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魔族大戦
第百十七話 ネーザン
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私はジェラードたち、テットベリー軍の護衛を受けて帰路に旅立った。私の馬車が通る町々で荒廃してるのを見て驚いた。戦争中とはいえ、ここまで、荒れ果てるなんて。エターリアは穏便に占領をしていたことを改めて思い知らされた。
女魔族は飛べるし、補給路を断つために、後方の町々を焼いたのだろうか。しかし、妙に思えたのが、焼けた死体はあったけど、焼けた家がないということだ。どういうこと? 真っ先に建物を燃やせば、効果的なのに……。
旅は続き、ネーザンへの関所前でジェラードは私に声をかけた。
「ここからがネーザン領だ、驚くなよ?」
「え……、どういうこと?」
「見ればわかる……」
そして馬車がネーザン国に入ったころだ、遠くに見える街から火の手が上がっていた。私は思わず声を出した。
「まさかネーザンにも魔族が入り込んでいるの!?」
「違う、火をつけたのはネーザンの民だ」
「うそ……!」
街に入ると、暴徒があふれかえり、民兵が対応に追われていた。そして、民間人を乱暴に制圧し、どこかに連れていこうとしていた。
「何をしてるの! 貴方たち国を守る兵士でしょ! 逮捕の仕方にも、配慮が必要でしょ!」
と私が叫ぶと、その民兵は答えた。
「宰相閣下の御命令だ!」
「だれよ、その宰相って!」
「カンビアス閣下だ!」
「カンビアス……!」
まさか、元宮宰のカンビアスが宰相になったというの!? しかもカンビアスの命令って……。しかし、今の私はネーザンでの権力はない。民兵に命令する権利はない。でも、どうなっているのこれは……!
確かにカンビアスには強引なところがあったけど、これは……。
まちまちで暴徒があふれかえっており、私は戸惑うばかりだった。そのなか、国王領に入ったころ、ある民が私の顔を見て叫んだ!
「ミサ様だ!」
そのことばに暴徒たちはいっせいにこちらを向き、いきなりひざまずいて、口々に嘆願を始める!
「ミサ様! 我らをお助けください!」
「救世主さま、どうか我らをお助けを!」
「ミサ様!」
「ミサ様!」
集まってくる民たちを民兵たちが、どんどんどこかに連れていく。何よこれ……。なんで、あのネーザンが……。
私は戸惑いを隠せないまま、王都レスターについた。そこでも私は民たちにひざまずかれて、「ザ・カウンテス・オブ・リーガン!……」と口々に叫び続ける。戦時中とはいえこれは……!
自宅に着くと、ジェラードは私に声をかけた。
「見ただろ、ミサ。これが今のネーザンだ」
「なんでこうなったの……?」
「カンビアスが宰相になってから、急激に政治が悪化した。三議会は分裂して、それぞれが違う主張を続け、宰相はそれをまとめる器量がない。その結果がこれだ」
「戦争中でしょ! 何をやってるのカンビアスは!」
「知らん、議会には顔を出しているようだが、宰相府にこもりっきりだ」
「何よ、なんでこんなことに……。私はきちんとやったつもりなのに……」
「大戦争になったのがまずかったな、カンビアスではそれを差配するに値しない人物だった。と、皆が口々に申している」
「そんな、私……!」
自宅の庭で馬車を降り、レオたち屋敷の者が出迎えてくれた。そしてレオは私に駆け寄る。
「ミサ様!」
「レオ!」
私は彼を抱きしめて、レオは涙ぐんでいる。そして、彼は言った。
「ミサ様がいなくなってもう、めちゃくちゃです、ネーザンは!」
「ええ、そのようね……」
「レスターも暴動がおこり、みんなピリピリしてて、ここにも、暴徒が入り込んできたんですよ! ミサ様を返せって! もう何が何だかわからないです!」
「ごめん帰るのが遅くなって」
「話は中に入ってしよう、民たちが見ている」
私が後ろを振り返り、庭先から民たちがこちらにこようとするのを、親衛隊だろうものが、必死に食い止める。確かにここじゃ落ち着けない。
そうして久しぶりに自分の部屋に入ると、なんだかどっと疲れてしまい、寝室に向かいたい気分だった。それを見たレオは声をかける。
「お疲れですか、ミサ様。お休みになられますか?」
「いや、いいわ。屋敷の方はどうなってるの?」
「カンビアスが宰相になってから、こちらに入るお金が絶たれてしまいました」
「なに、公務員年金はどうしたの?」
「戦時中だから、払えないと。軍人年金も支払われてないようです」
「無茶苦茶ねカンビアスは、そりゃ暴動も起こしたくなるわね」
「問題は物価が上がり続けていることなんです」
「どういうこと? 増産に成功したはずだけど」
「なんか農村から、作物が届かないうえ、戦争で必要だからって、どんどん小麦とかの値段が上がって、今では物価がミサ様がいた時より、23倍になってます」
「23倍!? 貴方たちの暮らしはどうしたの?」
「なんとか、ミサ様に懇意にしていただいた、商人の方が、こういう時はお互いさまだって、こちらに流してくれるんですけど、やっぱり、日々がその日暮らしで生きた心地が……」
「……大変だったわね、レオ。ご苦労様。留守を守ってくれてありがとう」
「ミサ様……ぐす……うわあああ」
私はレオを抱きしめ、彼が泣くやむのを待った。そしてあることに気づいたレオは、急いで言った。
「すみません、ジェラード様を待たせていたのでした。あやまってきます!」
そう言って彼は部屋から出ていき、別室で待っていた、ジェラードはこっちの部屋にやってきた。
「ミサ、ネーザンの状態がわかったか」
「ええ……少し」
「私は最前線で戦っていたから、噂しか知らなかったが、事実だったようだな。惨状は。テットベリー領の民たちは、こちらに避難したが、難民となってパン一つも欠けるほどらしい。
何とか、彼らを救おうと何度か、政府に申したが、それどころではないと。私の自領は、魔族の占領下だし、私には養うことが出来ない。我が軍の士気を保つことでやっとだ」
「ひどい有様ね」
「ああ、ひどい有様だ、ネーザンは」
「どうする? ミサ」
「どうするって、今の私には何の権力もないのよ、方法は陛下に嘆願するぐらいしか……」
「ほんとにそれだけか?」
「……!」
「今のネーザンにはお前が必要だミサ。大陸戦争や、ブルーリリィ革命のときのように」
「……少し考えさせて」
「ああ、そうだな、お前も帰ったばっかりだしな、疲れているだろう。休むといい。私も、屋敷の者に顔を見せないとな」
「ありがとうジェラード。私を助けに来てくれて」
「当然のことをしただけだ。まあ、私が聞きたい言葉はそれじゃないけどな……」
その言葉に私は顔が熱くなった。彼への返事がまだだ。でも今の私は気持ちの整理がついていないから、それにこたえることはできなかった。こんな状況だしね……。
私は少しの間、自分の屋敷にこもって、体を休めて考えていた。ウェリントンのこと、ジェラードの事、魔族のみんなの事。そして私の心の中で渦がうごめいていた。ドロドロした泥。
私はその泥をすくい、戦争の血の嵐の中を生きている。生き続けている、今も。私が料理を食べている間、何千何万という、命が失われてる。そのなか、私は生きている。なにか、私の全身の血が噴き出るように、みんな死んでいく。
その中、私は平然と生きている。そうか、そうなんだ、ふふふ。
私が十二分に体を休めたころ、ある訪問者がやってきた。ジャスミンだ。私は彼を部屋に通して、話をすることにした。
「お久しぶりです。ミサ元宰相閣下」
「回りくどい言い方は逆に失礼じゃない? ジャスミン」
「ええ、そうですね、無礼をご容赦のほどを。では、ミサ様、お加減はいかがですか?」
「見ての通り、暇よ。プーだしね。貴方は忙しいでしょう?」
「いえ、私も暇ですよ、なにせ、カンビアス閣下に閑職に回されましたから」
「なるほど、愚痴が言いたいわけね」
「ええそうです。私たちミサミサ団は貴女のため、国のために命を懸けて、政をとり行っていました。しかし、あんまりじゃないですか、ミサ様がいなくなったとたん、ミサミサ団のみんなはカンビアス閣下に左遷されてしまいました。
逆らったものは彼が作ったギロチンの露に消えました。これが、国のなさる事かと、我らへの報いかと」
「権力闘争に負けたものはそうなる運命だわ。貴方は仕えるべき人を間違えたのよ」
「さて、それはどうでしょうか……?」
ジャスミンは笑いながら、皮のバッグに収めていた、書類を出した。それを私に見せる。
「さーて、何のプレゼントかしら……? これは……!」
「汚職です。カンビアス派の。物資の多くは、彼のお気に入りの貴族や商人たちにまわされています。ただでさえ足りない物資がこれでは……ね」
「機密文書よ、これは」
「ええ、カンビアスに知られると、私は言葉通りに、首から上を飛ばされますね」
「私にどうしろと?」
「皆が待ってますよ、ミサ宰相閣下」
「私は宰相じゃないわ、もう」
「失礼しました、救世主様。どうか我らを、世界をお救いください。このネーザンには、世界には貴女が必要なのです」
「救世主、ね。久しぶりに聞いたわ。なら、救ってあげましょうか、この私が?」
「立ちますか?」
「立ちましょう。ええ、だって救世主だもの。救ってあげなきゃね、このネーザンを、世界を……。ジャスミン、私についてきなさい!」
「もちろんですとも! 我らが救世主、ミサ・エチゴ・オブ・リーガン様!」
こうして私はジャスミンを右腕に、まず、国王議会へと工作を始めるのだった。
女魔族は飛べるし、補給路を断つために、後方の町々を焼いたのだろうか。しかし、妙に思えたのが、焼けた死体はあったけど、焼けた家がないということだ。どういうこと? 真っ先に建物を燃やせば、効果的なのに……。
旅は続き、ネーザンへの関所前でジェラードは私に声をかけた。
「ここからがネーザン領だ、驚くなよ?」
「え……、どういうこと?」
「見ればわかる……」
そして馬車がネーザン国に入ったころだ、遠くに見える街から火の手が上がっていた。私は思わず声を出した。
「まさかネーザンにも魔族が入り込んでいるの!?」
「違う、火をつけたのはネーザンの民だ」
「うそ……!」
街に入ると、暴徒があふれかえり、民兵が対応に追われていた。そして、民間人を乱暴に制圧し、どこかに連れていこうとしていた。
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と私が叫ぶと、その民兵は答えた。
「宰相閣下の御命令だ!」
「だれよ、その宰相って!」
「カンビアス閣下だ!」
「カンビアス……!」
まさか、元宮宰のカンビアスが宰相になったというの!? しかもカンビアスの命令って……。しかし、今の私はネーザンでの権力はない。民兵に命令する権利はない。でも、どうなっているのこれは……!
確かにカンビアスには強引なところがあったけど、これは……。
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「ミサ様!」
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「そんな、私……!」
自宅の庭で馬車を降り、レオたち屋敷の者が出迎えてくれた。そしてレオは私に駆け寄る。
「ミサ様!」
「レオ!」
私は彼を抱きしめて、レオは涙ぐんでいる。そして、彼は言った。
「ミサ様がいなくなってもう、めちゃくちゃです、ネーザンは!」
「ええ、そのようね……」
「レスターも暴動がおこり、みんなピリピリしてて、ここにも、暴徒が入り込んできたんですよ! ミサ様を返せって! もう何が何だかわからないです!」
「ごめん帰るのが遅くなって」
「話は中に入ってしよう、民たちが見ている」
私が後ろを振り返り、庭先から民たちがこちらにこようとするのを、親衛隊だろうものが、必死に食い止める。確かにここじゃ落ち着けない。
そうして久しぶりに自分の部屋に入ると、なんだかどっと疲れてしまい、寝室に向かいたい気分だった。それを見たレオは声をかける。
「お疲れですか、ミサ様。お休みになられますか?」
「いや、いいわ。屋敷の方はどうなってるの?」
「カンビアスが宰相になってから、こちらに入るお金が絶たれてしまいました」
「なに、公務員年金はどうしたの?」
「戦時中だから、払えないと。軍人年金も支払われてないようです」
「無茶苦茶ねカンビアスは、そりゃ暴動も起こしたくなるわね」
「問題は物価が上がり続けていることなんです」
「どういうこと? 増産に成功したはずだけど」
「なんか農村から、作物が届かないうえ、戦争で必要だからって、どんどん小麦とかの値段が上がって、今では物価がミサ様がいた時より、23倍になってます」
「23倍!? 貴方たちの暮らしはどうしたの?」
「なんとか、ミサ様に懇意にしていただいた、商人の方が、こういう時はお互いさまだって、こちらに流してくれるんですけど、やっぱり、日々がその日暮らしで生きた心地が……」
「……大変だったわね、レオ。ご苦労様。留守を守ってくれてありがとう」
「ミサ様……ぐす……うわあああ」
私はレオを抱きしめ、彼が泣くやむのを待った。そしてあることに気づいたレオは、急いで言った。
「すみません、ジェラード様を待たせていたのでした。あやまってきます!」
そう言って彼は部屋から出ていき、別室で待っていた、ジェラードはこっちの部屋にやってきた。
「ミサ、ネーザンの状態がわかったか」
「ええ……少し」
「私は最前線で戦っていたから、噂しか知らなかったが、事実だったようだな。惨状は。テットベリー領の民たちは、こちらに避難したが、難民となってパン一つも欠けるほどらしい。
何とか、彼らを救おうと何度か、政府に申したが、それどころではないと。私の自領は、魔族の占領下だし、私には養うことが出来ない。我が軍の士気を保つことでやっとだ」
「ひどい有様ね」
「ああ、ひどい有様だ、ネーザンは」
「どうする? ミサ」
「どうするって、今の私には何の権力もないのよ、方法は陛下に嘆願するぐらいしか……」
「ほんとにそれだけか?」
「……!」
「今のネーザンにはお前が必要だミサ。大陸戦争や、ブルーリリィ革命のときのように」
「……少し考えさせて」
「ああ、そうだな、お前も帰ったばっかりだしな、疲れているだろう。休むといい。私も、屋敷の者に顔を見せないとな」
「ありがとうジェラード。私を助けに来てくれて」
「当然のことをしただけだ。まあ、私が聞きたい言葉はそれじゃないけどな……」
その言葉に私は顔が熱くなった。彼への返事がまだだ。でも今の私は気持ちの整理がついていないから、それにこたえることはできなかった。こんな状況だしね……。
私は少しの間、自分の屋敷にこもって、体を休めて考えていた。ウェリントンのこと、ジェラードの事、魔族のみんなの事。そして私の心の中で渦がうごめいていた。ドロドロした泥。
私はその泥をすくい、戦争の血の嵐の中を生きている。生き続けている、今も。私が料理を食べている間、何千何万という、命が失われてる。そのなか、私は生きている。なにか、私の全身の血が噴き出るように、みんな死んでいく。
その中、私は平然と生きている。そうか、そうなんだ、ふふふ。
私が十二分に体を休めたころ、ある訪問者がやってきた。ジャスミンだ。私は彼を部屋に通して、話をすることにした。
「お久しぶりです。ミサ元宰相閣下」
「回りくどい言い方は逆に失礼じゃない? ジャスミン」
「ええ、そうですね、無礼をご容赦のほどを。では、ミサ様、お加減はいかがですか?」
「見ての通り、暇よ。プーだしね。貴方は忙しいでしょう?」
「いえ、私も暇ですよ、なにせ、カンビアス閣下に閑職に回されましたから」
「なるほど、愚痴が言いたいわけね」
「ええそうです。私たちミサミサ団は貴女のため、国のために命を懸けて、政をとり行っていました。しかし、あんまりじゃないですか、ミサ様がいなくなったとたん、ミサミサ団のみんなはカンビアス閣下に左遷されてしまいました。
逆らったものは彼が作ったギロチンの露に消えました。これが、国のなさる事かと、我らへの報いかと」
「権力闘争に負けたものはそうなる運命だわ。貴方は仕えるべき人を間違えたのよ」
「さて、それはどうでしょうか……?」
ジャスミンは笑いながら、皮のバッグに収めていた、書類を出した。それを私に見せる。
「さーて、何のプレゼントかしら……? これは……!」
「汚職です。カンビアス派の。物資の多くは、彼のお気に入りの貴族や商人たちにまわされています。ただでさえ足りない物資がこれでは……ね」
「機密文書よ、これは」
「ええ、カンビアスに知られると、私は言葉通りに、首から上を飛ばされますね」
「私にどうしろと?」
「皆が待ってますよ、ミサ宰相閣下」
「私は宰相じゃないわ、もう」
「失礼しました、救世主様。どうか我らを、世界をお救いください。このネーザンには、世界には貴女が必要なのです」
「救世主、ね。久しぶりに聞いたわ。なら、救ってあげましょうか、この私が?」
「立ちますか?」
「立ちましょう。ええ、だって救世主だもの。救ってあげなきゃね、このネーザンを、世界を……。ジャスミン、私についてきなさい!」
「もちろんですとも! 我らが救世主、ミサ・エチゴ・オブ・リーガン様!」
こうして私はジャスミンを右腕に、まず、国王議会へと工作を始めるのだった。
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