幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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魔族大戦

第八十九話 ウェストヘイム王城戦④

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 私たちはジョセフと親衛隊と共に謁見室を抜け出す。私たちとは私と王族、王宮貴族たちだ。彼らが装う、きらびやか服とは対照的に、顔は張り詰めたように青ざめ凍っている。無理もない目の前で自分たちの国王と王妃が殺されたのだから。

 私は彼らにこう言った。

「大丈夫です、皆さまを私が助けます。私はなんてったって救世主ですから」

 皆が不安げにうなずくので私は優しく微笑んだ。ジョセフは打ち合わせ通りにルーカスと共に退路を確保している親衛隊員に会ったのできく。

「アレックス、ルーカス隊長はどっちだ!?」
「こっちです!」

 そうして私たちが十数分走った後ルーカスと合流できた。彼は私を見て尋ねた。

「ミサ閣下、状況はいかがです? ウェストヘイム国王陛下やミシェル妃は!?」
「残念ながら亡くなられたわ」

「そう……ですか。こちらの方々は?」
「ウェストヘイムの王族や王宮貴族よ、彼らは今後のことを考えて、絶対に生きてもらわないといけない。わかるよね、ルーカス」

「もちろんでございます、さ、退路は確保してあります。こちらへ」
「ありがと」

 私たちは急いでルーカスたちが剣で切り開いた道を行く。親衛隊騎士たちが、顔やぎの魔族を斬ったり、男魔族を剣をもって突き刺して時間稼ぎをして、どんどん隊員たちの数が減っていく。

 だが、圧倒的に数が足りなくなってくる、男魔族たちは騎士を倒した後、立ち上がってこちらを追いかけて来て、隊員が相手している間に親衛隊隊長直属の孔雀隊とジョセフの鵲隊カササギたいの他、数名しかいなくなってしまった。

 まずいぞこの状況は。手数が足りない。折も悪く、魔族の部隊と遭遇してしまう。天は我らに味方せずか……。半ばあきらめのため息をついた、私。その状況を冷静に見たルーカスは私に言った。

「閣下、お別れです。我ら孔雀隊はここで、魔族たちを食い止めます」
「……!」

「よろしいですね?」
「──待って。時間を頂戴、貴方は親衛隊隊長。ここでもし、失ったりしたら……」

「それこそ、騎士の本望です。私は死に場所を見つけました」
「まって! お願い、冷静になって!」

「冷静ですよ、少なくても貴女よりは。お慕いしておりました、ミサ宰相閣下。さらばです!」
「まって、まって!」

 私が手を伸ばそうとしたときジョセフに止められる。彼はこう私に言いくるめる。

「隊長の覚悟を無駄にするつもりですか! ミサ様!」
「でも! ルーカスが!」

「我ら親衛隊はそれが義務です、騎士の名誉です。貴女も宰相なら、笑って見送ってあげなさい」
「そんなことできない!」

「行きますよ──」

 私が抵抗する中、ジョセフに抱えられて連れられる。ルーカスは私の涙にそっと笑顔で返し、すぐさま目の前の魔族の軍勢に対し、剣を抜いた!

「我ら孔雀隊。百の目を持ち、華麗なる舞は我らの王に捧ぐため、神の国への高らかな鳴き声が我らの誇り。いざ、死地に向かわん! か弱き人々を命賭して救うと捧げた崇高なる誓いのために!」
「我ら孔雀隊。百の目を持ち、華麗なる舞は我らの王に捧ぐため、神の国への高らかな鳴き声が我らの誇り。いざ、死地に向かわん! か弱き人々を命賭して救うと捧げた崇高なる誓いのために!」

 隊員たちが誓いの言葉を、剣を捧げ、呪文のように念じ、そして──!

「いくぞ! フォー・ザ・キーング!!!」
「フォー・ザ・キング!!!」

 散っていく隊員たちを見送ることもできず、私はただ涙で目をはらしながら、逃げるしかなかった。無力だ──私は……。

 幾千の死体に目をやりながら、ただ、流れていく、流れていく。私は涙を流すことしか知らず、燃えさかる城を後にし、避難する。城外に出てジョセフは私に尋ねた。

「どこにいきます? 天国がいいですか、地獄がいいですか?」
「ウェリントンに逢いたい」

「そうですか、代わりにジェラード卿に逢いに行きましょう。彼なら涙を流す女性を温かく抱きしめてくれますよ」
「……うん」

 私は何も言わず言う通りにしようとしたときにハッと気づいた。

「──待って、ジョセフ。王族や王宮貴族たちを逃がさないと」
「そんな兵の余裕ありませんよ」

「おねがい……! せめて彼らだけでも」
「……部隊を二手に分けましょう、私たち、ミサ様と共にテットベリー軍と合流するのと、彼らを安全な場所に逃がすための」

「そう……、良かった」

 それ以上は言葉が出なかった。ルーカスの件はショックだった。無事にいて欲しい。カールトン会戦でもお供してくれたし、ジェラードとの激しいジャウストも記憶に残ってる。泣いても仕方ないか……わかってるよ、私がこの場を何とかしないと、でも私は女だったから、突然の目まぐるしい状況の移り変わりに感情が追い付かない。

 私たちが裏の森から、テットベリー軍に合流しようとしている時だった。結局のところ、私は誰かの手のひらの上で転がされたのだと悟った。目の前に魔族の軍勢が現れた。ジョセフ達が剣を抜くが、いかんせん数が違う。彼は冗談交じり言った。

「さーて、落城も終盤、我らも覚悟を決めますかねえ? ミサ様」
「痛くしないで頂戴、あと三食が出るところじゃなきゃヤダ」

「我がままですね、敵さんに言葉が通じるといいですね、パンやケーキの要求をしないと」
「紅茶も出なきゃヤダ」

「はいはい、じゃあ、交渉しますね、おい、ヤギ頭、言葉わかるか?」

 こっちが抵抗してこないと見て、不思議そうにしている魔族たちだった。どうやら、私たちを殺そうとしているわけじゃないらしい。魔族たちが何やら合図を送ると、ゆっくりと耳のとがった青白い男魔族が出てきた。あいつ……。テットベリー領にいた、レクスとかいうやつ……!

 私はすぐさま、ジョセフたちに命じた。

「剣をしまいなさい、ジョセフ。私が何とかする」
「はい?」

「いいから、剣をしまって」
「りょーかいです」

 私は黙って前に立ってるレクスに言った。

「貴方、言葉通じるんでしょ?」
「指揮官が言葉ぐらい話せる知能がないと困るだろ」

「じゃあ、レクス。私たちは降伏する。私の名はミサ・エチゴ・オブ・リーガン。ネーザン王国の宰相にて、統一国の宰相よ」
「ん? お前みたいな子どもがか?」

「若いのが好きなのよ、人間のお偉いさんは」
「わかった、要求は?」

「三食の上手い飯と、この場にいる全員の命の確保よ、贅沢言わないわ」
「注文の多い捕虜だな。わかった、無駄な争いをするつもりはない。そちらがその気なら応じよう」

 状況に動じたジョセフは私に小さい声で言った。

「ミサ様信じるんですか? 魔族の言うことを」
「嘘つくような器用な真似が出来そうにないしね、あの男。彼、かなりイケメンだし気に入ったわ」

「やめてくださいよ、もう」

 そういいつつ、私たちは魔族たちにつかまってしまった。ふう……なんか私、疲れちゃった。今日はぐっすり眠りたい。嫌なことがたくさんあったし。はーあ。
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