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世界統一編

第二十五話 戦勝祝宴会③

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「陛下、ちょっとよろしいでしょうか?」

 私は一言物申そうと、宴会の中一人酒を飲むウェリントンに話しかけるのだった。

「うん? 何だミサ、お前酒はいける口か? 幼女ゆえ、あまり飲めぬだろうが、フォアグラのブラウンソース煮に合う酒はどれかと飲み比べておったのだ」

 そんなことで必死に悩んでいたのか、ウェリントンは意外と酒を飲む男なので、まあ酒好きってことでわかるけど、この場は祝宴会という貴族の社交場だ、国王たるものが自分の趣味で周りを無視するのは良くない。だから私は注意をした。

「陛下、せっかくの祝宴会で音楽が流れているのです、諸国のご令嬢の方々も陛下と踊ることを楽しみにしていると見受けられます、ここはどうか、誰かを誘って踊って差し上げてはいかがでしょうか?」

「そんなものジェラード辺りにさせておけばよい、私はダンスがそれほどうまくないし、あの男は女にもてるだろう?

 同じ男でも、それぐらいはわかる。器量がいいし、女性の扱いも洗練されている、さっきからキャーキャー女の叫び声が聞こえてくるがどうせジェラードではないのか」

「まあ、それはそうですが、すべてテットベリー伯に押し付けるとはいかがなものでしょうか。陛下の風聞に関わりますし」

「言いたい奴には言わせておけばよい、どうせなら、お前もジェラードと踊ってみたらどうだ? エジンバラ仕込みの宮廷ダンスを披露してくれるだろう」
「彼とはさっき踊りました! おかげで酷い目に……それはいいのです! 問題をそらさないでください!」

「ああやっぱり、さっきキャーキャーお前の声が聴こえたような気がしたが、やっぱりお前だったか、楽しめてよかったな、ははは……」
「いや、だから話をそらさないでください! いいですか陛下! 貴方は未婚の男性です、これほどのご令嬢方が集まっているのに無視するのは男性として失礼ですよ!」

「ん? ……割とずけずけと言うようになったな、ミサ」

「気分を害したのなら申し訳ありません。しかしながら、陛下には今のうちにしかるべき女性を見つけてもらって結婚していただかないと臣下たちがネーザン王家を危うがって心をみだしております。せめて婚約者ぐらい形だけでいいですから、見つけていただかないと」

 これは貴族社会で大事なことだ、特に国王である彼がしかるべき女性がいないだけで陰謀や謀略の的になる。ネーザン王家を乗っ取ろうと考える不逞ふていやからも出てくるだろう。それを避けるため彼に相応の女性を見つけていただかないと国政が乱れるもとだ。

「ああ、今日は無礼講で良い、お前も私の未来の妻に関して不安なのか、よくわかった。それならお前が適当に見繕みつくろってくれ」
「は?」

 何言ってんの、ウェリントン本気で言ってるの?

「いやいや、陛下のお好みの女性とかいるでしょう、それを聞いて、陛下に見合う身分で、また、結婚生活がうまくいくかどうか陛下御自身で確かめていただかないと……」

「女性なんかどれも同じではないのか? 女王としての教養、素質、そして器の大きさそれが重要だ。あとは子どもが産めれば誰でもよい、ああ、そうだ、それなら、お前が結婚相手になってくれるか?

 気心が知れているし、頭が切れるし、私もよからぬ結婚生活の心配をしなくて済みそうだ」

 ……マジで言ってるのかこの天然陛下は……!

「陛下、私は幼女ですよ?」
「ああそうだが、十年もすれば妙齢みょうれいになるだろう、その頃は私も男盛りの年頃だし、丁度いいんじゃないか?」

 マジで言ってるようだ、私は少し頭を抱えた。

「私は異世界の人間でどこの産まれかもわからないんですよ! 後ろ盾もありません、貴族たちが許すはずもないでしょう!」
「文句を言う輩がいれば、私自身が叩き潰そう、魔族との戦いが心配だが、伴侶はんりょを守るためならやぶさかではない、騎士道として真っ当だ、私が受けて立とう」

「やめてください! 自ら国政を乱すような真似は。いいですか、陛下にはしかるべきりっぱなご令嬢を妻に迎えてもらいます!」
「強情だな、そなたは。ふつう王妃となれるなら女性なら喜ぶものだと思っていたが……」

 そりゃ、ウェリントンみたいなイケメン国王に告白まがいなことを言われたので、正直ドキドキしてますよ! でもですね、これは政治なんです。私が王妃として務まるような素晴らしい女じゃないし、貴方と釣り合わないでしょう! 

 もう! 自分を押し殺して私は我慢しているのに、天然でずけずけと、女心をかきむしるんだからこの人は! カールトン会戦の前の時、抱き着かれたときは正直やべっ、このまま押し倒されてもいいとか思っていましたよ。

 でもその次の日に私がどぎまぎしていると、けろっと何事もなかったかのように平然としやがって、マジで唖然あぜんとしたわ!

 コイツ、ホント世話のかかるやつだな、もう! 私が心の中で葛藤かっとうをしていると、彼はいきなり真剣な表情でこちらをまじまじと見つめてきた。

 な、何、私の顔に何かついてるの……? 私が戸惑っているといきなり彼が私に抱き着いてきた! え!? え、なに、何なの? な、なななな。

 ──そして彼は私の耳元で甘くささやいた……。

「……お前に拒否権があるのか……?」

 えっ、え、え、な、な、私、え? もしかして本気なの彼……。本気で私を……。ど、どうしよう、私ウェリントンのこと好きだけど、そんな、いきなり結婚だなんて、私恋愛なんてしたことないし、どうしたらいいのか……。

 でもいきなり、え、でも私幼女、でも……、女だから、あ、どう……し……よう……?

 そう考えていると彼は私を放して、そっと笑顔で見つめていた。え、どういうこと、何、何なの……? と思っていたら彼は、平然としていた。

「ん? どうしたんだ、ミサ?」

 は? 何、こっちがどうしたんだだよー!? どういうことなんだよ! わかんない、ないよー、ウェリントン! え、なに、私キープってこと、十年間彼が待ってくれればOKってこと、わかんないよー!

 私は体が火照ほてっていたまま、固まっていると、けろっと彼は告げたのだ。

「──ああ、そう言えばメアリー姉上がさっき速足で会場から出ていったが何かあったのか? 私が近くにいるというのに挨拶なしとは、さすがに無礼だなっと思っていたところだ。」
「ええっ! メアリー……殿下が!? 何でそれを早く言ってくれないんですか!」

「ん? 何かあったのか」
「──ああ、説明しても陛下にわかってもらうには一週間ぐらいかかりそうですから、やめときます。私のことは……まあ、おいといて、いいですか! 女性のこと、考えておいてくださいね! もう、冗談はやめてください!

 ──あと、フォアグラのブラウンソース煮にはトカイのワインが合います、それでは失礼します!」

 そう言って真っ赤な顔を見られたくなかったので、彼の前から立ち去ろうとしたら、

「……なるほど、トカイか……いいな、ふむ、いけるな。……月に一度は食するのもいいな……」

 と、後ろから素っ頓狂すっとんきょうなセリフが聴こえたけど、いまは彼にかまっている暇はないしこの場にいるとムードに流されてどうなっちゃうかわかんない! とりあえず、メアリーをフォローしないと……!

 私は周りの者に聞きまわってメアリーの居所を捜しあてた、どうやら客室で引き籠っているらしい、やっぱりジェラードにダンスの誘いを断わられてメンツを潰されたことを怒っているんだ。ジェラードは私の大事な親友だし、メアリーも大事な親友だ。

 この先二人は同じネーザン国の貴族として何度も顔を合わせるだろうし、何とかメアリーの傷心を慰めて、ジェラードの事をフォローしないと。

 たぶん彼は、主役のウェリントンがああいう男性なことを悟っていたから、自ら社交場の道化役を買って出たのだ。祝宴会を盛り上げなければと臣下の立場としての考えだ。そうじゃなきゃ、あんな女性のメンツを潰すようなことをするような奴じゃない。

 実はメアリーと親しいことを昔ジェラードに話していたし、私が後でフォローすると見込んでのことだろう。まったく、宰相として仕事のし甲斐がありますよ。

 メアリーがいる客室をノックした。すると、

「あーい、なにー?」

 と、彼女のろれつの回らない口調で返事が返ってきた。

「メアリー殿下、ミサ・エチゴでございます、少々よろしいでしょうか?」
「あ~? 勝手に入れば~?」

 と帰って来たので、失礼いたしますと言って、そっと入ると、メアリーが酒瓶を口づけで飲んでいた。まわりには執事のスミスしかいなかった。うわ、酒臭い、悪酔いしているから、スミスが気を聞かせてほかの者を下がらせたんだな。流石に彼女の風聞に関わるから。

「あ~ら、社交界の憧れ、ジェラード様のお相手のミサじゃないの~ひっく、どう、私を踏み台にした気分は、ざまあ~って思ってるんでしょ、言っていいよ、ざまあ~って、ほら、言いなさいよー!」

 と、毒づいてきた、もう、ほんとに手間がかかる姉弟だなあもう、だから私は彼女としっかり話し合うことにした。
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