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魔族大戦
第百十四話 帰還
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私とレクスと、レミィは、人間の侵入者がいるときいて、すぐにその現場に向かった。負傷して血を流している魔族兵たちがおり、私はびっくりした。それはレミィも同じだった。
「どうした!? ニンゲンにやられたのか!?」
「申し訳ございません。敵はどうやら、我らの肌を傷つけるほどの剣を使っているようです」
どういうこと? そんな技術は今の人間にはないはずだけど。レクスはつぶさに傷跡をしらべて、言った。
「これは魔族の使っている剣だ。おそらく誰かが、ニンゲンに流したのだろう、禁じられているというのに……」
「やっぱり魔族の使っている剣は魔族に効くの?」
私の言葉にレクスは静かに答えた。
「ああ、そうだ、そうでなくては魔族をまとめることはできないからな。レミィ、お前は負傷者を連れて医師に見せてやれ」
「何を言ってるんだ! 私も戦う!」
「危険だ。お前を失うわけにはいかない」
「ふざけるな、私は軍人だ!」
「なら、俺に従え」
「いやだ!」
「……命令だ、従え」
「……! ……了解!」
理不尽でもある命令に不満そうにしながらも、レミィは看護役として、隊員の数を割きながら、負傷者を連れて、この場を離れた。その様子にレクスはつぶやいた。
「それでいい……」
「ねえ、レクス。私はどうすればいい? 戦闘にはまったく役にも立たないけど、人間相手なら交渉役として、やってみることはできる」
「ミサ、お前は俺とともに、避難しろ」
「はっ? 避難?」
「おそらく内通者がいる以上、何か目的があるはず。俺が考えられる限り、今、ここを襲撃して得になることなんて何もない。ワックスリバーはすでに降伏準備で、武装解除を徐々に行っている。
だとすれば、考えられるとしたら、敵の目的はお前だろう」
「えっ!? 私?」
「そうだ、ニンゲンとのパイプ役のお前を狙って、このタイミングで暗殺しておけば、ここから先の戦争、ニンゲンへの対応がかなり混乱する。その間、ニンゲンどもは防備を固めることが出来る。
特に降伏の受け入れで、魔族軍本軍が動けない。だから、今回みたいに兵が手薄となった、この要塞に忍び込めた。それが、今の戦況ではこの方法が軍事的に一番有効だからだ」
「なるほど……」
流石に軍事には疎い私は、そんなこと思いつかなかった。レクス隊は周りを警戒する。どうやらこの近くに人間はいないようだし、私はレクスと部隊員とともに退路を確保しようと、裏口に向かった。廊下の途中、人の足音が聞こえてきた。その時だ──
「ミサ!」
私のなじみある、懐かしい声を聴いて、驚いた。要塞に侵入した人間とはだれでもない。彼、……ジェラードたちだった。
「ジェラード!」
「……!」
私がジェラードと知り合いだと理解して、レクスは私の手を引っ張って、ここから離れようとする。それに対し私は、抵抗する。
「やめてよ、離してよ、レクス!」
「こっちにこい! いま、お前を失うわけにはいかん!」
「ミサ!」
緊迫の一瞬、お互い掛け声をあげながら、ジェラードの部隊と、レクス隊とが戦ってしまう。友達同士の争い。大切な人たちの争い。私が一番見たくなかった、血にまみれた光景。思わず、大声で叫んだ!
「やめてよふたりとも! お願い! 二人とも剣をひいて!」
私の言葉に、一瞬彼らは、冷静になったようで、両部隊は斬りあうのをやめ、にらみあった。状況が落ち着いたとみるや、ジェラードは言った。
「ミサ、迎えに来たぞ! みんなが待ってるぞ」
「ミサ、耳を貸すな! お前は魔族軍にとって重要だ」
両者がお互いに私を説得しようとする。わ、わたし、どうすれば……。どうすればいいの? 私の状態を察して、ジェラードは優しく言った。
「お前が生きていると聞いて心配したぞ、ミサ。あの時以来だからな……」
その言葉にあのジェラードと口づけを交わした瞬間を思い出し、胸が締め付けられる。そんな中、彼は言葉を続ける。
「ネーザン国王陛下はお前をお待ちしている、メアリー姫殿下も、みんな。ネーザンの民もだ。お前がいなくて、寂しがっているぞ。お前のいないネーザンは悲しみに包まれていた──」
「だまれ、ミサは、魔王様にとって、魔王軍にとって、レミィにとって大事な、大事な友達だ! いまさらニンゲンに渡すわけにはいかない!」
レクスの言葉に私はひどく心をかきむしられる。わたしどっちにいけば、いいの……? 人間、魔族? わからないよ……。
迷っている私を見てだろう、彼は、ジェラードは優しく包み込むように微笑んだ。
「もちろん私もお前を待っていた。お前にいない世界は寂しかった。私にはお前が必要だ。愛しているぞ、ミサ……!」
「ジェラード……!」
彼の告白に私は体が熱くなってしまう。そしてジェラードはこう告げた。
「帰ってこい、ミサ。待っていたぞ……」
──待ちわびていた、その言葉に私は思わずレクスの手を振りほどき、ジェラードの胸へと飛び込んだ。
「わ、私……!」
「お帰り、ミサ……」
彼の体温が伝わる。温かい彼の大きな胸。言いたいことがいっぱいあっても、何も言えず、少し黙ってしまう。沈黙が流れ、絞り出すように出た言葉は──
「ただいま、ジェラード……!」
「どうした!? ニンゲンにやられたのか!?」
「申し訳ございません。敵はどうやら、我らの肌を傷つけるほどの剣を使っているようです」
どういうこと? そんな技術は今の人間にはないはずだけど。レクスはつぶさに傷跡をしらべて、言った。
「これは魔族の使っている剣だ。おそらく誰かが、ニンゲンに流したのだろう、禁じられているというのに……」
「やっぱり魔族の使っている剣は魔族に効くの?」
私の言葉にレクスは静かに答えた。
「ああ、そうだ、そうでなくては魔族をまとめることはできないからな。レミィ、お前は負傷者を連れて医師に見せてやれ」
「何を言ってるんだ! 私も戦う!」
「危険だ。お前を失うわけにはいかない」
「ふざけるな、私は軍人だ!」
「なら、俺に従え」
「いやだ!」
「……命令だ、従え」
「……! ……了解!」
理不尽でもある命令に不満そうにしながらも、レミィは看護役として、隊員の数を割きながら、負傷者を連れて、この場を離れた。その様子にレクスはつぶやいた。
「それでいい……」
「ねえ、レクス。私はどうすればいい? 戦闘にはまったく役にも立たないけど、人間相手なら交渉役として、やってみることはできる」
「ミサ、お前は俺とともに、避難しろ」
「はっ? 避難?」
「おそらく内通者がいる以上、何か目的があるはず。俺が考えられる限り、今、ここを襲撃して得になることなんて何もない。ワックスリバーはすでに降伏準備で、武装解除を徐々に行っている。
だとすれば、考えられるとしたら、敵の目的はお前だろう」
「えっ!? 私?」
「そうだ、ニンゲンとのパイプ役のお前を狙って、このタイミングで暗殺しておけば、ここから先の戦争、ニンゲンへの対応がかなり混乱する。その間、ニンゲンどもは防備を固めることが出来る。
特に降伏の受け入れで、魔族軍本軍が動けない。だから、今回みたいに兵が手薄となった、この要塞に忍び込めた。それが、今の戦況ではこの方法が軍事的に一番有効だからだ」
「なるほど……」
流石に軍事には疎い私は、そんなこと思いつかなかった。レクス隊は周りを警戒する。どうやらこの近くに人間はいないようだし、私はレクスと部隊員とともに退路を確保しようと、裏口に向かった。廊下の途中、人の足音が聞こえてきた。その時だ──
「ミサ!」
私のなじみある、懐かしい声を聴いて、驚いた。要塞に侵入した人間とはだれでもない。彼、……ジェラードたちだった。
「ジェラード!」
「……!」
私がジェラードと知り合いだと理解して、レクスは私の手を引っ張って、ここから離れようとする。それに対し私は、抵抗する。
「やめてよ、離してよ、レクス!」
「こっちにこい! いま、お前を失うわけにはいかん!」
「ミサ!」
緊迫の一瞬、お互い掛け声をあげながら、ジェラードの部隊と、レクス隊とが戦ってしまう。友達同士の争い。大切な人たちの争い。私が一番見たくなかった、血にまみれた光景。思わず、大声で叫んだ!
「やめてよふたりとも! お願い! 二人とも剣をひいて!」
私の言葉に、一瞬彼らは、冷静になったようで、両部隊は斬りあうのをやめ、にらみあった。状況が落ち着いたとみるや、ジェラードは言った。
「ミサ、迎えに来たぞ! みんなが待ってるぞ」
「ミサ、耳を貸すな! お前は魔族軍にとって重要だ」
両者がお互いに私を説得しようとする。わ、わたし、どうすれば……。どうすればいいの? 私の状態を察して、ジェラードは優しく言った。
「お前が生きていると聞いて心配したぞ、ミサ。あの時以来だからな……」
その言葉にあのジェラードと口づけを交わした瞬間を思い出し、胸が締め付けられる。そんな中、彼は言葉を続ける。
「ネーザン国王陛下はお前をお待ちしている、メアリー姫殿下も、みんな。ネーザンの民もだ。お前がいなくて、寂しがっているぞ。お前のいないネーザンは悲しみに包まれていた──」
「だまれ、ミサは、魔王様にとって、魔王軍にとって、レミィにとって大事な、大事な友達だ! いまさらニンゲンに渡すわけにはいかない!」
レクスの言葉に私はひどく心をかきむしられる。わたしどっちにいけば、いいの……? 人間、魔族? わからないよ……。
迷っている私を見てだろう、彼は、ジェラードは優しく包み込むように微笑んだ。
「もちろん私もお前を待っていた。お前にいない世界は寂しかった。私にはお前が必要だ。愛しているぞ、ミサ……!」
「ジェラード……!」
彼の告白に私は体が熱くなってしまう。そしてジェラードはこう告げた。
「帰ってこい、ミサ。待っていたぞ……」
──待ちわびていた、その言葉に私は思わずレクスの手を振りほどき、ジェラードの胸へと飛び込んだ。
「わ、私……!」
「お帰り、ミサ……」
彼の体温が伝わる。温かい彼の大きな胸。言いたいことがいっぱいあっても、何も言えず、少し黙ってしまう。沈黙が流れ、絞り出すように出た言葉は──
「ただいま、ジェラード……!」
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