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世界統一編
第四十三話 国王激怒③
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私は王宮内府で、私を助けたものへの論功行賞を行っていた。
「ジャスミン、私を助けた、老夫婦には王家より、勲章と報奨金を。そしてレスター市長にかけあって、レスター市民賞の授与を働きかけて」
「はい、かしこまりました」
私の右腕のジャスミンが官僚たちに細かい指示をする。宰相を助けたことは正義であると、レスター市民に示さなければならない。このように功罪を明らかにすることで、国内の団結と支持を得る。下手な独裁者は、自分の都合のいいように国を変えようとするが、良き為政者は下からの押上げで、国をまとめる。
とどのつまり、それが政治力なのだ。政治とは何かと一般人にはあやふやだけど、上手い政治というのは、意図を見えなくして、市民に何気なく支持されながら、自分のやりたい方向へと持って行くことだ。
リーダーシップ、リーダーシップとかテレビのコメンテーターは言うけど、あれこれトップが目立つようでは、政治は三流だ。政治は絶対的に正解のないテストだ。成功も失敗もある。
それが、失敗のたびにトップが責任を取るとか言って、いちいちやめるようでは、安定した政治はできない。良い政治が行われている場合、市民は何も気にしない。市民の間で政治論争が盛り上がるようでは、その時点で失敗しているのだ。
徳川家康が250年の安定した政治を行えたのは、彼自身が独裁者となるより、確固たる組織、体制を築いたからだ。おそらく独裁者となった豊臣秀吉の反面教師だろう。そこまで長い間、日本の歴史は不安定だった。今ある日本の基礎は大体、良くも悪くも江戸時代から始まったもの。
政治は今日の事よりも百年先まで見通せなければだめなのだ。
「ジャスミン、テットベリー伯への恩賞だけど、彼らへに直接、報奨金と、今回亡くなった騎士たちに王宮より遺族年金を払うようにして」
「王宮よりですか? 宰相閣下。テットベリー伯に恩賞を授与し、そこから、騎士たちではなく、直接でございますか?」
「ええ、ジェラードには悪いけど、ここは王家の優位を確立させなくては。彼らを王宮の機関に組み入れたいの、彼は私の同盟相手だから。だから、彼の騎士を今度の親衛隊設立に組み入れて。
親衛隊に宮宰の手を伸ばせさせない、あくまで王宮貴族と独立した組織であるべきよ。そして地方の王家に忠誠を誓っている騎士を組み入れて。絶対に王宮貴族に主導権は渡さない」
「わかりました、早めに騎士の名前を集めます。そう言えば宮宰のカンビアス卿は窮地に立たされている模様です」
「どうしたの? 私への襲撃の件で、王宮貴族がかかわっていたことで、彼の立場が悪くなるのはわかっているけど、窮地って?」
「実は国王陛下の怒りが収まらず、加担した王宮貴族を直接裁きたいとおっしゃりまして、カンビアス卿は非常に困っているようです。王宮貴族のことはあくまで宮宰が取り仕切る立場にあるのに、陛下に裁かれては、彼の地位が危うくなってしまいます」
「陛下が直接!? まずいわ、そんなことになれば、悪しき慣例が残ってしまう。ジャスミン、何とか陛下が裁判を開いた場合、私も参加できるようにして、軟着陸させないと、王家と王宮貴族にしこりが残る、お願い」
「かしこまりました、そのように手はずを整えましょう」
その三日後ウェリントン自らが、裁判長となって、今回の襲撃に加担した王宮貴族への裁判が開かれた。そして裁判員に私も潜り込めた。被害者が裁判員となるのはかなり異例だが、この事件を上手くまとめないと。
まずはウェリントンは反逆貴族に尋ねた。
「貴様ら何のつもりで、ミサ、宰相を襲撃したのだ?」
「陛下、あなたは騙されています。ここにいる幼女は王家には媚びる寄生虫のようなもの、我らは王家を害する不届き者を誅殺しようとしたまでです」
「勝手に貴様らが王家をかたるな! ミサは私が宰相に任じて、その期待に応え、見事大陸同盟戦争を勝利に向かうよう支えてくれた、王家からすれば功労者だぞ!」
「その実は、自分の権力で王家を意のままに操ろうとする、奸臣! その姿に惑わされてはなりません! 正体はどんな毒蛇か、陛下はまだ気づいていないのです!」
「だまれ!」
ウェリントンが立ち上がりそうになったのを私が制止した。
「お待ちください陛下、とりあえず彼らの言い分を聞きましょう。これでは裁判になりません」
「……ああ、わかった、貴様らミサの何が不満なのか?」
「この小娘は代々、我が貴族たちが守ってきた伝統を奪い、我が物にしようとしているのです! 現に陛下の寵愛を受け、王宮内でも我が物顔で歩く横暴ぶり、どこから現れたのかわからぬ、ただの幼女のことなぞ、信じてはなりませぬぞ!」
「で、その我が物にしようとか言う証拠はあるのか?」
カンビアスが冷静に円滑に裁判をすすめようとする。無論、宮宰の彼は裁判員の一人だ。
「考えてもみてください、先の演説で、我らの特権である、税をこの娘が管理すると言ったのですよ! カンビアス卿も憤っていたはず。さらに我らの権利である、騎士としての誇りを、軍備を奪ったではありませんか!
この野心家は、王家を奪おうとする不届き者! 誅して当然です!」
その答えにカンビアスは冷徹に言った。
「私は確かに、貴族の特権は尊重すべきだとは言ったが、王家を害するとか、ミサ卿が私物化すると申してはおらん。勝手な妄想で、命を害するなぞもってのほかだ」
「カンビアス卿……」
早々に捨てたみたいだね、カンビアスは。巻き添え食らうのなんて避けたいし、それに、むしろ、このような剣を持って事を運ぼうなど、彼のやり方とはそぐわない。王宮貴族には貴族の流儀がある。
これはただの、テロであることに変わりはない。実行犯である王党派は本気で信じているだろうけど、王宮貴族である彼らがそんな妄想を信じているとは、私は信じられなかった。裏に誰がいるんだろうか。
「この計画は誰が考えたものです?」
私の問いかけに当の王宮貴族が戸惑った。彼らはただ口々に言い始めた。
「おいこの計画、誰が言いだしたのだ?」
「そなたではなかったのか?」
「いや、私は皆がそう言っているというだけをそなたらに伝えただけだが……」
……はあ、どうやら、この貴族たちも操り人形だったみたいだ。国務大臣があれほど洗っても証拠が出てこないはずだ、彼らは所詮コマの一つだったみたいだ。誰かの……。
彼らは事を冷静に考えられるようになったのか顔を青ざめた。だまされていたのだから。そして何も言えず黙ってしまった。それに焦れた、ウェリントンは高らかに宣言した。
「もうよい! こやつらにきいても無駄だ! 王家への反逆でこの私が極刑に処す!」
「お待ちください!」
私がすぐさま止めた。それだけは避けなければならない。彼らがただの操り人形なら、貴族たちからの同情論が出てくる。それなのに彼らを国王自ら殺してしまっては、王家への忠誠心が揺らぐ。それだけは避けなければならない。
そこである一案を持ち出した。ウェリントンが「なんだ!?」と聞き返すので、私は冷静に言った。
「この者たちの言い分は、あくまで私個人への恨みで、事に及んだのであって、王家への反逆とは考えておりません。ことを内外に示すには、正しい罪状が必要です」
「同じことだ! ミサを害することは、私を害することだ!」
「恐れながらそうではありません、こやつらは国政を預かる、私を襲ったのです。それでは王家反逆罪ではなく、国家反逆罪というのはいかがでしょうか?」
「国家反逆罪……!」
貴族たちの顔が真っ青になった。彼らが犯した罪は、王宮だけでなく、ネーザン国その者たちへ剣をふるったのだ。実質、罪状はもっと重くなり、子々孫々まで、ネーザン全体から害を受ける。これは族滅に近い。お家取り潰しだ。ウェリントンは満足げに言った。
「それはいいな、ネーザンを揺るがしたのだ。それにふさわしい罰を加えなければならない」
カンビアスはだまっていた。下手に口を出すと自分の害が及ぶと思ったのだろう、この言葉の重さは彼が一番知っていたはずだ。この時代、国はあっても、国民にとって自分の国とは国家だという意識は薄く、住んでいる領地だ。
つまり、この判例が出来ると、領主である貴族の領地をそのままネーザンという国家に吸収し、貴族の権限を奪う流れになる。
私の改革の犠牲に彼らはなってもらう。ネーザン国を王家のもとに統一した国家にするために。
「カンビアス卿、よろしいでしょうか?」
「ミサ宰相閣下、何でしょうか?」
「このように貴族が明らかに罪を犯した場合、いつもはいったい誰が裁くのでしょうか」
「……それは、宮宰である私を中心に高等裁判所の裁判官を呼び寄せ、また教会から、教会法に触れないか深く審議して、事を鮮明にいたします」
「では陛下、ここは慣例にしたがって、これから先の裁判は宮宰殿におまかせいただけないでしょうか。私もそれを望んでおります」
私がウェリントンに提案した。彼は深く考えた後、冷静になったようで言った。
「なら、それでよい、カンビアスわかっているか? 私は極刑を望んだのだぞ、その意味わかるな?」
「はっ……、事細かに審議し、陛下に満足いただけるよう、最大限の努力をいたします」
「よし! ならよい、今回の審議は終わりとする!」
彼の締めの宣言に皆の者は落ち着いていた。傍聴席で聞いていた、ジャスミン以外は。彼は私のもとに近づいて言った
「何故、カンビアス卿にまかせたのです。せっかく彼の面目を潰せるチャンスではありませんか!?」
「言った通り、王家が介入せずに、王宮貴族に裁かせるのよ、悪しき判例が出来てはならない、それに……」
「なんでございましょうか、閣下?」
「この判例は利用できるよ、王宮貴族が罪を犯せば、宮宰が裁く。つまり、こういう裁判で、訴えられたものの恨みはいったい誰に行くか、わかるでしょう?」
「なるほど……、カンビアス卿に憎しみを集め、閣下は王宮貴族の団結を崩して、反カンビアス派の王宮貴族を作ろうというのですね」
「察しがいいわね、敵の敵を味方につける。政治の常道よ」
「かしこまりました、他の閣僚たちにも、閣下の支持者が増えるよう働いてくれましょう」
「ええ、改革は一人でできないからね」
そして、私とジャスミンは笑った。せいぜいうまく利用させてもらうわよ、カンビアス……!
「ジャスミン、私を助けた、老夫婦には王家より、勲章と報奨金を。そしてレスター市長にかけあって、レスター市民賞の授与を働きかけて」
「はい、かしこまりました」
私の右腕のジャスミンが官僚たちに細かい指示をする。宰相を助けたことは正義であると、レスター市民に示さなければならない。このように功罪を明らかにすることで、国内の団結と支持を得る。下手な独裁者は、自分の都合のいいように国を変えようとするが、良き為政者は下からの押上げで、国をまとめる。
とどのつまり、それが政治力なのだ。政治とは何かと一般人にはあやふやだけど、上手い政治というのは、意図を見えなくして、市民に何気なく支持されながら、自分のやりたい方向へと持って行くことだ。
リーダーシップ、リーダーシップとかテレビのコメンテーターは言うけど、あれこれトップが目立つようでは、政治は三流だ。政治は絶対的に正解のないテストだ。成功も失敗もある。
それが、失敗のたびにトップが責任を取るとか言って、いちいちやめるようでは、安定した政治はできない。良い政治が行われている場合、市民は何も気にしない。市民の間で政治論争が盛り上がるようでは、その時点で失敗しているのだ。
徳川家康が250年の安定した政治を行えたのは、彼自身が独裁者となるより、確固たる組織、体制を築いたからだ。おそらく独裁者となった豊臣秀吉の反面教師だろう。そこまで長い間、日本の歴史は不安定だった。今ある日本の基礎は大体、良くも悪くも江戸時代から始まったもの。
政治は今日の事よりも百年先まで見通せなければだめなのだ。
「ジャスミン、テットベリー伯への恩賞だけど、彼らへに直接、報奨金と、今回亡くなった騎士たちに王宮より遺族年金を払うようにして」
「王宮よりですか? 宰相閣下。テットベリー伯に恩賞を授与し、そこから、騎士たちではなく、直接でございますか?」
「ええ、ジェラードには悪いけど、ここは王家の優位を確立させなくては。彼らを王宮の機関に組み入れたいの、彼は私の同盟相手だから。だから、彼の騎士を今度の親衛隊設立に組み入れて。
親衛隊に宮宰の手を伸ばせさせない、あくまで王宮貴族と独立した組織であるべきよ。そして地方の王家に忠誠を誓っている騎士を組み入れて。絶対に王宮貴族に主導権は渡さない」
「わかりました、早めに騎士の名前を集めます。そう言えば宮宰のカンビアス卿は窮地に立たされている模様です」
「どうしたの? 私への襲撃の件で、王宮貴族がかかわっていたことで、彼の立場が悪くなるのはわかっているけど、窮地って?」
「実は国王陛下の怒りが収まらず、加担した王宮貴族を直接裁きたいとおっしゃりまして、カンビアス卿は非常に困っているようです。王宮貴族のことはあくまで宮宰が取り仕切る立場にあるのに、陛下に裁かれては、彼の地位が危うくなってしまいます」
「陛下が直接!? まずいわ、そんなことになれば、悪しき慣例が残ってしまう。ジャスミン、何とか陛下が裁判を開いた場合、私も参加できるようにして、軟着陸させないと、王家と王宮貴族にしこりが残る、お願い」
「かしこまりました、そのように手はずを整えましょう」
その三日後ウェリントン自らが、裁判長となって、今回の襲撃に加担した王宮貴族への裁判が開かれた。そして裁判員に私も潜り込めた。被害者が裁判員となるのはかなり異例だが、この事件を上手くまとめないと。
まずはウェリントンは反逆貴族に尋ねた。
「貴様ら何のつもりで、ミサ、宰相を襲撃したのだ?」
「陛下、あなたは騙されています。ここにいる幼女は王家には媚びる寄生虫のようなもの、我らは王家を害する不届き者を誅殺しようとしたまでです」
「勝手に貴様らが王家をかたるな! ミサは私が宰相に任じて、その期待に応え、見事大陸同盟戦争を勝利に向かうよう支えてくれた、王家からすれば功労者だぞ!」
「その実は、自分の権力で王家を意のままに操ろうとする、奸臣! その姿に惑わされてはなりません! 正体はどんな毒蛇か、陛下はまだ気づいていないのです!」
「だまれ!」
ウェリントンが立ち上がりそうになったのを私が制止した。
「お待ちください陛下、とりあえず彼らの言い分を聞きましょう。これでは裁判になりません」
「……ああ、わかった、貴様らミサの何が不満なのか?」
「この小娘は代々、我が貴族たちが守ってきた伝統を奪い、我が物にしようとしているのです! 現に陛下の寵愛を受け、王宮内でも我が物顔で歩く横暴ぶり、どこから現れたのかわからぬ、ただの幼女のことなぞ、信じてはなりませぬぞ!」
「で、その我が物にしようとか言う証拠はあるのか?」
カンビアスが冷静に円滑に裁判をすすめようとする。無論、宮宰の彼は裁判員の一人だ。
「考えてもみてください、先の演説で、我らの特権である、税をこの娘が管理すると言ったのですよ! カンビアス卿も憤っていたはず。さらに我らの権利である、騎士としての誇りを、軍備を奪ったではありませんか!
この野心家は、王家を奪おうとする不届き者! 誅して当然です!」
その答えにカンビアスは冷徹に言った。
「私は確かに、貴族の特権は尊重すべきだとは言ったが、王家を害するとか、ミサ卿が私物化すると申してはおらん。勝手な妄想で、命を害するなぞもってのほかだ」
「カンビアス卿……」
早々に捨てたみたいだね、カンビアスは。巻き添え食らうのなんて避けたいし、それに、むしろ、このような剣を持って事を運ぼうなど、彼のやり方とはそぐわない。王宮貴族には貴族の流儀がある。
これはただの、テロであることに変わりはない。実行犯である王党派は本気で信じているだろうけど、王宮貴族である彼らがそんな妄想を信じているとは、私は信じられなかった。裏に誰がいるんだろうか。
「この計画は誰が考えたものです?」
私の問いかけに当の王宮貴族が戸惑った。彼らはただ口々に言い始めた。
「おいこの計画、誰が言いだしたのだ?」
「そなたではなかったのか?」
「いや、私は皆がそう言っているというだけをそなたらに伝えただけだが……」
……はあ、どうやら、この貴族たちも操り人形だったみたいだ。国務大臣があれほど洗っても証拠が出てこないはずだ、彼らは所詮コマの一つだったみたいだ。誰かの……。
彼らは事を冷静に考えられるようになったのか顔を青ざめた。だまされていたのだから。そして何も言えず黙ってしまった。それに焦れた、ウェリントンは高らかに宣言した。
「もうよい! こやつらにきいても無駄だ! 王家への反逆でこの私が極刑に処す!」
「お待ちください!」
私がすぐさま止めた。それだけは避けなければならない。彼らがただの操り人形なら、貴族たちからの同情論が出てくる。それなのに彼らを国王自ら殺してしまっては、王家への忠誠心が揺らぐ。それだけは避けなければならない。
そこである一案を持ち出した。ウェリントンが「なんだ!?」と聞き返すので、私は冷静に言った。
「この者たちの言い分は、あくまで私個人への恨みで、事に及んだのであって、王家への反逆とは考えておりません。ことを内外に示すには、正しい罪状が必要です」
「同じことだ! ミサを害することは、私を害することだ!」
「恐れながらそうではありません、こやつらは国政を預かる、私を襲ったのです。それでは王家反逆罪ではなく、国家反逆罪というのはいかがでしょうか?」
「国家反逆罪……!」
貴族たちの顔が真っ青になった。彼らが犯した罪は、王宮だけでなく、ネーザン国その者たちへ剣をふるったのだ。実質、罪状はもっと重くなり、子々孫々まで、ネーザン全体から害を受ける。これは族滅に近い。お家取り潰しだ。ウェリントンは満足げに言った。
「それはいいな、ネーザンを揺るがしたのだ。それにふさわしい罰を加えなければならない」
カンビアスはだまっていた。下手に口を出すと自分の害が及ぶと思ったのだろう、この言葉の重さは彼が一番知っていたはずだ。この時代、国はあっても、国民にとって自分の国とは国家だという意識は薄く、住んでいる領地だ。
つまり、この判例が出来ると、領主である貴族の領地をそのままネーザンという国家に吸収し、貴族の権限を奪う流れになる。
私の改革の犠牲に彼らはなってもらう。ネーザン国を王家のもとに統一した国家にするために。
「カンビアス卿、よろしいでしょうか?」
「ミサ宰相閣下、何でしょうか?」
「このように貴族が明らかに罪を犯した場合、いつもはいったい誰が裁くのでしょうか」
「……それは、宮宰である私を中心に高等裁判所の裁判官を呼び寄せ、また教会から、教会法に触れないか深く審議して、事を鮮明にいたします」
「では陛下、ここは慣例にしたがって、これから先の裁判は宮宰殿におまかせいただけないでしょうか。私もそれを望んでおります」
私がウェリントンに提案した。彼は深く考えた後、冷静になったようで言った。
「なら、それでよい、カンビアスわかっているか? 私は極刑を望んだのだぞ、その意味わかるな?」
「はっ……、事細かに審議し、陛下に満足いただけるよう、最大限の努力をいたします」
「よし! ならよい、今回の審議は終わりとする!」
彼の締めの宣言に皆の者は落ち着いていた。傍聴席で聞いていた、ジャスミン以外は。彼は私のもとに近づいて言った
「何故、カンビアス卿にまかせたのです。せっかく彼の面目を潰せるチャンスではありませんか!?」
「言った通り、王家が介入せずに、王宮貴族に裁かせるのよ、悪しき判例が出来てはならない、それに……」
「なんでございましょうか、閣下?」
「この判例は利用できるよ、王宮貴族が罪を犯せば、宮宰が裁く。つまり、こういう裁判で、訴えられたものの恨みはいったい誰に行くか、わかるでしょう?」
「なるほど……、カンビアス卿に憎しみを集め、閣下は王宮貴族の団結を崩して、反カンビアス派の王宮貴族を作ろうというのですね」
「察しがいいわね、敵の敵を味方につける。政治の常道よ」
「かしこまりました、他の閣僚たちにも、閣下の支持者が増えるよう働いてくれましょう」
「ええ、改革は一人でできないからね」
そして、私とジャスミンは笑った。せいぜいうまく利用させてもらうわよ、カンビアス……!
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