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魔族大戦

第百三十三話 やけっぱち解散

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 王宮が襲撃されたおかげで、私はもう大忙しだ。何しろ、民衆が王宮に侵入したことすら、ほぼ前例がない。デモの過激化の影響は管理責任がある政府にも批判の目がいく。

 王宮に近しい貴族たちは、やれデモを弾圧しろ、やれ宰相の私が今まで民衆を甘やかしていたせいだとか、政府の信頼を損ねたなど、いろいろ言ってきた。

 流石に私もクレームに耐えかねる部分があったが、そこは大人として、行政府の長として、真摯に受け止めて解決策に奔走する。

 宰相室で私は治安改革案を官房長官のジャスミンにこのように命じた。

「ジャスミン、この案の通り、今まで自警団に近かった警察を大規模に組織するよう頼むわ」
「しかし、貴族たちは親衛隊や魔族との戦争で手がいっぱいです。人材が足りるでしょうか?」

「この案の書類をよく見て、ジャスミン」
「は? いえ、拝見させていただきます。これは……身分にとらわれず、広く人材を募集すると。まさか、平民を登用ですか!? 行政に。しかし、貴族たちがなんと言うか……」

「むしろ今がチャンスよ。今まで親衛隊の採用にも、官僚の新規採用も、実質貴族以外がなるのはかなり難しかった。現在ネーザンのあっちこっちで激しいデモ抗議が行われている。もちろんデモを温便化させるために、過激なデモは法規制する。

 しかしネーザンの治安を安定化させるには、経済混乱の一番影響のでかい平民自身が平民たちを取り締まる必要がある。

 これを行うことで、平民の地位向上の第一歩とするわ。ブルーリリィ革命以降も、実質身分制を解体したにもかかわらず、普通に身分差別がある。それを解消するために、この機会に、国民意識をドラスティックに変えるわ。

 デモの取り締まりという、大義名分もあることだし、横やりは跳ねのけなさい」
「……。たしかに、今まで在野に優秀な人材がいても、身分という見えないガラスの天井が立ちふさがってきました。むしろ、この時に時代が変わったと、国民に伝えるいい機会でしょう。

 それを政府から行うことで、意識改革を促せます。身分問題の解決は、今日明日に解決できる問題ではありませんが、いつかはやる必要があった。それが今だと、でしょう、閣下?」
「ええ、そうよ、お願いできる?」

「喜んで。閣下のおそばに居られて誇りに思っております」
「ありがと。助かるわ。ところで、当の平民議会はどうなってる? 私は多忙でそこら辺の情報に少しうとくて」

「やはり平民議会は分裂しました。共和党議員がデモを先導しての形で、王宮襲撃となってしまったせいで、王家に忠誠心の篤い議員は、グリード首相を議会で激しく攻撃しております。

 反対の多かった彼の増税案など、共和党がやりたかった行政改革案とかも、まきぞえですべて空転。もはや、議会のていをなしておりません。大連立も失敗に終わりました」

「そう、仕方ないわ。王宮が襲撃されたとき、覚悟はしていたけど、ウェル・グリードは危機に立っているようね」
「そうですね、いかがなさいますか、閣下?」

「とりあえず、彼の増税案を実質無効化するわ。今まで案が上がっていた、国民年金制度を利用させてもらうわよ」
「と、申しますと?」

「年金のために多大な金を集めても、運用に困るし、私が住んでいた国では莫大な年金基金を半ばまともな運用がされていなかった。

 そこで、一部運用方法に、各身分内閣の財源とすることを認めるわ。こうすることで、年金総額に応じて、各身分内閣も、それぞれで独自の政策が打てて、私たち宰相府の権力集中を避けることもできる。

 また、政府だけに財源があると、何をするにしてもスピードが遅くなってしまう。国民全体の把握なんて、一個の組織だけでは面倒見切れない。

 分権化を進めることで、国民の政治参加意欲も吸収できるし、王宮への批判を和らげることにつながる。
 
 こうすることで、共和党の理念である、平民による平民たちの政治を立憲君主制で成し遂げることが出来るでしょう。ただし、私みたいな政府の枠組みの中でね。
 
 共和革命を無効化して、グリードがやろうとした、予算のための増税をする必要がなくなり、迷走をしている共和党の推進力を大きく削ぐことができる。

 ということで、まず手始めとして、私の国民年金制度案をまとめて頂戴」
「なるほど、考えましたね。流石、恐れ入りました。非常に面白いアイディアです。急いでこの案を取りまとめましょう」

「お願い。方向は示したから、あとは官僚が頼りよ」
「彼らも楽しみでしょう、面白い政策ですから。では、失礼します」

 と言ってジャスミンは宰相室から出て行った。ふう、大筋はこれで整ってくれるといいけど、政治の一寸先は闇、何が起こるかわからない。私は大局を見ながら、頭の中で起こりうる可能性をまとめていた。

 多忙の日々が過ぎ、やっと落ち着いて、女子会を開くことができた。いつものミリシア、パステル、ナターシャ、加えてメアリーなど豪華な面々の参加だ。

 パステルは開口一番、愚痴り始めた。

「聞いてください、みなさん、みんなひどいですよー。王宮が襲撃されたせいで、護衛をしていた親衛隊たちに貴族たちからクレームがバンバンきて、私以外の親衛隊員が対応に追われてしまっているんですよー!

 ひどいですよ、親衛隊たちがなるべく民衆を傷つけないように鎮圧したのに、ほめるどころか、ボコボコに叩かれて私以外の隊員が可哀そうです!」

 いや、むしろ貴女が対応しなよ、暇そうだし。まあ、でもこの娘はすぐにブチ切れて泣きわめきそうだから、上部が宙ぶらりんにしているのは理解できる。

 わめき始めた彼女に対しメアリーはケーキを上品に食べながら言った。

「パステル、王宮に平民が侵入したのよ。歴史上、まれな事態に誰かが責任をとらないと、示しがつかないでしょ!」
「そんなもん、ミサ様に任せればいいんですよ! 優秀なんだから、働けばいいんです!」

「ちょっとぉ! 私の仕事を増やさないでよ!」

 私に飛び火が来たので、すぐさま火消しをしようとするが、ナターシャは余計なことを言い出す。

「あら、ミサ。救世主なんでしょ、困っている人を見つけたら助けてあげなさいよ。こんなロリロリした方が困っていらっしゃるんですもの。当然、ロリータ仲間の貴女が助けては? ほんとロリータ付き合いが悪いですわ!」

「何よその、ロリータ付き合いって! そもそもこっちも襲撃でてんやわんやなの! 大規模な警察庁を作っている最中だから、それに任せなさい。ああ、あとパステル、他の隊員に親衛隊から警備指導に出向してもらうから、そこはかなとなく噂を流しておいて。

 人材を募集したいから」

「そんなー。ミサ様最近、なんでもかんでも、親衛隊任せにしてません? 私以外は優秀だからって、そんないじめないであげてくださいよー」
「仕方ないでしょパステル。こっちも仕事なんだから。貴女以外は誰でもオッケーって言っておいて、ボーナス弾むからさ。財務省には私が言っておく」

「ボーナス! やった。あっ、私は関係ないんだった。ひどいですー! 私が関係ないじゃないですか! 期待させないでください!」

 あんた良いとこの貴族でしょうに。パパに買ってもらいなさい、欲しいものがあるなら。メアリーは音楽を奏でていたミリシアに話しかけた。

「ミリシア、貴女も、こっち来てお話ししよう。私、ひどい平民見ちゃったから、話したいことがいっぱい。ねえねえ、隣の席が空いてるよ! ほら!」
「では、失礼いたします」

「あのね、ぼろぼろの服をした男が……」

 はいはい、二人とも仲良しってことね。キマシテルワー!!! まあ、ええか、ほわほわ感出しながら、談笑する美人百合を近く眺めることをできるから。

 ほらー、うらやましいでしょ。なら異世界に来なさい、みんなも、ほら! いっちょトラックにダイブしよっ!! 

 いや、マジでやるのはやめて、死ぬくらいならニート最高だから。

 メアリーとミリシアが二人の世界に入っているからか、ナターシャがこっちに話題を振ってきた。

「さて、百合は百合同士、ロリータはロリータ同士でお話いたしましょうか。ミサ、親衛隊たちはなぜ大砲を使わなかったの? わたくしが強化した素晴らしい大砲があるのに、なんかもったいないですわ!」
「あのね、相手はただの平民よ。大砲なんてぶっぱなしてみ、民衆虐殺の罪を親衛隊が被ることになるのよ」

「うわー、それ悲惨ですね」

 と、なぜか他人事のパステル。お前さん本当に親衛隊員か、ただの郵便局の人じゃないんかね。穏やかじゃない私の言葉にナターシャは不満げに言った。

「なんということでしょう……。せっかく武器を作ったのに、この目で活躍の場が見れないなんて……。あーあ、わたくしはなんでこんなに可哀そうなのかしら。

 せっかく、大砲の弾で、暴徒のからだをプチプチつぶして、ミンチになった姿を想像してましたのに……」
「やめんか! ケーキがまずくなるでしょ!」

 と私は用意しておいたハリセンで、ナターシャの頭をぶった。やった、彼女は面食らったようだ! ツッコみもできるよ!! やったね、たえちゃん!

 だらだらティータイムを過ごして、メアリーが調子に乗ってきて、歌い始めて、ミリシアが必死にハープを合わせていた。

 私は拍手兼オタ芸を見せて、わき役の主役をゲット。最近、私、わき役じゃない? 一応主人公なんだけどなー。

 そんなこんなで、国民年金制度を成立させるため平民院で答弁をした。私の答弁に満足がいったのか、可決は簡単そうだった。

 しかしそのあとの午後の平民内閣府予算編成会議のウェル・グリードの答弁のときに、もめにもめた。

 民主党の質疑の時間だったが、とある議員が敵意丸出しでグリードをなじった。

「まったく、政策はダメ、党の運営もダメ、本当に首相としての自覚があるんですか。次の質問に参ります。

 例の王宮襲撃事件ですが、皆さんご存じのように共和党議員のイリーヴ先生が、こともあろうか、民衆を扇動して、王宮を取り囲んだと新聞に書いております。

 それでは、グリード首相にお聞きします。現在のイリーヴ議員の状況を説明してください」
「お答えします、現在レスター市警により捜査中であり、彼は現在拘置所におり、警察に犯行動機や、余罪を取り調べられております」

 グリードは苦悶の表情を浮かべながら、官僚が用意したようなテンプレ内容で答えた。それもそのはず、この質問、王宮襲撃事件が起きてから、枕詞のように同じ質問をされている。

 ようするにこの民主党議員はグリードが責任をとるまで、チクチクいじめてやろうって腹だ。おお、おお、政治家は陰険だね。こわいこわい。グリードも胃が痛いだろう。

 彼の答弁に女の議員はさらになじり始めた。

「他人事、他人事ですか、首相。王宮が襲撃されたんですよ、貴方の党の議員によって。すみませんとか、責任取って辞めますとか、そういうお気持ちはないんですか、貴方は?

 首相の進退にかかわる大事件ですよ、これは。あまりにも、情けない。崇高な共和理念が墓場の陰で泣いていますよ。いつもの首相の雄弁さはどこに行ったんでしょうかね。

 書類を読んでばっかり。それで、イリーヴ議員への処分をなぜ明らかにしないんですか? 首相、どうぞ」
「現在市警が捜査中でありますから、平民内閣府としては、その結果を待つしかありません。また、捜査妨害をしてはならないため、真実が明らかになってきたのなら、厳しい処分をイリーヴ議員に下すつもりであります」

 これは別にグリードが責任逃れをしているわけじゃない。レスター市警の管轄は私の宰相府のものだ。捜査情報はグリードにとって新聞で知ったとかいうレベル。王宮にも彼はいたけど、うかつなことを言って、警察の邪魔をしたら、それこそ問題だ。

 そのことをわかっていて、あえて民主党議員は厳しく彼を非難する。

「貴方は我々平民たちの首相でしょう? ただ捜査を見守るようなことをして、様子見、いや、日和見ですか。なんのために首相になったんですかね。もっと自覚を持ってください。

 私たちの首相なんですから。きちっと清濁をわきまえて、バシッと言ったらどうです? イリーヴ議員を辞職させると。捜査結果を待つまでもありません。

 今言えばいいんじゃないんですか、イリーヴ君辞めたまえと。言えないんですか、党首なのに。もしかしてかばっていらっしゃるんですか、グリード首相?」
「お答えします。現在尋問中であり、平民政府として捜査を妨害するわけにはいかず、結果が明らかになってから、厳しい処分を下します。

 今、すぐさまに処分を下しては、彼の裁判を左右することになり、また、法的にかなり問題があります。

 それと同時に、現在共和党内で彼のいきさつの前後を洗っており、総括が出来次第に必要ならば、党員資格をはく奪、議員辞職勧告など厳しい処分を下します」
「いやいやいや、貴方本人が、襲撃されたときに王宮にいたそうじゃないですか。しかも報道によると、当のイリーヴ議員本人に会ってる。それなのに、総括を待つ?

 これは明らかにかばっていると思わざるを得ません、どう考えてもおかしい。もしかして、貴方が襲撃に関与していたのではありませんか。グリード首相?」

 ここまで言われているのに、共和党議員は助けを出すことなんてしないし、ヤジすら飛ばさない。というのも、私が政府として把握してる限り、意図的にイリーヴは王宮をとり囲んだと自供している。

 当然、親交のある共和党はそれを把握してるだろう。要するに、きちんと処分を下すために、クロの彼の状況を整理して、ちゃんとした重い処分にしないと、グリードは党首として示しがつかない。

 共和党内は一枚岩ではなく、イリーヴのような過激派や、王権を認める穏健派もいる。彼らをまとめるには時間が必要なのだ。

 もちろんそのことをグリードは答弁したが、民主党は納得なんてしないし、そもそも納得なんて、何言ってもするつもりはない。

 イリーヴを辞めさせたところで、結局、目的はグリードを引きずり降ろすつもりだから当然だ。何言っても仕方がない。粛々とグリードは仕事をするだけだ。

 しかし困ったのが、国民年金基金から割り当てられるだろう平民内閣予算にすぐさま対応するために、彼ら共和党の政策である、平民教育制度や失業者への雇用保険の適用など平民救済政策を、あらかじめ通しておかなければならない。

 民主党はもちろん政策討議なんて応じるつもりはないし、どんどん時間が過ぎて行って、通常国会内で予算が通らなくなる。それを狙って民主党は揺さぶっているのだ、平民救済政策を盾にとって。

 さてグリードはどうするのかな。彼は必死にこう民主党を説得した。

「民主党方にお願いしたいのが、大事な平民救済政策の討議に応じていただきたいのです。これらはいま苦しむ平民たちの助けになる重要な政策です。

 今国会会議中に通さなければ、彼らの中にも、人生を放り投げる者もいるでしょう。ぜひ、ぜひ、民主党の方々は政策討議に応じて欲しいです。心よりお願い致します」

 との丁寧な頼み方にも関わらず、民主党議員は、

「そのまえに、王宮襲撃の張本人の処分が先です。もちろん、我々平民を救済する法案は至急的かつ速やかに通すべきです。

 しかしながら、このように当の政府が責任逃れをしている中、我々民主党は応じることが出来ません。

 だってそうでしょう、今ここで追及しなければ、事実をもみ消して、悪い前例を作りかねませんから。

 政治家の道筋として、きちんとけじめをつけてもらいたいのです。グリード首相、再度お尋ねします。イリーヴ議員の辞職勧告を出さないんですか? なぜ今出さないんですか。理由をお答えください」

 と、壊れたカセットテープ、と言っても今の人に伝わらないか。バグったスマホゲーの永久ループが始まっている。これはひどい。

 人命にかかわる問題なのに、むしろ民主党が議員として責任を取ってない。あーなんかムカムカしてきた。

 グリードが何度も民主党議員に頼むが、ずーとイリーヴ、イリーヴ言い続けている。私の方が堪忍袋の緒が切れて、怒鳴りつけそう。

 ああ、もう、限界。あの女議員しばいちゃる。と思った先だ、業を煮やしたグリードはこう言い放った。

「……そう、ですか、これほどお頼みしてもダメですか。残念です。実に残念です。お互い理性を持った議員同士話せばわかると思っていましたが、どうやら、時間の無駄でした。

 わかりました。なら、わたくし、平民内閣首相として、今ここに宣言する。

 平民院議会はこれより、内閣法に基づく解散権を用いて、速やかに解散することを命じます!

 我ら平民たちに幸あれ! 平民たちの聖断なる選挙の審判をもって、この難事を解決するとする! 平民バンザイ!! 理性バンザイ!! 貴族よさらば!!!」

 ちょ、ちょっとまって、な、何言った今? 解散? え、せ、選挙!? なんでそんなこと言うのよグリード!! 首相が本会議場で解散宣言したら本当に選挙しなければならないんだよ、現憲法だと!

 もちろん、民主党も、共和党の議員たちも驚いて騒然としている。いやいやいや、止めて。もう止めようがないけど、止めてよ、もう!!

 ヤケクソで解散する奴がいるかー!! このグリードのあんぽんたん! 短気!! 頑固頭!!! バカタレ……せっかくの国民年金制度案が……。徹夜で作ったのに……。

 もう知らん! どうにでもなーれ!! 敬礼! ビシ!! 

 私は混乱のあまり意味不明な行動をしてしまった。もうホントどうなるの、これ、私、わかんない。誰か教えて!!!
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