幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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世界統一編

第四十二話 国王激怒②

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 事件の後、やっと自分の屋敷のベッドで眠れたことで、泥のように眠った。久しぶりにきちんと朝が迎えられてとても気分が良かった。

 そんな朝も着替えを終えて広間に行くと、ぶち壊しにされた。ジョセフがうちの召使を口説いていたからだ。はあ……、その召使は40越えたなかなかのご婦人なのによくもまあ若いジョセフが口説くもんだ。

 召使は私に気づくとそそくさと立ち去った。ジョセフは飄々ひょうひょうとした様子で、私に言った。

「これはこれは、宰相閣下、お目覚めで、よく眠れましたか」
「ええ、そんな気分も今ぶち壊しにされたけどね」

「はて、どうかなさいましたか?」
「別に彼女独身だから、私があれこれ言うことじゃないけど、貴方いつも女性を口説いているね、見境なく」

「なんの、女性とは15歳から60歳までは、私にとって愛の対象ですよ」
「私は見境なくの方を気にして欲しいんだけど」

「女性を見て口説かないなんて、そんなの失礼じゃないですか。ミサ閣下もそのうちわかりますよ」

 いや、私は60ぐらいで死んだ……ま、いいか。とりあえず私はやんわりと注意をした。

「私、あなたの仕事ぶりと、剣技に関しては信頼しているけど、女性関係については評価してないから、そのつもりでね」
「まさか、ミサ殿、貴女を口説いていないから、すねていらっしゃるのですか? 大丈夫です10年も経てば私は率先して貴女を口説きますよ」

「誰がよ! とりあえず、女性関係で男はどん底人生に落ちる可能性があるから、気をつけなさいよ。女を甘く見ると、ひどい目に合うのは貴方だからね」
「女性とは甘いものですよ。まあ、ご心配なく、出会いから別れまで、私は恋のエスコートを心得ていますから」

「ああ、はいはい。食事とったら護衛頼むね」

 どうやら無駄だったようなので放っておいた。そこまで干渉する義理がないし、言う権利ないしね、他人の私生活までは。

 そして王宮内府で私は仕事していると、私の右腕のジャスミンがやってきた。

「閣下、事件の詳細が徐々に明らかになってまいりました」
「わかった、報告がききたいわ」

「まず、閣下がおっしゃっていた通り、奴らは何者かと調べた結果、王党派貴族とその周りでした。血気盛んな若者をそそ抜かして、事に及んだ模様です。

「ここまでは予想通りね、で、裏に誰がいたの?」
「そこまではわかりませんが、かなり複雑な様です、どうやら、王宮貴族の上の方まで、策謀に参加しておりまして、それを知った国王陛下は、激怒なさって、そやつらに直に問いただすと、宮宰のカンビアス卿が難儀しております」

「そう……、でもやはりカンビアスではないのかしら、裏で操っているのは」
「そうですね……、確かにカンビアス卿は王宮貴族をかばっていますが、それは保身のためであって、陰謀のことを全く知らなかった素振りでした。彼の手で賊をさばきたいと、まあ、宮宰として当然ですが、陛下がそれをはねのけました。

 事態は緊迫しておる模様です」

「巻き添えを食らっているわね、これは裏にもう一工夫があったみたいね。もしかして、王宮貴族すら操った、真犯人がいるということかな?」
「それはわかりません、どこから襲撃の金を出ているか国務大臣が洗っていますが、なかなか尻尾をつかませない様子で、当の王宮貴族すら知らなかったらしいのです」

「王宮貴族すら……。いったい誰が、何の目的で私を……? いや、まだ情報が足りないわ、わかった、報告を書類にまとめて、とりあえず全貌ぜんぼうを眺めたいから」
「かしこまりました」

 そして官僚たちがまとめた書類を見て、ある欄で私はショックを受けた。死亡者の中にジェラードの竹馬の友であった、オレバー、ジョージ、フレバーの名があったからだ。私はどうしていいかわからず呆然としていた。

 まさか私のせいで彼の幼いころからの親友を奪ってしまうことになるなんて……。私はいてもたってもいられず、ジョセフ達、護衛隊に守られながら、ジェラードの屋敷に向かった。

 ジェラードの屋敷に前に立って、私はまごついてしまった。なんて話せばいいんだろう、でも、彼らが死んだのは私のせいだし、はっきり謝罪しないと、私の気が済まないし、今後彼の前で笑っていられるかわからない。

 例の若い執事に取り次いでジェラードの部屋へと案内された。彼は寝巻のままで、ワインを飲んでいた。少しやつれたように見える。やっぱりショックだったんだ。当たり前だよ、無二の友たちが死んだのだ。

 責任を感じて私はぽつぽつと謝罪の言葉を述べた。

「その、ジェラード……ごめんなさい……」
「どうした、何故お前が謝る?」

「あの……ジェラードの親友の騎士たちが亡くなったと聞いて……私、私のせいで……!」
「私が聞きたいのは、何故そなたが謝る必要があるというのだ。私はお前に賛同して、お前を守るために私は彼らに命じて、そして騎士として立派に散った。何もお前は悪くないだろ?」

「で、でも……私が足手まといだから、弱いから、だから……彼らが犠牲に……」
「弱いなら、それでよい、弱きものの替わりに私たち貴族がいる、騎士がいる。それさえ否定されれば、私の立場がなくなってしまうではないか」

「でも……、でも……、私申し訳なくて、う……うっ……!」
「泣いているのか、ミサ?」

 私は情けなくも彼の疲れた顔を見て思わず泣いてしまった。彼のために何もしてあげられない私、自分の非力さが嫌になりながら、感情が高ぶって泣いてしまっていた。涙をぬぐっても涙がこぼれ落ちてくる。

 ジェラードは、彼はそれを見て、そっと優しく私を抱きしめてくれた。

「……ありがとう、ミサ」
「えっ……?」

「男というものは不器用でな、昔から泣くな泣くなと言われ続けてしまって、本当に泣いていい時でさえ、泣けなくなってしまうのだ。だから情けなくも、こうして酒に酔うしかできなかった。

 お前は私の替わりに彼らのために泣いてくれているのだろう? ありがとうミサ、彼らもこれで報われるさ……」
「うっ……、ジェラード……!」

 彼の優しさに私は号泣してしまった。数十分、私は涙を流して、私の気持ちが落ち着くと、そっと彼は言った。

「すまないが、いい機会だ、先にいってしまった私の忠実なる騎士のために杯を捧げてくれないか? 彼らが天国で迷わないように」
「うん……、わかった……」

 私とジェラードはいっぱいの金の杯のワインをお互いに鳴らし、天に向け差し出した後、そして二人ともワインを飲みほした。彼はそれを見て満足げに笑った。静かなる忠臣との別れの挨拶、彼は嬉しそうにしていた。そしてジェラードは彼らの昔話をしてくれた。

 私は彼の慰めになるように静かに聞いていた。それしか私はできない、でも彼はそれでも良いと言ってくれた。だから、私は彼らの犠牲に、自分で自分を許せるようになった。どんなにつらいことがあっても、この世界に幸あれと……。
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