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世界統一編
第六十七話 公爵陥落
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私はいったん王宮内府で資料を整理した後、視察団を編成し、官僚と親衛隊のえりすぐりでラットフォール公爵のもとに行くことにした。
表向けはウェリントンから要請を受け、友好使節として私が送られるのだが、もちろん目的は違う。実は情勢が次第に悪くなるにしたがって、公爵の周りで、騎士たちが武器や装備、食料を集めていると知らせが飛び込んだ。
私の目的は別にあった。支度が済んだ後、ジャスミンに準備は良いか聞いた。
「例の資料をきちんと把握した?」
「もちろんです、ですが……、あの方が飲むとは到底思えませんが、何しろ公爵はプライドが高いお方なので」
「飲ますものよ、交渉というのは」
「わかりました、そこまで言うなら、お従いしましょう。危険な旅行になりそうですね」
「そう? 私はワクワクしているわ、今の私は歴史を動かしてる気分があるから」
「器量がおありで」
「さてさて、私はただの非力な幼女よ。……じゃ、いくわよ」
私たちは総勢300名で、ラットフォール公爵領に行った。妨害工策はなさそうだ、ということは腹が決まっているな。下手に時間稼ぎするつもりはないということ。なら、引導を渡してあげましょう。
公爵領に入ると見るからに戦争前夜と言った様子だ、騎士たちが集合し、傭兵たちも集まっている。領民は怯えて、家にこもっている。なるほど、よっぽど王になりたかったようね、公爵は、母親に刷り込まれたかなんか知らないけど、実際、事を起こしているんだから、私は情で裁くつもりはないわ。
公爵のブラックハイヴ城に私は乗り込んだ、物騒な目でこちらをにらんでくる騎士たち。だが、きっちり、正当な手順を踏みたいのだろう、使節団に粗相をするような真似はなかった。
私は公爵が待つ間へと招かれた。その大きなテーブルでは、地図が広げてあり、見るからに作戦室であった。あっちの覚悟を見せているつもりだろう。公爵は言った。
「これはこれは、ようこそ、ミサ宰相閣下。いかなるご用件かな?」
「ええ、貴方が最近非常に、金を散財しているようなので一宰相として、一言いいに来たわ」
「ずいぶんなものいいですな、何が散財かと、これから国の大事を決めるため、今も私は会議していましたよ」
「それは盛り上がったでしょう、何せ、火が消える前のろうそくは一瞬綺麗に輝くものですから」
「自信がおありかな、宰相閣下殿は? これまでの貴女の力量、非常に評価しておりますよ、私は。しかし貴女は女だ、戦争のせの字も知らないでしょう?」
「結果ならわかります、貴方の負けです」
「ふふふ、ほほう、流石ネーザン宰相、誇り高い、しかし、ネーザン国内は現在割れております。あなた方、王宮に不満を持つ貴族も多くいます、さて、始めてみなければわからないでしょう」
「残念ながら、貴方には大義がありません」
「大義? 私は名誉あるホワイトローズ家で、王家に準ずる──」
「前国王殺害犯に手を貸す貴族なんていませんよ、この国内で、いや、この大陸で」
「何……?」
「ジャスミン、例の資料を」
「はっ!」
私はジャスミンから書類を受け取りテーブルに広げる。
「昨年、宰相ベネディクトによる、国王暗殺事件がありました。それに続いて、現国王ウェリントン陛下への殺人未遂。オズモンド子爵の領地侵犯事件、そして、エジンバラなど、北方諸国に対する、商人たちへの物資の値上げを強制。
その結果、大陸同盟戦争が起こり、大陸が揺れる中、私、宰相への暗殺未遂事件、および、リヴィングストン荘暗殺密儀事件、これらすべて、貴方がかかわっていることが判明しました」
「……!」
「貴方はとてもやんちゃなお方だ、だがしかし、人を信用しない。骨が折れましたよ、彼の証言を聞くまで確信が持てませんでした、ジョセフ、連れてきなさい!」
そうしてジョセフは例の私の暗殺陰謀事件の容疑者の伯爵を連れてきた。公爵はみるみる顔を青くする。
「リッキー! 貴様、最近、音信を断っていると思ったら!」
「申し訳ありません公爵様、私にも家族がおり、家があるのです……」
感動の対面が済んだようなので私は続けた。
「こういうのは一つ細工が必要でしてね、彼はとても家族思いの素敵な父君でしたよ……、ふふふ。
あと、もちろん、この資料は王宮に保管しており、私に何かあると、自動的に、暴露されることになります。おわかりでしょうか、公爵様。
……貴方はもう、終わっているのですよ、政治的にね」
「ウェリントンは知っているのか!?」
「彼は知りませんよ、内々に、処理したいと、私は考えましてね、ええ、私は平和主義ですから。
ウェリントン陛下なら、激怒して、大軍をもって、このブラックハイヴを落としにかかるでしょう。しかし、それでは、民衆たちが巻き込まれてしまう。ふう、権力者とは困ったものですね、自分のご身分をお分かりにならず、事を荒立ててしまうのだから」
「何が言いたい!? こんなもの私に見せて何になる! 国中にばらまけば、私はそれで終わりだろう、お前ならできるはずだ、ミサ!」
「私は取引をしたいのです、ジャスミン、例の書類を」
そして私はジャスミンに二つの書類の束をもって来させる。ラットフォール公爵は凝視した。
「何だこれは?」
「貴方には二つ選択肢があります、まず一つ目の契約書、これは裁判を受ける道です。貴方がこのでっかい城で兵を充満させたように、優秀な弁護士を雇って、ことを明らかにして、神に許しを請うのです。裁判の成り行きではひょっとしたらあなたの親族の何人かは助かるかもしれませんね。
そしてもう一つは……」
私は少し間を置いた後、彼に告げる。
「もう一つは、貴方が王位継承権を捨てることです──」
「何だと!?」
「貴方が王位継承権を捨て、ホワイトローズ家を継承権の外に置きます、これは契約です。その代わりこれらの資料は私が秘密裏に隠しておきましょう、ええ、平和的な解決です。何せ誰も血を流さないのですから」
「ばかな! 私がそんなものを飲むわけが……!」
「とりあえず、ご覧になってはいかがです? 二つの契約書を……」
彼は穴が開くぐらいに、二つの書類を見ている。私が説明したとおりの契約書だ。彼が後者の要求をのむなら、王宮の秘密資料として、保管される。さてどっちを選ぶかな……?
「セリー、準備しろ!」
彼の横に座らせた、女性に契約の準備をさせる。もちろん彼は、前者の契約書にサインをしようとする。別に、彼は死ぬつもりだったのだろう、裁判で負けて殺されても、子孫が復讐して、王に登り詰めるといったことも考えられる、いわゆる貴族的な論理だ。
私はそれを見ながら微笑んで言った。
「公爵閣下、私はこう見えても前の世界では長生きでしてね、人のいろいろな人生を見てきました。人はいずれ死にます、貴方も陛下も、そして私も。ええ、それが自然の摂理ですから。しかしですね、不名誉というものは人が死んでも消えません。
一度落ちぶれた家族が、再び持ち直すなんていうのは天文学的に難しい、ましてや、国家反逆罪の子孫がふたたび、貴方やその先祖の地位まで取り戻すのは、果たして何年かかるでしょうか?
千年? 一万年? 私は歴史家ではありませんから、わかりかねますが、砂漠の中から砂金を見つけたほうが早いのではないでしょうか? いえ、どちらを選ぶかはあなたの自由ですよ、ここは自由の国なのでね」
「ちいぃ!」
彼は怒りながらも、羽ペンを置き、もう一つの継承権を捨てる契約書を見つめた。これを飲むということは、彼にとって、死より恐ろしいものだろう、これで子々孫々まで、王家になれないのだから。
熟考し、そして、……彼はその契約書にサインをし、蝋で印章を押した。彼は不満げに言った。
「これでいいのだろう!」
「貴方はとても賢い選択をしました。誰も貴方の悪口は言わないでしょう、貴方は家族のために、子孫を守るために、名誉ある正しい選択をしたのですから」
私は書類を集め確認し、控用の彼のサインと印章を押された契約書を彼の前に置く。その時彼は立ち上がって言った。
「──私はな! 今までウェリントンに劣っていると思ったことは一度たりともない!」
「ん……?」
「私の方が、乗馬もうまかったし、学問もできた、あいつなんかよりよっぽど、人に好かれる努力をした、男にも女にもだ! 何一つ劣る部分はなかった! 今でもそう思っている! だがしかし……」
「だがしかし……?」
「私に一つだけ欠けている部分がある──」
「何ですか?」
「──そなただ……!」
「!」
「私自身に欠けるものはなかったが、お前ほど優秀で、忠臣は私のもとにはいなかった。ミサ、お前さえいれば、王位も、この世界の統一も、可能だっただろう! この私が……!」
「……なるほど、ありがとうございます。しかし、私は貴方に告げておかなければならないようです」
「なんだ……!」
「……彼はねえ、意外と人に好かれる人間ですよ、陛下は。純粋で、思いやりがあって、ええ、コミュニケーション能力は貴方の方が上でしょうが、彼には魅力があります。人を引き付けるカリスマ性がね……」
「カリスマ性……!」
「それでは、この書類をジャスミン、王宮の金庫に保管しておいて」
「はっ!」
ジャスミンが書類をまとめて、私たちは立ち去ろうとするが、私は振り返って、公爵の耳元で囁いた。
「……せっかくのご余生、お大切に──」
「──くっ!」
そして私が後ろに振り返った後、テーブルを拳でたたいた音がした。私は上手くいったことを歓び、その場を立ち去った。
その後、カーディフ侯爵の別荘で、私たちは、一休みした。周りは、何か起こらないかとピリピリしている、そんな中、ジョセフは私に告げた。
「公爵は兵を解散したようです」
「こうなっては意味がないからね。ありがとうジョセフ」
「はっ!」
そんな中ジャスミンは私に尋ねた。
「本当によろしかったのでしょうか、私は、正当に裁判をして、公爵に正義の鉄槌を下すべきだと思うのですが……」
「ジャスミン覚えておいて、権力者という者はいるだけで価値がある」
「ですから、後顧の憂いを断つために……!」
「彼には役立ってもらうのよ、例えば、この国に動乱がおきたときに、彼が必要とする時が来る、そう……犠牲としてね」
「なっ……!」
「彼にはせいぜい長生きしてもらいましょう、もちろん……短い場合もあるでしょうけど」
「……ミサ様……貴女は恐ろしい方だ……」
「私はただの幼女よ、うかつでおっちょこちょいで、おませで、惚れっぽいただの幼女。ふふふ」
「ははは……」
私たちは勝利に笑った。こうして公爵の野望を打ち砕き、国の不安がまた一つ消えた。
表向けはウェリントンから要請を受け、友好使節として私が送られるのだが、もちろん目的は違う。実は情勢が次第に悪くなるにしたがって、公爵の周りで、騎士たちが武器や装備、食料を集めていると知らせが飛び込んだ。
私の目的は別にあった。支度が済んだ後、ジャスミンに準備は良いか聞いた。
「例の資料をきちんと把握した?」
「もちろんです、ですが……、あの方が飲むとは到底思えませんが、何しろ公爵はプライドが高いお方なので」
「飲ますものよ、交渉というのは」
「わかりました、そこまで言うなら、お従いしましょう。危険な旅行になりそうですね」
「そう? 私はワクワクしているわ、今の私は歴史を動かしてる気分があるから」
「器量がおありで」
「さてさて、私はただの非力な幼女よ。……じゃ、いくわよ」
私たちは総勢300名で、ラットフォール公爵領に行った。妨害工策はなさそうだ、ということは腹が決まっているな。下手に時間稼ぎするつもりはないということ。なら、引導を渡してあげましょう。
公爵領に入ると見るからに戦争前夜と言った様子だ、騎士たちが集合し、傭兵たちも集まっている。領民は怯えて、家にこもっている。なるほど、よっぽど王になりたかったようね、公爵は、母親に刷り込まれたかなんか知らないけど、実際、事を起こしているんだから、私は情で裁くつもりはないわ。
公爵のブラックハイヴ城に私は乗り込んだ、物騒な目でこちらをにらんでくる騎士たち。だが、きっちり、正当な手順を踏みたいのだろう、使節団に粗相をするような真似はなかった。
私は公爵が待つ間へと招かれた。その大きなテーブルでは、地図が広げてあり、見るからに作戦室であった。あっちの覚悟を見せているつもりだろう。公爵は言った。
「これはこれは、ようこそ、ミサ宰相閣下。いかなるご用件かな?」
「ええ、貴方が最近非常に、金を散財しているようなので一宰相として、一言いいに来たわ」
「ずいぶんなものいいですな、何が散財かと、これから国の大事を決めるため、今も私は会議していましたよ」
「それは盛り上がったでしょう、何せ、火が消える前のろうそくは一瞬綺麗に輝くものですから」
「自信がおありかな、宰相閣下殿は? これまでの貴女の力量、非常に評価しておりますよ、私は。しかし貴女は女だ、戦争のせの字も知らないでしょう?」
「結果ならわかります、貴方の負けです」
「ふふふ、ほほう、流石ネーザン宰相、誇り高い、しかし、ネーザン国内は現在割れております。あなた方、王宮に不満を持つ貴族も多くいます、さて、始めてみなければわからないでしょう」
「残念ながら、貴方には大義がありません」
「大義? 私は名誉あるホワイトローズ家で、王家に準ずる──」
「前国王殺害犯に手を貸す貴族なんていませんよ、この国内で、いや、この大陸で」
「何……?」
「ジャスミン、例の資料を」
「はっ!」
私はジャスミンから書類を受け取りテーブルに広げる。
「昨年、宰相ベネディクトによる、国王暗殺事件がありました。それに続いて、現国王ウェリントン陛下への殺人未遂。オズモンド子爵の領地侵犯事件、そして、エジンバラなど、北方諸国に対する、商人たちへの物資の値上げを強制。
その結果、大陸同盟戦争が起こり、大陸が揺れる中、私、宰相への暗殺未遂事件、および、リヴィングストン荘暗殺密儀事件、これらすべて、貴方がかかわっていることが判明しました」
「……!」
「貴方はとてもやんちゃなお方だ、だがしかし、人を信用しない。骨が折れましたよ、彼の証言を聞くまで確信が持てませんでした、ジョセフ、連れてきなさい!」
そうしてジョセフは例の私の暗殺陰謀事件の容疑者の伯爵を連れてきた。公爵はみるみる顔を青くする。
「リッキー! 貴様、最近、音信を断っていると思ったら!」
「申し訳ありません公爵様、私にも家族がおり、家があるのです……」
感動の対面が済んだようなので私は続けた。
「こういうのは一つ細工が必要でしてね、彼はとても家族思いの素敵な父君でしたよ……、ふふふ。
あと、もちろん、この資料は王宮に保管しており、私に何かあると、自動的に、暴露されることになります。おわかりでしょうか、公爵様。
……貴方はもう、終わっているのですよ、政治的にね」
「ウェリントンは知っているのか!?」
「彼は知りませんよ、内々に、処理したいと、私は考えましてね、ええ、私は平和主義ですから。
ウェリントン陛下なら、激怒して、大軍をもって、このブラックハイヴを落としにかかるでしょう。しかし、それでは、民衆たちが巻き込まれてしまう。ふう、権力者とは困ったものですね、自分のご身分をお分かりにならず、事を荒立ててしまうのだから」
「何が言いたい!? こんなもの私に見せて何になる! 国中にばらまけば、私はそれで終わりだろう、お前ならできるはずだ、ミサ!」
「私は取引をしたいのです、ジャスミン、例の書類を」
そして私はジャスミンに二つの書類の束をもって来させる。ラットフォール公爵は凝視した。
「何だこれは?」
「貴方には二つ選択肢があります、まず一つ目の契約書、これは裁判を受ける道です。貴方がこのでっかい城で兵を充満させたように、優秀な弁護士を雇って、ことを明らかにして、神に許しを請うのです。裁判の成り行きではひょっとしたらあなたの親族の何人かは助かるかもしれませんね。
そしてもう一つは……」
私は少し間を置いた後、彼に告げる。
「もう一つは、貴方が王位継承権を捨てることです──」
「何だと!?」
「貴方が王位継承権を捨て、ホワイトローズ家を継承権の外に置きます、これは契約です。その代わりこれらの資料は私が秘密裏に隠しておきましょう、ええ、平和的な解決です。何せ誰も血を流さないのですから」
「ばかな! 私がそんなものを飲むわけが……!」
「とりあえず、ご覧になってはいかがです? 二つの契約書を……」
彼は穴が開くぐらいに、二つの書類を見ている。私が説明したとおりの契約書だ。彼が後者の要求をのむなら、王宮の秘密資料として、保管される。さてどっちを選ぶかな……?
「セリー、準備しろ!」
彼の横に座らせた、女性に契約の準備をさせる。もちろん彼は、前者の契約書にサインをしようとする。別に、彼は死ぬつもりだったのだろう、裁判で負けて殺されても、子孫が復讐して、王に登り詰めるといったことも考えられる、いわゆる貴族的な論理だ。
私はそれを見ながら微笑んで言った。
「公爵閣下、私はこう見えても前の世界では長生きでしてね、人のいろいろな人生を見てきました。人はいずれ死にます、貴方も陛下も、そして私も。ええ、それが自然の摂理ですから。しかしですね、不名誉というものは人が死んでも消えません。
一度落ちぶれた家族が、再び持ち直すなんていうのは天文学的に難しい、ましてや、国家反逆罪の子孫がふたたび、貴方やその先祖の地位まで取り戻すのは、果たして何年かかるでしょうか?
千年? 一万年? 私は歴史家ではありませんから、わかりかねますが、砂漠の中から砂金を見つけたほうが早いのではないでしょうか? いえ、どちらを選ぶかはあなたの自由ですよ、ここは自由の国なのでね」
「ちいぃ!」
彼は怒りながらも、羽ペンを置き、もう一つの継承権を捨てる契約書を見つめた。これを飲むということは、彼にとって、死より恐ろしいものだろう、これで子々孫々まで、王家になれないのだから。
熟考し、そして、……彼はその契約書にサインをし、蝋で印章を押した。彼は不満げに言った。
「これでいいのだろう!」
「貴方はとても賢い選択をしました。誰も貴方の悪口は言わないでしょう、貴方は家族のために、子孫を守るために、名誉ある正しい選択をしたのですから」
私は書類を集め確認し、控用の彼のサインと印章を押された契約書を彼の前に置く。その時彼は立ち上がって言った。
「──私はな! 今までウェリントンに劣っていると思ったことは一度たりともない!」
「ん……?」
「私の方が、乗馬もうまかったし、学問もできた、あいつなんかよりよっぽど、人に好かれる努力をした、男にも女にもだ! 何一つ劣る部分はなかった! 今でもそう思っている! だがしかし……」
「だがしかし……?」
「私に一つだけ欠けている部分がある──」
「何ですか?」
「──そなただ……!」
「!」
「私自身に欠けるものはなかったが、お前ほど優秀で、忠臣は私のもとにはいなかった。ミサ、お前さえいれば、王位も、この世界の統一も、可能だっただろう! この私が……!」
「……なるほど、ありがとうございます。しかし、私は貴方に告げておかなければならないようです」
「なんだ……!」
「……彼はねえ、意外と人に好かれる人間ですよ、陛下は。純粋で、思いやりがあって、ええ、コミュニケーション能力は貴方の方が上でしょうが、彼には魅力があります。人を引き付けるカリスマ性がね……」
「カリスマ性……!」
「それでは、この書類をジャスミン、王宮の金庫に保管しておいて」
「はっ!」
ジャスミンが書類をまとめて、私たちは立ち去ろうとするが、私は振り返って、公爵の耳元で囁いた。
「……せっかくのご余生、お大切に──」
「──くっ!」
そして私が後ろに振り返った後、テーブルを拳でたたいた音がした。私は上手くいったことを歓び、その場を立ち去った。
その後、カーディフ侯爵の別荘で、私たちは、一休みした。周りは、何か起こらないかとピリピリしている、そんな中、ジョセフは私に告げた。
「公爵は兵を解散したようです」
「こうなっては意味がないからね。ありがとうジョセフ」
「はっ!」
そんな中ジャスミンは私に尋ねた。
「本当によろしかったのでしょうか、私は、正当に裁判をして、公爵に正義の鉄槌を下すべきだと思うのですが……」
「ジャスミン覚えておいて、権力者という者はいるだけで価値がある」
「ですから、後顧の憂いを断つために……!」
「彼には役立ってもらうのよ、例えば、この国に動乱がおきたときに、彼が必要とする時が来る、そう……犠牲としてね」
「なっ……!」
「彼にはせいぜい長生きしてもらいましょう、もちろん……短い場合もあるでしょうけど」
「……ミサ様……貴女は恐ろしい方だ……」
「私はただの幼女よ、うかつでおっちょこちょいで、おませで、惚れっぽいただの幼女。ふふふ」
「ははは……」
私たちは勝利に笑った。こうして公爵の野望を打ち砕き、国の不安がまた一つ消えた。
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