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世界統一編

第五十話 国王議会②

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 私は満足して屋敷に帰り、レオと私で部屋にこもって、祝杯をあげていた。

「いやあ、素晴らしい論戦でした。ミサ様」
「まあね、戦いは、とっくの昔に始まっていたのよ、カンビアスは油断しすぎていた。これから王宮貴族を切り崩し放題よ」

「宮宰の権力の源泉は王宮における裁量権ですから、速やかに、国王議会に権力を移譲させたのは流石でした。もはや、カンビアス卿は名前だけの王宮内の一貴族でしかなくなりましたね」
「その年で先の論戦の意味を理解できるのは流石よ、貴方はやはり、政治のセンスがあるわね、おおやけでカンビアスの権力が移譲されたのを王宮貴族が理解してしまった以上、彼らも変わらざるを得ない。

 一石を投じたのが功を奏したわ、これで国王議会で法案が通る、それは王宮貴族が改革を認めることになる。彼らの思惑は私はもういちいち知る必要はないわ、ただ、私がこれから出してくる、法を分析し始め、国王院の一議員となる。

 時間はかかるだろうけど、世界が変わった瞬間だと、歴史家は語るでしょうね」

「それを止める手段は今はない、ということですねミサ様」
「まあ、認めたくないけど、一時的に私は制限された独裁権を得ることになるわ。その間に、改革に必要な法案を通しておかないと。政治は流れを読まなければ、たとえ正しくても時代はそれを否定する。今がチャンスよ」

「ふむふむ、勉強になります。いいですね議会って、レスターに市議会とかありますけど、何やってるかわからないし、このように国政を決める議会って面白いです」

「それがわかる時点で貴方は優秀よ、レオ。あるていど教養がないと国が何やってるかわからないし、それに対して何ら手立てもなく不満だけをこぼす、やはり、人や金は裏切っても、教養は身を助ける。

 貴方もさまざまな本を読んで勉強なさい、大人になって一番必要なのは教養。知識ではない。人生いろいろあって上手くいかないことがあっても、最終的に自分を助けるものは教養よ、他人ではない」

「なんだか、僕の半分しか生きてないはずなのに、ミサ様って悟っていますね。これが救世主ってことなんでしょうか」

 その言葉に私はふと思った、人生が繰り返し輪廻転生をしているのならば、なんども人生に絶望して、また人間に生まれ変わったら、人生経験は受け継がれているのだろうか。天才とか言われる人たちは、生まれる前に、とてつもないひどい目に合って、そして新しい人生でそれが開花したのだろうか?

 記憶がなくとも子どもの知識しかなくても、優秀な子どもがこれまたなぜかいる。仏教にもいろいろ疑問はあるけど、輪廻転生の価値観はすごいわ、知っていると世界が全く違って見える。これを教えたかったのかなあ、阿弥陀様は。

 だから私にチャンスをくれた。悟りの道へと私は進んでいるんだろうか、私みたいな矮小な人間にはわからないけど、極楽浄土にはいかなかったが、これも仏道と言えばそうだよね。人生って面白いね。

 私は感慨にふけりながら西の空にいる阿弥陀様に杯を捧げた。

 私はレオを連れて王宮にやってきた、彼はもう友達が出来たらしく、私が政務を執っているあいだ、時間を潰すことができたようだ。流石はレオ、やっぱり彼も優秀なんだなあ。

 私はと言うと、第一回国王議会より王宮貴族たちが私の機嫌を取ろうと顔を見せにやってくる。それを相手していた。

「宰相閣下、わたしはジョージと申します。伯爵位をいただいております。以後お見知りおきを。それにしても閣下のご治世は素晴らしいですなあ」
「私はアーノルドと申します、閣下の美しさには惚れ惚れするばかりです、閣下の手腕、まるで天に飛ぶドラゴンのよう! 何と勇ましき姿かな」
「宰相閣下私は……」

 口々に王宮貴族たちは私になびき、美辞麗句を語る、これが勝ち組ってやつだ、黙っていても、人が寄ってくる。私はそれを冷静に眺めていた。使えそうなやつは、議員として目をつけ、人間の審査を行っていた。

 これは治世を行うのに必要なことだ。彼らは私に権力が集まっているから、ただ、私に頭を下げているだけ。それを真に受けて、センチメンタルに感じるほど私は若くない。利用できるものは利用する。私は政治家なのだ。

 世界を動かすには心に一匹の鬼を住まわしておかなければならない、甘い感情で、権力を握る事態はあってはならない。権力者と言うだけで、責任がある。ルイ16世がギロチンの露に消えたことに同情論があるのは理解している。

 だが私は、それに関して、何ら感情を抱かないし、当然だと考える。権力を持つということは、それだけで人の生き死にを左右する。どれだけあがこうとも、飢えて死んでいく人々が、生活が不安で明日死ぬかもしれない状況で、為政者に憎しみを募らせるのは当然だ。

 それだけの富を甘受した。富むことは罪だとカトリック教会は教えたはずだ。その罪へあがなうには人に報いるのは当然のことなのだ。それが出来なかった以上、例え責任が自分だけのものじゃなくても、あの結末が王ということだ。

 王である以上すべての責任を負う、世界中で、歴史上で、王が倒された後の結末は悲惨だ。そんなもの歴史の必然。別に彼だけが珍しいわけではない、ローマでも中国でも当たり前の話。

 それが為政者なのだ。私はなるべくそれを冷たい瞳で眺めて、ウェリントンが同じ目に合わないよう戦う、それが臣としての使命。他人を救うということはそう言うことなのだ。

 私は今のうちに国王議会の組織を整えるよう王宮内府で法案を準備していた。ジャスミンは疲れ気味で言った。

「やはり、急ではありませんか。流石にミサミサ団がおり、官僚たちも補充したとはいえ、いきなり王宮議会を整える法案を準備するなど、期間が短すぎます」
「ごめんなさいね、あらかじめ法案を準備しておくとカンビアスにつぶされる危険があった。政治は波よ、良い時もあれば悪い時もある。

 なら今のうちに重要な法案を通さないと、あとで後悔しても、もう遅いのよ。正しい法でも通らなければ意味はない。あとでギャーギャー言って、まぬけをさらす政治家に飽き飽きしてるわ。

 それが政治力、ごめんね、迷惑かけちゃって」

「い、いえ、そのようなお覚悟があるのなら仕方ありません、私はただ貴女に従うのみです」
「ありがとう、ジャスミン。貴方にはいつか報いて見せるから」

「そんなことおっしゃらなくとも、貴女のもとで働けるのが幸せです。貴女は救世主なのですから、世界の」
「わかった、まかせるわ」

 そうして忙しい日々が過ぎる中、第二回国王議会が開かれた。ウェリントンが開会のお言葉を述べて、事前に議長と打ち合わせして、議会の方針を変えてもらった。

「それでは、第二回国王議会を始めます、宰相閣下ミサ卿、所信表明演説をどうぞ」

 私は中央に立ち、堂々と演説を始めた。

「現在、国王議会において、何が必要で、何が不要かを明らかにしなければなりません。我々は国王陛下の元、ネーザン王家を支える同胞。しかし、ただいまは仕組みが極めて不正確であり、権力者のもとに左右される状況です。

 これでは魔族との戦争が迫る中、王宮を、ひいては国政をまともに動かせるかどうか、はなはだ疑問でございます。私は今、早急に必要な重要な法案を準備しております。それはこの国王議会とは何かにつながります。

 昨今の事情をかんがみるに、一部に権力が集中し、政変が起こるたびに、法が変わるというのはひどく民を苦しめます。まずは王宮内での立法権、司法権、行政権を確立するための組織編成が必要です。

 我々王宮内府は独立した行政機関とし、国政を預かるのは当然でございますが、それに対する、権力の制限、および、対抗策がない以上、いつ何が起きるかわからない世界状況では、現在の仕組みは非常に危ういと宰相である私が日々実感しております。

 まず、立法権ですが、これは、国王議会独自の立法権を認めるものとします、それは王宮内におよび、また、法を円滑に進ますために、皆様王宮貴族の方々のお知恵をお借りしなければなりません。

 そのためには数を絞り、代表を決め、直接選挙によってえらばれた、議員たちに立法権を預けようと考えました。選挙権は王宮貴族、皆が持ちます。これは代表による、法の専門家を育成するためです。

 次に、司法権です。この国王議会の機関として、王宮内の法を裁く専門家を設けます。先ほどの宮宰殿の手違いから見る限り、王宮政治と独立した、裁判所が必要です。これは国王院と準じながらも、司法権を預け、法の番人が必要でございます。

 法は、過ちがあってはなりません。ならば、裁判員の専門家を育成し、王宮内の法を守る必要がございます。

 最後は行政権です。現在の王宮内の政治は非常に不透明であり、権力の腐敗を呼びやすい脆弱さを持ち合わせております。王宮内のことは、王宮貴族全員が執り行う責任と義務がございます。

 なら国王議会に準ずる形で、行政権を持った国王内閣府が必要になってきます。そして、それは国王議会に選ばれた、首相によって、専門家たちが執り行うこととします。

 立法権を持つ国王議会を頂点とし、国王裁判所、国王内閣府がそれぞれ独立し、三権分立による、権力の腐敗を防ぐ、これが私の王宮改革でございます。ぜひ皆様にこれを採択していただけるよう、お願い申し上げます」

 と締めくくり、私への質疑応答がどんどん過ぎていく、奇妙なことにカンビアスはそれに加わらなかった。ただの一王宮貴族となったことに異議を唱えなかった。私が相手で、不覚を取ったが、彼はやはり政治家として優秀だったのだろう。

 身の振り方を知っている、今の状況で、抵抗などしたら、今度は襲撃を受けるのはカンビアスの方だ。処世術は心得ていたようだ。そして数日が過ぎ、私の国王議会の組織設立および、国王議会の法的根拠を定める法案は採択された。

 現在離宮にいる、627名の王宮貴族のうち賛成523票、反対52票。そのほかは棄権および白紙票だ。カンビアス一派はあえて棄権票を投じた、時勢が逆風の中、あがくのは賢くない、いずれ私がいなくなったら動くつもりだろう。

 かなり賢いやり方だ。そして議長は宣言した。

「よって、賛成多数により、この法案を可決いたします」

 私は大拍手の中、手を上げ、皆に応える。これで先ずは国王院が出来た。次は税制改革だ。私は改革が次のランクに上がったことに満足な笑みを浮かべた。
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