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魔族大戦
第九十七話 踊り子アイラ④
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私とレクスはヴェルドーの慰労会が開かれる屋敷に向かい、魔族たちの上層部がそろっていたようだ。ヴェルドー軍のお偉い方の面々なのか、かなりいかつい顔が多い。私がきょろきょろと眺めていると、レミィが合流してきた。周りの様子に不思議そうなレミィはレクスに尋ねた。
「慰労会とはなんだ?」
「知らん、だれを慰労するのかもわからんし、俺は開かれると聞いただけだ」
「とりあえず宴ということか。ヴェルドーからの」
「かもな。内容が知らされてないからよくわからん」
「なんでミサもここにいるのだ? 一応捕虜の客人扱いだろ」
「上からのお達しだ。それもよくわからん」
二人は会話をしているが、埒が明かない。私が呼び出されているということは、昨日、アイラ達の技芸団に魔族が話していたのを考えてみると、たぶん、私の正体、と言っても隠してないんだけど、私をさらし者にしようとしているのかなって思う。
私はアイラに私がネーザン宰相ってことを話していいって言い聞かせておいたし、アイラは私の立場を知らないし、魔族の聞き取りで、私のことを話して、裏付けをとったんじゃないかと思った。
まあ、これはあくまで推測だけど、しかし、ヴェルドーは何を考えているかわからない男だし、予想外の展開になっても私は落ち着いて対処しないといけない。幼女でも、私はネーザン宰相だ、ちゃんと対応してみせる。
宴会場に入り、皆が座って歓待をうける。ヴェルドー軍上層部にも人間の料理技術が伝わったのか、割とまともな食事が出てきた。酒も人間のものだ、最初は皆が緊張していたものの、徐々に宴席で、盛り上がっていく。
どういうことだ、これではただの宴会だ。まあ私のことはメインディッシュかな。そう考えていると、ヴェルドーの副官だろう、ひげの生えたいかつい魔族が言った。
「皆のもの宴を楽しんでいるか、そなたらの日々の疲れをいやすため面白きものを用意してある」
そろそろかな? 私は心の準備をしていると、ある人たちが、と言っても私は予測済みだけど、宴の中に入ってきた者たちがいた。……アイラ達、技芸団だ。
その様子にレミィは驚いた様子で声を上げる。
「あ、アイラどうして!?」
「レミィ、動揺しないで」
レミィを落ち着かせて、私は深呼吸をして事の成り行きを見守る。ヴェルドーの副官が、厳かに言い始めた。
「これらの者は巷で有名な、ニンゲンの優れた芸を持っている。皆、宴を楽しむといい。さあ、お前たち、はじめろ」
そう言って、技芸団に芸をうながし始める。アイラは緊張した表情だ。ただでさえ、あがり症なのに、こんな魔族の軍人たちの真っただ中に放り出されると普通そうなる。私はあれこれ、これから起こることをシミュレーションしていた。
技芸団たちの芸が始めると、会場の皆が楽しみ始める、私以外は。ジャグリングや、歌をはじめ、会場が盛り上がり、アイラの番がやってくる。魔族たちも人間と感性が似ているのか、彼女の美しさに見惚れていたようだ。
そうして、音楽を奏で始めて、アイラが、
「どうぞ我らの芸を魔族の皆様もお楽しみください」
と言って、踊り始める。華麗でセクシーなダンスに、魔族たちがうっとりとしていた。酒も進んでいるようで、はやし立て始める。レミィは気が気でないのか、不安げな表情でアイラを見守っていた。
私があれこれ考えている間に、時はあっという間に過ぎていく。そんな中、魔族の兵の一人が、例の副官と、ヴェルドーと何やら話し始めている。来たか……。私は気持ちを引き締め、これから起こることを想定して見定める。
そうしてアイラの踊りが終わると、しんと静まった中、ヴェルドーが静かに言い始めた。
「ご苦労だ、ずいぶんと面白い芸だ。それは認めよう。ときに、小娘、お前が、ネーザン宰相と仲がいいと、聞いたが。本当か?」
「えっ……?」
アイラの反応に私はさっと血の気が引いた。まさか、アイラ、魔族に話してなかったの!? しまった、それは予想外だった。てっきり、アイラが私のことを話したと思って予測をしていたのに。まずいことになった。ヴェルドーの矛先がアイラに向く可能性がある。
私が戸惑っている間に、ヴェルドーの副官がアイラに問い詰める。
「おい、小娘。お前たちの仲間が、お前が、ネーザン宰相と連絡を取って、我が軍をかく乱しようとしているとの報告が入った。正直話せ!」
「わ、私……!」
しまった、私とアイラの会話を間違って解釈して、技芸団の中で噂になっていたのを、ヴェルドーたちが聞きつけたんだ。どうする!? 私とアイラが戸惑っている中、レミィが彼女をかばい始める。
「違う! アイラはそんな娘じゃない!」
「だまれ、貴様ごときが入っていい会話ではない!」
ヴェルドーの副官にその声がさえぎられる。まずい、まずい。早くアイラを助ける方法を考えないと、取り返しのつかないことになる。私が動揺している中、ヴェルドーが静かに剣を抜く。ま、まって!
「おい、小娘。俺はお前にきいている。お前はネーザン宰相を知っているのか?」
「……知りません」
「そうか、おい、どうする?」
ヴェルドーは副官に尋ねる。彼は、
「例の者たちを連れてこい!」
と言い放つ。ちょっと、ちょっと待って、果てしなくやばい。どうしよう、私はヴェルドーと知り合いじゃないし、私のことを宰相と認めてない様子だし、私がしゃしゃり出ても、事態が好転するとは思えない。……どうしよう!?
魔族の兵たちはある者を連れてきた。アイラが面倒みている技芸団の子どもたちだ。これは……! 子どもたちは恐怖におびえながら叫ぶ!
「お姉ちゃん助けて!」
「あなたたち!? どうして!」
ヴェルドーの副官が冷たく言った。
「お前が可愛がってる子どもたちに、これ以上怖い思いをさせたいのか、小娘!」
それにヴェルドーが付け加えつつ剣の刃をアイラにもっていき、剣先を彼女ののど元につける。
「せっかくの宴席だ、血で汚すのも、興ざめなのでな。……正直に言え、小娘」
魔族の兵たちが、子どもたちに向けて剣を抜く! くっ、こうなったら仕方ない、無理やりにでもこっちに刃を向けさせる!
「私がネーザン宰相よ! この娘は関係ない!」
「だまれ、ガキ。貴様にきいていない」
くっ、ヴェルドーには通じない。なら、アイラを説得するしかない、そんな中、レミィは、ヴェルドーとアイラに叫ぶ!
「やめろ、ヴェルドー! アイラ、話すな! ヴェルドー、こっちを向け! 私がネーザン宰相を知っている! 口を割らしたいのなら、私と勝負しろ!」
「雑兵が、貴様になど聞いていない! おい、小娘、俺はお前にきいている!」
レミィが何言ってもヴェルドーに通じない。だから、私はアイラに訴えた。
「アイラ! 正直に話していいよ、あとは私が何とかする! だから、貴女は自分たちの事だけを考えて!」
「……私……!」
アイラはこちらを見て、子どもたちを見る。そうして、徐々に青ざめた顔から、血のめぐりがよくなったのか、表情が引き締まる。それをみて、ヴェルドーが最後に宣告する。
「……これで最後だ、小娘、お前はネーザン宰相を知っているのか? 答えろ!」
その言葉で、アイラはちらりと私を見て、静かに笑った。その表情の意味を悟った私は叫んだ!
「アイラ、やめて!」
それにも関わらず、アイラはまっすぐヴェルドーを見つめ、そして力強く言った。
「──お断りよ。くそ野郎……!」
その瞬間、ヴェルドーは剣を引きつけ、そしてレミィは叫ぶ!
「やめろ──!!!」
彼女の声がむなしく響き、アイラの胸を深々とヴェルドーの剣が貫いた。
「アイラ!」
「アイラ──!」
私とレミィの声が宴会場に響き渡る。その様子にヴェルドーは鼻を鳴らした。
「ふん、つまらん!」
アイラのからだは静かに倒れ、彼女の腰の横につけていた、小物入れが地面に転ぶ。それを力なく手で彼女は隠した。それを見た、魔族たちは彼女の手の内をさらけ出そうと、アイラの細い手を踏みつける。
「おい、何を隠した!」
「……い、嫌。これは、私の……大切な思い出の……友達との……絆……。だから……」
あの小物入れは、私が名前をサインした、あの……! アイラは最後の力を振り絞って、魔族兵が彼女の手の内から引っ剥がそうとしたのから守るため、必死で握りしめる。生命の限り、アイラは守り続けた。私との絆を……!
そんな中、レミィが割って入り、アイラをかばう!
「お前ら! これ以上彼女を侮辱するなら、私が相手だ! 来い、卑怯者ども!」
それを見たヴェルドーは静かに言った。
「そんなもの放っておけ」
「し、しかし、あの者は……。いかがなさいましょう?」
ヴェルドーの副官が彼に尋ねた。それに対し冷たい瞳でみつめたヴェルドーは剣を収めた。
「死体は川にでも流しておけ」
「はっ……」
そう言って彼はこの場を立ち去った。それを見て、レミィは叫んだ。
「おい、待て! ヴェルドー! ヴェルドー!!!」
「やめろ、レミィ! 俺たちでは、ヴェルドーに敵わない!」
暴れるレミィを必死でレクスが食い止める。静かにレミィの声がむなしく、宴会場に響き渡った……。
「慰労会とはなんだ?」
「知らん、だれを慰労するのかもわからんし、俺は開かれると聞いただけだ」
「とりあえず宴ということか。ヴェルドーからの」
「かもな。内容が知らされてないからよくわからん」
「なんでミサもここにいるのだ? 一応捕虜の客人扱いだろ」
「上からのお達しだ。それもよくわからん」
二人は会話をしているが、埒が明かない。私が呼び出されているということは、昨日、アイラ達の技芸団に魔族が話していたのを考えてみると、たぶん、私の正体、と言っても隠してないんだけど、私をさらし者にしようとしているのかなって思う。
私はアイラに私がネーザン宰相ってことを話していいって言い聞かせておいたし、アイラは私の立場を知らないし、魔族の聞き取りで、私のことを話して、裏付けをとったんじゃないかと思った。
まあ、これはあくまで推測だけど、しかし、ヴェルドーは何を考えているかわからない男だし、予想外の展開になっても私は落ち着いて対処しないといけない。幼女でも、私はネーザン宰相だ、ちゃんと対応してみせる。
宴会場に入り、皆が座って歓待をうける。ヴェルドー軍上層部にも人間の料理技術が伝わったのか、割とまともな食事が出てきた。酒も人間のものだ、最初は皆が緊張していたものの、徐々に宴席で、盛り上がっていく。
どういうことだ、これではただの宴会だ。まあ私のことはメインディッシュかな。そう考えていると、ヴェルドーの副官だろう、ひげの生えたいかつい魔族が言った。
「皆のもの宴を楽しんでいるか、そなたらの日々の疲れをいやすため面白きものを用意してある」
そろそろかな? 私は心の準備をしていると、ある人たちが、と言っても私は予測済みだけど、宴の中に入ってきた者たちがいた。……アイラ達、技芸団だ。
その様子にレミィは驚いた様子で声を上げる。
「あ、アイラどうして!?」
「レミィ、動揺しないで」
レミィを落ち着かせて、私は深呼吸をして事の成り行きを見守る。ヴェルドーの副官が、厳かに言い始めた。
「これらの者は巷で有名な、ニンゲンの優れた芸を持っている。皆、宴を楽しむといい。さあ、お前たち、はじめろ」
そう言って、技芸団に芸をうながし始める。アイラは緊張した表情だ。ただでさえ、あがり症なのに、こんな魔族の軍人たちの真っただ中に放り出されると普通そうなる。私はあれこれ、これから起こることをシミュレーションしていた。
技芸団たちの芸が始めると、会場の皆が楽しみ始める、私以外は。ジャグリングや、歌をはじめ、会場が盛り上がり、アイラの番がやってくる。魔族たちも人間と感性が似ているのか、彼女の美しさに見惚れていたようだ。
そうして、音楽を奏で始めて、アイラが、
「どうぞ我らの芸を魔族の皆様もお楽しみください」
と言って、踊り始める。華麗でセクシーなダンスに、魔族たちがうっとりとしていた。酒も進んでいるようで、はやし立て始める。レミィは気が気でないのか、不安げな表情でアイラを見守っていた。
私があれこれ考えている間に、時はあっという間に過ぎていく。そんな中、魔族の兵の一人が、例の副官と、ヴェルドーと何やら話し始めている。来たか……。私は気持ちを引き締め、これから起こることを想定して見定める。
そうしてアイラの踊りが終わると、しんと静まった中、ヴェルドーが静かに言い始めた。
「ご苦労だ、ずいぶんと面白い芸だ。それは認めよう。ときに、小娘、お前が、ネーザン宰相と仲がいいと、聞いたが。本当か?」
「えっ……?」
アイラの反応に私はさっと血の気が引いた。まさか、アイラ、魔族に話してなかったの!? しまった、それは予想外だった。てっきり、アイラが私のことを話したと思って予測をしていたのに。まずいことになった。ヴェルドーの矛先がアイラに向く可能性がある。
私が戸惑っている間に、ヴェルドーの副官がアイラに問い詰める。
「おい、小娘。お前たちの仲間が、お前が、ネーザン宰相と連絡を取って、我が軍をかく乱しようとしているとの報告が入った。正直話せ!」
「わ、私……!」
しまった、私とアイラの会話を間違って解釈して、技芸団の中で噂になっていたのを、ヴェルドーたちが聞きつけたんだ。どうする!? 私とアイラが戸惑っている中、レミィが彼女をかばい始める。
「違う! アイラはそんな娘じゃない!」
「だまれ、貴様ごときが入っていい会話ではない!」
ヴェルドーの副官にその声がさえぎられる。まずい、まずい。早くアイラを助ける方法を考えないと、取り返しのつかないことになる。私が動揺している中、ヴェルドーが静かに剣を抜く。ま、まって!
「おい、小娘。俺はお前にきいている。お前はネーザン宰相を知っているのか?」
「……知りません」
「そうか、おい、どうする?」
ヴェルドーは副官に尋ねる。彼は、
「例の者たちを連れてこい!」
と言い放つ。ちょっと、ちょっと待って、果てしなくやばい。どうしよう、私はヴェルドーと知り合いじゃないし、私のことを宰相と認めてない様子だし、私がしゃしゃり出ても、事態が好転するとは思えない。……どうしよう!?
魔族の兵たちはある者を連れてきた。アイラが面倒みている技芸団の子どもたちだ。これは……! 子どもたちは恐怖におびえながら叫ぶ!
「お姉ちゃん助けて!」
「あなたたち!? どうして!」
ヴェルドーの副官が冷たく言った。
「お前が可愛がってる子どもたちに、これ以上怖い思いをさせたいのか、小娘!」
それにヴェルドーが付け加えつつ剣の刃をアイラにもっていき、剣先を彼女ののど元につける。
「せっかくの宴席だ、血で汚すのも、興ざめなのでな。……正直に言え、小娘」
魔族の兵たちが、子どもたちに向けて剣を抜く! くっ、こうなったら仕方ない、無理やりにでもこっちに刃を向けさせる!
「私がネーザン宰相よ! この娘は関係ない!」
「だまれ、ガキ。貴様にきいていない」
くっ、ヴェルドーには通じない。なら、アイラを説得するしかない、そんな中、レミィは、ヴェルドーとアイラに叫ぶ!
「やめろ、ヴェルドー! アイラ、話すな! ヴェルドー、こっちを向け! 私がネーザン宰相を知っている! 口を割らしたいのなら、私と勝負しろ!」
「雑兵が、貴様になど聞いていない! おい、小娘、俺はお前にきいている!」
レミィが何言ってもヴェルドーに通じない。だから、私はアイラに訴えた。
「アイラ! 正直に話していいよ、あとは私が何とかする! だから、貴女は自分たちの事だけを考えて!」
「……私……!」
アイラはこちらを見て、子どもたちを見る。そうして、徐々に青ざめた顔から、血のめぐりがよくなったのか、表情が引き締まる。それをみて、ヴェルドーが最後に宣告する。
「……これで最後だ、小娘、お前はネーザン宰相を知っているのか? 答えろ!」
その言葉で、アイラはちらりと私を見て、静かに笑った。その表情の意味を悟った私は叫んだ!
「アイラ、やめて!」
それにも関わらず、アイラはまっすぐヴェルドーを見つめ、そして力強く言った。
「──お断りよ。くそ野郎……!」
その瞬間、ヴェルドーは剣を引きつけ、そしてレミィは叫ぶ!
「やめろ──!!!」
彼女の声がむなしく響き、アイラの胸を深々とヴェルドーの剣が貫いた。
「アイラ!」
「アイラ──!」
私とレミィの声が宴会場に響き渡る。その様子にヴェルドーは鼻を鳴らした。
「ふん、つまらん!」
アイラのからだは静かに倒れ、彼女の腰の横につけていた、小物入れが地面に転ぶ。それを力なく手で彼女は隠した。それを見た、魔族たちは彼女の手の内をさらけ出そうと、アイラの細い手を踏みつける。
「おい、何を隠した!」
「……い、嫌。これは、私の……大切な思い出の……友達との……絆……。だから……」
あの小物入れは、私が名前をサインした、あの……! アイラは最後の力を振り絞って、魔族兵が彼女の手の内から引っ剥がそうとしたのから守るため、必死で握りしめる。生命の限り、アイラは守り続けた。私との絆を……!
そんな中、レミィが割って入り、アイラをかばう!
「お前ら! これ以上彼女を侮辱するなら、私が相手だ! 来い、卑怯者ども!」
それを見たヴェルドーは静かに言った。
「そんなもの放っておけ」
「し、しかし、あの者は……。いかがなさいましょう?」
ヴェルドーの副官が彼に尋ねた。それに対し冷たい瞳でみつめたヴェルドーは剣を収めた。
「死体は川にでも流しておけ」
「はっ……」
そう言って彼はこの場を立ち去った。それを見て、レミィは叫んだ。
「おい、待て! ヴェルドー! ヴェルドー!!!」
「やめろ、レミィ! 俺たちでは、ヴェルドーに敵わない!」
暴れるレミィを必死でレクスが食い止める。静かにレミィの声がむなしく、宴会場に響き渡った……。
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