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世界統一編

第三十話 馬上トーナメント大会③

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「ちょっと待ちなさいよ! ジェラード! 私のミサを口説こうなんて百年早いんだから! 何キザったらしいことやってんのよ! わきまえなさいよ、この遊び人! ふしだら男! きぃいいいい!」

 ジェラードの私へのアピールにメアリーがブチギレている。声が大きいよメアリー、あっ、ジェラードがこっち見て苦笑いしてる。ははは。あっ、ジェラードが馬から降りて、こっちに来ちゃった、どうしよう、あんなかっこいい姿を見せられて、普通にしていられるかな……。

 そしてジェラードはブーイングを飛ばしまくるメアリーに礼をした。

「どうかなさいましたか、マイプリンセス?」
「何がマイプリンセスよ! ふざけんじゃないわよ、何勝手に私のミサを口説いてんのよ、私認めないからね! 絶対に!」

「ほう、私とミサの仲に、貴女の許可が必要なのですか?」
「当たり前でしょ! 私姫よ! 姫! わきまえなさい!」

「これはこれは、メアリー姫殿下は実に気丈なお方だ」

 そして周りのみんなが彼の宮廷ジョークに笑い出した。メアリーは興奮した様子だ。

「うっさい! うっさい! 帰れ! 帰れ!」 
「そうですか、それでは、マイプリンセス。そして、愛しの我が君マイ・レディ……」

 そう言ってジェラードは私にウインクして颯爽さっそうと去って行った。

「きぃいいいいいいい!! むかつく! むかつく!」
「メアリー、もう……」

 当の私はどうしていいかわからずうろたえていた。だが、こそっと隣のご令嬢はメアリーに話しかけた。

「しかし、メアリー様、ジェラード卿に賭けてよかったですね。また勝ちましたよ」
「──当たり前でしょ、私が見込んだ男だからね」

 えええ、わかんないよ、メアリー! 女心は複雑すぎる! ううう、板挟みだよー。

「えーとジェラードの次の相手は誰かしら……」
「あ、次の試合の勝者ですね」

 そうだここのジャウストは3回戦ノックアウト戦で最後の試合が残っているんだった。メアリーと隣のご令嬢の話に耳をすませながら、ドキドキして行方を見つめていた。

 そして現れた騎士が、一回戦で抜群の試合を見せた、ルーカスだった。彼はネーザン一の騎士と言われるほどの能力の持ち主で、下級貴族でありながらのし上がり、先の大戦で私の護衛役を務め、また戦場でも活躍し、子爵の位をもらっている。

 嘘……ジェラードは彼と戦わなきゃいけないの、やめて、彼の能力はすごいんだよ。目の前で敵をバッタバッタと倒していったのを見た私からすれば、やばすぎる相手だ。

 あれ以来話す機会がなかったけど、ルーカスの伝説は私も知っている。巨大なイノシシを剣で仕留めたとか、クマと戦って勝ったとか、もう人外じみている。でもまだ彼には試合があるから。

 あいてはええと、げっ、オズモンドかい! オズモンドも強いけど流石に、ルーカス相手では……。

 お互い、試合準備をして、試合開始の角笛が鳴って、二人は騎馬突撃を交わす! 第一打は互角だった。私はジャウストは初めて見るからよくわからないけど、二人ともすごい勢いで戦い、これまでの試合との違いがよく分かった。

 高度なレベル同士の戦い、それで、二人は折れたランスを取り換えて、再度突撃する。その時だ、巧みに馬を走らせたルーカスがオズモンドの胸中心部分にランスを叩きつけた!
 
 ……その後がすごかった。

 オズモンドの体が吹っ飛び、数メートル先に飛ばされた、うわああああ、なんてことなの……オズモンドとはいえ大丈夫……?

 彼は一瞬気を失っていたが、従者に起こされ、よろめきながら立ち上がった。怖い、怖すぎるよこの競技は! 死人出るよー!

「ねえ、ルーカスの次の相手、ジェラードだよね」
「そうですね、ジェラード卿ですね……」

 メアリーとご令嬢は不安そうな声を出した。そうだよ、ジェラード、次ルーカスだよ、これ死んじゃうよ! やめてやめて、もう、やめてよ!

 ご令嬢方はみんなジェラード側なのか、

「うそ……ジェラード様……」
「いや、見たくない……!」
「中止、そう! こんな野蛮な競技は中止するべきだわ……!」

 とか言って、お通夜モードだ。うわあああ、どうしよう──!

 そんな中、ジェラードの最後の試合が刻一刻と近づき、皆が不安げにしている。だが彼は名前を呼ばれるとランスを掲げる。みんなは先を想って、シーンとしていた。その中、大きな音を立てて、拍手するものがいた。メアリーだ。

「何やってるの、みんな! 男が決意を込めて戦おうっていうのよ、女なら背中を叩いてあげなさい! それが女の役目よ! ほら、拍手なさい!」

 彼女の言葉に勇気づけられ私たちは大きな拍手をジェラードに浴びせた。そうだよ、ジェラードは戦う男なんだ、女の都合で彼を止めるなんてもってのほか。これは男と男の名誉の戦い、ジャウスト。騎士同士の戦いなのだ。

 誇りある戦いに水を差していけない、私たちは祈るしかないんだ、そう、神に……!

 角笛が吹かれジェラードは槍を構えつつ、雄々しく、獅子のように、巨大な体躯たいくのルーカスに突撃していく!

突撃──チャージ!」
突撃──チャージ!」

 刹那の交差、第一打は互角だった。ジェラードはルーカスの肩に当て、ルーカスはジェラードの腹に当てる。お互い平然と戻っていったが、打撲や骨折するレベルだ。私は緊張で息がまともにできなかった、お願い、神様、ジェラードを守って……!

 そして二人は壊れた槍を交換し、またもや突撃する!

突撃──チャージ!」
突撃──チャージ!」

 その時だった、ルーカスの馬がわずかに早くスピードに乗ってジェラードに槍が向かう! ゼロコンマの交差で、ジェラードの太ももに槍が当たり、バランスを崩したジェラードの馬が前足を上げた、危ない!

 だが、ジェラードは気合で手綱を引き、馬をコントロールしながら、持ち場に戻っていく、しかし明らかにジェラードの騎乗がおかしい、足を怪我していては、上手く馬を扱えない。もう、やめて……! がんばったでしょ、みんな認めてるよ、ここで降参しても誰も文句言わないよ!

 だが彼は違った。「ランス! ランス!」と呼び掛けて、従者に槍を交換させる、嘘……! やる気なの……! そして彼は掛け声とともに馬を走らせる!

突撃──チャーァジ!!」
突撃──チャーァジ!!」

 ほんのわずかだった、ジェラードは微妙に構えを直して、滑り込むように槍を交差させる──。

 そして──。

 その勢いのまま、ジェラードはルーカスの右胸に槍を叩き込んだ──!

「ブォオオン!」

 馬が衝撃でいななき倒れ、そしてルーカスは落馬し……、ジェラードの勝利だ──!

「うおおぉおおおおおお─────!」

「やった! やったあぁ! 勝ったよ、メアリー! ジェラードが!」
「そうね! よくやったわ! ジェラード!」

 そうして私とメアリーは抱き合って飛びあがっていた。

 ジェラードは馬から降り、足を引きずりながらもルーカスのもとへ急ぐ。そしてジェラードはルーカスを立ち上がらせて二人握手して、お互いにウェリントンに向かって両手を広げながら礼をした。

 会場は山が動くような拍手大喝采で包まれる。すごい! すごいよ! ジェラード! 私は拍手を惜しまない、そして、会場にテットベリー伯の鷹の旗が掲げられた。

「おおおおぉ──!!」

 興奮で、会場にご婦人からハンカチやスカーフが投げ込まれる。ハンカチは貴婦人の半身のため、ジェラードに抱かれてもかまわないという貴人の意思の表れ、それほどの賞賛なのだ!

 従者がハンカチやスカーフを回収して丁重にしまう中、ジェラードは私のもとへ足を引きずりながら歩いてくる。ジェラード……!

 そして彼はこう言った。

「──愛しの我が君よマイ・レディ。恋に惑う哀れなこの私に、勝利の口づけを……!」
「はい……!」

 そして私は彼の頬にキスをした。湧き上がる大歓声、彼は私を抱き上げて両手を掲げる。これがジャウスト……! 騎士たちの誇りある戦いなのだ──!
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