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世界統一編

第五十一話 国王院選挙

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 第二回国王議会は議会改革法案を通し、議会は解散、国王院選挙が行われることとなった。無論私はそれをただ眺めているわけではなかった。

 私はこの際、国王院議員を自分の派閥で固めるように、色々手配をしていた。当たり前の話だが、今は流れに乗って、私を支持しているだけで、状況によって離れていく王宮貴族たちが増えるのは政治の摂理。

 その前にこの機に乗じて、私の改革に賛成する王宮貴族を議員に立てて、この先も安定した政権運営ができるように政治工作をする。

 無論汚職とかそういうのではない。選挙である以上、これも政治だ。私の館に続々と王宮貴族たちが顔見せにやってくる。

「おお、宰相閣下、ぜひ私に対し選挙支援をお願いできませんか!」
「私こそ政治のために必要な人材、ミサ宰相閣下、貴女のような素晴らしい人間に出会えて光栄です」
「ミサ様、つまらないものですがこれを……!」

 とワイロを渡してくる奴には、

「無礼者! 神聖なる国王議会を汚すつもりか! 下がれ! 貴公の顔など見たくはない!」
「ひっ!?」

 と告げて、その貴族は追い払う。足元をすくわれるような馬鹿な真似はしないし、前例を作ってしまえば、汚職選挙が当然となる。私はあくまで清廉潔白な政治家でいつづける。富が欲しくて、改革をしているのではない。

 国のため世界のため、そしてウェリントンのためにやっているのだ。そのために手段を選ぶつもりはないが、それはあくまで、政治の正道を歩むことで、成し遂げるつもりだ。

 横で見ていたレオは驚いた様子で私に言った。

「すごいですね、ミサ様。あんなタンカが切れるなんて。やっぱ、大物政治家ってこういう事なんですね」
「これが当たり前よ、ワイロなんて受けとらなくとも、私は政治力があるつもりよ。法を犯してまで、勝つつもりはない」

「ご立派ですミサ様! 僕はまたミサ様を尊敬する理由が増えました!」
「ふふ、ありがと」

 そうした中、ある人物が私の屋敷に尋ねたことにレオが驚いた。

「父上……!」
「レオ、元気にしておったか、手紙をよこせとあれほど言っておるのに、息子と言うのはどうも不精なのがいかん」

 元国務大臣マンチェスター卿だ。

「親子の対面もいいけど、あとでゆっくりお願いね。レオ、貴方のお父様は国務大臣を辞職して、宰相派の党首として、この度の選挙に出てもらうわ」
「父上が!」

「ええそうよ、別に彼を疎んじてではない、むしろ貴方の御父上を評価してるからこそ、大事な、宰相派の党首になってもらうわ、この選挙に勝利すれば、貴方の御父上は、国王議会首相となる。

 貴方も父の背中を追って大きくなりなさい」

「ミサ宰相閣下。ありがたきお言葉」

 というのもだ、彼はもともと王宮貴族と親しい家柄だし、レオの家を、私がもしかしたらの時を考えて、私の内府から離しておきたかった。そうすれば、レオが巻き添えを食らうことも無いし、レオが大きくなったら私の意思を継いでくれると信じてのことだ。

 マンチェスター卿の実績から言って、政治経験も申し分ないし、人柄も私に忠言するほど、誠実さがあるため、私は彼を高く買っている。だから、大事な国王議会を任せたのだ。

「父上!」
「レオ!」

 二人の親子は固く抱きしめ合う。美しい光景に私はしばし酔いしれた。

 選挙は主に三派閥に分かれて、激しい、票争いとなった。まずは私たち宰相派のマンチェスター卿が率いる、国王民主党。それに対し、宮宰派の自由党。そして王党派の手が及んだ、王家を救う党の三つだ。

 王宮内で、国王直轄領で、国王領で、論戦が広げられた結果、定員226名のうち、152名が国王民主党、52名が自由党。王家を救う党は5名。残りは無所属。改革派圧倒的多数で、私たち宰相派の大勝利だ。

 やはり政治の風というものだろうか、総投票数12320。そのうち8356票がうちの国王民主党だ。名実ともに、私は王宮の実権を握ることとなった。

 そして新しくなった、国王議会が開かれて、国王内閣総理大臣マンチェスター卿が所信表明演説をおこない、私はそれに拍手を送った。湧き上がる大歓声。演説内容は私と打ち合わせ通り、国王領の改革とその法整備、およびその税制の改革を宣言することだった。

 私は彼を通して、国王議会案で、先の鎖演説の通り、税制一本化法案をまず先に通した。改革をなすには財源がいる。自由党は貴族特権を取り上げる内容にひどく反対をしたが、国民党は税制改革のメリット、経済促進のために必要な改革だと訴える。

 圧倒的多数の与党によって税制改革法案は採択された。重要な点は、私たち王宮内府の発案法案でなく、あくまで、国王内閣の法案で通したことだ。これは王宮貴族が自ら、特権を廃止し、改革に打ち込むということを民主的に認めたということだ。

 私は確かに独裁権を持っているが、それをちらつかせるつもりはなかった。独裁政治は二流の政治だ。上が倒れれば国が倒れる。その巻き添えにウェリントンやメアリーたち、王家を巻き込むつもりはない。

 それと同時に明言はしてないが、王権を無制限に拡大することを防いだことになる。王権神授説はこの世界ではまだ起こってないが、いずれ王を中心にした、専制政治が起こる可能性がある。

 それによって王家を被害に晒すつもりはない、イギリスのように王権を制限しつつ、王室は王室、かつ民主的な国づくりを私はするつもりだ。国王議会に権限を持たすことによって、権力の集中と腐敗を避けた形だ。

 ──と、のちの歴史家たちは書物に記すかもね。

 次に国王領での紙幣発行の法案を通すことだった。これは私たち王宮内府の法案で出した。というのも、国王議会独自の法案でなく後々を考えて、ネーザン国全体をこの紙幣で経済を活発化させるつもりだ。

 今のネーザン国は税は物納、金貨、銀貨など複雑に絡み合って、その中間にギルドたちが、貨幣などを取り扱って、税を納めるのに、実質税が重くなっている。まあ、悪い言い方をすれば中間搾取を取り去るためだ。

 それを私たち王宮内府が管理することで、税制を簡略化し、効率的な税収を見込める。もちろん商人ギルドは私が説得してある。むしろ、一部の商人ギルドに利益が偏っている有様に、不満が多かった。

 これにおいて、この世界初、国の紙幣が誕生し、その紙幣はウェリントンの一声で、私の伯爵号のリーガン紙幣と名付けられた。

 お札の表紙は古代ネーザン国の最盛期を誇った、第4代、獅子王ケインだった。

 私が改革で忙殺され疲れているのをレオが癒してくれる。

「ミサ宰相閣下! これが紙幣なんですね! すごいです、みんな同じ絵、同じサイズ、同じ形をしています」
「ええ、金貨や銀貨は、成分で硬貨の価値が下がったり上がったりするから、貨幣だけで取引するにははなはだ経済にとって、不健康よ。紙幣は偽造しにくいし、一枚ずつ同じ価値。経済を活発化させるのに必要案件よ」

「そうなんですか! なるほどミサ様、頭がいい!」
「でも紙幣は直接物品と交換するから、今度は物価に気を付けて、流通量を考えないといけない。特に経済が活発化すると急激にインフレが起こるから」

「インフレ……?」
「インフレーション。物の価値が高くなるの。どんどん物が紙幣によって簡単に交換されるから、ほっとけば消費過剰で勝手に物が不足し、紙幣の価値が下がる。

 適切な労働力と担保となる金貨の保有量を調整して、紙幣の価値を上げて、何とか、安定した緩やかなインフレで経済を活性化させないといけない、そのために民衆に税を軽くするのよ」

「どうしてです?」

「民衆に富が増えれば、よりもっと、労働に励む。そして商人がもっと富を増やそうと、土地を開拓して、農地労働者が雇用されていく。安定した生産と消費、需要と供給のバランスが取れて、経済が正常に発達して、ネーザンが豊かになる。

 そのためには農奴制ではなく、雇用制度に移行する必要があるわ。地方領主にはまだ手を出せないけど、国王領なら、王宮貴族が承認すれば、戦争などせずに速やかに、農奴を解放できる。

 別に私は農奴解放とは言ってないわよ、彼ら王宮貴族の特権を自ら廃止した。ここが重要。彼らは知らず知らずに農奴解放の主導者となったのよ、その代わり財産権を認めて、大地主になったわけ。

 これで効率のいい土地改革ができるわ」

「そこまで考えてたんですか! すごいです!」

「誰もが、権利を奪うとなると、反対する。それは当然、彼らは特権を当たり前だと思っているから、反発する。でも自ら手放して、より富むために、もっといいやり方があると私は教えたの。

 改革は上だけではなく下から上がってきて、その同時に上も改革する。バランスのいい改革がベストよ」

「なるほど、勉強になります! あ、ミサ様、商人たちが、是非と贈り物をどっさどっさ持ってきてますよ、どうします?」
「別にそれで利便を図るつもりはないし、法に触れないから、もらっときなさい。下手に断ると、商人たちは怪しがって、敵対勢力に貢ぐから。彼らの習慣はそんなものよ。あくまで贈り物。

 程度にもよるけどね。汚職に入らないように、レオ、しっかり商人たちに言っておいて」

「はい!」

 そういう日々が続くと、食事代が浮いたせいか、貧乏屋敷だった私の家の家計が、どんどんよくなる。

 ウェリントンも、私の働きの割には私の給料が少ないと言ってブーブー内府に言ってるし、労働価値分はもらっておくか、館広くしたいな……。狭いから、ここ……。
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