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世界統一編

第四十八話 王宮帰還

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 カンビアスが私を襲撃する陰謀事件に対する処罰の方針を明らかにしたことで、王宮に堂々と帰ってきた。もちろん、護衛部隊をつけてだ。1000名のパレードのような王宮への出勤で、必然私の威信が高まる。

 もちろんこれは王宮でも承知されている。そしてエクスター宮殿の前でとある貴族3人が私にひざまずいた。何事かと騎士たちが、私を守りながら、問いただした。

「何用か! この方が、宰相閣下だと知っての振るまいか!」
「私たちは宰相閣下に直訴したいのです!」

「下がりおれ! 今がどのような時期と心得ておるか!」

「いいわ、話ぐらい聞いても」

 私がそう取りなしたことで、彼らは涙ながらに懇願を始めたのだ。

「閣下! 宰相閣下! 私たちは無実の罪で、カンビアス卿に殺されてしまいます! どうかお話をお聞きください」

 私の予想通りだ、でっちあげで、陰謀事件の罪をかぶせられた貴族が私のもとに来るのは当然だろう、また、あらかじめ、私は、ジャスミンに私が裁判のいきさつに疑問を持っていると、うわさを流しておいた。

 だが、私はわざとしらばっくれた。

「はて、私は、カンビアス卿をいたく信頼しておりますが、何かあったのですか?」
「閣下、お聞きください、閣下に対する陰謀事件への処罰が行われようとしていますが、その大半の者は無実の罪、私は例のリヴィングストン荘なぞ、一度も行ったことがございません。

 そもそもあそこに招かれる貴族は、身分のある上級貴族、私のような、王宮ではした仕事しか預かれぬ者に、宰相閣下を害するなど、おぞましきたくらみに関わることなんて出来ましょうか!」

「不忠ですよ、どんな仕事であれ、貴方は王家より職務を預かりし者、それをはした仕事など」
「……申し訳ございません。しかし、事実ではございます。私など、自分の身の振り方などろくにできずに一族が滅されようとしています。我々は下級貴族とはいえ、代々先祖より、家を守ってきました。それを無実の罪で、途絶えさせるなど、あまりにも理不尽ではありませんか! 

 どうか、どうか我らは閣下のご慈悲を賜りたいのです!」

「ふむ、これはただならぬ様子。よろしい、今日こんにち、陛下にお目通りいたします、私が直々に陛下にお伝えいたしましょう」

「ああっ! なんと慈悲深きお人かな! ミサ宰相閣下、心より感謝申し上げます!」

 よし、上手くいった。これで改革の針を進められる準備が整った。私は満足して宮殿の中に入るとジェラードに声をかけられた。

「今日から王宮に来ると聞いてな、大事ないか?」
「ええ、ジェラード、久しぶりね」

「本来なら様子見に屋敷に行きたかったのだが、いかんせん、カンビアス卿の処罰の巻き添えなど食らってはたまったものではないと、臣下の者に言われてな、お前を待っていた。今日は陛下に謁見しに来たんだろう。それまで時間あるか?」
「ええ、午後からだし、いいわ、きっとあなたから話しかけてくれると信じてた」

「そうか、なら、客間を使わしてもらおう」

 そして私たちは王宮の召使に命じて、私たちは密談をすることとなった。

「まずはミサ、今回は大変だったな。不運だったというか、巡りあわせというか」
「大丈夫よ、むしろ幸運だった。改革を進めるのに最大限利用させてもらうわ」

「その改革のことだが、お前は今、直近何をしようとしてる? 私にはただいたずらに宮宰殿と対立しているようにみえるが、何か思惑があるのだろう?」
「ええ、私は議会を作る気よ、このネーザンのね」

「これは……、共和派が喜びそうなニュースだな、どういった理由でだ?」
「今回の改革の根本は税制などによる特権の廃止と、国の仕組み、構造を変えるためにあるわ。でも、それは、私の独断や、陛下の名を借りても、成し遂げることはできない」

「まあ、そんなことをすれば間違いなく、クーデターが起こるだろうな、しかも大規模の」

「ええ、それが自然なこと、政治の論理。互いの了承なしに、一方的にもつ権利の変更は許されない、契約だから。それが権力者であってもね」
「三部会は不足か?」

 この世界にも中世にも議会がある。身分制議会で、聖職者、貴族、平民に分かれており、税制改革や国王追放、宣戦布告など、国全体を挙げて統一意思を表すために使われる。

「ええ、不足よ、三部会は特権権力者の保持のためのもの、自身の事しか考えてない者たちに、国の大事を任せるわけにはいかないわ、私の考えでは、王宮、貴族、平民、三議会で常設の司法立法、ある程度の行政を任せられる、国家の基盤を整えるつもりよ。

 それは与えられた特権によるものではなく、それぞれの身分で公平な選挙によってえらばれるべき。国家の大事は、国民皆が考える。そのための仕組みとしてどうしても必要なの。

 では、まず王宮から切り崩していかないといけない。特権というしがらみから解き放たれてね」

「なるほどな、王宮貴族を引き込んで、まずは王宮議会を作ろうというのか、お前は」

「ええそうよ、改革はまずは上から下へ、下から上では、破滅的な政治エネルギーが爆発してしまう。穏便に国そのものを変えるには、まずは上から。そういうこと」

「方針はわかった、私もその意見に同意しよう。そこでお前に確認したいことがある」
「なになに、何でも言って」

「この改革には身分制の議会が構想として考えられているのだろう。なら、地方貴族の力を借りる必要があるな」
「ええ、そうね、いずれ切り崩して……」

「なら良い話がある。実はな、私は最近ネーザン諸国をまわって社交界に顔を出しているのだが、お前の改革に興味のある貴族が多くてな。彼らのほとんどは下級貴族だが、それは身分制でのこと。

 もともとは商人や弁護士などの富裕層で、金で特権を買った新興貴族たちだ。彼は実情によらずに伝統貴族たちにドンと構えられて、日々辛酸をなめている者たちだ。

 そやつらが、いつも聞いてくるのだ、お前と親しい私に、宰相とはどういった人物か、どういった思想の持主か、何がやりたいかなどな」

「朗報ね、改革の針が早く進みそうね、私もそういった身分の人たちとコネクションが欲しかったの。ジェラード、彼らをまとめてくれない? 改革をスムーズに進めるために」

「了解した。そう言ってくれるだろうと思っていた、なら、私も少し働いてみるとするか、改革のために」
「ありがとう、貴方がいてくれて助かるわ」
「お安い御用だ、宰相閣下」

 そうして私たちは握手して、ハグをしあった。改革は一人でなすものではない、仲間が必要だ。私は良き友人に恵まれた。お互いの体温の温かさを確認しあったあと、私は謁見室に向かった。

 私は国王ウェリントンのもとでひざまずき述べた。

「陛下、お久しゅうございます。長らく、陛下の御心に沿わず、おそばを離れ、申し訳ございません。こたびご尊顔を拝謁つかまつって、臣、ミサ・エチゴ・オブ・リーガンは歓喜に堪えません。

 王家の繁栄を日々願い、陛下のために私は微力ながら尽くしてまいりました。ですが、今回だけは陛下のお耳を汚すことをお許し願えませんでしょうか?」

「どうした、ずいぶん改まった口上だな」

 ウェリントンは椅子にもたれて言った。それに対し私ははっきりと述べた。

「昨今聞くところによると、カンビアス卿が最近、陰謀事件裁判の方針を明らかにしたと」
「ああ、そうだ、これで一安心だろう。ミサ、お前も」

「それについて申したき議がございます」
「ふむ、存分に述べよ」

「聞くところによると、私が初め耳にした、事件とはなはだ変わっている模様」
「ん! どういうことだ、カンビアス?」

 ウェリントンがカンビアスに振ると宮宰はひどくうろたえた。

「い、いえ私は……」

「もれ聞くところによると、無実の罪で、宮宰殿に遠い貴族が裁かれようとしているとか、陛下はご存じでしょうか?」
「初耳だ。カンビアス、真か?」

「私はつぶさに調べ、事を万事、陛下のご随意のままになさろうと……」

 それに対し私は畳みかける。

「私への襲撃計画とはいえ、これは見過ごすわけにはまいりません。国事は必賞必罰でなければまいりません、罪あるものには罰を、罪なき者は罰さず、法の基本でございます。

 それをゆがめることは例え宮宰殿といえども許されない仕儀でございます」

「ああ、当然だ、私が、直に言っておこう」

 ウェリントンの言葉に対し私は冷静に断った。

「いえ、私の本意はそこでございません、ぜひ、宮宰殿の言い分が正しいのか、当人を含めて、王宮貴族たちが集まり、陛下の目の前で真実を明らかにすべきかと存じます。そうですね……それは、離宮スティンズはいかがでしょう? お近くで、広く、王宮貴族たちも集まり安うございます」

「ほう、よかろう。お前のしたいようにせよ」
「へ、陛下……!」

 宮宰が狼狽するのも無理はない、本来宮宰の仕事であるのに、それに異議を唱えて、国王の前で裁判しようというのだ、政治的な立場として、宮宰の権威が著しく落ちることになる。宮宰の求心力も大きくそがれるであろう。私は宮宰に含めるように言った。

「では、近々、親しく会いましょう、宮宰殿。スティングス議会で……」

 そう言って私はウェリントンに礼をして帰った。ことは上手く運んだ、宮宰から王宮の司法権をとりあげて、国王議会にそれを持たす。あっさりとしているが、これは権力の移譲だ、本人たちには自覚がないだろうが。

 また一歩、改革が進んだことに私の歩みは力強く謁見室に鳴り響いた。
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