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魔族大戦

第百十五話 再会

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 私、ジェラードに抱きしめられて思わず涙ぐんだ、懐かしい香りがしたきがする。昔、私が、小さな子どものころ、お父さんに連れられて、川を見に行き、橋の上で、私は抱きしめられた。それを笑顔でインスタントカメラで写真を撮った母。

 新しい物好きな父さんが、インスタントカメラを買ったとき、どうせなら、私を撮りたいと言って、綺麗な川の上の橋で、景色がいい中、そっと抱きしめた。

 私は恥ずかしくて嫌だったんだけど、カメラから現像された、写真を見たとき、天にも昇るような気持ちだった。ああ、子どもながら幸せだなって思った、そう、幸せだったあの頃。……懐かしい。

 そのあの頃の憧憬が蘇るほどジェラードの胸はすごく温かった。

「ミサ……」

 レクスはつぶやいた、そして静かにこう言った。

「お前はそっちを選ぶんだな……」
「ごめん……」

「レミィや魔王様やみんなはどうするんだ?」
「ごめん……」

「ミサ」
「全部私が悪いの、私が、我がままだからこんなことになったの。でも、私、自分に嘘はつけなかった。みんなには私がごめんって謝っていると伝えてくれると嬉しい。本当に悪かったって。

 都合がよすぎるかもしれないけど、でも、もう、これ以上、自分に嘘はつきたくないから……」

「そうか……」

 その様子にレクス隊は怒りのあまり、私に斬りかかろうとした。だが、それをレクスが剣を押さえて止めた。

「やめろ」
「でも、隊長……!」

「女が選んだことだ。こうなった以上、わからないのか? 男たちの俺らがどうこう言うことじゃない。ほうっておけ。

 俺は不器用な男だが、無様な男になるつもりはない」
「隊長……!」

 彼の行為に私は驚いた。そして、ジェラードはこういった。

「レクスというやら、いいな……?」
「ああ……勝手にするがいいさ……」

 私たちは黙ってここから立ち去ろうとする、レクス隊たちはそれを黙って見ていた。次にレクスが一言。

「──ミサ!」
「……」

「──今度は敵同士だ!」
「……!」

 私はそれに振り返ることなく、何も返す言葉もなく、ただ黙って、この場を去る。ジェラードたちが守ってくれる中、なんとか要塞を脱出した。

 外で少し落ち着いた後、私はジェラードに言った。

「……ありがとう、ジェラード。来てくれて」
「困ったレディを迎えに行くのは騎士の務めだ。それも愛する人ならなおさらな」

「もう、冗談ばっかり……」

 そして少し私たちは笑った。まだ気持ちの整理はついてないけど、それを吹き飛ばすために精一杯笑ったつもりだ。それを察してくれたのか、彼はささやいた。

「──大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫だよ……」

 でも、私はうまく言えずにいた。ジェラードはそっと私の目をぬぐってくれて、その時初めて、少し涙ぐんでいることに気づいた。それが恥ずかしくて、ごまかすために私は尋ねた。

「ねえ、これからどうするの?」

「サルフォードに行く、かの国に陛下がいらっしゃる。ウェストヘイムから、大陸中央の山を越えて東部地方に行くぞ」
「まって、ウェストヘイムによるんだよね?」

「ああそうだ、ワックスリバーからでは道が険しくなるからな」
「なら、ジョセフを助けて、お願い」

「ん、ジョセフ? 彼は生きていたのか」
「ええ、ぴんぴんしてるわ、捕虜となって、労働させられている」

「そうか、生きていたか。無事でよかった」
「ねえ、ルーカスを知らない? 彼と途中離れ離れになったんだけど」

「ルーカス卿か、彼は重傷を負っていたが、今は前線に出られるほど回復している」
「よかった、無事で!」

 ルーカスとあんな別れ方したから、ずっと気になっていた。生きてたんだ、ほんとによかった。今後の方針が決まった後、ジェラードは言った。

「では、ウェストヘイムに向かうぞ、ジョセフのところへ案内してくれ、ミサ」
「わかった!」

 私たちは魔族たちを避けながら、ウェストヘイムのジョセフたちがいる農場へと向かった。私が、魔族の政治に通じていたため、なるべく安全な道を選んで、何とかジョセフのところにたどり着くことができた。

 そうやって彼ら、捕虜の親衛隊たちに会うと、ジョセフは私がジェラードたちといっしょにいることに苦笑した。

「宰相閣下、えらい遅いおつきですね、みんな待ってたんですよ」
「ごめん、待たせちゃって」

「決心がついたんですね、ネーザンに戻ることに」
「ええ、私はネーザンに再び戻って、人間側から、この戦争を終結して見せる。……人間と魔族が手を取り合う未来のために」

「言うじゃないですか、輝いてますよ、ミサ様」
「どういたしまして」

「あと、少し女っぽくなりましたね」
「私も成長してるのよ! これでも!」

 ジョセフはジェラードと一緒に私の身長を手で確かめながら、笑いあった。やっと私は帰ってきたことを実感し始めたと思ったころ、ジョセフはジェラードに言った。

「テットベリー伯爵様、ちょっと俺たちに付き合ってもらえないですか?」
「ん、なんだ?」

「みんな待ってますんで」

 そう言ってジョセフたちは、いきなり周りでぼやっと見ていて話し合っていた魔族をとらえた。もちろん女魔族は文句を言った。

「な、何をする! お前は私が好きなのではなかったのか!?」
「だから、こうやって抱きしめているんじゃないか。おとなしくしていれば、戦争が終わったら、迎えに来るよ、愛しのリリー?」

「くそー、だましたなー! 女心を踏みにじりやがって! くそー!!!」

 女魔族は涙目で、抵抗するが、なぜか、本気になってあらがわなかった。まったく、恋は剣よりも強しか。ジェラードたちも制圧を手伝って、これからのことを話し合った。そうして、みな、風車がある、近くの小屋に集まった。

 ここへ来たことに私は不思議に思ってジョセフに言った。

「こんなところ、何の用があるの?」
「サルフォードにいくんでしょ、陛下のもとへ」

「ええ、そうらしいわ」
「なら、俺たちにも武器が必要でしょ」

 そう言って、親衛隊たちは小屋に隠していた、武器を取り出した。私は驚いた。

「これ、まさか……!?」
「魔族製の武器ですよ、伯爵たちが持っている奴と同じ。どうやら、あるお偉い方が、こういう時のために、武器をまわしてくれたみたいですよ、優しい方がいたもんだ。女性なら、ぜひベッドにお誘いしたいぐらいですね」

「どうせ、だれでも、ベッドに誘うつもりでしょ、反乱計画とかあるの?」
「ええ、もちろん、最近、結構自由に行動させてもらいましたからね、ネーザン軍とウェストヘイム軍の捕虜は一斉に立ち上がる計画です」

「じゃあ、今、使いを送って、そのうちに私たちが、陛下と合流できるし、魔族たちのネーザン侵攻への時間稼ぎができる」
「そういうと思ってましたよ、万事、御随意に」

 ジョセフとジェラードはお互いに握手してねぎらって、抱き合った。そして、ウェリントンがいるサルフォード国に向かった。

 途中道が険しく、また魔族も警戒待機していたため、ジェラードたちや、親衛隊のみんなの活躍で、何とか山を越えて、サルフォードにたどり着いた。

 この国は大陸同盟戦争のときに、中立を保った国だった。国王は平和主義を唱えて、同盟戦争への参加は貴族たちが自主的に行ったという経緯がある。ジェラードにきいたところ、東部戦線はかなり押されており、ヴェルドーの活躍もあって、東部中部にあたる、サルフォードで必死に戦線を保っている状況だ。

 ヘレフォード要塞にウェリントンがいるという。私は緊張して言葉が少なくなっていた。なにせ、離宮で、彼とのお互いの気持ちを確かめ合ったからだ。

 今まで会えなかった、想いが積もり、言葉にできなかった。そして私は再会した。ウェリントンに……。

 私を見るなり、彼はすぐさま駆け寄り、私を抱きしめた。

「ミサ! 無事でよかった!」
「……はい」

「お前が捕らえられたと聞いて、心配したぞ! 魔族に加わっていると聞いて、気が気でならなかったぞ!」
「……申し訳ございません」

「なぜ、謝る?」
「だって、陛下のお気持ちをふみにじるような行為を……」

「そんなことはどうでもいい、お前が無事でいればそれでいいんだ!」
「……陛下……!」

「……ミサ、よく、帰ったな……!」
「はい、……ただいま戻りました。我が王、唯一の統一王、私のウェリントン陛下……!」

 そうして二人はしばらく抱き合って、彼と積もり積もった話をお互い語り合ったのだった……。
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