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世界統一編
第七十四話 憲法審議会、憲法制定編②
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ふう、昨日のオリヴィアとの食事美味しかったー。あの娘、食事通なのね。しかも、庶民料理の。貴族が食べる宮廷料理と味付けが違うから、私は庶民料理の方があってるかも。憲法審議会で、また集まった時私は彼女に礼を言った。
「昨日のランチ美味しかったわ、ありがとう」
「ええ、どうもどうも。最近、宮廷料理界隈で腕をブイブイ言わせてたシェフが、庶民料理に挑戦して、食文化の向上が著しいですから。
国王領では、ミサ様の改革のおかげで、中産階級も生まれ、食文化が発達。いやあ、素晴らしい時代ですねえ」
「うんうん、私としても、喜ばしいわ、みんなの役に立てて」
「役に立ったどころか、ミサ様が中心となって、成し遂げたことじゃないですか、子々孫々まで自慢できますよ。おいしかったですねえスパゲッティ」
「パスタ……」
「えっ?」
「パスタ!」
「スパゲッティ……」
「パスタ!」
「わかりました、パスタで良いです……」
ふう、最近の子は、何でもかんでもスパゲッティっていうんだから。まったく……。そんなこんなで憲法審議会が再び始まった。もう一か月たってる。今回から、大詰めだ。国民の権利についてだ。私は皆に問いかけた。
「それでは皆様といっしょに、国民の権利と義務について話し合いたいと思います。これはこの国がいかなる国かを示す重要な案件です。内府として皆様に活発な議論を期待します」
「権利か……」
ジェラードが考え込む。むっちゃ難しい事柄、国民とは何なのかを決める意味もあるし、各種法に関連する、共通概念が必要だ。グリースは私にきく。
「とりあえず、前決まった、権利の章典をみんなに説明してくれませんか、宰相殿? この問題について共通認識を共有したい」
「わかりました。権利の章典で定められた権利、自然権は自由権、財産権、表現の自由権です。また国民の政治参加の権利を示す、選挙権や、政治家に対する、請願権が国民の権利として保障されると、権利の章典により法解釈が出来ます。それを踏まえて、足りない権利や、国民の義務についてを話し合うようよろしくお願いします」
「人権ですね。国民には法に保護され、また、如何なる権力でも不当に侵害する権利はないかと思います」
「そうですね、グリード。憲法審議会で、散々議論され導かれた答えです」
「はいはーい、ミサ様」
「はいオリヴィア」
「労働の自由の権利とはどうでしょうか? 今まで身分によって生まれによって、その人生を決められていましたから。私たち資本家も、労働者が自由に活発に仕事につけるよう望みます」
「いいですね、素晴らしい提案です」
「それに加えて、私ども共和党は提案したいことがございます」
ウェル・グリードは真剣な顔して、オリヴィアの方に視線を向けながら言った。
「資本家に対し労働者の権利の保護が必要かと思います。昨今、資本主義が始まりましたが、労働者は、何時間も働かされている。宰相閣下のおかげで、子どもの権利を保護する政令が出され、子どもに対する意識が変わったとの同時に、労働者という概念に火が付いています。
政令を半ば無視して、資本家にひたすら低賃金で、搾取され、体や精神を壊す者が続出しております。これを監査する組織が政府機関として必要です」
「で、でも、資本家は別に、労働者を奴隷のように扱っているわけでなく」
「現状は奴隷よりも悪い部分がある。20時間労働とかも確認されている。明らかにやりすぎた」
オリヴィアとグリードは討論してやりあっていた。そのなか、グリースは静かに言った。
「ウェルの言ってることも当然だし、労働者が駆け込むところもないし、資本家と交渉する権利もない。と、俺も聞いている」
「わかりました。政府は労働監査局を立ち上げ、また、憲法に労働者の団結権と交渉権を認めることとしましょう。経済が発達することで不幸になっては意味がないですから」
「げっ……」
オリヴィアは自分で話題を振って、後悔していた。この件は多数決で可決された。またもや問題が浮かび上がってくる。グリースは言った。
「そういえば人権の保護って、どこまでされるものだ?」
「たしかに、人権ってぼんやりとはわかるが、どこまでが人権で保護されるか規定されていない」
とのジェラードの意見。グリードは言った。
「人並みに普通に生活できるよう保護すべきでは? 他者の権利を侵害しない限り」
「普通とは何でしょうか? 身分によって様々ですが」
とカンビアスが冷静に述べた。これにはウェル・グリードも悩んでいるようだ。じゃあ私が案を出すか。
「では、内府案として、保護されるべき人権を、政府が統計を取って、国民が身分によって人並みに幸福に豊かに暮らしていけるようこちらも監査局を立ち上げましょう。その上で司法や立法で随時法律を通していくということでいかがでしょうか?」
「幸福か……」
マンチェスター卿が難しい顔をする。確かに幸せなんて人それぞれだし、国が管理できるものじゃないけど、放置しておくと、どんどん悪い方向に転がる。とりあえず議決をとると、多数で可決された。
また、続いてウェル・グリードが意気揚々と意見を述べる。
「人権についてですが、宗教の自由をみとめるのはどうです? 普通法の編纂の時でもわかった通り、国民の日常生活ですら、教会が口を出している。
これでは、本当の自由とは言えない。もっというなれば、何を信仰しようが、また信仰しまいと個人の自由を尊重すべきでは?」
「おいちょっとまって、教会そのものの在り方を否定する気か!? 今の民衆なんて、道徳もまともに守れていないし、そもそも教会が口出ししなければならないほど、民衆も貴族も堕落しているのが原因だ。
原因と結果をごっちゃにするな、ウェル」
もちろんグリースから反論が上がった。はあー手を付けたくなかったんだけどねえ、宗教問題。人の信条に関わるし、話し合っても、お互い一歩も譲らないから、結論が出ないんだけどなあ。
どうやら、他のみんなは、グリースと、ウェル・グリードとの討論を待ってから結論を出したいのか口を挟まなかった。グリードは言った。
「グリース神父。気持ちはわかります。しかし、明らかに性問題や、人の倫理まで、教会が決めるなど、人権の侵害では?
個人にも意思があり理性があるのです。それを猫も杓子も、教会に縛られるのはおかしいでしょう」
「理性、理性っていうが、ほっといたら殴り合い、殺し合いになるのが人間だ。それを止めるために教会の教えが必要だ。これは俺は譲る気はない。教会にも悪い部分があるが、時代によって変えて行けばいい。
何でも自由にすればいいってものじゃないぞ」
「いえ、人は、自然状態において、戦いを望むのは当然ですが、それをまとめるために政府があるのです。彼らを仲裁し導く役割が国家にあります。教会はその役目を終えるだけです」
「政府が腐ったらどうするんだ。教会が口を出して実際、国民生活が良くなった部分もあるんだぞ。あとで国王権のことを話し合うと思うが、国王が暴走して、民衆を虐げるのは良くある話だ。
ストッパーが必要なんだよ、国家権力には」
「その役目が議会です。理性に基づき、国民の選択にゆだねるのです。グリース神父貴方は国民を信頼しなさすぎだ。字も読めぬ女性でも、誠実に判断することも可能だ」
「うんなことはねえよ、神父として人間の汚い部分を見てきたが、とてもじゃないが、教会なしに、まともに暮らしていけねえよ、人間は」
ああーやっぱこうなったか、私がまとめるしかないか。仕方ないサラっと違うことを含ましながら、二人の対立する意見をまとめるしかないか。
「宰相として提案します。問題は女性に対する、権利を教会が十分保護していない、あるいは過剰に手を出しすぎる問題があります。その辺は、政府として、教会に申し上げ、改善要求を行います。
また宗教の自由ですが、教会の教えも人々に根付く立派で大切なものです。信仰は一応自由としますが、この国としては、国教は、教会の教えであり、その国教会の守護者は国王とするのはいかがでしょうか」
その瞬間グリースとグリードはだまった。この案はどちらの立場でも利点があるし、これ以上争っても対立するだけで改善されないだろう。結局私の提案は多数決で可決された。ふう、つかれるねえ。
そして日付が流れ、もろもろの権利が定まったところで、国民の義務は納税と法の遵守のみとされた。グリースは労働の義務を主張したが、障碍者の件を考えて憲法に採用されなかった。
で、次だ国王権だ。私は皆に問いかけた。
「今回の議題については、国王権を憲法において定めたいと思います。これまで通り、皆様の意見を積極的に頂戴したいと思います」
その時、ウェリントンは会議場がしんとしているのを見て言った。
「今まで通り忌憚のない意見で良い、何なら私は席をはずそうか」
「いえ、陛下にはこの憲法をしっかりと見定めていただきたいと思います」
「わかった……」
私はウェル・グリードを少しにらむ。わかってるでしょうね? あくまであなたは民衆の代表で、共和主義の代表じゃないのよ。カンビアスは静かに述べた。
「国王陛下はこのネーザン国の元首であり、象徴であります」
「その通りでございます」
私は即座に答えた。グリードは口を出さない。またカーディフ侯爵は言った。
「国王陛下はネーザン国法の守護者でもあります」
「国王陛下は、ネーザン国教会の守護者でもあります」
グリースがそれに続く、これは憲法審議会で煮詰めた結果だ。もちろん、グリードも黙っている。私はそれに付け加えるように堂々と言った。
「国王陛下はネーザン軍の統率者であります」
「ま、まった!」
やはり口を出すか、グリード。わかっているわ、あなたの思惑は、だからこの意見を通さないといけない。
「何か異論が、これまで、国王陛下が軍の統帥権をもつことを長い歴史の中、当然のことじゃないですか、グリード?」
「し、しかし、ここにいらっしゃる国王陛下なら問題はないが、のちにどんな国王が現れるかわかりません、国王により軍部暴走が考えられます」
「それについてはご安心を、宣戦布告は三院の多数の採決を必要とします。軍事行動も議会の尊重を義務付けます。また、内乱や、国民の治安に関しては、私ども政府が取り扱うこととなります。続いて、軍事作戦については政府が国王陛下を明確に正しく輔弼すると明記します。何か問題がありますか?」
「いや、しかし、しかしながら……」
グリードの考えはわかっている、国王に統帥権を認めると、議会が求める、軍事行動を国王が拒否することが可能になる。しかし、それでは、政治が軍事に口をはさみすぎて、軍事作戦を混乱させる。
あくまで政治目的が戦略目標で、戦術目標は軍部にゆだね、軍人を専門化する。なんでも国民の機嫌をうかがっては、逆に太平洋戦争になるわよ。これを憲法で規定して、制限させる。もちろん王家には軍事教育を受けてもらう。これから先ね。
煮え切らないグリードにオリヴィアは不思議そうに尋ねた。
「どうかしましたか、ウェル君?」
「ウェル、なんか変か? 今まで国王が軍を取り仕切っていただろう、何も不思議じゃあないだろ」
「……」
グリースらにも加えて尋ねられて、沈黙してしまった。議会の暴走を私は止める。政府にはその役割がある。私は静かに言った。
「では採決をとります」
グリード以外賛成だった。彼は反対に票を入れたが、皆が不思議そうにしていた。国王の前で貴方の共和理念を訴えられるなら訴えなさい。そのために私がわざわざ、ウェリントンを審議会に呼んだのだから。
一杯食わされたと知って、グリードは押し黙ってしまった。彼は秀逸な弁を持っていても、まだ政治家として幼い。これから先、彼が現実的な判断をできるか心配だ。
最後にこの国とは何かを規定しなければならない。これはこの国の未来を左右する。じっくり、話し合って決めないと。憲法の根幹だから。私は皆に問いかけた。
「では最後に、憲法の総まとめである、この国とは何かを皆さんに話し合ってもらいます。これまで皆様の貴重な意見ありがとうございます。やっとこの国を世界に誇る、先進国として、内外共に、誇れるでしょう。では……」
「うむ、それについては私から意見がある」
──えっ、ちょっとまって、ウェリントン何を言い出すの。憲法はあくまで国民と国王の合意だから、国王が意見だすのは良くない……。しかし、ウェリントンの言葉を遮るものはなかった。
「我がネーザン国は国王を元首とする、国民の自由と幸福と人権を尊重し、世界のための平和的国家として位置付ける。どうだ!?」
みんな黙ってしまった。あちゃーやってくれた。まあ、私が言い含めて、彼に審議会で口を挟まないように諭したんだけどなあ。国王がそれ言っちゃあ反論できないよ。異論をはさむ余地ないし。とりあえず採決をとった。
「と陛下のご意見ですが、皆さまはどう考えられますか?」
「素晴らしいお考えです、陛下」
「美しいお答えかと、このマンチェスター感服いたしました」
「わが、ブレマー家の家訓とします」
「……異議なし」
「異議なし!」
…………。
全会一致で可決してしまった。だって私が反対意見をはさめないし、みんなもそうなんだもん、国王が言ったら、そらーそうなるよ、ウェル・グリードですら、賛成したし。あーあ、しゃあない、議事録として残しておくけど、いいのかなこれで。
こうして憲法が定まったことで、私はみんなに述べた。
「皆様お疲れさまでした。世界に誇る、ネーザン国憲法草案が出来ました。あとは法学者たちと政府が法文にします。ありがとうございました」
ここで、ウェリントンの意見をとりあえず微妙に捻じ曲げてやる。積極的平和を希求する国家と文章を変えておいた。せめてものの抵抗だし、国王の意見を憲法そのままにしちゃ、よく無いもん。
みんなやっと終わったことで、この国が先進国として定まった。もうはじめて4か月たってる。統一王選挙は2か月後だ。はーあ忙しいよー。宰相も楽じゃないね。
「昨日のランチ美味しかったわ、ありがとう」
「ええ、どうもどうも。最近、宮廷料理界隈で腕をブイブイ言わせてたシェフが、庶民料理に挑戦して、食文化の向上が著しいですから。
国王領では、ミサ様の改革のおかげで、中産階級も生まれ、食文化が発達。いやあ、素晴らしい時代ですねえ」
「うんうん、私としても、喜ばしいわ、みんなの役に立てて」
「役に立ったどころか、ミサ様が中心となって、成し遂げたことじゃないですか、子々孫々まで自慢できますよ。おいしかったですねえスパゲッティ」
「パスタ……」
「えっ?」
「パスタ!」
「スパゲッティ……」
「パスタ!」
「わかりました、パスタで良いです……」
ふう、最近の子は、何でもかんでもスパゲッティっていうんだから。まったく……。そんなこんなで憲法審議会が再び始まった。もう一か月たってる。今回から、大詰めだ。国民の権利についてだ。私は皆に問いかけた。
「それでは皆様といっしょに、国民の権利と義務について話し合いたいと思います。これはこの国がいかなる国かを示す重要な案件です。内府として皆様に活発な議論を期待します」
「権利か……」
ジェラードが考え込む。むっちゃ難しい事柄、国民とは何なのかを決める意味もあるし、各種法に関連する、共通概念が必要だ。グリースは私にきく。
「とりあえず、前決まった、権利の章典をみんなに説明してくれませんか、宰相殿? この問題について共通認識を共有したい」
「わかりました。権利の章典で定められた権利、自然権は自由権、財産権、表現の自由権です。また国民の政治参加の権利を示す、選挙権や、政治家に対する、請願権が国民の権利として保障されると、権利の章典により法解釈が出来ます。それを踏まえて、足りない権利や、国民の義務についてを話し合うようよろしくお願いします」
「人権ですね。国民には法に保護され、また、如何なる権力でも不当に侵害する権利はないかと思います」
「そうですね、グリード。憲法審議会で、散々議論され導かれた答えです」
「はいはーい、ミサ様」
「はいオリヴィア」
「労働の自由の権利とはどうでしょうか? 今まで身分によって生まれによって、その人生を決められていましたから。私たち資本家も、労働者が自由に活発に仕事につけるよう望みます」
「いいですね、素晴らしい提案です」
「それに加えて、私ども共和党は提案したいことがございます」
ウェル・グリードは真剣な顔して、オリヴィアの方に視線を向けながら言った。
「資本家に対し労働者の権利の保護が必要かと思います。昨今、資本主義が始まりましたが、労働者は、何時間も働かされている。宰相閣下のおかげで、子どもの権利を保護する政令が出され、子どもに対する意識が変わったとの同時に、労働者という概念に火が付いています。
政令を半ば無視して、資本家にひたすら低賃金で、搾取され、体や精神を壊す者が続出しております。これを監査する組織が政府機関として必要です」
「で、でも、資本家は別に、労働者を奴隷のように扱っているわけでなく」
「現状は奴隷よりも悪い部分がある。20時間労働とかも確認されている。明らかにやりすぎた」
オリヴィアとグリードは討論してやりあっていた。そのなか、グリースは静かに言った。
「ウェルの言ってることも当然だし、労働者が駆け込むところもないし、資本家と交渉する権利もない。と、俺も聞いている」
「わかりました。政府は労働監査局を立ち上げ、また、憲法に労働者の団結権と交渉権を認めることとしましょう。経済が発達することで不幸になっては意味がないですから」
「げっ……」
オリヴィアは自分で話題を振って、後悔していた。この件は多数決で可決された。またもや問題が浮かび上がってくる。グリースは言った。
「そういえば人権の保護って、どこまでされるものだ?」
「たしかに、人権ってぼんやりとはわかるが、どこまでが人権で保護されるか規定されていない」
とのジェラードの意見。グリードは言った。
「人並みに普通に生活できるよう保護すべきでは? 他者の権利を侵害しない限り」
「普通とは何でしょうか? 身分によって様々ですが」
とカンビアスが冷静に述べた。これにはウェル・グリードも悩んでいるようだ。じゃあ私が案を出すか。
「では、内府案として、保護されるべき人権を、政府が統計を取って、国民が身分によって人並みに幸福に豊かに暮らしていけるようこちらも監査局を立ち上げましょう。その上で司法や立法で随時法律を通していくということでいかがでしょうか?」
「幸福か……」
マンチェスター卿が難しい顔をする。確かに幸せなんて人それぞれだし、国が管理できるものじゃないけど、放置しておくと、どんどん悪い方向に転がる。とりあえず議決をとると、多数で可決された。
また、続いてウェル・グリードが意気揚々と意見を述べる。
「人権についてですが、宗教の自由をみとめるのはどうです? 普通法の編纂の時でもわかった通り、国民の日常生活ですら、教会が口を出している。
これでは、本当の自由とは言えない。もっというなれば、何を信仰しようが、また信仰しまいと個人の自由を尊重すべきでは?」
「おいちょっとまって、教会そのものの在り方を否定する気か!? 今の民衆なんて、道徳もまともに守れていないし、そもそも教会が口出ししなければならないほど、民衆も貴族も堕落しているのが原因だ。
原因と結果をごっちゃにするな、ウェル」
もちろんグリースから反論が上がった。はあー手を付けたくなかったんだけどねえ、宗教問題。人の信条に関わるし、話し合っても、お互い一歩も譲らないから、結論が出ないんだけどなあ。
どうやら、他のみんなは、グリースと、ウェル・グリードとの討論を待ってから結論を出したいのか口を挟まなかった。グリードは言った。
「グリース神父。気持ちはわかります。しかし、明らかに性問題や、人の倫理まで、教会が決めるなど、人権の侵害では?
個人にも意思があり理性があるのです。それを猫も杓子も、教会に縛られるのはおかしいでしょう」
「理性、理性っていうが、ほっといたら殴り合い、殺し合いになるのが人間だ。それを止めるために教会の教えが必要だ。これは俺は譲る気はない。教会にも悪い部分があるが、時代によって変えて行けばいい。
何でも自由にすればいいってものじゃないぞ」
「いえ、人は、自然状態において、戦いを望むのは当然ですが、それをまとめるために政府があるのです。彼らを仲裁し導く役割が国家にあります。教会はその役目を終えるだけです」
「政府が腐ったらどうするんだ。教会が口を出して実際、国民生活が良くなった部分もあるんだぞ。あとで国王権のことを話し合うと思うが、国王が暴走して、民衆を虐げるのは良くある話だ。
ストッパーが必要なんだよ、国家権力には」
「その役目が議会です。理性に基づき、国民の選択にゆだねるのです。グリース神父貴方は国民を信頼しなさすぎだ。字も読めぬ女性でも、誠実に判断することも可能だ」
「うんなことはねえよ、神父として人間の汚い部分を見てきたが、とてもじゃないが、教会なしに、まともに暮らしていけねえよ、人間は」
ああーやっぱこうなったか、私がまとめるしかないか。仕方ないサラっと違うことを含ましながら、二人の対立する意見をまとめるしかないか。
「宰相として提案します。問題は女性に対する、権利を教会が十分保護していない、あるいは過剰に手を出しすぎる問題があります。その辺は、政府として、教会に申し上げ、改善要求を行います。
また宗教の自由ですが、教会の教えも人々に根付く立派で大切なものです。信仰は一応自由としますが、この国としては、国教は、教会の教えであり、その国教会の守護者は国王とするのはいかがでしょうか」
その瞬間グリースとグリードはだまった。この案はどちらの立場でも利点があるし、これ以上争っても対立するだけで改善されないだろう。結局私の提案は多数決で可決された。ふう、つかれるねえ。
そして日付が流れ、もろもろの権利が定まったところで、国民の義務は納税と法の遵守のみとされた。グリースは労働の義務を主張したが、障碍者の件を考えて憲法に採用されなかった。
で、次だ国王権だ。私は皆に問いかけた。
「今回の議題については、国王権を憲法において定めたいと思います。これまで通り、皆様の意見を積極的に頂戴したいと思います」
その時、ウェリントンは会議場がしんとしているのを見て言った。
「今まで通り忌憚のない意見で良い、何なら私は席をはずそうか」
「いえ、陛下にはこの憲法をしっかりと見定めていただきたいと思います」
「わかった……」
私はウェル・グリードを少しにらむ。わかってるでしょうね? あくまであなたは民衆の代表で、共和主義の代表じゃないのよ。カンビアスは静かに述べた。
「国王陛下はこのネーザン国の元首であり、象徴であります」
「その通りでございます」
私は即座に答えた。グリードは口を出さない。またカーディフ侯爵は言った。
「国王陛下はネーザン国法の守護者でもあります」
「国王陛下は、ネーザン国教会の守護者でもあります」
グリースがそれに続く、これは憲法審議会で煮詰めた結果だ。もちろん、グリードも黙っている。私はそれに付け加えるように堂々と言った。
「国王陛下はネーザン軍の統率者であります」
「ま、まった!」
やはり口を出すか、グリード。わかっているわ、あなたの思惑は、だからこの意見を通さないといけない。
「何か異論が、これまで、国王陛下が軍の統帥権をもつことを長い歴史の中、当然のことじゃないですか、グリード?」
「し、しかし、ここにいらっしゃる国王陛下なら問題はないが、のちにどんな国王が現れるかわかりません、国王により軍部暴走が考えられます」
「それについてはご安心を、宣戦布告は三院の多数の採決を必要とします。軍事行動も議会の尊重を義務付けます。また、内乱や、国民の治安に関しては、私ども政府が取り扱うこととなります。続いて、軍事作戦については政府が国王陛下を明確に正しく輔弼すると明記します。何か問題がありますか?」
「いや、しかし、しかしながら……」
グリードの考えはわかっている、国王に統帥権を認めると、議会が求める、軍事行動を国王が拒否することが可能になる。しかし、それでは、政治が軍事に口をはさみすぎて、軍事作戦を混乱させる。
あくまで政治目的が戦略目標で、戦術目標は軍部にゆだね、軍人を専門化する。なんでも国民の機嫌をうかがっては、逆に太平洋戦争になるわよ。これを憲法で規定して、制限させる。もちろん王家には軍事教育を受けてもらう。これから先ね。
煮え切らないグリードにオリヴィアは不思議そうに尋ねた。
「どうかしましたか、ウェル君?」
「ウェル、なんか変か? 今まで国王が軍を取り仕切っていただろう、何も不思議じゃあないだろ」
「……」
グリースらにも加えて尋ねられて、沈黙してしまった。議会の暴走を私は止める。政府にはその役割がある。私は静かに言った。
「では採決をとります」
グリード以外賛成だった。彼は反対に票を入れたが、皆が不思議そうにしていた。国王の前で貴方の共和理念を訴えられるなら訴えなさい。そのために私がわざわざ、ウェリントンを審議会に呼んだのだから。
一杯食わされたと知って、グリードは押し黙ってしまった。彼は秀逸な弁を持っていても、まだ政治家として幼い。これから先、彼が現実的な判断をできるか心配だ。
最後にこの国とは何かを規定しなければならない。これはこの国の未来を左右する。じっくり、話し合って決めないと。憲法の根幹だから。私は皆に問いかけた。
「では最後に、憲法の総まとめである、この国とは何かを皆さんに話し合ってもらいます。これまで皆様の貴重な意見ありがとうございます。やっとこの国を世界に誇る、先進国として、内外共に、誇れるでしょう。では……」
「うむ、それについては私から意見がある」
──えっ、ちょっとまって、ウェリントン何を言い出すの。憲法はあくまで国民と国王の合意だから、国王が意見だすのは良くない……。しかし、ウェリントンの言葉を遮るものはなかった。
「我がネーザン国は国王を元首とする、国民の自由と幸福と人権を尊重し、世界のための平和的国家として位置付ける。どうだ!?」
みんな黙ってしまった。あちゃーやってくれた。まあ、私が言い含めて、彼に審議会で口を挟まないように諭したんだけどなあ。国王がそれ言っちゃあ反論できないよ。異論をはさむ余地ないし。とりあえず採決をとった。
「と陛下のご意見ですが、皆さまはどう考えられますか?」
「素晴らしいお考えです、陛下」
「美しいお答えかと、このマンチェスター感服いたしました」
「わが、ブレマー家の家訓とします」
「……異議なし」
「異議なし!」
…………。
全会一致で可決してしまった。だって私が反対意見をはさめないし、みんなもそうなんだもん、国王が言ったら、そらーそうなるよ、ウェル・グリードですら、賛成したし。あーあ、しゃあない、議事録として残しておくけど、いいのかなこれで。
こうして憲法が定まったことで、私はみんなに述べた。
「皆様お疲れさまでした。世界に誇る、ネーザン国憲法草案が出来ました。あとは法学者たちと政府が法文にします。ありがとうございました」
ここで、ウェリントンの意見をとりあえず微妙に捻じ曲げてやる。積極的平和を希求する国家と文章を変えておいた。せめてものの抵抗だし、国王の意見を憲法そのままにしちゃ、よく無いもん。
みんなやっと終わったことで、この国が先進国として定まった。もうはじめて4か月たってる。統一王選挙は2か月後だ。はーあ忙しいよー。宰相も楽じゃないね。
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