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魔族大戦
第九十五話 踊り子アイラ②
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私とレミィはアイラとすっかり仲良くなり、彼女が丘で踊りを見せてくれるというので、技芸団について行った。緑さわやかな香りがさっと丘に立ち込める。その中、技芸団は楽器を手入れして、演奏の準備をする。
アイラは森の奥で、着替えを済ませたらしい、すっかり、碧のシフォンベールをまとい、ブラジャートップスに少し透けた、シルクスカートをまとい、少女の体ながら、妖艶に、美しく、引き締まった女性の体のラインに私はワオッと声を上げてしまった。
綺麗……。とってもスタイルが良く、可愛いらしい。レミィはこういう衣装を知らないのか、「すごい、カッコいい。肌が白くて、綺麗……」と感激していた。私も同感だ。艶やかな肌に、日差しを浴びて、エロティックでありながらも、さわやかな魅惑。
輝くブロンド、品のあるエロスに、思わず憧れてしまった。私もあんなにスタイルが良かったらなあ、腰回りの引き締まり方が、プロって感じがする。決して男に媚びるためのカラダではなく、体全体が、踊るために、洗練された芸術品だった。
彼女のアーティスティックな体に、目を奪われ、陶酔してしまう。そうこうしているうちに、彼女の準備が終わったようだ、アイラは笑顔でこちらに言った。
「それでは我が、技芸団の公演を見てください」
静かで透き通った、アイラの声、ワン・トゥーと皆で調子合せた後、民族太鼓を打ち鳴らし、笛が鳴り響く、ギターを静かにかき鳴らし、アイラが舞い始める。
魅惑的な腰つきで、腰を振りながらも、くるくると、素早く、半透明なベールをなびかせて、体を自在に操る。まったく無駄のなく音楽の一部となった彼女は、演奏の昂ぶりと共に、彼女の白い肌が、赤みを帯びていき、悩ましく、かつ、華麗に舞い始める。
そして1パートが終わった後、彼女は高らかに歌い始める。柔らかく澄んだ声が丘に反響し、世界が聖なる空間になったかのように、まるで、シャボン玉が緑の中を舞うがごとく、透き通った、そしてまた、触ってしまえば壊れてしまいそうな繊細さを私は感じた。
美しいとはこういうことなんだと私は昂奮がおさえられず、太鼓に手拍子を会わせる。そしてアイラは再び舞い始める。全身を使い、汗が、きらめいて、輝き、水をはじくカラダから、宙を舞う。
足を上げ、手を大きく使い、彼女の身長から考えられないほどダイナミックでセクシーだ。そしてすべてが終わった後、私はすっかり彼女の虜となってしまっていた。素敵……! 男だけじゃなく女も彼女は魅了するほどの、美しさを彼女は表現できる!
余りに圧倒されて、私とレミィは言葉が出なかった。アイラは静かに前を向き、こちらに笑顔振りまきながら、礼をして、告げた。
「我々の芸を見ていただきありがとうございます。どうか、よろしければ拍手をお願いいたします」
私たちは、その言葉にようやく曲宴が終わったことに気づき、拍手喝さいを浴びせる。私は「アイラ―素敵だよー!」と声を上げると、レミィは「アイラ、愛してるー!」と立ち上がって興奮してわけのわからないことを言い出す。
周りにいた、子どもたちと一緒に、拍手と絶賛を浴びせると、アイラは頬を染めて「……あ、ありがとうございます……」といじらしく照れる。かわいい! めっちゃかわいい! ちょーきゃわいい! 彼女と友達になれたことに私は誇りに思った。良いもの見たー!
アイラが団の人々と打ち合わせをした後、他の演目の練習があるため、彼女は解放され、こちらにやってきた。彼女のもとに子どもたちが集まってくる。
「お姉ちゃん綺麗だった!」
「すごーい私もアイラみたいになりたい!」
「かっこいい!」
子どもたちの昂奮にアイラはただ「ありがとう、みんなもいつかなれるよ」と優しく言う。私たちも彼女に声をかけた。私は、
「アイラ、お疲れ様、すごく良かったよ、私、見てて幸せだった」
といったので彼女は、
「ありがとうございます、……ミサ様。貴女に私を見せられて、とても光栄です」
と満足げに言った。レミィは嬉しそうにアイラに抱き着く。
「すごいじゃない! アイラ。とっても感動しちゃった。私もこんな素敵な芸が出来たらなあ」
「そんな、これが私の仕事ですから……。誰かに見せるのは恥ずかしいですけど……。でも好きでやってますから。レミィさんは、みんなを守るという素敵なお仕事があるじゃないですか」
「軍隊ってそんな良いもんじゃないよ、でも、そういわれると悪い気しないな。ねえねえ、いつからやってるの? 踊りとか、歌とか」
「小さい時からです。私、孤児で、家が貧乏で、売られたんですよ、でも、私は運がいい方です。貧しい家庭では子どもを売ることはこの世界ではよくあることですから。私を買った商人が、私の未来を見込んで、ある技芸団に売ってくれたんです。
練習はとても厳しかったけど、私は必死でした。また捨てられるんじゃないかって。芸人たちに囲まれながら、プロの世界で、芸を売って生きていく方法を叩き込まれて、いつか私も、子どもたちを養って、子どもたちが親元で、楽しく暮らせるような、未来が来ないかと、そんなことを考えながら、練習に励む毎日でした。
私も大きくなり、客前に出せるような芸人になったって、みんなに認められて、舞台に立った瞬間、すごく、何か、自分が自分でなくなるかのような、皆さんの熱い声援で、ああ、この世界に生きてて良かったなあって、感激したんです。
そこからです、皆さんに笑顔になって欲しいって。私なんかが、言うのもおこがましいけど、私の芸を見て、皆さんの日々の疲れや、色々辛いことを一瞬でも忘れさせられるような、立派な踊り子になりたいって、毎日毎日、頑張って考えながら、練習して、認められて、この一流の芸人たちが集まる技芸団にスカウトされて、私、嬉しかったです。
こんな素敵な団に加われるなんて。ええ、みんなやさしくて素敵な人たちです。それに団で面倒見ているこの子どもたちと触れ合って、この子たちも私みたいになりたいって、うれしいじゃないですか、私は無力なんですけど、子どもたちの希望になれるなんて、誇らしいです。私、踊り子になれて幸せです。毎日が楽しいです」
「そう……素敵ね……」
と私は思わずつぶやいた。彼女にも重い過去があった。でも、それさえ吹き飛ばして、幸せだって言えることがとても大切なんだと思う。現に彼女は輝いている。とっても美しい。私は彼女をまぶしげに見ていると、アイラはこちらに向いて笑顔で私に言った。
「だから、私、ミサ様をお慕いしてるんです」
「えっ、私!?」
「私、ネーザンで産まれたんですけど、貧しくて売られて、大陸の各国を転々とする日々でした。どこもみんな貧しくて、毎日みんな、生きるのが必死で、哀しい世界だなって子どもながら思ってたんです。
でもおっきくなって、再び最近ネーザンに戻ってきたら、まるで、国が変わったかのように、豊かで、みんな笑顔で、輝いていました。嬉しかったです。聞けば、ミサ様が、この世界に来られて、ネーザンがおっきく変わったって、ああ、そうなのか、人って変われるんだ、国って変われるんだって、なんだか、希望が持てました。
そう、ミサ様。貴女は私たちネーザンの、いや、この世界の人々の希望なんです。難しいことは私にはわかりません。でも、いつかきっと、この世界中の人々が、親元を離れて、寂しい思いをしなくても、貧しくて、お父さんや、お母さんにさよならを言われなくても、生きていける世界が来るって信じています。
だから、ミサ様、お願いします。この世界を救ってください、お願いします」
私は少しショックだった、彼女は笑顔で言ったけど、子どものときに親元を離れるなんて、それはもう、彼女には深い心の傷を背負っているのだと、悟ってしまった。そうだ、私には使命がある、貧しい人々を救う、この世界に安寧と幸福をもたらせなければならない。だから、私は……。
「ええ、約束するわ、アイラ。この世界が、笑顔で満ちあふれるような、素敵な世界に私はして見せるわ」
そう告げると、彼女は一つ二つ涙をこぼして、そして笑った。
「はい! 信じます!」
この世界の人々にもいろんな人生がある。それが垣間見られたので私は嬉しかった。そして身が引き締まる思いがした。私たちの会話を横で聞いていた、レミィは言った。
「そのこと……他の人に言わない方がいいぞ、アイラ」
「えっ、何のことです?」
「ミサがネーザンの宰相だってこと。魔族の私たちは信じている奴は少ないけど、それが真実なら、魔族にとってミサは脅威だ。特にヴェルドー辺りに知られると、まずいことになる」
「そ、そうなんですか……、よくわかりませんが、ご忠告ありがとうございます……」
「いや、気を付けてくれればいいだけだ、それだけ。お、おい、お前ら何をしてる!?」
レミィは子どもたちが彼女の荷物をあさり始めて、それを叱りに行った。彼女が離れている間に、私はアイラに言った。
「レミィの言ったこと、気にしなくていいよ」
「えっ?」
「私、見た目がこれだけど、修羅場かいくぐっているから、自分で何とかするから、だから、貴女は自分の事を考えて。そのほうがいいかもしれない」
「はあ……、そうですか……」
アイラは少し悩んでふと私にきいた。
「ミサ様は私のことを友達と思ってくれているんですよね?」
「そうだよ、大切な友達。だからだよ」
「そうですか、嬉しいです!」
そう言って何か不安を晴らすように笑顔になった。レミィが子どもをしつけて、こちらに向かってきた。
「ねえねえ、アイラ?」
「どうしましたか、レミィさん」
「男の人って何、喜ぶ?」
「ふえ!? えええええええ!?」
レミィの突然の質問にアイラの顔は真っ赤になってしまった。そしてもじもじしだす。可愛いからそっとしておこう。レミィはそれに構わず続ける。
「男ってさあ、何、喜ぶかわからないんだよね、アイラの意見が欲しいなって」
「わ、わたし……そんな、そんな……恥ずかしいこと、言えません……!」
「はい?」
「と、殿方はその……。やっぱり女性のからだに興味があると、聞いたことが……。あっ、だ、ダメ! いわせないで、恥ずかしいです!」
「いやいやいや、相手私のお兄ちゃんなんだけど」
「えっ!? お兄ちゃんと!? 魔族の方はおにぃちゃんと!? うわ、わわわ」
「な、何か勘違いしてない?」
「いや、いいんです! いいんです。好きな男性が、世界中で、お兄ちゃんだったって、そういうことですよね! 私応援します! レミィさんのお兄さんならきっと素敵な人です!」
「いや、まあ、そうだけどさあ」
「殿方にも好みがありますものね、すみません……そういうのとんと疎いもので……」
「いや、もしかして、私とお兄ちゃんが、変な関係と思ってない?」
いや、変な関係じゃないの? レミィ的には。でもアイラはレミィの冷めた態度に落ち着いたようだ。
「あ……、もしかして、ただのお兄さんですか……?」
「ただじゃないけどお兄ちゃんだよ」
「あ、す、すみません勝手に勘違いして……。そ、そうですね……。私も孤児なんで、いろんなお兄さんがいましたけど、そうですね……。喜んでくれたのは花の輪でした……」
「え、なんで?」
「花はいつか枯れますから。男性ってもの持ちが悪いですから、形が残るものを送ると、割と抵抗があるみたいなんですよ。だから、枯れてしまえば、捨てられて、思い出に残る、花の輪が結構喜んでいただきました」
「ふーん、花の輪ね、まあ、枯れちゃったら、それ持っててというわけにはいかないしね、さっさと捨てられて、プレゼントの時だけ喜んでもらえるって、まあ、確かに、意外だけれども、わかるような気がする、ねえ作り方教えてよ、アイラ」
「ええ、もちろんですよ、子どもたちと一緒に作りましょう」
そう言って穏やかにレミィと私は花の輪を作ることにした。ちなみに私は上手くできなかったので、捨てた。レミィは意外と器用なんで、綺麗な花の輪が出来た。彼女は大喜びだ。
「うわあ、綺麗! ありがとうアイラ、できたよー」
「はい、とてもお上手です!」
よく見ればもう夕暮れだ、早く帰らなきゃと思ったときレクスが迎えに来た。
「おーい、ミサ、レミィ、どこをほっつき歩いてる? ここにいると聞いたんだが?」
「あ、おにぃちゃん」
「え、殿方!? 私、踊り子の衣装のままです。は、恥ずかしい……!」
そう言ってアイラは私の後ろに隠れてしまった。いや見えるから、私、身長ないから、子どもだから。レクスは不思議そうに彼女を見た。
「この娘だれだ、レミィ?」
「ああ、踊り子のアイラだ、私と友達になった。いいか、綺麗だからと言って色目使うなよ。まあ、お前にはそんな気概もないだろうが」
「わかってるさ、よろしく、アイラ。俺はレミィの兄、レクスだ」
「よ、よろしくおねがいします、です……」
私の後ろに隠れたまま、アイラは言った。可愛い、この娘、家に持って帰りたい。そうやって穏やかな時間が流れていった。
アイラは森の奥で、着替えを済ませたらしい、すっかり、碧のシフォンベールをまとい、ブラジャートップスに少し透けた、シルクスカートをまとい、少女の体ながら、妖艶に、美しく、引き締まった女性の体のラインに私はワオッと声を上げてしまった。
綺麗……。とってもスタイルが良く、可愛いらしい。レミィはこういう衣装を知らないのか、「すごい、カッコいい。肌が白くて、綺麗……」と感激していた。私も同感だ。艶やかな肌に、日差しを浴びて、エロティックでありながらも、さわやかな魅惑。
輝くブロンド、品のあるエロスに、思わず憧れてしまった。私もあんなにスタイルが良かったらなあ、腰回りの引き締まり方が、プロって感じがする。決して男に媚びるためのカラダではなく、体全体が、踊るために、洗練された芸術品だった。
彼女のアーティスティックな体に、目を奪われ、陶酔してしまう。そうこうしているうちに、彼女の準備が終わったようだ、アイラは笑顔でこちらに言った。
「それでは我が、技芸団の公演を見てください」
静かで透き通った、アイラの声、ワン・トゥーと皆で調子合せた後、民族太鼓を打ち鳴らし、笛が鳴り響く、ギターを静かにかき鳴らし、アイラが舞い始める。
魅惑的な腰つきで、腰を振りながらも、くるくると、素早く、半透明なベールをなびかせて、体を自在に操る。まったく無駄のなく音楽の一部となった彼女は、演奏の昂ぶりと共に、彼女の白い肌が、赤みを帯びていき、悩ましく、かつ、華麗に舞い始める。
そして1パートが終わった後、彼女は高らかに歌い始める。柔らかく澄んだ声が丘に反響し、世界が聖なる空間になったかのように、まるで、シャボン玉が緑の中を舞うがごとく、透き通った、そしてまた、触ってしまえば壊れてしまいそうな繊細さを私は感じた。
美しいとはこういうことなんだと私は昂奮がおさえられず、太鼓に手拍子を会わせる。そしてアイラは再び舞い始める。全身を使い、汗が、きらめいて、輝き、水をはじくカラダから、宙を舞う。
足を上げ、手を大きく使い、彼女の身長から考えられないほどダイナミックでセクシーだ。そしてすべてが終わった後、私はすっかり彼女の虜となってしまっていた。素敵……! 男だけじゃなく女も彼女は魅了するほどの、美しさを彼女は表現できる!
余りに圧倒されて、私とレミィは言葉が出なかった。アイラは静かに前を向き、こちらに笑顔振りまきながら、礼をして、告げた。
「我々の芸を見ていただきありがとうございます。どうか、よろしければ拍手をお願いいたします」
私たちは、その言葉にようやく曲宴が終わったことに気づき、拍手喝さいを浴びせる。私は「アイラ―素敵だよー!」と声を上げると、レミィは「アイラ、愛してるー!」と立ち上がって興奮してわけのわからないことを言い出す。
周りにいた、子どもたちと一緒に、拍手と絶賛を浴びせると、アイラは頬を染めて「……あ、ありがとうございます……」といじらしく照れる。かわいい! めっちゃかわいい! ちょーきゃわいい! 彼女と友達になれたことに私は誇りに思った。良いもの見たー!
アイラが団の人々と打ち合わせをした後、他の演目の練習があるため、彼女は解放され、こちらにやってきた。彼女のもとに子どもたちが集まってくる。
「お姉ちゃん綺麗だった!」
「すごーい私もアイラみたいになりたい!」
「かっこいい!」
子どもたちの昂奮にアイラはただ「ありがとう、みんなもいつかなれるよ」と優しく言う。私たちも彼女に声をかけた。私は、
「アイラ、お疲れ様、すごく良かったよ、私、見てて幸せだった」
といったので彼女は、
「ありがとうございます、……ミサ様。貴女に私を見せられて、とても光栄です」
と満足げに言った。レミィは嬉しそうにアイラに抱き着く。
「すごいじゃない! アイラ。とっても感動しちゃった。私もこんな素敵な芸が出来たらなあ」
「そんな、これが私の仕事ですから……。誰かに見せるのは恥ずかしいですけど……。でも好きでやってますから。レミィさんは、みんなを守るという素敵なお仕事があるじゃないですか」
「軍隊ってそんな良いもんじゃないよ、でも、そういわれると悪い気しないな。ねえねえ、いつからやってるの? 踊りとか、歌とか」
「小さい時からです。私、孤児で、家が貧乏で、売られたんですよ、でも、私は運がいい方です。貧しい家庭では子どもを売ることはこの世界ではよくあることですから。私を買った商人が、私の未来を見込んで、ある技芸団に売ってくれたんです。
練習はとても厳しかったけど、私は必死でした。また捨てられるんじゃないかって。芸人たちに囲まれながら、プロの世界で、芸を売って生きていく方法を叩き込まれて、いつか私も、子どもたちを養って、子どもたちが親元で、楽しく暮らせるような、未来が来ないかと、そんなことを考えながら、練習に励む毎日でした。
私も大きくなり、客前に出せるような芸人になったって、みんなに認められて、舞台に立った瞬間、すごく、何か、自分が自分でなくなるかのような、皆さんの熱い声援で、ああ、この世界に生きてて良かったなあって、感激したんです。
そこからです、皆さんに笑顔になって欲しいって。私なんかが、言うのもおこがましいけど、私の芸を見て、皆さんの日々の疲れや、色々辛いことを一瞬でも忘れさせられるような、立派な踊り子になりたいって、毎日毎日、頑張って考えながら、練習して、認められて、この一流の芸人たちが集まる技芸団にスカウトされて、私、嬉しかったです。
こんな素敵な団に加われるなんて。ええ、みんなやさしくて素敵な人たちです。それに団で面倒見ているこの子どもたちと触れ合って、この子たちも私みたいになりたいって、うれしいじゃないですか、私は無力なんですけど、子どもたちの希望になれるなんて、誇らしいです。私、踊り子になれて幸せです。毎日が楽しいです」
「そう……素敵ね……」
と私は思わずつぶやいた。彼女にも重い過去があった。でも、それさえ吹き飛ばして、幸せだって言えることがとても大切なんだと思う。現に彼女は輝いている。とっても美しい。私は彼女をまぶしげに見ていると、アイラはこちらに向いて笑顔で私に言った。
「だから、私、ミサ様をお慕いしてるんです」
「えっ、私!?」
「私、ネーザンで産まれたんですけど、貧しくて売られて、大陸の各国を転々とする日々でした。どこもみんな貧しくて、毎日みんな、生きるのが必死で、哀しい世界だなって子どもながら思ってたんです。
でもおっきくなって、再び最近ネーザンに戻ってきたら、まるで、国が変わったかのように、豊かで、みんな笑顔で、輝いていました。嬉しかったです。聞けば、ミサ様が、この世界に来られて、ネーザンがおっきく変わったって、ああ、そうなのか、人って変われるんだ、国って変われるんだって、なんだか、希望が持てました。
そう、ミサ様。貴女は私たちネーザンの、いや、この世界の人々の希望なんです。難しいことは私にはわかりません。でも、いつかきっと、この世界中の人々が、親元を離れて、寂しい思いをしなくても、貧しくて、お父さんや、お母さんにさよならを言われなくても、生きていける世界が来るって信じています。
だから、ミサ様、お願いします。この世界を救ってください、お願いします」
私は少しショックだった、彼女は笑顔で言ったけど、子どものときに親元を離れるなんて、それはもう、彼女には深い心の傷を背負っているのだと、悟ってしまった。そうだ、私には使命がある、貧しい人々を救う、この世界に安寧と幸福をもたらせなければならない。だから、私は……。
「ええ、約束するわ、アイラ。この世界が、笑顔で満ちあふれるような、素敵な世界に私はして見せるわ」
そう告げると、彼女は一つ二つ涙をこぼして、そして笑った。
「はい! 信じます!」
この世界の人々にもいろんな人生がある。それが垣間見られたので私は嬉しかった。そして身が引き締まる思いがした。私たちの会話を横で聞いていた、レミィは言った。
「そのこと……他の人に言わない方がいいぞ、アイラ」
「えっ、何のことです?」
「ミサがネーザンの宰相だってこと。魔族の私たちは信じている奴は少ないけど、それが真実なら、魔族にとってミサは脅威だ。特にヴェルドー辺りに知られると、まずいことになる」
「そ、そうなんですか……、よくわかりませんが、ご忠告ありがとうございます……」
「いや、気を付けてくれればいいだけだ、それだけ。お、おい、お前ら何をしてる!?」
レミィは子どもたちが彼女の荷物をあさり始めて、それを叱りに行った。彼女が離れている間に、私はアイラに言った。
「レミィの言ったこと、気にしなくていいよ」
「えっ?」
「私、見た目がこれだけど、修羅場かいくぐっているから、自分で何とかするから、だから、貴女は自分の事を考えて。そのほうがいいかもしれない」
「はあ……、そうですか……」
アイラは少し悩んでふと私にきいた。
「ミサ様は私のことを友達と思ってくれているんですよね?」
「そうだよ、大切な友達。だからだよ」
「そうですか、嬉しいです!」
そう言って何か不安を晴らすように笑顔になった。レミィが子どもをしつけて、こちらに向かってきた。
「ねえねえ、アイラ?」
「どうしましたか、レミィさん」
「男の人って何、喜ぶ?」
「ふえ!? えええええええ!?」
レミィの突然の質問にアイラの顔は真っ赤になってしまった。そしてもじもじしだす。可愛いからそっとしておこう。レミィはそれに構わず続ける。
「男ってさあ、何、喜ぶかわからないんだよね、アイラの意見が欲しいなって」
「わ、わたし……そんな、そんな……恥ずかしいこと、言えません……!」
「はい?」
「と、殿方はその……。やっぱり女性のからだに興味があると、聞いたことが……。あっ、だ、ダメ! いわせないで、恥ずかしいです!」
「いやいやいや、相手私のお兄ちゃんなんだけど」
「えっ!? お兄ちゃんと!? 魔族の方はおにぃちゃんと!? うわ、わわわ」
「な、何か勘違いしてない?」
「いや、いいんです! いいんです。好きな男性が、世界中で、お兄ちゃんだったって、そういうことですよね! 私応援します! レミィさんのお兄さんならきっと素敵な人です!」
「いや、まあ、そうだけどさあ」
「殿方にも好みがありますものね、すみません……そういうのとんと疎いもので……」
「いや、もしかして、私とお兄ちゃんが、変な関係と思ってない?」
いや、変な関係じゃないの? レミィ的には。でもアイラはレミィの冷めた態度に落ち着いたようだ。
「あ……、もしかして、ただのお兄さんですか……?」
「ただじゃないけどお兄ちゃんだよ」
「あ、す、すみません勝手に勘違いして……。そ、そうですね……。私も孤児なんで、いろんなお兄さんがいましたけど、そうですね……。喜んでくれたのは花の輪でした……」
「え、なんで?」
「花はいつか枯れますから。男性ってもの持ちが悪いですから、形が残るものを送ると、割と抵抗があるみたいなんですよ。だから、枯れてしまえば、捨てられて、思い出に残る、花の輪が結構喜んでいただきました」
「ふーん、花の輪ね、まあ、枯れちゃったら、それ持っててというわけにはいかないしね、さっさと捨てられて、プレゼントの時だけ喜んでもらえるって、まあ、確かに、意外だけれども、わかるような気がする、ねえ作り方教えてよ、アイラ」
「ええ、もちろんですよ、子どもたちと一緒に作りましょう」
そう言って穏やかにレミィと私は花の輪を作ることにした。ちなみに私は上手くできなかったので、捨てた。レミィは意外と器用なんで、綺麗な花の輪が出来た。彼女は大喜びだ。
「うわあ、綺麗! ありがとうアイラ、できたよー」
「はい、とてもお上手です!」
よく見ればもう夕暮れだ、早く帰らなきゃと思ったときレクスが迎えに来た。
「おーい、ミサ、レミィ、どこをほっつき歩いてる? ここにいると聞いたんだが?」
「あ、おにぃちゃん」
「え、殿方!? 私、踊り子の衣装のままです。は、恥ずかしい……!」
そう言ってアイラは私の後ろに隠れてしまった。いや見えるから、私、身長ないから、子どもだから。レクスは不思議そうに彼女を見た。
「この娘だれだ、レミィ?」
「ああ、踊り子のアイラだ、私と友達になった。いいか、綺麗だからと言って色目使うなよ。まあ、お前にはそんな気概もないだろうが」
「わかってるさ、よろしく、アイラ。俺はレミィの兄、レクスだ」
「よ、よろしくおねがいします、です……」
私の後ろに隠れたまま、アイラは言った。可愛い、この娘、家に持って帰りたい。そうやって穏やかな時間が流れていった。
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