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世界統一編

第四十九話 国王議会

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「ふみゃー疲れた」

 私は、今週の仕事が終わった後、自分の屋敷で夕食を食べてだべっていた。そこにレオがティーセットをもってやってくる。

「はい食後茶です」
「ありがとー、まだ、デザートつけてくれないの?」

「まだまだ、ふっくらしてますよ、仕事を再開して、引き締まった顔になったとはいえ、昼と夜にデザートは食べすぎです。ミサ様はもっと、体調管理をしっかりしないと。ミサ様にはいつも美しく、生き生きといらして欲しいですから」

「レオったら厳しいんだから、もう」

 そうして、私のティーカップにお茶が注がれる。そして立ち込める香りで何のお茶かよくわかった。

「これはラベンダーね」
「当たりです。さあどうぞ」

 私が一口飲むと広がる甘い香り、立ち込める、優雅な時間に私は酔いしれた。

「あー今週も頑張ったなあ」
「はい、そうですね、確か、議会の設置で忙しかったとか」

「そうね、なるべく多くの王宮貴族を招く予定だから、かなり日程調整で苦労したし、各方面説得するのに骨が折れたわ、何せ前例がないから」
「新しいことをするのはエネルギーが必要ですからね、大変でしたね。お疲れ様です、ミサ様」

 そうしてレオは私の肩を揉んでくれた。

「ああ、ありがとー気持ちいい―、疲れた後のマッサージっていいのよね。爽快感が。ベッドに寝っ転がるから、腰もお願いねー」
「はい、わかりました」

 そうして私がベッドに顔をうずめると、レオは腰を揉んでくれた。

「ああー気持ちいいー、癒されるー」
「ここ、こってますね」

「そうそう、そこー」

 私がリラックスしているとレオはやんわり聞いてきた。

「国王議会楽しみです。ミサ様の目的はわかりましたが、今回はいったい何をする方針ですか?」
「そうね、詳しくは貴方が自身で見るといいわ、観客席も設けたから。とりあえず、この国の法について考えてもらうのよ、王宮貴族たちに」

「法……ですか」
「そう、何となく権力者が裁いてしまうから自覚がないけれど、法と言うのは、権力者が決めるだけでなく自分たちの生活や習慣を考えて、皆が作るもの。原理原則はあれど、一方的に法というものに疑問を持たないのは、かなり危険な状態よ。権力者側に利用されるから。

 今は私や、ウェリントン陛下がいるから安心だけど、私たちがいなくなったらどうなるか、戦争中何が起こるかわからない。不在の場合を考えて、仕組みを整える必要があるのよ、そのために初めての国王議会が開かれるのよ」

「なんだか難しそうな話ですね、僕、楽しみです」
「子どもは好奇心旺盛なのが良いのよ、それが成長へとつながる。貴方もよく見ておきなさい、王宮でふんずり返っている貴族の本当の姿を……」

「はあ……そうですか」
「あーそこそこ気持ちいい! いいね! 才能あるわ貴方」

「ありがとうございます」

 そうして日々が過ぎ、第一回国王議会がスティングス離宮で行われた。王宮貴族の主な面々があつまるなか、国王である、ウェリントンが開会のお言葉を述べた。

「皆の者よく集まった、そなたらも知っての通り、現在王宮は平らかざる状況、非常に私は心を痛めておる。如何にせんか、諸君らの個々の立場はあろうが、お互いが知恵を振り絞り、このネーザンのために、諸君らの意見を聞きたい。我らは代々家を守ってきた貴人である。

 諸君らの冷静かつ建設的な意見が交わされることを願いたい。差し当たる、宰相襲撃事件にかかわる、王宮の不始末。これについての議題をもって、開会といたす!」

「我ら国王陛下に幸あれ、ネーザンに栄光あれ!」

 会場に集まった貴族みんながウェリントンに応えた。議長は、この政治闘争に中立を保ってきた、ブリストル侯爵が務める。そして彼は宣言した。

「第一回国王議会、リヴィングストン荘陰謀事件においての議事法廷を開廷する。宰相閣下ミサ卿」

 そして私が堂々と真ん中に立ち言った。

「まずは宮宰殿にお伺いしたい、宮宰殿の審議のおかげで、リヴィングストン荘の密儀は明らかなものとなりました、その上でお伺いします、リヴィングストン荘は貴方の所有物で間違いありませんか?」

 静かに始まった第一回国王議会、宮宰であるカンビアスは議長に呼ばれて真ん中に立った。

「間違いございません」

「では重ねてお聞きいたします、私への襲撃による事件が前からありましたが、その中に王宮貴族も名を連ねておりました、今回の密儀は王宮貴族たちのもの、間違いないですか?」

「間違いございません」

「ならばお聞きします、宮宰殿の仕事とは何でしょうか?」
「王宮貴族の管理及び、処罰など王宮に関わる、王家を支える役目でございます」

「宰相を害するのは宮宰のお仕事ですか?」

 議会がざわつき始めた。当然だ、本人に対して、お前、この事件の首謀者じゃないのかと聞いているからだ。だがしたたかにカンビアスは言った。

「一般論から言って、王家を輔弼ほひつするのが宮宰の役目でございます。それがもし、王家の障害となるならば、例え宰相と言えども、対応をする必要性がございます。しかし、今回の例ではそれにあたりません。よって、この事件には私は何ら関係がございません」

「しらじらしい」

 カンビアスの発言にヤジが飛んできた。私は冷静に発言をする。

「素晴らしい忠義です、宮宰殿、王家のためにどのような障害とも戦うとのご決心の表れだと感じました。ではお聞きします、宮宰殿は昨今、リヴィングストン荘事件において、罰に当たる人物を述べました、それらすべてをお聞かせ願えませんか?」

「まずは……」

 そして、裁きの相手の名前を上げ始めると、議会は混乱を始めた。というのもだ、まったく関係ない貴族が紛れ込んでいるため、どう考えても、その名前に加わるのはおかしい人物が多々いたからだ。そして、私は、白々しく言って見せた。

「おかしいですね、珍しい名前のお歴々の方々。私はこれほどまでに恨まれていましたか、再度お聞きします、以上の面々で間違いありませんか宮宰殿」
「間違いございません」

「では、証人をお呼びしてます、議長、グラハム卿をお呼びください」
「騎士公グラハム卿」

 議会はざわつきが収まらない、グラハム卿はさっき名前の挙がった一人だ。彼は中央に立ち堂々と言った。

「わたくしはここに宣言します、今回のリヴィングストン荘にただ一度も踏み入れたことも無いことを。ましてや、宰相閣下を害するたくらみなどおこしたことなどありません。これは神に誓えます!」

 戸惑いを隠せない議会場に、私は冷静にコントロールを始めた。

「つまり、貴方は無実だとこの場で宣言したいわけですね、グラハム卿。国王陛下の前で誓えますか?」

 ドンと構え腰を据え、顎に手を当てたウェリントンに対し、ひざまずいてグラハム卿は言った。

「もちろん誓えます、私は全くの無実です。これは明らかに宮宰殿の陰謀でございます」

 会場に拍手が起こった。すでに宮宰派は私が切り崩している。昨今のカンビアスの失態は目に余る、自然と私に近づく王宮貴族たちも増えてきている。それを明らかにするためだ。カンビアスは発言を求め、中央に立った。

「まったくの事実無根でございます。グラハム卿がかかわったのは明らか、私も証人がございます。議長! ダーリントン侯爵の発言を求めます」

「認めます、ダーリントン候、どうぞ」

 宮宰と入れ替わり、そしてカツラのかぶった小太りの男がひげを触りながら中央に立った。

「まず、宰相殿にはこのたびの、事件の数々の被害にあわれ、ひどく私も心を痛めております。事態を呑み込めず、グラハムのような、はした者どもに、お心を悩ませるのは当然でしょう。

 しかし、私は、誓って言えます、グラハム卿がリヴィングストン荘にいたことを。ええ、国王陛下の前で誓えますとも! 宮宰殿の裁きは確かです。宰相殿、いらぬ造言など信じてはなりませんぞ」

 今度は宮宰派の拍手が起こる。それに対し私は発言を求めた。

「議長、証人、ダーリントン侯爵への質疑応答を求めます」
「ミサ卿、それを認めます」

 さてここからが勝負だ、私はカンビアスが用意した、証人を切り崩しにかかった。

「ではダーリントン侯爵殿、貴方は先ほどグラハム卿がリヴィングストンにいたとおっしゃいましたね。確かですか?」
「ええ、たしかですとも」

「それはいつ、どこでです?」
「それは……リヴィングストン荘において、陰謀密儀当日です」

「見たんですか?」
「私の知り合いが見たと……」

「ほう……。つまり、陰謀にかかわった人物の発言を貴方は信じたのですね」
「い、いえ、宰相殿そのような……」

 「どういうことだ……」と口々に議会は狼狽を始めた。私は重ねて質問をした。

「私の調べによると、グラハム卿は当日、領地の巡回に行っております。数多き確かな証人がございます。記録も残っております。私は宰相です、嘘をついてもわかります。もう一度お聞きします、貴方は確かにグラハム卿が当日、リヴィングストン荘にいたということを証言しますか?」

「も、もちろんでございます! ええ神に誓えますとも、それは何か偽造されたものでしょう、ええ、そうに違いありません!」

「嘘つくなー!」
「私もグラハム卿と一緒にいたぞ!」

 口々にヤジが飛んでくる。ダーリントン侯爵は困った様子で、ハンカチーフで汗を拭き始めた。そこで、私は冷静にとどめを刺す。

「そのような、まわりくどい、おっしゃりかたをすると、ダーリントン侯爵は誤解を招いてしまうではありませんか。ええそうでしょうとも、もちろん見たんですね貴方自身が、だって、──貴方はリヴィングストン荘にいたのですから。

 ええそうでしょう、それなら、グラハム卿の密儀を見れますね、……あなたご自身の目で」

「何!?」
「ダーリントン侯爵がだと!」
「ばかな!?」

 議会は大もめ始めた、どんどんと私の発言を遮ろうと、こちらの方にやってくる。だが、それを私の派閥の貴族が食い止める。そして、私は大きな声で宣言した。

「私はここに宣言します、ダーリントン侯爵がリヴィングストン荘にいたことを、滞在記録が残っております。いったでしょ、私は宰相ですから、そのようなでまかせは初めからわかっています!」

 そう、あのリヴィングストン荘にいた名前の資料の中にダーリントン侯爵がいたのだ。だがこうなることを、私は予想して、あえて名前を伏せていた。カンビアスが彼に近いダーリントン侯爵を証人として呼ぶことを。

 カンビアスは前のウェリントンの前での暴露で、油断していたのだろう、こっちが把握してないと。私はわざと見逃したのだ、ダーリントン侯爵を。この場にのこのこ出てこさせて、カンビアスの失態を明らかにするために。きじも鳴かずんば撃たれまいに。

 カンビアスはうろたえながら発言をした。

「……い、いえ、そのような事実は全くなく……」

 戸惑い冷や汗をかく余りもの醜態ぶりに、貴族たちが今度は宮宰に詰め寄った。そりゃうろたえるものね、カンビアス。貴方はダーリントン侯爵がかかわっていたのは知っていたから、知っていて、その埋め合わせに、犠牲を用意した。グラハム卿などの下級貴族を。

 そのような王宮政治など私には通じるものか、こちら、30年間事務員で修羅場くぐってんだよ。事務員舐めんな! 

 議会は荒れに荒れ叫び声まで聞こえてくる、その中、刃物を持ち出す者がいた。しまった、どさくさに紛れて議会を潰される。私は大声で言った。

「静まれ! 国王陛下の御前おんまえなるぞ!」

 その瞬間、皆の血の気が引いた。カンビアスは先ほどから、ずっと蒼い顔をしている。ダーリントン侯爵は口から泡を吹いている。私はウェリントンに向かって言った。

「これは宮宰殿の裁判に疑いがあるのは明らか! 陛下、この事件をこの国王議会において審議を行い、しかるべき始末を行いたく存じます!」

「よし、宰相、それを認めよう、今回は新たな、証言が出てきたことで打ち切る。次回、もろもろの証人を呼び寄せて、審議を進めることにする!」

「ははっ!」

 よし! やった、完全にカンビアスの権力、司法権を根こそぎ奪ってやった。これで、次のステップに進める。私はウェリントンに頭を下げるなか、他の者に見えないように静かに笑っていた。
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