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世界統一編

第六十四話 ブルーリリィの誓い

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 私たちは国民の願いを背負っている、それは単に暮らしが良くなりたいとか、そういった俗物的なものではない。もっと根幹的にこの国の未来に対して希望を手繰り寄せたいのだ。

 私たち政治家はそれを実現するために税金を食んでいるのだ、自分の懐を肥やすためではない、そうでなくては、政治家になってはいけない。政治は国民の夢をかなえるためのものだ、これは人類の知恵の実である。

 私の国を一つにすると言った宣言に、この場に集まった与党代表たちがざわめく、カーディフ侯爵は私に尋ねた。

「三部会ではご不満ですか?」
「ええ、不満ね、あなた方には悪いけど、本当に国民の意思をくんだ議会ではない、身分による権力者に得になるように仕組まれた選挙よ、本当の国の代表ではない。

 私には構想がある、王宮貴族による国王議会、地方貴族、聖職者による貴族議会。そして平民たちの代表である、平民議会の普通選挙によって代表が選ばれるべきよ。

 その三院の権力の三権分立のバランスで国家安寧の政治を執り行うべきだわ、それが民主的というもの」

「三院制……!」

「今はこの国家の政治はばらばらのまま、このままではいつ国が崩壊するかもわからない、法にのっとった、安定した民主政治がこの国には必要。

 国民には権利と義務がある。政治はそれにこたえる使命がある。私事で国政をかき回すなど、もってのほか。それは腐敗だわ」

「しかしどうするミサ、そのような先例はないぞ、どうやってこの国の制度を根幹から変える気だ?」

 ジェラードは言った。私はそれに堂々と答える。

「国民のための政治、なら国民からの政治的行動が必要よ。明日、平民議会で税制一本化法案が可決される。その時、ウェル・グリードが国民の意思を示そうと、デモ行進を始める、あなた方は、聖職者代表と貴族議会代表として、税制改革を可決し、三部会の意思を示した後、デモに参加して欲しい。

 あとは私が国王陛下から勅許を得る手はずを整えてる。常時国会の設置、権利の法文化、法治国家の完成のためのね」

「なんと……!」
「流石ミサ様、そこまでお考えとは、いやー私オリヴィアちゃんも震えてきましたよ-」

 そしてグリースは簡潔に尋ねた。

「で、合流する場所は?」
「──約束の地、ブルーリリィ広場」

「ブルーリリィ広場!」

 伝統あるこの場所の名が出たことに、代表たちの身が引き締まる。歴史は動く、いや、動かすのよ。

 次の日、平民議会が開かれた。最後の質疑応答としてウェル・グリードが立った。そして彼は歴史に残る演説をする。

「以上の通り、税制改革は等しく、国民に利益があり、貧困にあえぐ者たちを救う法案だと我々共和党は判断いたします。

 これは国家にとって重要なことです。この国を根本から変える、腐敗と、搾取から解き放つ、理性によって導き出された、救世主であります。

 ──しかし、しかしだ! 現在貴族議会で、行われている、王国党の審議拒否、これが国民に対する誠意か! 国家安寧のため、国民のために働くべき国民の代表が、私事で、国家を左右していいものか!

 これは重大なる背徳だ! 国民に対する侮辱だ! 我々平民はこのような横暴を、許すわけにはいかない。国家とは国民のためにあり、国家のために国民があるのではない!

 権力の腐敗を許してはならない、我々は国民の代表として彼らを弾劾する! 我らはこれから、国民の総意を問う! 我らが命を張って、国民の代表として、この国を担うのだ!

 改革の歩みを止めてはならない! いやもっと歩みを進めるべきだ! それは、国民の手によってだ! 権力者によってではない!

 我ら共に手を取り合って声を上げるべきだ、国民の代表として! そして我らの意思をブルーリリィ広場にて、国王陛下に届けようではないか!」

「おお──!」
「グリード! グリード!」
「我らもウェルと共に行くぞ!」

 そうして平民議会は拍手と熱気に包まれたまま、法案の採決が行われる。賛成193票、圧倒的多数によって、平民議会は決した。そして、平民議員たちは列をなして、議会場から出ていく、そうブルーリリィ広場に向かって。

 私は親衛隊隊長であるルーカスに命じた。

「国王陛下の代理として命じる、議員たちを守れ!」
「ははっ!」

 手はず通り、親衛隊が議員のデモ行進を守る。これからが正念場だ……!

 平民議員たちの行進は続く、口々に「我々の権利を守れー!」「国民の声を聞け―!」と叫んでいる。私は少年姿に変装してそれを見守っていた。

 その中ジョセフが私のもとに近寄ってくる。彼は言った。

「やはり動きましたね、王党派と、王国党の一味が」
「テロによる、政治の妨害、あいつらが良くやる手よ、親衛隊は何としても議員を守りなさい。これはネーザンのためよ」

「わかりました」

 そう言って彼はウインクをして立ち去る。民衆たちは議員たちに賛同し、追従ついじゅうする。私はそれを見届けた後、ブルーリリィ広場の民家を借りて、作戦本部とした。議員たちはブルーリリィ広場にたどり着き、民間人の女性から青百合を渡される。

 そしてグリードは言った。

「我らはこのブルーリリィに誓う! この歴史ある場で、我らの権利が認められぬ限りこの場を決して動かぬと!」

 オリヴィアは大きな言葉で言った。

「えー、そう! 私たちには財産を持つ権利があります! それは誰にも侵害されない権利です! 貴族たちに従う必要はありません!」

「おお──!!」
「グリード! グリード! オリヴィア! オリヴィア!」

 私は民家の窓からそれを見つめた後、木の窓を閉じ、作戦会議に入る。私はルーカスに命じた。

「この広場に続く、カウス街道は封鎖して、道が広すぎるわ、敵が混じってもわからない、民衆が合流したそうにしていたら、持ち物を検査して、通すように」
「はっ!」

「あと裏街道に当たる、タリア通りは警備を重視して、あそこは治安が悪い、ごろつきどもがうようよいる。敵が混じってもわからないわ、厳重警戒を」
「はっ!」

「それと、わき道に入る、ティリア道は広場に向かう出口を親衛隊でふさいで、カウスと同じように、持ち物検査を怠らないように、民衆を通しなさい」
「はっ!」

「あとジョセフ、この広場における議員、民衆の警護を頼むわ。流血は避けなければならない。革命に血は必要ない。これはネーザンの夜明けよ、決して汚名を残してはならない」

「わかりました!」

「行って!」
「はっ!」

 私が陣頭指揮をしながら、時間がどんどん過ぎていく、この日は何としても乗り切らなければならない。明日、明日は貴族議会と、聖職者議会で改革法案が可決される。それと同時に、各議員が合流する。

 そして私が勅許をもらって、この革命を国王の元、成し遂げる。一歩間違えれば国が亡ぶ。私は神経をとがらせながら、時間を刻一刻と送っていく。どんどんと、妨害しようとして、逮捕者が出てくる。

 だが、騒乱となることはない。国民たちはこの国初めての熱気と狂気で、ブルーリリィ広場に集まる。その数およそ10万人。三部会に興味があった地方民からもどんどん集まってる。

 この歴史的な夜は私のコントロールの元上手く動いている。むしろ、デモは一時休憩といったかんじで、議員は民衆たちと、仲良く食事をしている。想像したより穏やかな夜。だが本番は明日。

 ジョセフは私に言った。

「宰相閣下お休みください。明日が控えております。休息も必要です」
「そうね、今のところ順調、明日、全てが決まる。この国の未来が……」

 そう言った後私は民家で固いベッドの上で眠りにつく、革命の夢は昔の私が老いていた時の苦い思い出のものだった。この国は決して、間違った道に進ませはしない。この私が……!
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