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魔族大戦

第百二話 魔王ちゃんの理想

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 私は女魔王に気に入られて、豪華な部屋をもらって、可愛がられた。贅沢を尽くした、と言ってもウェストヘイムとか占領地の物を略奪したんだろうけど、まさに楽園のお城で、魔王様に抱っこされている。

「ミサちゃーん。今日はティラミスをもってきたよ、ちゃんと食べられるかなー?」
「魔王ちゃん、私そんな子どもじゃないもん!」

「そう言ってるうちは子どもだよ、ミサちゃん。はい、あーん」
「あーん」

 ココアパウダーが覆った、クリームたっぷりティラミスを魔王ちゃんが食べさせてくれる。私はおっきなお口を開けて、スイーツをほおばった。ぱく。

「おいちー!」
「そう、おいちーの、可愛いねえー。いい子いい子」

 魔王ちゃんに私は頭をなでられて、うっきうっきで、おっきなおっぱいに顔をうずめた。

「魔王ちゃんふっかふっかだよー」
「あらら、ミサちゃんたら、おませちゃんね。でも、そこも可愛い。抱きしめてあげる」

「ありがとー、ばぶー」

 私はバブみ属性オーラだしまくり魔王ちゃんの胸でもちもちおっぱいを堪能した。ばぶー。それを横で見ていた、例の黒髪の美人さんに笑われてしまった。

「すっかり、ママさんになったね、エターリア」
「いいじゃない。子ども欲しかったんだ、ミサちゃんみたいな素直でかわいい女の子が。ミリシアはミサちゃん好き?」

「いや好きだけど、あんまり魔王のイメージが離れると、これからの仕事に差しさわるよ」
「はっしまった! すっかり、ミサちゃんのオギャりぐあいにママさんになってしまった。私には世界を変える役目があったのだった」

「私がミサちゃんの面倒を見ているから、いってらっしゃい、エターリア」
「ああ、後は頼むぞ」

 と言って急に魔王エターリアは立ち上がったので、私は転がってしまった。それを見てミリシアが笑いながら、私に言った。

「大丈夫? 腰打ったかな、ミサちゃん。私がさすってあげるよ」
「あ、ありがとうございます」

 そう言ってミリシアと呼ばれる女性に私は腰をやさしくなでられて、ごろにゃん気分になって、すっと、バブりオーラから解き放たれて、冷静になった。

「あ、えとえと、ミリシアさんでいいんですよね?」
「なに改まって、ミサちゃん。ミリシアでいいわよ」

「ど、どうも」

 この女性も綺麗で、つややかな黒髪ロングの、ルビーアイで、こっち見つめられるとどぎまぎしてしまう。美人さんがいっぱいで調子くるってしまうなあ。特にミリシアは気品高く、しとやかな感じなので、近くで見つめられると、緊張してくる。

「貴女は魔王様にお仕えしてる人ですよね?」
「仕えているっていうか、相談役ね。エターリアも、長年魔王やってるけど、悩みは尽きないから、私が聞き手になって、彼女が変なことを言ったら、めっ! って言ってるわ」

「そ、そうですか、やっぱり魔王様のそばにお仕えしているということは、お強いんですよね」

 私がそういうと彼女は上品にくすくす笑い始めた。そしてにこやかにミリシアは言った。

「カッコ見てわからない? 私は楽師よ。楽器は得意だけど、物騒なのは得意じゃないのよ」
「え、楽師……?」

「一曲聞いてみる?」

 そう言ってミリシアはハープを取り出して、奏で始め、美しい世界を部屋に作り出した。切ない、弦のメロディー、情感豊かな表現力に、私は心酔してしまっていた。彼女の美しく白い指先から奏でる、ハープの音でとっても私は心地のいい興奮が沸き上がってきた。

 そうして一曲ミリシアが演奏し終わると、私は拍手した。

「すごーい、魔族にこんなに音楽が上手い人がいるなんて!」
「うーん、私、魔族っていうか、元人間。見てわからない?」

 あ、そう言えば真っ白な肌が、綺麗に日光にさらされて輝いている。すごい素敵―。ということは……。

「魔族の血をもらって魔族になったんだよね?」
「そうよ。正解。私はエターリアの血をもらって、魔族になったのよ、もう、遠い昔の話ね……」

 なるほど、ここにも、元人間が。うん? 待てよ、ミリシア、ミリシア……。どこかで聞いたことがあるなあ。そうだ!

「もしかしてレミィが言ってた、音楽の天才ってあなたなの!? ミリシア」
「レミィ、レミィ……はて」

「レクスの妹だよ、私と一緒に来た、男魔族の妹の」
「ああーレクス。そういえば、むかし、彼にはちっちゃい女の子が、そばにいたわね。いつもお兄ちゃんって言ってて、シャイで、可愛い女の子が。もう大人になってるかな……」

「そう、そのレミィがすっごいほめてたよ。歌も上手いんでしょ? 聞きたい!」
「いいけど、今日は、少し落ち着いているから、気分じゃないので今度にしましょ、最近、のどが疲れちゃってね。ここの大陸、いろんな刺激的な食べ物多いから、のどの調子よくないの」

「楽しみにしてる!」
「はいはい、約束ね」

 そう言って綺麗にほほ笑んだミリシアは天使だった。美人だー。いい! この空間いい! エターリアと、ミリシアの美人づくし。幸せだわー。おっといけない。私の本来の目的を忘れていた。

「ねえ、ミリシア。どうして、魔王様はこの大陸に攻めてきたの?」
「それは後で本人に聞いた方がいいわね、いろいろややこしいことが裏にあるから……」

「ややこしいこと?」
「そうね……」

 と言って、ミリシアは遠い目をして、黙ってしまった。何だろう一体。日が暮れて、城の様子も静まる中、エターリアが帰ってきた。

「ミサー、仕事終わったよー。ちゃんとお留守番できたかなー?」
「うん! できたー!」

「そっか、えらいえらい」
「ばぶー」

 みたいに私がオギャってる中、ミリシアは魔王エターリアをねぎらった。

「お疲れ、エターリア。何か困ったことあった?」
「いっぱいあるよ。そりゃ、魔王も大変だからね。相変わらず。魔族たちはだいたい一本気なところが難しいし」

「お疲れ様。大変だね」
「望んでやってることだからね。仕方ないよ」

「あのっ!」
「ん? どうしたのミサちゃん」

 私は勇気を出してエターリアにきいてみた。

「魔王ちゃん。どうして、魔族は人間たちの住むヴェスペリアに攻めてきたの? 魔王ちゃんが命令したんでしょ。どうしてそんなことを?」
「あーなるほど、少し難しい話になるけどいい?」

「もちろん! 聞かせて」
「いいわ、まずね、はるか昔、この大陸ヴェスペリアでは人間たちと魔族が手を取り合って、暮らしていたのよ」

「え!? すごい初耳」
「それでね、人間たちは欲深い動物だからね、共存するより、ヴェスペリアを支配して、魔族をこの大陸から追い出そうと考えたの」
「人間たちがそんなことをしたの?」

「そうよ、わたしたち魔族は平和に暮らしていくことを望んでいたのだけど、人間たちはそうじゃなかった。そうして血で血を洗う戦争になったわ。最初は私と一緒に魔族が戦って、圧倒的に優勢だったんだけど、アレクサンダーという男が現れてね、彼の弟が、戦争の天才で、魔族も徐々に不利になっていき、私たちはヴェスペリアから追い出されてしまったの」
「うそ……私が聞いた話と違う」

「人間はうそつきだからね、貴女も、そんな大人になっちゃだめよ」
「うん……。ねえ、魔王ちゃん。魔族による理想国家って何?」

「人間は欲深く疑り深く、常に争いを好む種族よ。一緒にこの大陸で、豊かに暮らしていくには、魔族が上に立って、人間たちを指導しないといけない。そうじゃないと、私たちは一緒に暮らせないの。哀しいことにね……」
「魔王ちゃん……」

 彼女の哀しい瞳に少なくとも、本当のことを言ってると、私は感じた。でも、客観的に見て、真の原因は何か、この戦争は本当に必要なのか、確かめないと、私がこれからどうしていいかわからない。思い切って私はエターリアにきいてみた。

「ねえ、魔王ちゃん。そこら辺の事情を詳しい人を知らない? もっと私は本当のことを知りたいの!」
「そっか、お勉強か、偉いねミサちゃん。わかった、それなら、伯爵が詳しいわ」

「伯爵?」
「五魔貴族の一人で、魔族の学問をつかさどっているのがいるの。貴女自身で聞いてみるといいわ。気が済むまでね」

「どこにいるの?」
「フェニックスヒルの城下に住み始めたと聞いたわ、いろいろ城では不自由だから。そうだ、ミサを守るために、ミリシア、一緒に行ってくれない? 私が連れて行ってあげたいけど、魔王の仕事があるから」

「ええ、いいわよ、エターリア。私に任せて」

 そうミリシアは美しく微笑んだ。私はあくる日、伯爵の屋敷に行くこととなった。伯爵って言うから、偉い人なんだけど、こわいひとじゃありませんよーに。南無阿弥陀仏。
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