上 下
123 / 178
魔族大戦

第百二十三話 ミリシアとともに

しおりを挟む
 私は朝、目が覚めて、自室で食事をとった後、リビングで、びっくりした。

「おはよう、ミサ。相変わらず朝が弱いのね」
「おはよう……」

 ミリシアがそこにいてびっくりした。そういえば、ミリシアを私がかくまったのだった。よ、よく考えたら、私の屋敷に連れてくるのはさすがに危険だったのじゃないかな、っと。

 だって、こっちに亡命する目的もわからないし、本当に魔王のエターリアと喧嘩したか怪しいし、ミリシアが人間側と通じていたという証拠は今のところ見つかってない。もしかして、私を暗殺をしに来たの!?

 だって、それ以外考えられないし、ミリシアは私の手腕知ってるから、私がいなけりゃ、統一軍はどうなるかわからない。ひいいいい! 考えたら怖くなった。私が青ざめていると、ミリシアは穏やかにほほ笑みながら言った。

「大丈夫、そんな心配はないわよ」
「えっ」

「顔に書いてる、私が怪しいって」
「そ、そんな、そんなこと思ってないって」

「いいのよ、気持ちはわかるわ、でもね、私は貴女には期待しているのよ、人間と魔族の架け橋を作ってくれる唯一の人物だって。女の勘だけどね」
「女の勘……」

 彼女の本心はわからない、だけど不思議と私を害するつもりはないような気がしていた。昨日からこの屋敷に泊まっているし、私を襲うなら、幼女だし、昨日サクッとやられていたと思う。

 ま、彼女の目的はどうあれ、友達だし、きちっと面倒見ないと。私こう見えても、器は大きなほうだと勝手に自覚してるから。たぶん。なら、私の仕事をするか。

「ミリシア、午後から、一緒に出掛けよう」
「いいけど、どこに?」

「王宮」

 それを聞いてミリシアは優しく笑った。可愛いよ、ほんとに、もう。私の行動お見通しか。なら、いいよ。やるだけやるか。

 私とミリシアは馬車に乗って、王宮へとついた。いまはウェリントンが不在だから、姫である、メアリーが取り仕切っている。まあ、担がれたに近いけど。

 ミリシアを公式に保護するにはメアリーの力がいる。私は事前に済ませた、王宮の謁見室で、メアリーに会った。私を見るなり、メアリーは言った。

「ちょっと、ミサ! 勝手にいなくなったと思えば、帰ってきても全然私に会ってくれないし、私を嫌いになったの!」
「違います姫殿下、私は立場上謁見できなかったので、控えていたんです」

「固い言葉なんてこの際取っ払いなさい。私たち親友でしょ!」
「わ、わかりました、殿下がそうおっしゃるのなら。私は今まで、宰相席をとられていたから、王宮に出入りすると、前の宰相に目を付けられて、消されてたの。

 もうわかってよ!」

「手紙を寄こせばいいのに……」
「えっ、手紙出したけど届いてないの?」

「はあっ!?」

 そこにいた宮内省の官僚をにらみつけたメアリー。その官僚はうろたえながら言った。

「い、いえ、カンビアス殿から、けっして、姫殿下とミサ閣下との連絡を取らぬように厳命されておりましたので」
「ほんとに? 亡くなったから、罪、押し付けてない?」

「ほ、ほ、本当にございます。か、神に誓って!」
「あやしい……」

 そんな様子なので私はとりあえず取り繕うことにした。

「ま、まあ、カンビアスも、私の復権をかなり警戒してたし、許してあげなよ。メアリー」
「まあ、いいけど、久しぶりに会えてうれしいわ。いつもと同じように食事でも一緒にしたいけど、いまじゃ、私は王宮の顔だから、そうもいかないみたいだしね。

 それは正式に手続きをするとして、用があるって聞いたけど、どうしたのミサ?」
「まずは事前にお知らせしたとおり、宰相職に復帰し、今まで以上に私は王宮を支える覚悟でございます。ぜひ、何か不都合があれば、私に何なりとお申し付けください」

「うん! 苦しゅうない」
「あと、紹介したい人物がございます」

「うん? だれよ」
「この人物、ミリシアと言い、魔族の中でもえりすぐりの楽師で、五魔貴族のひとりとも呼ばれた方。しかし、政治のいざこざで、立場を追われたらしく、我が国へ、殿下の保護を求めにやってきました。

 ミリシア殿、殿下にご挨拶を」
「わたくし、ミリシアと申します。紹介の通り楽師でございます。以後お見知りおきを」

 と、ミリシアはメアリーにカーテシーをした。メアリーはミリシアの顔を見て、驚きながら言った。

「ミサ、こっちにきて」
「はっ」

 そうして彼女に近寄ると、こそこそ話し始めた。

「めっちゃ美人じゃん! きれいすぎるんだけど! あんたの彼女!?」
「何言ってんの、さっき言った通りよ」

「気品があるし、かっこいいし、見た目からすごいんだけど!」
「ま、まあ、ミリシアは魔族の中でも超美人だから……」

「ま、まあ、いいわ、続けましょうか」

 そう言ったので私は元の位置に戻り、メアリーはミリシアに話しかけた。

「貴女、楽師だそうね、楽器は何が引けるのかしら」
「主にハープでございます。あとはオルガン、最近では弦楽器ならなんでも」

「そ、そう……なら、貴女のハープを聞きたいわ、いいかしら?」
「もちろんでございます、殿下」

 私は王宮の者に手配して、ミリシアにハープを渡した。そしていつも通り、美しいハープ公演を始めた。謁見室にいた皆が驚き、うっとりして、恍惚な顔をしていた。それはメアリーも一緒だった。

 そうして数曲奏でた後、メアリー私を呼んだ。

「ミサ、ちょっと」
「はっ」

 そうして彼女に近寄ると興奮しながら言った。

「超うまいんですけど! おかしくない! 王宮の楽師でもこんなに美しい音色のハープきいたことない!」
「ま、まあ、その能力を買われて、魔王のそばに仕えていた方だから」

「すごいじゃない! 超美人だし、気に入ったわ」
「はあ、では」

 そう言って元の位置に私が戻ると、メアリーはミリシアに言った。

「よろしい、ミリシア殿。ウェストミンスターのひとりとして、貴女を素晴らしい楽師だと認めます。王宮に顔を出せるよう、皆に命じましょう。

 ウェストミンスター王家として、貴女を歓迎いたします。よろしいかしら」
「もちろんでございます、メアリー姫殿下につたなき我が芸を聞いてくださり光栄でございます。以後お見知りおきを」

「よろしくたのみますわ、ミサ、ちょっと」
「はいはい」

 メアリーはそう言って私を呼びよせて、興奮気味にミリシアのことをあれこれ聞いてきた。面食いなんだから、メアリーは。そういえば、彼女は女性にも、ケがあるのよね。う、美人同士、はかどるわー。

 こうして正式に王宮に保護されたミリシアは、私とともに住むこととなる。私預かりということだ。まだ、不審な点はいっぱいあるし、みんなを納得させるには時間がかかるから仕方ない。

 私とミリシアは屋敷に戻り、夕食をともにしながら、歓談していた。ミリシアはほっとした様子で、

「よかったわ、メアリー姫殿下に気に入っていただけて」

 といった。私はそんな一面があったのかと、思った。いつも余裕たっぷりだったし。

「それで、ミリシア、どうだった、メアリーの印象は?」
「とても気品を持ちながら、どこかとっつきやすく、好感の持てる女性だと感じたわ」

「そうよね、私はメアリーと親しいけど、気さくだし、きっとミリシアも仲良くなれるよ」
「そうだといいわね、だって……」

「だって?」
「とても指先が繊細で、肩からのラインがセクシーなんですもの……」

 ぶっ! ちょっとまって、ちょっとまって、そういえばこの娘も、女性にケがあるんだった。ということは何! メアリー×ミリシアが成立するってこと!? エターリア×ミリシアも素晴らしいんだけど、メアリー×ミリシアもいいわー!

 美人同士で、キマシタワー! はかどるー! なんそれ! 大好物なんですけど! うふふ、楽しみが増えたわ。

 そうして夕食が終わった後、急ぎの用か、親衛隊たちがやってきたとのことで、客間で、彼らと会った。ルーカスとジョセフだ。ルーカスは厳かに語った

「お久しぶりです、閣下。よくご無事でおられた。立場上、直接会うこともかなわず申し訳ありません」
「何を言ってるの、貴方のおかげで、フェニックスヒルでの命拾いをしたのよ、怪我はどう?」

「この通りぴんぴんしております」

 と、右腕を肩から回した。意外とユーモアセンスあるんだ、そういう一面あるんだね。

「ところでこんな夜になんのよう?」
「ご無礼を閣下。実は私は翌日、ウェストヘイム方面に……失礼」

 よこにミリシアがいると気付いて、ルーカスは目配せをした。私はそれを笑顔で返す。

「気にしないで、彼女はしっかり私が見張っているし、魔族軍のことに通じているから、むしろここにいた方がいいかもしれない」
「……はっ、では、我ら親衛隊も再編し直し、ウェストヘイム方面へ援軍に参ることとなりました。

 まず初めに、第一陣として、私、ルーカスが。第二陣として、ジョセフもまいります。聞くところによると、準備が整い次第、テットベリー伯も援軍に来てくださるとか」

「そう……」

 私はジェラードの事を思って少し暗くなった。戦とはいえ、彼がそばから離れるのは非常に心配だ。会うこともはばかれていたし、すこし、じっくり話をしたい。私が暗い顔をしているのか、ルーカスは穏やかに言った。

「心配なさらず。ジェラード卿には指一本も触れさせぬ所存。我ら親衛隊を信じなさいませ」
「べ、別にそんなんじゃないから!」


「はっ!? あっはははっは」
「もう……」

「ねえ、ちょっとお話していいかしら?」
「なに、ミリシア?」

 彼女は横からルーカスに話しかけた。

「ウェストヘイムを攻めるなら、ゴート方面の陣地を狙いなさい。あそこは、ウェストヘイムとネーザン方面への補給基地が集まっているわ。そこを攻撃すれば、かなり、魔族軍の動きを鈍らせることが出来る」

「えっ」

 彼女以外みんな驚いた。そんな大事な情報を、話していいの!? 多分ミリシアにとって私たちの信頼を買うためだと思うけど、軍事情報なのに……。

 戸惑うルーカスとジョセフに私は付け加えた。

「技術部が作った、新型の野砲を使いなさい。きっと役立つと思うわ」
「かしこまりました。状況を確認次第、そのように……」

 ルーカスに別れを告げて、数日後、ジョセフが私の屋敷にやってきた。

「ミサ様、朗報です!」
「なに?」

「どうやら、ネーザン方面への魔族軍の攻撃がだいぶ収まりました。ミリシア殿の情報は確かだった模様、現在、ウェストヘイム方面で押し返し始めています!」
「やった! ついに戦果らしい戦果を!」

「よかったわね、ミサ」

 そのミリシアの言葉に私は笑顔で答えた。

「ミリシアのおかげだよ、今後何かあったら、助言をお願い」
「ええ、微力だけど、ミサを応援させてもらうわ」

 と言ってきたので、私は彼女に近寄ると、ミリシアは気さくに私を抱きしめてくれた。ふかふか。おっぱい、やわらかいよー、ママー。じゃなかった。よかった。これで何とか市民たちへのメンツが保てる。

 こうして、新たな気持ちで、ミリシアをネーザンに迎えたのだった。
しおりを挟む

処理中です...