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世界統一編

第三十四話 宣戦布告

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 統一祭がおわり、残り一週間は新年度向けての準備だ。新年度は国政の始まりの大事な大舞台だ。なんせこれから一年を一体どうするか、王宮、政府に政治方針を示さないと組織は動けない。

 上の人間が明確なビジョンを示して下の者が動く、逆に上の人間がビジョンを持たずに、ただ王宮にこびへつらっても、下の人間は自分の利益ばかり考えて組織の機能不全が起こる。

 新年度朝政に向けて私は演説内容を官僚とも作成していた。一応、統一祭の休み期間であるけど、上の人間はスケジュール上、働かなくてはならない。だが官僚たちは私の演説文に難色を示した。

「閣下、これは……流石に、貴族たちが納得しないものと存じます。ぜひ再考を」

 しかし私はそれをはねのける。

「いい、これから魔族と戦うためには、この国内をまとめる改革が必要なの。今のままでは、来たる魔族との戦いで勝利できるかわからない。貴方たちが危惧するのはわかるけど、これだけはゆずれない」

 と言ってもめたけど最終的に私は押し通したのだった。

 そして、一週間が過ぎ、新年宮廷会議が行われた。まずは宮宰カンビアスが新年度の挨拶と、祝辞を述べた。

 その次は国王演説だ。カンビアスは皆に告げた。

「我らが第四十二代ネーザン王 ウェリントン・レリック・ジョージ・リッチモンド・オブ・ウェストミンスター陛下より皆の者へのお言葉を頂戴します」

 宮廷内は厳かに拍手が行われる。これから始まる国王演説は、国王自らこの国をどうしたいのか、今年どうしたいのかを述べる。新王になって初めての国王演説だから、国内外に彼に対する評価が左右される。

 ウェリントンは猛々たけだけしく演説を始めた。

「皆の者、昨年はよくぞ、この私に尽くしてくれた。おかげで大陸大同盟戦争に勝利し、我がネーザンの偉業は各国に轟いている。改めてそなたらに感謝を述べなければならない。

 また、今年もつつがなく、盛大に統一祭を迎えたことに私は誇りに思う。王家の名声は高まり、そなたらの尽力、忠義に、私は喜びであふれている。そなたらも誇りに思って欲しい。

 さて、新年が明け、これからのことを考えなければなるまい。司祭たちが申すには、数年のうちに魔族の封印が解かれ、本格的にヴェスペリアへの侵略が行われるとされる。すでに北国諸侯は魔族の襲撃を受けており、幸い我が国にその例は見られぬが、それは時間の問題だろう。

 ならばいかにして、魔族に対抗すべきか、私はこのネーザンを強靭きょうじんにしたい。我らは手を取り合って先の戦争に挑んだものの、国内の問題は山積みだ。これを解決せずして栄光なし!

 魔族との戦いが待っている今となっては急速な改革が必要だ。ぜひそなたらの力を貸して欲しい。そなたたち有能な人垣ひとがきの城砦をもって魔族に当たろう! 我らが一致団結すれば魔族など恐るるに足らず! 我らネーザンに神の御加護あれ!」

 彼の言葉に王宮貴族は盛大な拍手を送る。実に良い演説だ、建設的かつ、ポジティブな印象を受ける。流石ウェリントンだ。

 そしてカンビアスは私の名前を呼ぶ。

「では我らが宰相、リーガン伯 ミサ・エチゴ卿より施政方針演説が行われる、皆の者、静粛に」

 私は前に出て、これから、このネーザンを左右する演説を行った。

「国王陛下、新年が明け、我がネーザンが、大陸諸国より、今まさに日が昇るがごとく、精強な王国であるのは、ひとえに陛下並びに王家の御威光によるもの。つつしんで、臣、ミサ・エチゴ・オブ・リーガンはあつく忠誠を、重ねて誓わせていただきます。

 貴族のお歴々の方々、あなた方の王家への忠節により、このネーザンは成り立っております。わたくし、宰相として、絶え間ない忠功に励むあなた方を誇りに思います。

 さて、国王陛下が述べられた通り、これから魔族による侵略に我が国は備えなければなりません。そのためには、いかにしても軍備拡大による富国強兵をなさねばなりません。

 しかし、我が国をかえりみると、大陸随一ずいいちの富を持つものの、その国力が十分に発揮されているとは言えません。我が国は様々な鎖につながっております。

 それを解き放たずに、魔族へ勝利するは難しいものと感じざるを得ません。

 まずは、軍備でございます。我が国防を強靭にするには、騎士の方々を常時、王家の統帥権の元、自由に動かすには、常備軍を設立せねばなりません。戦争のたびに各領地から騎士を集め、返しては、有事に後れを取るのは明らかでございます。よって常備軍設立は急務と考えます。

 続いて、装備の拡充でございます。現在軍事状況を見ると、騎士の方々が自前で、馬、鎧、兜、盾、武器を用意せねばなりません。これを王家に集中し、我が国士に配ってこそ、強兵となるものです。これも必要な過程でございます。

 さらに、現在の軍事設備は、魔族との戦いに耐えきれるほど、頑丈ではなく、急いで、整備をせねばなりません、老朽化をした、城、城壁、兵器、要塞などを最新技術で、装備を拡充する必要があります。

 ──そのためには」

 そして、私は一呼吸を置いた。次から述べることは、国家の一大事で、革命の名にふさわしい事柄だ。私は静かにかつ冷静に言い放った。

「……そのためには、特権によらない、税制一本化が必要となります──」

 その言葉に皆がざわつき始めた。わかっている、何を言っているのか、だがこの演説を続けなければならない。

「現在平民には様々な税が課せれております。人頭税、地代、水車税など施設税、結婚税、初夜税、賦役、通行税、市場税、関税、納付税、ギルド税、および、周辺施設によりさらに税金を課されております。

 およそ彼らの収入の95%以上が税金として徴収され、国庫の収入は彼らに頼っております。果たしてこのような状況で、国の安定した税収が成り立つでしょうか。税とは安ければ安いほどいい、それよりもっといいのは税が再分配されることです。

 民が貧困になって、王国が成り立つでしょうか? いえそうではないでしょう。これらの税は領主によってさらに重く厳しく取り立てられ、時に反乱がおこります。このような状態で魔族と戦うなど夢物語でございます。

 すべての特権を廃し、税制効率化による再分配が必要と私は考えます。

 つぎに経済です。我が国は豊かな土地と水資源を甘受しております。しかし、雨による増水で、氾濫はんらんがおきたり、水害、また、疫病が起こります。だとすれば土地開拓をなさねばなりません。そのためにはネーザン内の領地の国境を越えて、農地開拓が必要です。

 兵には食物が必要、飢えながら戦うのは愚の骨頂であります。よって、農作物の増産が我々に課された使命です。

 続いて、交通整備です。現在各領土により、道幅の違いや、舗装ほそうなどされておらず、農作物を増産しても、十分に市場にて消費されるほどには遠く及ばず、輸送手段が限られております。領地を横断する、インフラ整備が我が国に必要不可欠です。

 流通を制するものが世界を制す。作物が実っても、それが消費者に届かない、農村で腐らせて、すてるよりか、今は他ありません。これも必要な改革です。

 最後に教育です。いくら国を富ませようとしても、貴族だけで国務をまかなうのは非常に困難です。平民はまともに字など読めず、知識すらありません。ならば、初等学問により、識字率向上により、優れた人材を育てる必要がございます。

 よって各地方に学校をたて、平民の人材教育が必要です。

 以上の五か条、軍事拡大、税制一本化、農地開拓、インフラ整備、人材教育を柱とし、国土強靭化計画を成し遂げることをここに宣言します!」

 私の言葉に場はしんとした、ウェリントンや、ミサミサ団以外拍手は起こらなかった。当然だ、私はここにいる貴族たちの特権をとり上げて、国のありかたをひっくり返そうというのだ。反感を持つのが当然で協力など難しい。

 だがそれを成し遂げなければ魔族との戦いに勝利できない。

 続いて枢密院の貴族や、閣僚が演説をした。しかし私の国土強靭化計画は無視された。そうして新年度宮廷会議が終わった後、宮宰カンビアスは私のもとに近寄り、静かにつげた。

「貴女はご自身で言った意味を理解しておられないと、私は解釈しております」

 だが、私ははっきりと返した。

「冷静ですよ、宮宰殿。これをもとに政府は動かなければ魔族に勝利はあり得ません」

 私の宣告に、彼は冷たく言った。

「──なら、貴女は私の敵だ……」

 こうやって、私とカンビアスや貴族との激しい政争が始まるのだった。
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