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世界統一編
第五十八話 三部会選挙②
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私とレオはグリース神父の家に案内されて中に入った。護衛の者は外で待機している。というのも内密な話と神父に聞かされたのだからだ。何かあったらすぐさま突入して護衛する準備を整えて会見にのぞんだ。
部屋の中に入ると、かなり貧しい暮らしをしているようで、石造りの家に家具もほとんどなく、薄暗い。神父がろうそくを灯すと、彼は言った。
「まあ、これが俺の部屋だ、これでも俺は結構上の神父だが、暮らしはこんなもんだ」
「清貧をもって貴しとなすか」
「そんな良いもんじゃねえよ」
私の言葉にぶっきらぼうにグリースは言った。
「とりあえず軽く食事でもするか、少しの間待ってくれ」
そうして神父は台所に向かったのだろう、席を空ける。レオは不安そうに私に言った。
「ホントに大丈夫なんですかね」
「ちゃんと神父の服も着ているし、十字架も下げているし、衣服に厳しい時代だから、たぶん大丈夫なんじゃない?」
「そういうものですかね、どうも、僕は僕に対する視線が何か変な気がします」
半裸の姿から、神父の服にすでに彼は着替えたため、私は変な男だと思いながらも、不思議と彼は信用できる予感がしていた。長年のカンか女のカンかわからないが、とりあえず今の所、危険はなさそうだし成り行きを見守ることにした。
そうして、時間がたつと、グリースは料理を運んでくる、さっき採ったカブの和え物と、羊のミルクがゆと黒く固いパンだった。
レオはびっくりしていた。これが中世の民衆の普通の食べ物なのだ、神父の貧しさも料理を見てわかった。戸惑いながらも、グリースが「さあ、食えよ」と言ったので私は、我慢して表情に出さずに食べたけど、レオは苦々しい顔だ。
「うっ……、味がしない」
「坊主、これが、貧しいってことだよ、この国の多くのものはそうさ、まあ最近では国王領ではずいぶんとましになったがな」
「ううっ……」
神父にさとされて、レオは嫌々食べた。私は今の聖職者の格差を知っていたから、平然としていた。上級聖職者とそのほかでは紛れもなく身分差がある。金銭の面でもそうだし、もともと大貴族の生まれで、代々由緒正しい聖職者の家柄以外上に上がれない。
……これが中世の教会の実態だった。グリース神父は全員が食事を終えたのを見て、語り始めた。
「これでも俺は恵まれている方なんだぜ、俺の年間の給料は最近で言うと20リーガン。国王領の農民は、ついこないだまで12リーガン。地方の厳しいところでは6リーガンだぜ。白いパンが8リーガンだから、我慢すれば、白いパンも半年に一回食える計算だ」
「そんなにも暮らしが厳しいんですか……」
レオは貧富の差に衝撃を受けていた。彼は由緒正しい王宮貴族の生まれだ、黒いパンなんて食べたことも無いだろう。私も一か月うどんだけで暮らしたことがある。だって、音ゲーのガチャで、かっこいいキャラが実装されたんだもん、愛だよ愛。
私は貧しさを自分の体をもって知っているので、彼にこう告げた。
「私はその貧困から少しでも脱却できるようにこの国を変えるつもりよ、それがいま行っている財政改革、特に税制は改革が必須よ」
「何故だ?」
神父の質問に私は冷静に答えた。
「経済のためでもあるし、この王国のためでもある。貧富の差は時間が降り積もると、暴力となって国を亡ぼす。このまま国民が黙って貧しい暮らしに満足してくれるわけがない。
特に魔族との大戦争になれば国はさらに貧しくなる、その被害の直撃を受けるのは民衆よ。
貴族たちにはわからないかもしれないけど、これが歴史の必然だし、持つ者は果たすべき義務がある。私が宰相となった以上、この国を変えて見せる、救って見せるわ」
「ふっ、救うね。救世主か……」
グリースはほくそ笑んだがバカにしているわけじゃなさそうだ、彼の目は真剣だ。
「宰相、あんたの言っていることは正しい、このままだとこの国、いや、世界は魔族との戦争に耐えきれない。神父である俺が言うのもなんだけどなあ、この世界のありようはあまりにも歪すぎる。
それを誰かが是正しないといけない、あんたの腹の中は俺にはわからねえ、だがな、現実的に見てあんたのやっていることは正しい。俺もそう思う」
「ありがとう」
「まあ、上の司祭などには全く理解できないだろうけどよ、俺は下級貴族の身だ、貧しさも富の味も知っている。これは俺だけの話じゃねえ、聖職者の下の者は全員同じさ。
教会のありかたを苦々しく思っている。だが、問題は教会法だ」
「教会組織の在り方、税制、そして、荘園という実質領地をもった世俗権力を肯定する、法。本来なら、聖職者のありようを示すものがいつの間にか貧富の差を肯定する法になってしまった」
「ああ、十分の一税などそうだな、民衆は所属する教会に税を納めなければならない。考えて見ればおかしな話だ。聖書では富を否定しているのに、当の教会が、豪勢な食事をして、でっかい教会をおったてて、平然としてる。
明らかに神の意思に反するものだ」
「十分の一税は撤廃すべきよ、教会はあくまで寄付と維持費だけで賄わなくてはならない。それが聖職者として当たり前の事。神のしもべであっても、特権をもってはならない」
「だが、それは上の方は絶対に納得しないだろう、今更、金ぴかの暮らしを変えるなんてまっぴらごめんだろうしな。
なら、宰相、俺と組まないか?」
「貴方と組む?」
「そうだ、うわさでは三部会選挙で、貴族連中は割れているそうじゃないか、国王領はもう改革の真っ最中だが、税制法案を三部会で通さなければ、結局のところ、王家と地方が対立しちまう。
そこでだ、俺はさあ、実はこう見えて優秀なやつでよう、昔は名のある大学で、主席だったが、生まれのせいで今はこんなんになっちまった。こういうのは結構ざらなもんだぜ。
上の人間は何の努力もせず、ただ、生まれた家が良かったってだけで、聖職者もふんずり返っているのが現状だ。俺のようなやつはごまんといる。
で、なあ、いつか教会を改革するよう、そいつらと連絡を取って、デカいことやろうと思ったところだ、今のあんたの改革と、三部会だ。
実のところ俺の方から、あんたに連絡を取って一緒に動こうと思っていたが、何の神の思し召しかわからねえが、たまたま俺のところに来ちまった。
どうだ、宰相、俺はあんたを見込んで言う、何かの縁ってことで、俺を助けてはくれねえか?」
「面白そうね、でも顔が広いだけじゃあ、選挙に勝てないわよ」
「俺には策がある、最近できた新聞があっただろ、あれにさ、教会の実情と、教会法の過ちを堂々と、世間にさらすつもりだ。
だが、これをしちまった以上は俺の身があぶねえ、誰か権力者の庇護が必要だ。それをアンタが保証してくれれば、話が早いんだ、どうだ?」
「いい案ね、神父自身が、教会の腐敗を明らかにする、選挙にセンセーショナルな影響をもたらすでしょうね。……わかった、のった!」
「いいのか、俺はあんたと初対面だぜ、信じていいのか?」
「神父が嘘つきだったら世も末よ。渡りに船だし、とりあえず協力しましょう」
「待ってください! 今の話本当かどうか……!」
レオが口をはさんでくる。それに対し神父はウインクをして答えた。
「おいおい、信心が足りねえなあ。お前さんは少し教会で修業をした方がいいな、俺のところに来いよ。手取り足取り腰とり、聖というものを教えてやるよ」
「えっ!?」
不穏なことを言い出したので私はすぐさま否定した。
「申し訳ないけど、この子の保護者は私よ。親御さんから、立派な政治家にさせるよう約束したから、折角だけどお断りさせていただくわ」
「そいつは、残念だ、ははは……」
神父は立ち上がって私に手を出した。そして私はその手を握る。
「期待しているわ。グリース神父」
「ああ、この選挙、もっと面白くしてやろうぜ」
そう言って固く握った二つの手。これが、三部会を大きく左右するとは、私はまだ思いもしなかった。
部屋の中に入ると、かなり貧しい暮らしをしているようで、石造りの家に家具もほとんどなく、薄暗い。神父がろうそくを灯すと、彼は言った。
「まあ、これが俺の部屋だ、これでも俺は結構上の神父だが、暮らしはこんなもんだ」
「清貧をもって貴しとなすか」
「そんな良いもんじゃねえよ」
私の言葉にぶっきらぼうにグリースは言った。
「とりあえず軽く食事でもするか、少しの間待ってくれ」
そうして神父は台所に向かったのだろう、席を空ける。レオは不安そうに私に言った。
「ホントに大丈夫なんですかね」
「ちゃんと神父の服も着ているし、十字架も下げているし、衣服に厳しい時代だから、たぶん大丈夫なんじゃない?」
「そういうものですかね、どうも、僕は僕に対する視線が何か変な気がします」
半裸の姿から、神父の服にすでに彼は着替えたため、私は変な男だと思いながらも、不思議と彼は信用できる予感がしていた。長年のカンか女のカンかわからないが、とりあえず今の所、危険はなさそうだし成り行きを見守ることにした。
そうして、時間がたつと、グリースは料理を運んでくる、さっき採ったカブの和え物と、羊のミルクがゆと黒く固いパンだった。
レオはびっくりしていた。これが中世の民衆の普通の食べ物なのだ、神父の貧しさも料理を見てわかった。戸惑いながらも、グリースが「さあ、食えよ」と言ったので私は、我慢して表情に出さずに食べたけど、レオは苦々しい顔だ。
「うっ……、味がしない」
「坊主、これが、貧しいってことだよ、この国の多くのものはそうさ、まあ最近では国王領ではずいぶんとましになったがな」
「ううっ……」
神父にさとされて、レオは嫌々食べた。私は今の聖職者の格差を知っていたから、平然としていた。上級聖職者とそのほかでは紛れもなく身分差がある。金銭の面でもそうだし、もともと大貴族の生まれで、代々由緒正しい聖職者の家柄以外上に上がれない。
……これが中世の教会の実態だった。グリース神父は全員が食事を終えたのを見て、語り始めた。
「これでも俺は恵まれている方なんだぜ、俺の年間の給料は最近で言うと20リーガン。国王領の農民は、ついこないだまで12リーガン。地方の厳しいところでは6リーガンだぜ。白いパンが8リーガンだから、我慢すれば、白いパンも半年に一回食える計算だ」
「そんなにも暮らしが厳しいんですか……」
レオは貧富の差に衝撃を受けていた。彼は由緒正しい王宮貴族の生まれだ、黒いパンなんて食べたことも無いだろう。私も一か月うどんだけで暮らしたことがある。だって、音ゲーのガチャで、かっこいいキャラが実装されたんだもん、愛だよ愛。
私は貧しさを自分の体をもって知っているので、彼にこう告げた。
「私はその貧困から少しでも脱却できるようにこの国を変えるつもりよ、それがいま行っている財政改革、特に税制は改革が必須よ」
「何故だ?」
神父の質問に私は冷静に答えた。
「経済のためでもあるし、この王国のためでもある。貧富の差は時間が降り積もると、暴力となって国を亡ぼす。このまま国民が黙って貧しい暮らしに満足してくれるわけがない。
特に魔族との大戦争になれば国はさらに貧しくなる、その被害の直撃を受けるのは民衆よ。
貴族たちにはわからないかもしれないけど、これが歴史の必然だし、持つ者は果たすべき義務がある。私が宰相となった以上、この国を変えて見せる、救って見せるわ」
「ふっ、救うね。救世主か……」
グリースはほくそ笑んだがバカにしているわけじゃなさそうだ、彼の目は真剣だ。
「宰相、あんたの言っていることは正しい、このままだとこの国、いや、世界は魔族との戦争に耐えきれない。神父である俺が言うのもなんだけどなあ、この世界のありようはあまりにも歪すぎる。
それを誰かが是正しないといけない、あんたの腹の中は俺にはわからねえ、だがな、現実的に見てあんたのやっていることは正しい。俺もそう思う」
「ありがとう」
「まあ、上の司祭などには全く理解できないだろうけどよ、俺は下級貴族の身だ、貧しさも富の味も知っている。これは俺だけの話じゃねえ、聖職者の下の者は全員同じさ。
教会のありかたを苦々しく思っている。だが、問題は教会法だ」
「教会組織の在り方、税制、そして、荘園という実質領地をもった世俗権力を肯定する、法。本来なら、聖職者のありようを示すものがいつの間にか貧富の差を肯定する法になってしまった」
「ああ、十分の一税などそうだな、民衆は所属する教会に税を納めなければならない。考えて見ればおかしな話だ。聖書では富を否定しているのに、当の教会が、豪勢な食事をして、でっかい教会をおったてて、平然としてる。
明らかに神の意思に反するものだ」
「十分の一税は撤廃すべきよ、教会はあくまで寄付と維持費だけで賄わなくてはならない。それが聖職者として当たり前の事。神のしもべであっても、特権をもってはならない」
「だが、それは上の方は絶対に納得しないだろう、今更、金ぴかの暮らしを変えるなんてまっぴらごめんだろうしな。
なら、宰相、俺と組まないか?」
「貴方と組む?」
「そうだ、うわさでは三部会選挙で、貴族連中は割れているそうじゃないか、国王領はもう改革の真っ最中だが、税制法案を三部会で通さなければ、結局のところ、王家と地方が対立しちまう。
そこでだ、俺はさあ、実はこう見えて優秀なやつでよう、昔は名のある大学で、主席だったが、生まれのせいで今はこんなんになっちまった。こういうのは結構ざらなもんだぜ。
上の人間は何の努力もせず、ただ、生まれた家が良かったってだけで、聖職者もふんずり返っているのが現状だ。俺のようなやつはごまんといる。
で、なあ、いつか教会を改革するよう、そいつらと連絡を取って、デカいことやろうと思ったところだ、今のあんたの改革と、三部会だ。
実のところ俺の方から、あんたに連絡を取って一緒に動こうと思っていたが、何の神の思し召しかわからねえが、たまたま俺のところに来ちまった。
どうだ、宰相、俺はあんたを見込んで言う、何かの縁ってことで、俺を助けてはくれねえか?」
「面白そうね、でも顔が広いだけじゃあ、選挙に勝てないわよ」
「俺には策がある、最近できた新聞があっただろ、あれにさ、教会の実情と、教会法の過ちを堂々と、世間にさらすつもりだ。
だが、これをしちまった以上は俺の身があぶねえ、誰か権力者の庇護が必要だ。それをアンタが保証してくれれば、話が早いんだ、どうだ?」
「いい案ね、神父自身が、教会の腐敗を明らかにする、選挙にセンセーショナルな影響をもたらすでしょうね。……わかった、のった!」
「いいのか、俺はあんたと初対面だぜ、信じていいのか?」
「神父が嘘つきだったら世も末よ。渡りに船だし、とりあえず協力しましょう」
「待ってください! 今の話本当かどうか……!」
レオが口をはさんでくる。それに対し神父はウインクをして答えた。
「おいおい、信心が足りねえなあ。お前さんは少し教会で修業をした方がいいな、俺のところに来いよ。手取り足取り腰とり、聖というものを教えてやるよ」
「えっ!?」
不穏なことを言い出したので私はすぐさま否定した。
「申し訳ないけど、この子の保護者は私よ。親御さんから、立派な政治家にさせるよう約束したから、折角だけどお断りさせていただくわ」
「そいつは、残念だ、ははは……」
神父は立ち上がって私に手を出した。そして私はその手を握る。
「期待しているわ。グリース神父」
「ああ、この選挙、もっと面白くしてやろうぜ」
そう言って固く握った二つの手。これが、三部会を大きく左右するとは、私はまだ思いもしなかった。
応援ありがとうございます!
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