幼女救世主伝説-王様、私が宰相として国を守ります。そして伝説へ~

琉奈川さとし

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世界統一編

第三十三話 統一祭

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 後夜祭が済んだ後、本格的に統一祭が始まる。統一祭は家族と一緒に暮らし、華やかな祭りが行われる、この世界のビックイベントだ。

 私はウェリントンとメアリーに王家の人たちと一緒に過ごさないかと誘われた。でも私はそれを断った。というのも、彼らは国王と姫だ、当然、宰相の私がそれに参加すると、王家の乗っ取りを企んでいるとか、寵愛ちょうあいを受けて、横暴なふるまいしてるとか周りに観られる。

 政治とは、利益が絡んでいる以上、本人にその気がなくとも、周りはそうとらえるし、むしろ何かを好機に、私を引きずり降ろそうとする勢力が出てくる。それが政治の世界だし、人に会うのも、高貴な人相手だとはばかれるのは当然だ。

 わたしゃ、こんな時ぐらい、平穏無事に暮らしたいんだもん。だからのびのびと屋敷で、くつろいでいた。しかし、ジェラードの猛アタックやウェリントンキス事件で刺激になれてしまった私は、一日中自分の部屋にいることすらできず、屋敷をうろうろしていた。

 すると、レスター市街から祭りの音が聞こえてきた。楽しげな声が聞こえてきて、いてもたってもいられず、私は軽く変装をして街に出かける。変装といっても、一般市民の幼女の恰好をしていただけで、街に同化できた。

 だって私幼女だもん、背が低いから、周りの視界に入らないし、何度か市民に顔を見せていたけど、幼女相手に注目するほど、この世界はロリコンじゃない。

 私と同じ年代の子どもが木の棒をもって、駆け回って、未来の騎士様や、ご令嬢たちが、和気あいあいと、祭りを楽しんでいる。

 私はそれを嬉しそうに見つめていた。私が死んだ頃は新型伝染病のせいで街に出るにも、思わず遠慮してしまうし、祭りなんてもう久しぶりな気がする。

 この世界に来て半年から10か月ぐらいだけど、街に出るなんて舗装ほそうされた市内中心部だけを馬車で行き来するしかない。

 当然私は宰相だから、自由なんてない。道が整ってないと馬車が通れないし、舗装されてない市内中心部から先なんて行ったことがない。道が舗装されていないということは、道路の規格が決まっていないということだ。

 となると、道幅に合わせて車輪を変えたり、穴にはまったりして馬車は動かなくなる。移動手段に非常に不便な時代なのだ。外交や戦争で出掛けてときも大人数で行く、つまり自由はない。

 長くなったけど、街で遊ぶなんてこの時代、宰相は難しいよね! まあ大貴族の方々もそうなんだけどね。王宮貴族なんて、王宮からレスター市街地まで間しか生涯行ったこともないなんてざら。

 だから、幼女特権を生かして遊ぶのだ──イエイ!

 ざっと彩られたレスターの街。この国の統一祭は主に卵が重要アイテムになる。なんでも、古代、アレクサンダーの子孫ネーザンは、血筋にもかかわらず落ちぶれていたらしい。だが、ある時、紫の翼を持った鳥が、貴方は世界のために立ち上がるべきだと説得されたという逸話がある。

 それによって、ネーザンは統一王アレクサンダーの亡き後乱れていた、ヴェスペリアで、のちの16の優れた騎士たちとともに、地元の権力者になっていたやつを戦いで破り、ネーザン国を建国したとされる。

 歴史書を見ても、ネーザンの実在は疑わしいけど、どうやら地元の権力者が、今のネーザン中心部を征服して、ネーザン王朝をたてたらしい。はじまりは、サウスレンスター家が王朝を開いて、サウスレンスター朝という。

 何度か王家同士の争いがあって、いまはその傍流だったウェストミンスター家が王として即位するのが現在王朝。つまり、ウェリントンやメアリーはウェストミンスター家の直系なんだ。

 貴族は、この王朝から何度か婚姻を結んで、爵位をもって地方を収めた一族。前の宰相のエファール家は、結構サウスレンスターに近い血筋の持ち主だったらしい。それで王家暗殺の陰謀を企んだとか言われている。

 怖いね、貴族さんたちの争いは。すぐ暗殺するから。日本は割と天皇一族は大切にされている方なんだよ、実はね。西洋とか断絶しまくったり、乗っ取られたり、殺されたりして、王家の血筋をたどると割と最近なのも多い。

 この世界でも、割と起こる。中世みたいな時代だから、主従関係を結んでもすぐ反逆するし、王がいても実権は貴族たちにあって、地方貴族の方が権力持っているとか、そんな時代。

 ゲームや物語で王様があれしろ、これしろって言って動く時代は中世からだいぶ後の話で、歴史家によっては中世に含まない人もいる。お飾り王家なんて普通。ネーザンは土地が豊かなおかげで、安定した政治が行われて、ウェストミンスター王家に忠誠心が高い土地柄。

 まあ、リッチフォードもそうなんだけど。それでも貴族の反乱を気にしてたみたいだし、ウチの国は大層恵まれている。ラッキー! 阿弥陀様ありがとう!

 私は統一祭で使われている卵料理の数々に舌鼓を打っていた。うーん卵、甘いよー。建国伝説から鳥の卵は神聖視されているから、皆が日ごろの料理の腕を競い合って、卵料理を道にテーブルを置いてみんなで食べ合う。ありがとう鳥さん! てな感じで。

 私がプリンとかで、甘―い、甘―いデザートを楽しんでいると、どうやら、これから人形祭りが行われるらしい。

 人形祭りは、さっき語った建国で活躍した騎士たちをかたどって、大きな人形を掲げてレスター市内を歩く。男たちは重そうな人形をわっしょいとは言わないけど、おお! おお! おお! と叫んで街を回る。

 これを見ないと健康的な暮らしができないそうだ。人形を見たら病気も吹っ飛ぶとかいう言い伝え。例の新型ウィルスもふっとびますように。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……。

 午後になると、卵投げ祭りが始まる。鳥たちの生卵を投げ合って、日ごろの憂さを晴らすイベントだ、割と本気でやるから、死人が出るほど喧嘩になるらしい。野蛮だわ……この世界……。

 私がぼうっと立っているといきなり卵を投げつけられた! きゃっ! なになに! ちょっと! 服とか髪汚れたじゃない! バカたれ! 誰よ、もう!

 と相手を探していたら、そいつは知り合いだった──ジェラードだ。

「ちょっとジェラードなにすんの! ていうかなんで街祭りに参加してんのよ! 貴方は!」

「いいじゃないか、折角の統一祭だ、卵を投げてみたかったのだ。エジンバラではこういうのはやらないからな。ほら、日ごろ、体がなまっているだろ、ミサ。少し、ふっくらしてきたんじゃないのか?」

「なんだと──!」

 くそ、ジェラードめ言いやがったな。成長期なのか身長や体重が増えてきて体が重く感じてたのは事実だけど、私太ってないもん!

 近くにあった、卵をジェラードに向かって投げた! だが遠い他の男の人に当たってしまった。あっやば!

「こいつ!」

 とその男の人が卵を投げてくる。ジェラードは「ははは」と、悪ノリしてどんどん卵を他の人に投げていき、それはもうみんな卵だらけ。

 私もべとべとした卵にまみれて、馬鹿みたいにはしゃいで投げ合っていた。特にジェラード、あいつは許さん、人で遊びやがって! こにゃろー!

 そうやってジェラードと楽しい卵かけ祭りが終わって、彼が用意した宿で水あみして、お互い着替えた。まったくもう、ジェラードったら茶目っ気多いんだから。冬なので水を浴びると寒く、宿の暖炉で体を乾かす。

 となりにいたジェラードは私と笑いながら言った。

「お前の叫び具合はすごかったな、こんなに大声を出したのは初めて見たぞ」
「うっさい、ジェラードも叫んでいたじゃん」

「お前の随分と可愛らしい声とは違うだろ?」
「バーカ、一生女口説いていろ、変態」

「レディーを見かけて口説かない男が失礼ではないのか?」
「あっそ、他当たんなさいよ」

「私は一人の女性に夢中なのだよ、ミサ」
「ほかの女の人にも言ってんでしょ、そういうこと。私にはわかんだからね!」

 そう言うと彼はしゅんとした顔をした。えっ、何⁉ どういうこと、傷ついちゃったの! だから、私は思わず謝ってしまった。

「ご、ごめん。私を楽しまそうと必死なんだよね、ネーザンに来て知り合いも少ないだろうし、別に、迷惑とかそういうのじゃないから……」

 私が真剣になって謝ると彼は笑っていた。こいつ……!

「はっはは、ずいぶんと女らしい顔だったな、今の!」
「うっさいバカタレ!」

 私は顔を赤らめてしまった自覚があった。もう、ジェラードったら……! 二人の時間が過ぎていく、とりとめのない日常会話だったけど、彼は話をもる癖があるのか、彼のトークはとても面白い。

 やっぱモテる男は違うね、そりゃ、もうレディーならぞっこんだよ。うぅ、わ、私はウェリントンがいるから……。ほ、ほんとだよ……! ……本当かなあ? うーん、自分でもわかんない。

 これが恋のドキドキというものだろうか、自分で自分の事がわからなくて切なくなってしまう。

 そして夜になると、民族ダンスが大きなたきぎのもとで行われる。二人はそれを見つめていて、音楽が流れだすと、彼は私に手を出す。

「私と、踊ってくれますか? 愛しのミサ殿」
「……ええ、いいよ、ただし、今度は優しくしてね……」

「心得ました、マイレディ……」

 そして彼とロマンチックなダンスを楽しんだ。彼は私を抱き上げながら、静かにお互い舞った。夜が更けてしまう。彼は私を私の屋敷に送り、さびしそうに言った。

「また会いましょう、宰相閣下……」
「ええ、テットベリー伯爵……」

 そう言って二人笑った。彼との時間は楽しかった、夜にさよならを告げて彼は暗闇へと消える。私はそれに向かって手を出して見送った後、胸の鼓動が早くなってしまった。私はどっちが好きなんだろうか……、わかんないよ……私……。

 そんな馬鹿な私を、夜空では月が優しく温かに微笑んでいた……。
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