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世界統一編

第六十話 選挙結果

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 選挙も大詰めになり、投票日が来た。私は選挙情勢を知るため、カーディフ侯爵の屋敷で、彼とジェラードと話していた。カーディフ侯爵がみんなに挨拶する中、ジェラードにきいた。

「選挙はどうなったの? 勝った? 負けた?」
「大体、投票結果が私のもとに届いた。私は当選だそうだ」

「あれ、貴方、議員に興味あったの?」
「ここまで橋渡しした手前、今更関係ないといえないしな。それに、ネーザン国で顔が知れたテットベリーの貴族は私ぐらいだ。

 新参者だからな、どこの誰だかわからないやつと協力できないだろう。今やテットベリーもネーザン国の一員だ、誰かを候補に立てないといけない。

 それにだ、ブレマー家の貴族は領内の統治で精いっぱいだ。手が空いてるのは私ぐらいなものだ。そういうことさ」

「なるほどね、そんな事情があったの、教えてくれれば良かったのに」
「領主が落ちることなんてありえないだろう。別に選挙活動などしなくとも、勝手に通る、名前が知れているということはそういうものだ」

「地盤があるっていいわね、特に名門は」
「皮肉か? これでも大変だったのだぞ、今まで」

「はいはい、男の愚痴なら、酒を飲み交わしながら、あとで聞きましょうとも、さて、他の選挙はどうなっているかしら」

 貴族議会国王民主党党首である、カーディフ侯爵のもとにどんどん人がやってくる。私に視線を送ったので、彼のもとに行った。

「どうです? 侯爵」
「我が党の選挙結果が判明しました。貴族議会定員200名のうち、我が党は72人が当選ということになりました」

「過半数には届きませんでしたか……」
「残念ながら、保守派のホワイトローズ王国党の牙城を崩すことはできませんでした。しかし、彼奴等も議員当選数は64名と拮抗しております」

「ちょっと待ってください、残り64名は?」
「無所属です。困ったことに。改革に賛成するわけでも、反対するわけでもなく、様子見でしょう」

「日和見!? 失礼。この大舞台で、何を考えているのよ、その貴族たちは」
「責任をとりたくないのでしょうな、困った奴らです。意見を出さないやつはどっちに転ぶかわからない、情勢を見て、勝ち馬に乗っかるつもりかと」

「なんてやつら……!」
「まあ、わからんでもありません、平民たちは、改革に賛成、しかし貴族らの心の中では改革した未来に不安でいっぱい。というわけで領民を敵に回さないように保身にまわったのでしょう」

「最悪ですね、国の未来を考えてない無責任なやつら」
「お怒りはごもっとも、宰相閣下は改革に多くの汗水を流していたのに、何もせぬというのは反対するより、なお、たちが悪い。気分を害するのもごもっともです。おや、平民議会の結果がわかりそうですな、おいジョー、平民どもはどうなった?」

 そのジョーと呼ばれた、身なりがそこそこの男は言った。

「驚きです。平民議会では我々国王民主党は定員200名中43名でした」
「何だと!? 他の党はどうなった!」

「地方商人ギルドがバックの自由党が104名で、共和党が32名! 残り11名が保守党です!」

「なるほど、そうか……、結果平民たちは改革が圧倒的多数だな」

 良かった。平民はやはり改革が多数。反対は王党派がバックの保守党の11名だけ。商人たちで改革路線を明らかにした、自由党が大勝利するのは当然だわ、大量の金をもっているからね。

 しかも、警戒していた共和派は32名で大敗、国王の元、改革路線の自由党と我が党、国王民主党で連立与党を組めば、平民議会は改革案を通せる。

 あとは、聖職者だけ。そう思ってた矢先、グリースが、神父姿で、この場に現れた。私は彼に選挙結果を聞いた。

「ねえ、グリース、選挙はどうなったの、聖職者は!?」
「おお、誰かと思ったらあんたか、ちっこいから、いきなり声をかけられてびっくりしたぞ。この場は知らねえ奴らばかりだし」

「あんたが大きいだけよ、それで?」
「勝ったぜ、おれたち神学自由党が102名。反対派の教会連盟は95名、残り3名はどっちつかずの無所属だ」

「ギリギリね、でも組織票がない中、勝ったのは大きいわ」
「あんたの明確な改革路線がイメージしやすかったんだろうな。俺はおっかなびっくりだったが、競り勝ったといった感じだ、あとはきちんと自分とこで議員たちと連携して、教会派の切り崩しを切り抜けて、改革を成し遂げるだけさ、で、他の状況は?」

「貴族議会は、どっち転ぶか議会運営しだいだけど、平民議会は改革派が圧倒的多数で勝ったわ。これで、平民、聖職者で、税制改革法案を通せばいいだけ。グリース、よくやったわ。貴方がいなかったら、どうなるかわからなかった、ありがとう」

「礼を言うのはまだ早いぜ、政治の世界の一寸先は闇、あんたも気をつけな。うっかりすると後ろから刺されるぜ」
「肝に銘じておくわ、それではカーディフ侯爵、勝利の祝杯を上げましょう、改革の夜明けに」

「おお、そうですな、皆の者よくやってくれた。今日は改革が無事成し遂げられることを神に祈って、乾杯をしよう!」
「おおっー!」

 その場で全員、ワインの杯を掲げる。まだまだ三部会はどうなるかわからないけど、とりあえず、選挙は勝った。あとは実際に議会運営が上手くいくかどうかだ。これからが正念場よ。私はジェラードの元に戻り言った。

「ネーザンに栄光を」
「ネーザンに栄光を」

 そしてワインを飲み干す、ほろ苦い、勝利の味はより酔いを進めた。そうして夜が明ける。

 議会が始まる前日、三部会議員のお披露目パレードがある。私もそれに参列した。宰相である、私が出席するのは当然、私は王宮で、儀礼用の衣装に着替えて窮屈な思いをしていた。

 本当はこれからのことをウェリントンと話し合いたかったけど、何せ相手は国王だ、会うことすら、はばかれるし、私は宰相の身だ、変に親しく会っていると、胡麻をすってるとか、こびてるとか、周りでささやかれる。

 身分があるものというものは、簡単に人に会うことすら、難しくなる。なかなか、政治の世界は面倒なものだね。着替えを済ませた後、私は儀礼用の王宮馬車に乗って、レスター市内を回る。

 今日はまず、議員候補者の行列が、街を周る。民衆たちの応援の声が街中に響く、国を挙げての大行事だ、特に今回は税制改革という、平民にとって、重要で生活が懸かっているので、熱狂がすごい。

 議員たちが終わると、次は議会に関わる王宮貴族たちだ。まずは、国王から馬車を走らす。私は最後尾らへんだった。これは警備のためだ、行列の場合、襲撃があった際、先頭と後尾は狙われやすい。

 列を組む相手には、先頭と後尾を叩けばいい。今回の三部会に不満のあるやつらは、先頭を襲撃すればこの列を全部ストップできるし、後尾は、狙いすまして、チャンスから考えて襲撃するのにもってこいだ。

 もちろん一度襲撃を受けた私には厳重な警備が付いている。ジョセフが堂々と馬を走らせて、私の周りを固める。やはり親衛隊を作ってよかった。こういう時に一番頼りになる軍事力というのは、国の安定に役立つ。

 私の前でウェリントンが手を振っているのだろう。「ザ・キング・オブ・ネーザン!」の三唱が聞こえてくる。私の馬車を走らすと、私の顔を見た民衆が熱狂して、叫びだした。

「ザ・カウンテス・オブ・リーガン! ザ・カウンテス・オブ・リーガン! ザ・カウンテス・オブ・リーガン!」
「我らが救世主様! どうか国をお救いくださいませ!」

 どうやら、地方から民衆が一目見ようと駆けつけているらしい、王国領と、貧富の格差がある地方は衣装がこう言っちゃあ悪いがみすぼらしい、その者たちのために、この改革を成し遂げようと、私は精一杯、心を込めて、笑顔で手を振って回った。

 パレードは成功だった。途中、何度か、民衆が行列に割って入るような些細なハプニングがあったが、親衛隊の治安維持のおかけで、乗り切った。まずは成功。さて次だ。

 次の日程は議員が国王に挨拶をする。私は儀礼のため、ようやくウェリントンと合流して、親しく話し合った。彼は言った。

「久しぶりだな、最近お前が来なくて寂しかったぞ」
「申し訳ございません。陛下のため、改革を進めるため、若輩者ながら、心血を注いでおりました」

「うむ、そなたの評判を聞いている。まさしくネーザンに現れた救世主だ。最初お前を宰相に任命して、不安が大きかったが、これほどまでに政治手腕に長けているとは思わなかった。今回も改革派で三部会が運営できそうで、私も喜びにあふれている」

「ありがとうございます。すべては陛下のご威光のたまもの、私は王家のために神明に誓って、改革を成し遂げます」
「そんな堅苦しい言葉は良い、そう言えばお前少し大きくなったのではないか?」

「えっ!?」

 太ったのかと言われたと思って、腹を押さえると、最近レオの食事バランス管理のおかげと、いっぱい働いてるせいでむしろ痩せている。ウェリントンは私の頭をなでてから、手を彼の腰元に当てた。

「もう、腰元まで伸びてきたか、どれ、体の体調はどうかな」
「きゃっ!?」

 そう言ってウェリントンは私のわきから、大きく持ち上げて、高い高いをされてしまった。彼の顔が間近に見えたのと、足元が不安定で、ドキドキしてしまった。

「大きくなった、大きくなった。将来は美人になるだろうな」
「へ、陛下、下ろしてください! 恥ずかしいです!」

「ははは……」

 そう言ってから、そっと私を地面に下ろした。私は興奮がやまなくて文句を言った。

「もう、陛下ったら、ほんとデリカシーがないです! ホント! 結婚相手がまだ見つからないのもそのせいですよ!」
「ははは、許せ。私とお前の仲ではないか」

「もう!」

 そう言って私が照れて、そっぽ向くと周りの貴族は穏やかに笑いだす。そうして彼と話をした後、議員挨拶が始まった。

 まずはカーディフ侯爵から始まった。どうやら議員たち同士で挨拶の順番を決めたらしく、無駄な騒乱を避けたようだ。カーディフ侯爵の挨拶が済むとジェラードが私たちのもとにやってきた。

「陛下、お久しゅうございます、テットベリー伯です」
「うむ、そなたの忠誠心は真に痛み入るぞ。ミサを助け、王家のために忠義を尽くしてくれた。これからもよろしく頼む」

「はっ、陛下のお心のままに」

 そして二人、抱き合う。美形同士の密着に女性陣がキャーキャー言ってる。私も正直ドキッとしてしまった。そして今度は私に向かって、あいさつをする。

「マイレディ、貴女を守るため、このジェラードは改革に命をかけます」
「そ、そう。テットベリー伯、頑張ってくださいね……」

 私は照れながら彼の挨拶をなるべく平静に装っていたが、周りはニタニタしている。いいじゃんさ! 私だって女だよ! こういう時ぐらい女の子でいてもいいじゃん!

 そうして彼が去った後、貴族の国王民主党たちの挨拶が終わり、今度は聖職者たちだ。私は知り合いがいないから軽いあいさつで済ませていたが、グリースがやってきた。

 彼は陛下に十字を切って礼をする。

「陛下に神のご加護を、私はグリース。サウスウィンツの神父をしております。このたびは神学自由党として、この国のために、神のもと、改革を成し遂げます」
「うむ、期待しているぞ」

「はっ!」

 そうして今度は私の前で十字を切って、挨拶する。

「宰相閣下、この度はご助成いただきありがとうございました。おかげでこのように議員になれました」
「な、なんだ、ちゃんと言葉が選べるんじゃない」

「俺は、時と場合と人によって、言葉を選ぶんでね」
「ちょっ、ちょっと!」

 そうして彼は笑いながら去っていった。その後平民議員たちの挨拶だ。彼らはあまりいい格好ではなかったが、きちんと挨拶をしていく。その次に私が警戒していた、共和派の連中だった。

 その中、若い細い顎をした美形の男が、ウェリントンに挨拶をする。

「私はこの度、議員にえらばれた、ウェル・グリードです。以後お見知りおきを」
「うむ」

 ウェリントンは共和派だということを知らされているので、不愛想に返事をした。そして彼は、今度は私のもとでウェリントンとは逆に恭しく、深々と礼をする。

「これはこれは、ミサ宰相閣下。ウェル・クリードです。貴女と出会えて光栄です。貴女の風聞を聞かせてもらいました。このような幼女の身でありながら、素晴らしい、民のための改革を打ち上げてくれました。貴女はまさに理性の女神だ!」

「ちょ、ちょっと!」
「では、民のため私は前に進みましょう」

 そう言って彼は私の顔をちらりと見た後、上機嫌だった。栗色の髪に怜悧な茶色い瞳、その冷たさと、内に秘める情熱に女を虜にする、魔性の魅力があった。

 彼が去った後、ウェリントンは憤慨した。

「無礼な奴だ! 国王への挨拶をおざなりにして、ミサを口説くなど、あれが議員か!」
「へ、陛下。お怒りをお沈めくださいませ……」

 私が何とかなだめて、共和派議員の挨拶が続いていく、ウェリントンは明らかに不機嫌だった。

 最後に反改革の議員の挨拶が続き、その終わりにある男が現れた。ラットフォール公爵だというらしく、珍しく彼が来るといってウェリントンが上機嫌に私に言った。

「ラットフォール公爵、クリスは私の従兄弟に当たる。ラットフォール公爵家は代々、ホワイトローズ家が受け継いでおり、彼とは親しい仲だ。変わった奴だと思っていたが、わざわざ公爵でありながら議員になるとはな」

 そう言ったあと、ラットフォール公爵がやってきた。30代のきりっとしたイケオジで、髪の毛は黒く瞳は黒いが、ウェリントンやメアリーのように髪が少しウェーブがかかっており、ちょっと長めのショートカットをしていた。ラットフォール公爵はウェリントンに親しそうに挨拶した。

「ウェリントン、久しぶりだな、今は陛下と呼ぶべきかな?」
「いや、ウェリントンで良い、クリス、会いたかった」

「そうかお前は大きくなったな、私の予想以上に、強くたくましくなった。王家に連なるものとして、嬉しいよ」
「ありがとう、三部会期待している」

 そう言って握手しながら、彼らは笑い合った、そして私のもとに彼はやってきた。

「クリス・ケンブリッジ・オブ・ホワイトローズです。ラットフォール公爵をしております。宰相殿、以後お見知りおきを」
「宰相、ミサ・エチゴ・オブ・リーガンです。こちらこそよろしくお願い致します」

 その時彼の手を取ったあと彼の瞳を見てゾッとした。黒の深淵のなかに渦巻くどす黒い感情、これは野心と言ってもいいだろう。怖ろしさを感じるほど、彼の瞳は重く、暗かった。

 私は妙な不安感を覚えた後、議員挨拶が終わり、三部会に何か良からぬ不安を感じざるを得なかった。
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