦線はどうする? ヴェルドーは勇猛果敢な将軍と聞く。講和しますって言われて、はいはい引き下がるだろうか」
「その時は……我々統一国が全力を挙げて奴を始末するわ」

「覚悟はあるんだな、奴と正面から剣を交えることを」
「ええ、そうしなければこの戦争は終わらない。ヴェルドーは主戦派だから、言ったって聞かないだろうし、彼の目的が王族絶滅なら妥協点がないもの、私たちと。戦うしかない」

「わかった。戦略がわかればいい。あとの軍事の事は我々に任せろ。お前の力ももちろん必要だがな」
「ありがとそれだけ?」

「いや、今日は疲れただろう、ゆっくり休め。あとは情報をかき集めながら、戦況に応じて、お前の助力を頼む」
「うん、わかった。風邪ひかないでね」

「ああ、私は少しここで頭を整理して、これからのことを考えるよ」

 とジェラードはろうそくの灯りをもとにいろんな地図を眺めたり、コンパスで線を引いたり、戦術用の駒を使ったりもしている。なるほど、職人だな軍人の。

 ジョセフに慕われてるっぽいのはここか。彼は女性以外はあまり気にかけないから。ルーカス以外。

 私がぐっすり眠っていると、急に騒がしくなったので驚いた。何かと思って外を見ると、まだ夜明けじゃない。どうしたのよ……。

 私が微睡まどろんでいると、いきなりパステルが部屋の中に入ってきた。何よもう、アンタそのケがあるの?

 そう思って彼女を見ていると、あ、ありかもって考えた瞬間、パステルは息を切らしながら言った。

「た、大変です。魔王軍が現れました!」
「そう、じゃあ寝る。私、役に立たないから。貴女もベッドに入る? 温かいわよ」

「ミサ様何をのんきな……」
「ほおー。嫌がるところがいのー。苦しゅうない苦しゅうない」

 と告げて、私は寝ぼけて彼女を抱きしめた。

「えっミサ様、もしかして私をそんな目で……!」
「さあー? それはこれからたっぷり貴女が実感することよ、ここからは」

「ってどこ触ってるんですか、ミサ様―!!」

 なによ、この世界は何故かロリコンが多いじゃない。って私もか!?
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