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世界統一編

第七十三話 憲法審議会、憲法制定編

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 ふうー、会議で疲れた体を酒で癒して、ぐっすり眠れた。まあ、酔いつぶれたが正しいんだけど。あんまり体によくないけどね、メアリーとお酒飲むと楽しいんだもん! 女同士いろんなこと話せるし、いやー気晴らしになった。

 だがまだ私には仕事がある、憲法制定だ。憲法審議会が再び開かれる。そういえば、グリースとウェル・グリードが飲んだらしいけど、どうなったのかしら。いや、聞かない方がいいのかな、いや、でも聞きたい……。

 私はそれとなくグリースに尋ねた。

「ねえ、グリードと飲んだらしいけど」
「ああ、奴とはわかり合えたぜ」

「へっ、そうなの? グリード」
「……ええ、まあ……」

 グリードは暗い影を顔に落とす。……そうか、なるほど、わかり合えたのか、仕方ない。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。

 私は憲法審議会を次の段階に進めるため、段取りを説明した。

「普通法の編纂の協力を皆様ありがとうございました。貴重なご意見のおかげで、この国で誇るエチゴ法典が完成しました。皆様に感謝申し上げます。

 では次の段階に移らせてもらいます。普通法で見いだせた、この国の特徴と問題点を踏まえて、この国が一体どうあるべきなのか、この国とは何なのかを皆様のご意見を頂戴したいと思います。

 まずは、この国の組織編成を皆様に話し合っていただきます、司法についてです。我々内府は皆さまの忌憚きたんのない話し合いを強く望みます。では、皆様のご意見をどうぞ」

「意見をどうぞって言われてもなあ」

 とグリースの意見だった。オリヴィアはそれに続く。

「司法についてってウェル君や、カンビアス卿それとミサ様にしかわからないじゃないんですか?」

「そもそも今の司法制度を変える必要があるのですか?」

 とのカンビアスの意見、あれー反応が予想していたのと、違うぞー、じゃあグリードにきこう。

「グリード、貴方どう思う?」
「特に今の制度で問題ないと思いますが……、何故そう言うことを尋ねるんです?」

 えっ、ちょっと待ってちょっと待って、この人たち、何が問題かわかってないのか。仕方ない、あんまり内府意見を通すのも議会運営として正しくないんだけどなあ。

「では内府が考える司法制度を申し上げます。現在、多岐にわたる、司法裁判所が乱立しており、その裁判所によって、判決が変わったり、国民の法の保護が完全とは言えない状況です。つまり、憲法において、司法組織の改善が求められるのです」

「そうなのか?」

 ジェラードまで、もう、まあ、しかたないか、この中で中央政府である、内府にいたのは私だけだし。

「ええ、そうです。それで、まず教会法で求めれる婚姻や、宗教の問題は地方教会裁判所で行われ、また、通常の裁判は、地方普通裁判所で行いたいと思います。

 そして判決に不満があるのなら、上告をして、それを原告の身分ごとに、国王裁判所、貴族裁判所、平民裁判所に分けたいと思います」

「ちょっとまってください、貴族と平民の争いなど身分が違う場合、原告人の裁判所によるんですか。それでは被告人が不満でしょう」

 とグリードの方の専門家らしい意見。私はそれについて解説する。

「その場合は、再度貴族裁判所にて裁判を行います。そして二つの身分裁判所の判決が分かれたり、不満がある場合は、最高裁判所で争ってもらいます。

 この三審制、または四審制で、係争の決着としたいのが内府意見です。これで、法組織が秩序立てて、なおかつ、審議に時間短縮が見込まれるでしょう。皆様どうでしょうか?」

「いいんじゃないか」
「そうですねー別にそうしたいのなら」
「王宮貴族の代表としても、異議はありません」

「右に同じく」
「賛成です」

 アレー異議ないの? 議決とったら、全会一致だった。あんまりこの人たち、組織編成に興味ないのかな。なら段取り変えるか。

 次の憲法審議会では立法府である、議会を審議することにした。初めに内府案を出して、会議をスムーズにしたいというのが当面の目的だ。さて、どうなるか。

「まず、内府案として、議会は立法府であり、内府や国王の監視役として、位置付けたいと思います。

 立法府としての機能は、普通法体系の我が国は歪な判例が出た場合、それを各身分院で審査し、本当に正しいかどうか、考えたうえで、法案の提出をお願いいたします。

 あくまで立法に対し司法の優位を確立してください。

 次に監査機能です。現在行政府は内府と国王内閣に分かれています。これを貴族院、平民院でも開設したいと思います。行政府としての機能は身分ごとの通常行政府として、自由に行ってください。

 ただし、身分内閣は、議会に紐づけされ、各首相となるには議会の可決を得ること、つまり、過半数の票がないとなれません。また身分内閣不信任案も議会に権利を持たせます。

 宰相、つまり内府はその統合機関で、身分を越える、政策や、国全体の行政府としての役割を担います。そして、宰相は各身分内閣首相の罷免意見が過半数となった場合、罷免可能とします。

 つまり、立法府により、行政への優位が確立され、これで権力の暴走の監視がおこなわれます。

 また各身分にわたる法については、三院のうち、議会の二つの採決が必要とします。これで各身分の暴走を止める役割になります。

 また行政府は、内閣法案として司法に対する制限や、行政上必要な法案を作る権利があります。これで、行政の司法に対する優位が確立します。

 まとめると、司法、行政、また、王宮だけの暴走、貴族たちの暴走、平民たちの暴走を議会で制御するという方法です。皆様はこの案についてどう思われますか?」

「え、私たち議員ってそんな役割があったんですか?」
「だから作るって言ってるんだろ」

 オリヴィアの声にグリースがたしなめる。私はグリードの方に意見を聞いた。

「グリード、貴方はどう思う?」
「非常に民主的で、秩序だった組織構成だと思います。権力の暴走を防ぐため、身分ごとに三権分立を確立する。これに前決まった、司法組織を紐づけて、身分ごとに行政、立法、司法の三権分立がおこなわれるということですね? 宰相閣下。流石理性の女神だ」

「ええそうよ、カンビアス卿、異論はないかしら?」
「ありませんね、元宮宰としての意見ですが、身分ごとに習慣や価値感覚が違いますから、非常にバランスのいい組織案だと思います」

「カーディフ侯爵はいかがですか?」
「私もそう思います、グリース神父はどう思われます?」

「政治について詳しくはわからねえが、各身分の意見が通るっていうのはすごいな、平民たちが望むものと、貴族たちが望むものが違うから」

「ですね」
「異論はないです」

 これの立法組織案も全会一致で決まった。うーん順調すぎて困る。異論出して、一応少数意見もくみ取りたいんだけど、現状この組織案が、最善なのかな。まあ、私は官僚と何度も話し合って決めたんだけど。現実的ってことでいいのかな。

 あとは私、宰相の権利と内府の組織案だ。私は内府案として述べた。

「次に私宰相の役割を決めたいと思います。宰相はこのネーザン国の全体の行政をつかさどる役割です。今、私がやっているようなことですが、前述べたように、行政府の役割を、各身分内閣に簡易な権限は譲渡します。

 そして、内府、今後の計画ではネーザン国内閣として、政府と名称を改めたいと思います。また、何故権限を譲渡するかというと、官僚組織の硬直化を防ぐためです。

 現在は上手くいってますが、権力が集中すると、官僚の権限が肥大化し、国民の意識や、価値観から離れることがあるからです。私の前の世界の国では内閣は官僚の操り人形になり下がっていました。

 これをふせぎ、また、各身分の政治意識を活発化させ、広く意見をくみ取るという目的がございます。

 また宰相は常設任期4年とし、宰相が死亡、または行方不明、病気による退任になった場合、各身分内閣の推薦を得て、また国王の許可を経て、設置されます。

 これは宰相による権力集中を防ぐためです。それとともに、国王陛下に許可をえるということで、議会の暴走を止める役割があります。

 のちに話し合いますが、これは国王の位置づけの一つとしてのご認識ください。皆様はこの案についてどう思われますか?」

「めずらしいな、自分から権力を渡す宰相は」
「ええ、私もいつも、正しい判断を下せるとは限らない、独裁者になる気はないから」
「ふーん」

 グリースは私の意思を確認した後、オリヴィアは言った。

「それって他の内閣首相の許可を得れば平民も宰相になれるということですか?」
「ええ、そうよ。理論上はね。国王の許可が必要だけど」
「へえー! 平民が宰相! うわ―大変なことですね。それ、今まで、そんなことってなかったし」

 オリヴィアが感心しているなか、グリードは冷静に言った。

「なるほど、私たち、共和理論の形骸化というわけですか」
「まあ、悪いけどそう解釈してもらってもいいわ。別に国王がいようと、平民による統治だって可能よ、ハードルは高いけどね」

「まあ一応党に持ち帰りますが、我が党も賛成でしょう。いらぬ暴力革命を経ることなく、権利を上から下へ譲渡することができ、また、その制限も理論上可能だ」
「そう言ってくれるとありがたいわ」

 これに関しては後日にまわして、採決をとったけど、これまた全会一致。順調すぎて怖いくらいだ。オリヴィアは私に対し言った。

「なんかとんとん拍子で進みますね」
「ありがたいことなんだけど、逆に不安になるわ、本当にこれでよかったのかと」

「何か起こったら起こったで考えましょう。そのための組織は一応、ミサ様の案のおかげで、成り立つことになりそうですから」
「ま、その方がいいかもね、前例がないし」

「あれ、ミサ様の世界ではこれが普通じゃないんですか?」
「かなり違うわよ、行政府の長の独裁権が強いから、たまに独裁者が産まれる」

「それっていいんですかね……?」
「まあ、独裁者がいたほうが、スムーズに政治が運ぶこともあるわ、大体が間違った政策をして、自滅するけど」

「はあー。なるほど、その経験からの案なんですね」
「そ、どうなるかは神のみぞ知るだけどね、私は仏教徒だけど」

「わかりました。とりあえずやれることをやりましょうね、ミサ様。ところで夕飯ご一緒しません? おいしい料理屋が出来たんですけど」
「えーと、私あんまり金持ってないわよ、たかられても出せないかも」

「ああ、私がおごりますよ、ミサ様の貧相な屋敷見たときから、財布の中身がわかりますんで」
「貧相いわないでよ、気にしているんだから、わかった。なら行きましょう」

 こうして私はオリヴィアと夕食を共にした。彼女は昔は貧乏だったみたいだけど、今は金持ち成金なせいで、色々と興味津々なのか、食事について詳しかった。意外だったのが、彼女が食事マナーを知っていたことだ。

 食事マナーは中世にはほとんどなかったけど、最近流行っているから、彼女も順応できたのだろう。この娘の言葉遣いからは、わからないけど、やはり彼女は切れ者の頭脳を持っている。

 まあ、わたしだって、アホそうに思われることがあるけどね。これでも国立大卒なんだけどなあ……。まあいいや、次はもめそうな、憲法における権利についてだ。これはもめるぞ。私は美味しい食事をとりながら、ぼんやり次の段階の段取りを考えていた。
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