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世界統一編
第七十五話 憲法の祭典
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ようやく憲法が決まり、議会でも承認、ここでも珍しく三院全会一致となった。民主的なプロセスをきちんと踏んだから、綺麗にまとまった結果だ。憲法が採択されたとき、議員全員が立ち上がり大喝采の元、私とウェリントンに賛辞が向けられた。
名実ともに先進国国家となり、この先スムーズにこの国が発展することになった。毎日が王都レスターでお祭り騒ぎだ。一応手続きとして、国中に憲法が発布されて、国民の承認を得ることなる。時は過ぎ施行は明日になった。
私は自宅で久しぶりにレオとゆっくり食事をとる。
「はあーやっと一息付けたわ、これでもう、私がいなくても、この国は動くようになる。あとは教育制度の整備やら細かいことだけだけど、それは議会で話し合って、法案を通すべきだし、やるべき仕事は、統一王選挙戦だけね」
「何言ってるんですか、ミサ様がいないネーザンなんて考えられませんよ、まだまだ若いのに老け込みすぎですよ」
と、レオは笑って言った。しかし、私はそれをやんわりと否定する。
「私だって間違えることがあるし、政治的に必要がなくなることがあるかもしれない。そういう時すっぱり辞められるというのは素晴らしいことよ、貴方も後継者の一人だけど、このネーザンにはたくさんの人材が眠っている。
そういう時のために仕組みが必要だった。独裁的に作るのではなく、民主的にね。これで国民が胸を張って未来に進むことができる。
今は身分差が激しいけど、いずれ平民からも宰相が出るでしょう。私も平民だったけど、ウェリントン……陛下の一存で決めた形になるから、かなり不安がられたのよ。
実際やってみて、適性があっただけの事、あとは人材を育てるのが私の使命ね。貴方がいつか宰相として辣腕をふるうことを願うわ」
「何かミサ様っていつかいなくなることばっかり気にしてますね。そんなことないですよ。今が最高の時です。僕はミサ様といられてとても幸せです」
「ありがとう、レオ」
私は彼に微笑みを返す。でも、私は異世界から、この世界を救うためにやってきた。阿弥陀様に使命を帯びて修行するように言われただけで、世界を救ってしまったら、私は極楽に行かなきゃならないかもしれない。
人間いつ死ぬかわからない。若いからといって、死なないなんて神や仏ではない限りわからない。だから、私は急に歴史を動かしたのだ。やっとこれで、安心できる。
ずっと不安だった。私がいなくなった後、ウェリントンやメアリー、レオたちが一体どうなるかわからなかった。これで、私の役目ももうすぐ終わりかもね。まあ、阿弥陀様のご機嫌次第だけどね。
私は遠い未来を見つめながら、楽しく食事を終える。そして次の日、憲法が施行されて、憲法の祭典が開かれた。
祭りとなって、ウェリントンはシビリアン会場で、演説をすることとなる。
「我が国民たちよ! ついに今日というこの日がやってきたのだ! 私は皆とともに喜ぼう! 今まで我々は身分や差別、産まれ、地域によって分断されていた。しかし、普通法と共にこの憲法ができ、やっと我らはネーザンの一員として、一つになれたのだ。
諸君らの苦しみや悲しみは私、ネーザン国王の耳に届いている。私はその涙をぬぐって、今日という日を迎えられた。諸君らはもう一人ではない、皆がネーザン国民なのだ、我々、友同士手を取り合って、未来に旅立つ時が来た!
私たちは世界に誇るネーザン王国である! ネーザン国民である! 皆の者これを誇りとして、新たな世界へ旅立とうではないか!」
「ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン!」
会場に湧き上がる大歓声、内容もスピーチ力も素晴らしい、流石ウェリントン、正直内容知ってる私でさえ感動しちゃった。次は宰相である私の番だ。演説台に立ち呼吸を整える。腹式呼吸、腹式呼吸。ふー、よし。やるか。
「我らネーザン国民に幸福の白鳥が来たことを、私宰相、ミサ・エチゴ・リーガンは祝福を神に祈ります。我々は長くつらい日々を過ごしてきました。
私たちはすべて、今日この日を迎えるために戦ってきたのです。同じネーザン国民でありながら、相争い、罵り合い、時には暴力をもって、お互いの主張を繰り返し、友を殴る哀しい歴史を送ってきました。
もう皆さんは、争う必要はありません、陛下がおっしゃられたように、皆が一つとなる日が来たのです! 憲法というのはこの国の根本であり、皆の権利を国が守ると約束した、契約です。
もはや、明日の食事に悩む必要はありません、貴方たちの暮らしはネーザン国、政府、議会、裁判所が守ります。
皆が共に支え合って、この国を守り、また、この国の一員として、誇りある生活ができるのです!
私たちはもう一人じゃない! 私たちはネーザン国民という一つの家族なのです!」
「ザ・カウンテス・オブ・リーガン! ザ・カウンテス・オブ・リーガン! ザ・カウンテス・オブ・リーガン!……」
私への拍手と声援が鳴りやまない、ふうー、今日は上手くかまずに言えた。良かったみんなも感動してくれたみたい。政治って、情熱だからね。理論じゃないから。この熱狂が国を動かす力になる。
続いて、各議会の与党や、議長の演説が始まる。まあこれは省略する。とりあえず分かったのはオリヴィア、演説下手すぎ。噛みすぎ、間違えすぎ、まあ、若いし、場数踏んでないから緊張したのかな。ウェル・グリードに演説習ってこい。
にしても憲法の祭典は大盛況のまま、祭りが始まった。パレードやら、挨拶やらで大忙しだ。政治的な祭りだからね。というか日本もせいよ、憲法が嫌いなのか日本政府は。GDP3位のくせに辛気臭いったらありゃしない。
他の国はもっと貧乏だけど、政治的に情熱があるぞ。国民は。まあいいや昔の世界なんて。どうでもいい。お次は無論パーティーだ。昔みたいに食べ物を食い漁るわけにいかず、お偉い方とあいさつがてら酒飲んで踊る。
今回は身分にとらわれず、権力者たちが集まって、離宮で、盛大なパーティーだ。意外とオリヴィアが緊張している。あれ、もしかして、貴族のマナーとか、習得してないのかな。やけにビビってる、顔は綺麗なのに、真っ青な顔しながら、引きつった笑いを浮かべてる。
しゃーない、面倒見てやるか。
「どう? オリヴィア楽しんでる?」
「ひっ!?」
「なによ、その反応は」
「み、ミサ様でしたか! 申し訳ないです! 申し訳ないです!」
「こういうの、場数、踏んでないの貴女?」
「当たり前じゃないですか! 私、職人の娘ですよ! 酒屋とかは行きますけど、こんな盛大なパーティーで、お貴族様が豪華な服着て、もう何が何やら」
「まあ、そうかもね、ウェル・グリードですらかなりぎこちないし。仕方ないなあ」
私は誰かよさそうな男性を探して、ちょうどいいところにジョセフがパーティーで楽しんでいた。彼の仕事は私の警備担当が多いんだけど、今日は休みなのかな。まあいい、どうせさぼってるんだろうし、働いてもらおうか、いろんな女に色目使ってるし。
「おーい、ジョセフこっち来てー」
私の声に気づいた、ジョセフが悠々とこっちに来る。隣のオリヴィアを見て察しがついたのだろう、さわやかな笑顔で、私に語る。
「これはミサ様、何か御用ですか」
「こちら、自由党副代表のオリヴィア・ウェイン。こういうの慣れてないから、貴方がリードしてあげて」
「そうですか、オリヴィア殿、こちらへどうぞ」
「えっ!? えっ!? どういうことです、ミサ様―!」
と言ってオリヴィアはどんどん連れていかれた。どうせ、ジョセフがいろいろ教えてくれるでしょ、手取り足取り、腰とり……ゴホンゴホン。まあ美男美女だし、子どもが出来たら、お祝いしなきゃ。女の子が生まれると、可愛いだろうなあ。まあ、いいか、そんなことは。ぼーと考えていると、メアリーがこっちにやってきた。
「あの子誰?」
「ああ、自由党の副代表のオリヴィアって娘」
「ふーん、姫の私に挨拶なしなんて無礼じゃないかしら?」
「緊張してんだって、許してあげなよ」
「まあいいけど、それにしてもめでたいわね、聞くところによると、これで、王位血統を憲法に記したそうじゃない。王家の一員として、貴女に感謝するわ。おかげで、ようやく、私も周りが落ち着いたというか、結婚結婚言わなくなったから、楽だわー」
「まあ、ウェリントンが、子ども作ってくれればいいんだけど」
「それもそうだけど、貴女、進展あった?」
「じぇんじぇん」
「はあー、男っていいわよね、若いうちから結婚しろって言われなくて」
「私が言ってるけどね、とりあえず、彼には時間が必要でしょ」
「戦争とかで死んだらどうするのよ、私が女王にならなきゃならないのよ、そうしたらまためんどくさいことになるじゃない」
「楽じゃないね、姫も」
「はあー、ウェリントンに女、見繕って、モーションかけさせてみようかしら」
「変なことしないでよ」
「違う違う、女の魅力を教えた方がいいってこと」
「うーん、王位継承がめんどくさくならなきゃいいけど……」
「どうやら、私はお邪魔かな」
「邪魔よ控えなさい、ジェラード」
ジェラードがこっちに気づいてこちらに来たようだ。メアリーのひどい一言に、彼は苦笑いを浮かべる。
「これはこれは失礼を、マイ・プリンセス」
「うるさい、ミサといちゃつきたいんでしょ、あーあ、男って、やーね、じゃあねー、ミサ」
「ああ、ちょっと!」
メアリーが空気読んだのか、さっとこの場から離れようとして、ウィンクする。たく、もう、お節介やきめ。私はジェラードに向き直し、彼は言った。
「愛しの人。貴女に会いに来ました」
「ど、ども……」
やば、こういう晴れの舞台で、ジェラードに会うとドキドキする。だってカッコいいし、女性扱いが丁寧だし、私のこと詩的に褒めるから、顔が赤くなっちゃう……。私がドギマギしているのに手を差し伸べたので、彼の手を取ると、彼は手の甲にキスをする。うっ、やばい……ちょっとムラッときちゃった……。
平常心、平常心……。
「私に何か用、ジェラード?」
「愛しの女性に声をかけるのに理由が必要か?」
「やめてよ、もう、みんなみてるのに」
「ふふ、照れてるお前は可愛いな」
「もうバカ」
私は彼のアタックを必死にかわそうと話を紛らわす。だって心の準備が、まだ……。
「陛下のご結婚相手、貴方はどう思う?」
「まだ陛下はお若いだろう。王位継承権も決めたことだし、今からでもゆっくりと時間はあるのでは?」
うっ……。本音の所、ウェリントンはきちっとふさわしい姫君と結婚してもらわないと、私の気持ちの整理がつかないとか、下心があるなんて言えない。だってさあー、相手国王だもん、統一王候補だし。
私なんかがしゃしゃり出て、はい! 結婚しますとか、恐れ多くて言えないでしょ。ペーペーの平民だった私が。血筋は貴族にとって最重要だし、家柄もね。はあー。
「でも、婚約者ぐらい見繕わないと不安だわ、いつ魔族がネーザンにもやってくるかわからないし」
「確かにそれはそうだな。国民たちを安心させてもらいたいという気持ちも私もある」
「ねえ、男の貴方から言ってくれない? 女の私からじゃ、ダメだった。貴方は陛下と親しいし、たぶん耳を傾けると思う」
「わかった。ちょっと行ってくる」
と言って、ジェラードはウェリントンの所に向かった。そして20分ぐらいが過ぎた後、二人が大笑いをし始めた。なになんなのよ、こっち見て。その後、ジェラードがこちらにまたやってくる。
「ミサ、陛下はお前の相手が決まったら、結婚を考えてやってもいいらしいぞ。お前のことを第一に考えてくださっている。どうする?」
「ど、ど、ど、どうするってどういう意味よ! こっちに飛び火しないでよ! 馬鹿!」
あまりの男の友情のやり取りについていけず、私は恥ずかしくて、彼の前から、立ち去った。ジェラードったらにやにやして、もう!
はーあ、そんなこと言われたら、ウェリントンに話しかけられないじゃない。ひどいよ、二人とも! 女心をもてあそんで。ばーか! べー。
そうして憲法の祭典はつつがなく終わり、名実ともに、この国は安定方向に向かうこととなった。あとはウェリントンの統一王選挙と、結婚問題だけだ。先が思いやられるねー。ふー。
名実ともに先進国国家となり、この先スムーズにこの国が発展することになった。毎日が王都レスターでお祭り騒ぎだ。一応手続きとして、国中に憲法が発布されて、国民の承認を得ることなる。時は過ぎ施行は明日になった。
私は自宅で久しぶりにレオとゆっくり食事をとる。
「はあーやっと一息付けたわ、これでもう、私がいなくても、この国は動くようになる。あとは教育制度の整備やら細かいことだけだけど、それは議会で話し合って、法案を通すべきだし、やるべき仕事は、統一王選挙戦だけね」
「何言ってるんですか、ミサ様がいないネーザンなんて考えられませんよ、まだまだ若いのに老け込みすぎですよ」
と、レオは笑って言った。しかし、私はそれをやんわりと否定する。
「私だって間違えることがあるし、政治的に必要がなくなることがあるかもしれない。そういう時すっぱり辞められるというのは素晴らしいことよ、貴方も後継者の一人だけど、このネーザンにはたくさんの人材が眠っている。
そういう時のために仕組みが必要だった。独裁的に作るのではなく、民主的にね。これで国民が胸を張って未来に進むことができる。
今は身分差が激しいけど、いずれ平民からも宰相が出るでしょう。私も平民だったけど、ウェリントン……陛下の一存で決めた形になるから、かなり不安がられたのよ。
実際やってみて、適性があっただけの事、あとは人材を育てるのが私の使命ね。貴方がいつか宰相として辣腕をふるうことを願うわ」
「何かミサ様っていつかいなくなることばっかり気にしてますね。そんなことないですよ。今が最高の時です。僕はミサ様といられてとても幸せです」
「ありがとう、レオ」
私は彼に微笑みを返す。でも、私は異世界から、この世界を救うためにやってきた。阿弥陀様に使命を帯びて修行するように言われただけで、世界を救ってしまったら、私は極楽に行かなきゃならないかもしれない。
人間いつ死ぬかわからない。若いからといって、死なないなんて神や仏ではない限りわからない。だから、私は急に歴史を動かしたのだ。やっとこれで、安心できる。
ずっと不安だった。私がいなくなった後、ウェリントンやメアリー、レオたちが一体どうなるかわからなかった。これで、私の役目ももうすぐ終わりかもね。まあ、阿弥陀様のご機嫌次第だけどね。
私は遠い未来を見つめながら、楽しく食事を終える。そして次の日、憲法が施行されて、憲法の祭典が開かれた。
祭りとなって、ウェリントンはシビリアン会場で、演説をすることとなる。
「我が国民たちよ! ついに今日というこの日がやってきたのだ! 私は皆とともに喜ぼう! 今まで我々は身分や差別、産まれ、地域によって分断されていた。しかし、普通法と共にこの憲法ができ、やっと我らはネーザンの一員として、一つになれたのだ。
諸君らの苦しみや悲しみは私、ネーザン国王の耳に届いている。私はその涙をぬぐって、今日という日を迎えられた。諸君らはもう一人ではない、皆がネーザン国民なのだ、我々、友同士手を取り合って、未来に旅立つ時が来た!
私たちは世界に誇るネーザン王国である! ネーザン国民である! 皆の者これを誇りとして、新たな世界へ旅立とうではないか!」
「ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン!」
会場に湧き上がる大歓声、内容もスピーチ力も素晴らしい、流石ウェリントン、正直内容知ってる私でさえ感動しちゃった。次は宰相である私の番だ。演説台に立ち呼吸を整える。腹式呼吸、腹式呼吸。ふー、よし。やるか。
「我らネーザン国民に幸福の白鳥が来たことを、私宰相、ミサ・エチゴ・リーガンは祝福を神に祈ります。我々は長くつらい日々を過ごしてきました。
私たちはすべて、今日この日を迎えるために戦ってきたのです。同じネーザン国民でありながら、相争い、罵り合い、時には暴力をもって、お互いの主張を繰り返し、友を殴る哀しい歴史を送ってきました。
もう皆さんは、争う必要はありません、陛下がおっしゃられたように、皆が一つとなる日が来たのです! 憲法というのはこの国の根本であり、皆の権利を国が守ると約束した、契約です。
もはや、明日の食事に悩む必要はありません、貴方たちの暮らしはネーザン国、政府、議会、裁判所が守ります。
皆が共に支え合って、この国を守り、また、この国の一員として、誇りある生活ができるのです!
私たちはもう一人じゃない! 私たちはネーザン国民という一つの家族なのです!」
「ザ・カウンテス・オブ・リーガン! ザ・カウンテス・オブ・リーガン! ザ・カウンテス・オブ・リーガン!……」
私への拍手と声援が鳴りやまない、ふうー、今日は上手くかまずに言えた。良かったみんなも感動してくれたみたい。政治って、情熱だからね。理論じゃないから。この熱狂が国を動かす力になる。
続いて、各議会の与党や、議長の演説が始まる。まあこれは省略する。とりあえず分かったのはオリヴィア、演説下手すぎ。噛みすぎ、間違えすぎ、まあ、若いし、場数踏んでないから緊張したのかな。ウェル・グリードに演説習ってこい。
にしても憲法の祭典は大盛況のまま、祭りが始まった。パレードやら、挨拶やらで大忙しだ。政治的な祭りだからね。というか日本もせいよ、憲法が嫌いなのか日本政府は。GDP3位のくせに辛気臭いったらありゃしない。
他の国はもっと貧乏だけど、政治的に情熱があるぞ。国民は。まあいいや昔の世界なんて。どうでもいい。お次は無論パーティーだ。昔みたいに食べ物を食い漁るわけにいかず、お偉い方とあいさつがてら酒飲んで踊る。
今回は身分にとらわれず、権力者たちが集まって、離宮で、盛大なパーティーだ。意外とオリヴィアが緊張している。あれ、もしかして、貴族のマナーとか、習得してないのかな。やけにビビってる、顔は綺麗なのに、真っ青な顔しながら、引きつった笑いを浮かべてる。
しゃーない、面倒見てやるか。
「どう? オリヴィア楽しんでる?」
「ひっ!?」
「なによ、その反応は」
「み、ミサ様でしたか! 申し訳ないです! 申し訳ないです!」
「こういうの、場数、踏んでないの貴女?」
「当たり前じゃないですか! 私、職人の娘ですよ! 酒屋とかは行きますけど、こんな盛大なパーティーで、お貴族様が豪華な服着て、もう何が何やら」
「まあ、そうかもね、ウェル・グリードですらかなりぎこちないし。仕方ないなあ」
私は誰かよさそうな男性を探して、ちょうどいいところにジョセフがパーティーで楽しんでいた。彼の仕事は私の警備担当が多いんだけど、今日は休みなのかな。まあいい、どうせさぼってるんだろうし、働いてもらおうか、いろんな女に色目使ってるし。
「おーい、ジョセフこっち来てー」
私の声に気づいた、ジョセフが悠々とこっちに来る。隣のオリヴィアを見て察しがついたのだろう、さわやかな笑顔で、私に語る。
「これはミサ様、何か御用ですか」
「こちら、自由党副代表のオリヴィア・ウェイン。こういうの慣れてないから、貴方がリードしてあげて」
「そうですか、オリヴィア殿、こちらへどうぞ」
「えっ!? えっ!? どういうことです、ミサ様―!」
と言ってオリヴィアはどんどん連れていかれた。どうせ、ジョセフがいろいろ教えてくれるでしょ、手取り足取り、腰とり……ゴホンゴホン。まあ美男美女だし、子どもが出来たら、お祝いしなきゃ。女の子が生まれると、可愛いだろうなあ。まあ、いいか、そんなことは。ぼーと考えていると、メアリーがこっちにやってきた。
「あの子誰?」
「ああ、自由党の副代表のオリヴィアって娘」
「ふーん、姫の私に挨拶なしなんて無礼じゃないかしら?」
「緊張してんだって、許してあげなよ」
「まあいいけど、それにしてもめでたいわね、聞くところによると、これで、王位血統を憲法に記したそうじゃない。王家の一員として、貴女に感謝するわ。おかげで、ようやく、私も周りが落ち着いたというか、結婚結婚言わなくなったから、楽だわー」
「まあ、ウェリントンが、子ども作ってくれればいいんだけど」
「それもそうだけど、貴女、進展あった?」
「じぇんじぇん」
「はあー、男っていいわよね、若いうちから結婚しろって言われなくて」
「私が言ってるけどね、とりあえず、彼には時間が必要でしょ」
「戦争とかで死んだらどうするのよ、私が女王にならなきゃならないのよ、そうしたらまためんどくさいことになるじゃない」
「楽じゃないね、姫も」
「はあー、ウェリントンに女、見繕って、モーションかけさせてみようかしら」
「変なことしないでよ」
「違う違う、女の魅力を教えた方がいいってこと」
「うーん、王位継承がめんどくさくならなきゃいいけど……」
「どうやら、私はお邪魔かな」
「邪魔よ控えなさい、ジェラード」
ジェラードがこっちに気づいてこちらに来たようだ。メアリーのひどい一言に、彼は苦笑いを浮かべる。
「これはこれは失礼を、マイ・プリンセス」
「うるさい、ミサといちゃつきたいんでしょ、あーあ、男って、やーね、じゃあねー、ミサ」
「ああ、ちょっと!」
メアリーが空気読んだのか、さっとこの場から離れようとして、ウィンクする。たく、もう、お節介やきめ。私はジェラードに向き直し、彼は言った。
「愛しの人。貴女に会いに来ました」
「ど、ども……」
やば、こういう晴れの舞台で、ジェラードに会うとドキドキする。だってカッコいいし、女性扱いが丁寧だし、私のこと詩的に褒めるから、顔が赤くなっちゃう……。私がドギマギしているのに手を差し伸べたので、彼の手を取ると、彼は手の甲にキスをする。うっ、やばい……ちょっとムラッときちゃった……。
平常心、平常心……。
「私に何か用、ジェラード?」
「愛しの女性に声をかけるのに理由が必要か?」
「やめてよ、もう、みんなみてるのに」
「ふふ、照れてるお前は可愛いな」
「もうバカ」
私は彼のアタックを必死にかわそうと話を紛らわす。だって心の準備が、まだ……。
「陛下のご結婚相手、貴方はどう思う?」
「まだ陛下はお若いだろう。王位継承権も決めたことだし、今からでもゆっくりと時間はあるのでは?」
うっ……。本音の所、ウェリントンはきちっとふさわしい姫君と結婚してもらわないと、私の気持ちの整理がつかないとか、下心があるなんて言えない。だってさあー、相手国王だもん、統一王候補だし。
私なんかがしゃしゃり出て、はい! 結婚しますとか、恐れ多くて言えないでしょ。ペーペーの平民だった私が。血筋は貴族にとって最重要だし、家柄もね。はあー。
「でも、婚約者ぐらい見繕わないと不安だわ、いつ魔族がネーザンにもやってくるかわからないし」
「確かにそれはそうだな。国民たちを安心させてもらいたいという気持ちも私もある」
「ねえ、男の貴方から言ってくれない? 女の私からじゃ、ダメだった。貴方は陛下と親しいし、たぶん耳を傾けると思う」
「わかった。ちょっと行ってくる」
と言って、ジェラードはウェリントンの所に向かった。そして20分ぐらいが過ぎた後、二人が大笑いをし始めた。なになんなのよ、こっち見て。その後、ジェラードがこちらにまたやってくる。
「ミサ、陛下はお前の相手が決まったら、結婚を考えてやってもいいらしいぞ。お前のことを第一に考えてくださっている。どうする?」
「ど、ど、ど、どうするってどういう意味よ! こっちに飛び火しないでよ! 馬鹿!」
あまりの男の友情のやり取りについていけず、私は恥ずかしくて、彼の前から、立ち去った。ジェラードったらにやにやして、もう!
はーあ、そんなこと言われたら、ウェリントンに話しかけられないじゃない。ひどいよ、二人とも! 女心をもてあそんで。ばーか! べー。
そうして憲法の祭典はつつがなく終わり、名実ともに、この国は安定方向に向かうこととなった。あとはウェリントンの統一王選挙と、結婚問題だけだ。先が思いやられるねー。ふー。
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