上 下
31 / 178
世界統一編

第三十一話 男の純情

しおりを挟む
「ちょっとぉ、ミサに引っ付きすぎよ、この娘、困ってるじゃない。控えなさいよ、ジェラード、私のミサに手をつけようなんて千年早いんだから、勝ったのはすごいけど、調子に乗りすぎよー。離れなさい! 離れなさいよ!」

 またもやメアリーが私とジェラードがみんなの拍手を受けている状態を、ぶちぶち言い始める。べ、別に私、嫌じゃないけど、まあ、みんなに誤解されたら困るけど……。ジェラードはそれを軽く笑い飛ばしながら言った。

「姫君、こういう時は、愛しの君と一緒にいるのを邪魔するべきでありませんよ、勝利の至福のひと時を、男と女が分かち合うのが高貴なる者の、騎士とレディーの運命でございます」

「何が愛しの君よ、ロリコン! 変態! ミサはあんたの遊びにつき合わせてるんじゃないよ、色男だからって、私認めないからね!」

 負けじとメアリーが毒づく。しかしかえって、ジェラードは嬉しそうにしてる。

「マイ・プリンセス。貴女が、神に導かれし私たちの仲に、横槍を入れるのは、たとえ姫君でも許されぬこと。このジャウストの勝利は私とミサの二人の運命でございます」

 ええ⁉ ジェラード、本気で言ってるの!? わかんないよ、男心が。私貴方にとってそういう女性ひとってこと? 本当!? 

 だがメアリーはジト目で言い始めた。

「そういう奴に限って、裏で女遊びしてるんだから。私にはわかるんだからね! ミサをダシにして純情をよそいつつ、投げ込まれたハンカチの中の美しい令嬢のもとに忍び寄って、夜を共にする気でしょ。

 私にはわかってるんですから!」

「どうやらプリンセスは宮廷劇を見すぎたようですな。私のミサへの純粋なる愛を理解できないとは」
「うるさいうるさい! こっちくんな、ロリコン伯爵! 私のミサには手を出させないんだからね! 帰れ、帰れ!」

 私への純情……え、そうなの……? でもメアリーは違うって言ってるし、わかんないよ……。

 そう私が葛藤していると、ジェラードは私に丁寧に礼をする。

「それでは愛しの我が君マイ・レディ、またお会いしましょう。今日は邪魔が入った模様。静かな場所でお互いに恋を語らいましょう」
「え、あ、はい……」

 私と彼とのやり取りにメアリーは、

「誰が邪魔よ、言いやがったな、こんちくしょー。いいから帰れ、しっ! しっ!」

 そう言って何度も手で払う。ジェラードは笑いながら去って行った。流石に彼にひどいと思ったのでメアリーに文句を言う。

「ひどいよー、メアリー。本気とは思ってないけど、あんな言い方、よくないよ。今日の主役だよ、彼」
「ミサ……。男ってね、ああ言いながら、よそできれいな女を作って、楽しむんだよ、男ってそうだから、だまされちゃダメ! 私の言うことを信じなさい。散々こういう話を周りから聞かされたんだから。わかった?」

 ええ、そうなの? わかんないや、恋の事なんて。はあ……。私はとりあえずメアリーの言葉にうなずいて周りを見渡した。

 そうすると王の席にウェリントンがいない! ええ、なんでいないの、どういうこと? 私は何かあったのかと思って、彼のおつきの宮廷貴族に聞いて回ると、どうやら、ジェラードの試合の後、無表情で席を外したらしい。

 まだまだ、試合があるし、王がいないと、この祭りに支障が出る。これは重大な事件だ。周りも動揺し始めている。彼を探して連れ戻さないと。でも気分が悪くなったのかなあ、血とか出るし、でも彼は男性だし、そういうことは慣れていると思うんだけど。

 私は宮中でウェリントンのことを聞きまわって、居場所を探す、どうやら、自室にこもったらしい、どうしたんだろう、彼、具合が悪いのかなあ。

 私の彼の部屋の護衛の騎士に頼んで、ドアを叩いてもらう、だが返事がない。まさか……? 何かあったの!?

 私は急いで彼の部屋に飛び込んだ!

「陛下! いかがなされましたか!」

 部屋の中に入ると彼は酒を飲んでいた。どうやら、病気とかではなさそう、でも、何だか様子が変だ。どうしたの、ウェリントン……。

 彼は静かに、「ミサか……」と言った。私はよくわからないので、「陛下いかがなされましたか……?」と尋ねる。でも彼は「ん……」といって何も言わない。どういうことだろう。

「どうなされたんです、陛下、お楽しみにされていた祭りではありませんか、お加減が優れないのでしょうか?」
「そうではない」

「では……?」
「そうだ、祭りであったな」

「どうかされましたか……」
「お前は……どう思う?」

「え、何がです?」
「とぼけるのではない、ジェラードだ!」

 えっ、えっ? ジェラード? 何で彼の名前が出てくるの?

「ミサ、あいつは男前で、強く、女性の扱いにもけている」
「ええ、そうですね」

「やはりか……!」
「なにがです?」

「おまえ、奴のことが好きなのだろう……! だから、あんなことを……」

 え、もしかして彼のほほにキスしたこと? それがなんで? 別に変じゃないと思うけど。彼は冗談で口説いてるんだと思うんだけどなあ、本当のところはよくわからないけど。

 そうするのが宮廷作法だし、正しい女性の扱いかただし、私もその作法にのっとってレディーとして役目を果たしただけだけど。

 ん? まさか、ウェリントン、彼に嫉妬してるの!?

 えっ、えっ!? それも私のことで、まさか……そんなこと……。

「いや、ああするのが、ご令嬢として当然と……」
「なら当然、奴に惚れているだろうな……!」

「ちがいますよ! 何言ってるんですか、もう!」
「照れなくてもわかるぞ、私みたいな、女の扱いを知らぬ男より、ああいう男が好みなのだな、お前は」

「ちがいますって!」

 彼はどんどんと酒を金の杯に注いで飲んでいってる、うわ、酔っ払ってるの、彼……。

「なら、なんなんだ!?」
「彼とは友達で……」

「嘘をつくな!」
「嘘じゃありません!」

「皆がそう言った……」
「陛下……?」

「私もこの歳だ、恋を知らぬ男ではない。私は王だ、女王にふさわしき女性を見定めて、想いを募らせることもあった。だが、女を知らぬ私から離れて、他の男へと去って行った。私のせいだとはわかってはおる。

 だがな、私だって一人の男だ、側にいて欲しいと思う女性がいても構わないだろう、だがしかし、皆が私の前から消えていく! きっとお前も……!」

 そう……、だったんだ。女性に興味がないわけじゃなくて、不器用だったんだ、ウェリントンは。彼だって一人の男だ、好きな女性の一人や二人いたのだろう、でも彼は王なのだ、王太子だったのだ。周りの視線があるし、おおやけに女性のもとに行くことはできない。

 だから周りには女性に興味のないふりをして、気丈にふるまっていたんだ。


 ……恋に焦がれながらも、恋にさよならを告げられた男、それがウェリントン。


 そんな彼を、私は──。

「私はあなたの元を離れませんよ……」
「ミサ?」

「私は貴方の側にいます……ウェリントン……」
「ミサ……!」

 そうして彼は私を強く抱きしめた。言葉は少なく彼はただ想いを込めて、

「私の側にいてくれ……ミサ……!」

 と言った。だから、私は、

「はい……」

 と答える。そして不器用な彼は、情熱的なその心のまま、私の瞳を見つめて、その情動とともに、彼は、私の唇に彼の唇を近づけていき……。

 ……そして──

 彼は、私のファーストキスを奪った……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。 彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。 そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。 この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。 その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...