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世界統一編

第二十七話 謹賀新年

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 私は公務員と言えば公務員なんだけど、宰相の年末は忙しい。なんといっても王宮には新年のあいさつがある。王族のその他もろもろの行事は宮宰きゅうさいの仕事なんだけど、予算をつけなければならない。

 日本のように年度末があって、収入を管理されていれば、ある程度流れ作業で予算をつけやすくなるけど、中世なんて徴税の管理がまともにできていない、国王直轄領の税収、関税、贅沢品ぜいたくひんの税、貿易税その他もろもろが雑多に入ってきて、管理が難しい。

 この世界では、新年あけに統一祭というお祭りごとがあって、古代、アレクサンダーが統一王になった前後一週間、宮廷や街中で祭りがある、その出費や計画を宮廷だけではまかなえないし、外交パーティーがある。

 少し長くなったけど、この世界の年末の公務員は忙しい! 私はひいひい言いながら書類に目を通したり、現場の人間に、叱咤激励したり、王宮と閣僚の打ち合わせで、あわただしく仕事をしていた。

 とりあえず反大陸同盟の賠償の件はおいといて、良い新年を迎えるために、頑張らなきゃ。クリスマス? この世界にそんなものねえよ! わたしゃ、重労働にびっくりだよ! 官僚って暇そうにしていたけど、忙しい時は残業だからね、国民は感謝するように。

「あっ、ジャスミン、ここの予算、財務省に回しといて、国債を発行するから」
「いいのですが、まだ、戦争の出費の返すめどがついていないのによろしいのでしょうか、財務官僚が嫌がりますよ、赤字国債は」

 私の右腕のジャスミンに指示を送っていた。彼はたたき上げの官僚のため、こういう融通ゆうずうの利かないところもある。それに対し私はこう言った。

「今年の新年は豪奢ごうしゃにするよ、大陸同盟勝利の祝いもあるし、それに、外務省があの事を言っていたでしょ」
「統一王選挙のことですか……?」

 太古の昔、諸部族の王から、選挙を受けて英雄アレクサンダーは統一王になった。現在、魔族の出現が見られ、大陸中が不安に駆られる中、民は、新たな強いリーダーを求めていた。そう統一王を。

「わかっているとおもうけど、ネーザン王は統一王選挙で筆頭格のリーダーよ、何とか各国を説得して、大陸をまとめなければ、来たる魔族の襲撃に人類が立ち向かえるかわからない。選挙で大陸が分断されるわけにはいかないの」

「大陸同盟戦争の主役ですからね、我が王は。しかし、その名声に応じて、反感を持つものも多い」

 有名人にはアンチがつきものだ。嫉妬や、あれやこれやと文句をつけるものが出てくる、本人に大した非がなくとも。とくに反同盟側にはネーザン王ウェリントンへの反感が強い。

「そう、だから、そいつらを黙らせるために、この大陸にネーザンあり! というのを見せつけなきゃならないの、特に統一祭はね。なんとしても盛大に大成功させなければならない、国家の威信にかけて、大陸の未来のために」

「そうでしたか、かしこまりました。財務官僚の文句は聞き流しましょう、そのように差配します、わが宰相閣下」

「世話かけるね、ジャスミン、疲れているだろうけどお願い」
「何をおっしゃります、私はミサミサ団の親衛隊ですよ、貴女のために働けて光栄です」

 ついでに大陸同盟戦争で私が活躍したため、人気が爆上がりとなりミサミサ団もネーザン国中にひろまり、親衛隊なぞできてしまった。モテるのはいいけど、私幼女だよ、いいんかな……。まあ、みんながよく働いてくれるのは嬉しい。士気が高いことはいいことだ。

「頼むよ、ジャスミン」

 そうやって仕事漬けで、年末を私たちは終わらせた。私はもう、疲れていたので、新年の王宮の挨拶は3日からにした。その間、屋敷でごろごろしながらスイーツを食べまくって、執事やメイドに怒られてしまった。だってつかれたんだもーん。

 元気いっぱいになって顔色もよくなったので、大手を振って私は王宮に向かった。もちろんウェリントンへの新年のあいさつだ。

「お久しぶりです、宰相、ミサ・エチゴ・オブ・リーガンでございます」

 玉座に座ったウェリントンは嬉しそうに「ん」と返事をした。続けて私は新年を寿ことほぐ。

「昨年の戦さも終わり、陛下のおかげで、平らかな新年を迎えることが出来ました。臣としてこの上なく歓喜に堪えません。いよいよ幸先よく、麗しきご尊顔を拝謁はいえつたてまつり光栄でございます。

 陛下の輝きは飛ぶ鳥を落とす勢いで大陸中に広まっております。わたくし、この目出たき新年を迎えられたことを子々孫々まで誇りに思い、つつしんで賀し奉ります」

「ん! よくぞ言った! 統一祭の準備はどうなっておるか?」
「は! とどこおりなく準備ができております」

「トーナメント大会はどうなっておるか?」

 トーナメント大会は天下一武道会とかじゃなく、馬上トーナメント大会といって、お祝い事に騎士たちが馬に乗って戦う祭りやうたげのことだ。大層、貴族たちに人気があって、王や諸侯の権力を示すのに開かれたり、貴族たちの団結を固める祭りだ。

 中世ヨーロッパや、この世界では重要なことだ。試合は神の導きによるものと言い伝えがある、これがうまくいけば、ウェリントンの権威も内外に轟くことになる。もちろん準備済みだ。

「はっ、諸侯にすでに招待状を送っており、のべ300人の精鋭騎士たちが参加する模様でございます」

「ほう,三百か! 盛大な祝いになりそうだな、よくやった、ミサ、これからも頼むぞ。お前のいないネーザンなど考えられぬ。ミサあってのネーザンだ」

「身に余るお言葉、ありがたく頂戴します、宰相としてこの上なき歓びでございます」

「ところでだ、ミサ」
「は?」

「民たちに新年のあいさつをしようと宮宰のカンビアスに午後より王宮にレスターの民を集めておる。お前も来い」

「はっ、光栄でございます」

 公式にネーザン王と宰相である私を民に見せて、王宮への忠誠心をあおるということだ。ウェリントンは戴冠たいかんしてから忙しかったし、もちろん新王を差し置いて私が民に顔を売って、関心を買うことは不忠だ。

 ほぼ初めての民衆への顔見せになる。一応、凱旋式がいせんしきはやったけど、改めて落ち着いて顔を見せるのは初めてだ。緊張するな。

 私は控室で王宮貴族の歓待を受けて、食事を済ました。この世界の新年は統一祭で盛大にやるため、王宮では普通の料理だったから、ぺろりと平らげた。とくにおいしい以外感想はなかったが、それも緊張していたためかもしれない。

 なにしろ私は幼女だ、民に受け入れてもらえるかどうか……。

 私とウェリントン、王宮貴族はエクスター宮殿のベランダに向かい光り当たる民のもとへ堂々と現れた。

 レスター市民は歓喜の声を上げ、自分たちの王をこの目で見たことに感激し、涙を流す者もいた。すごい人気だなあ、ウェリントンは。それはそうか、大戦の王者だから、英雄だもん。私は彼のそばに居られて誇らしかった。

 そして宮宰のカンビアスが民たちに告げた。

「レスター市民よ! 我らが第四十二代ネーザン王 ウェリントン・レリック・ジョージ・リッチモンド・オブ・ウェストミンスター陛下である!」

「おおっ───!!」

 ウェリントンは民たちの声に誇らしげに雄々しくあいさつした。

「臣民よ、よくあつまってくれた、ネーザン王としてこの場にいられることを誇りに思う、良き新年を暮らせ!」
「ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン!」

 おお、凄い盛り上がりだ、簡単な挨拶なのに、みんな歓びで震えているぞ。すごいなあ。続けてびっくりしたけど、カンビアスは市民たちに告げる。

「そして、この傍に居られる方が、ネーザン宰相、リーガン伯 ミサ・エチゴ卿である!」

 え!? 私? そんなの聞いてないよ、あいさつするとは言っていたけど、顔見せぐらいじゃないの? 私が民に堂々と前に立つなんて。戸惑っていると、ウェリントンが私の肩を右手で抱いて、いっしょに前に立ってくれた。

「おおっ!!」

 と民の言葉に、なんだか私も勇気が出てきた。ありがとうウェリントン、やっぱり王としては完璧だよ。よし、私も何か言わないと……! そして私はみんなに告げた。

「みんな! 楽しんでる──!? 新年おめでとーう!」

 その瞬間皆がシーンとした。あ、しまった、私、幼女だった。あまり軽いと見くびられて権威が傷つくし、びっくりするよー。失敗したー! と思っていたら、むしろそれが市民にウケたらしく、皆が大声で叫んだ!

「ザ・カウンテス・オブ・リーガン! ザ・カウンテス・オブ・リーガン! ザ・カウンテス・オブ・リーガン!」

「ミサ様──!!」
「うおおおぉ!!」
「幼女サイコ──!!!」
「嫁に来てくれ──!」

 一部けしからん声も聞こえたが、とにかく私は民たちに認められたようだ。良かった……。みんなの声で励まされて、楽しい新年が幕開けしたのだった。
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