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世界統一編

第二十一話 降伏使者

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「ふむ、ミサ殿が同行するかなるほど……」

 リッチフォード王は考え込んでしまった。えっ、出たとこ勝負でつい口をはさんでしまったけど、これってめっちゃ危険な任務だよね、何で悩んでるの? 幼女があの野蛮なエジンバラ王のもとに行こうとしているんだよ、止めないの……?

「それも一つの手ではあるな……」
「えっ……?」

 ウェストヘイム王の発言に逆に私がびっくりした。

「えっ、とはどうしたのだ、そなたが言い出したことではないか?」
「ま、まあそうですけど……」

 ワックスリバー王の発言に私のほうが慌て始めた。ほかの諸侯もうなずき始めている、ど、どういうことなの……?

「ミサ殿の弁舌ならエジンバラ王も舌を巻くであろう、ははっは……」

 サンダーランド公まで……! この人たちマジだ、マジで幼女を行かす気だ。もしかして、この人たち、連日の連勝の報告で判断力がおかしくなっているの?

 これが勝利に酔うってことか……! マジでいい加減にせいよ、この大雑把さ、普通、名のある騎士が代わりに私が! って出るとこでしょう。

 そんな危険な任務を幼女にやらせるな、アホー!

「私は反対だ、ミサがいくら弁が立つとはいえ、そんな危険な任務を女性に、しかも幼女にやらせるわけにはいかない」

 ──そうだよ。ウェリントンはまともだった、良かったーと思いきや、

「まさかエジンバラ王でも幼女には手を出すまいよ、ネーザン王も心配性じゃな、ははは」

 リッチフォード王、それはちがう、ちがうよ、マジでアレな感じな人だったじゃない、エジンバラ王は! 止めようよ年長者だし、そこは!

「リッチフォード王、エジンバラ王はここにいるジェラード卿の父君、テットベリー伯を言いがかりをつけて処刑したのだぞ、女子供だからといって遠慮するような、御仁ごじんではないでしょう」

「だが、この場でエジンバラ王を説き伏せるようなものがおるのか、ネーザン王の心配もわかるが、さっきグロスターを火の海にするのは避けたいとそなたが申したではないか」

「しかし……!」

 ああ──! 藪蛇やぶへびだった! やらかしたー! 詰んだ、このクソゲー詰みましたよ、これ! そう私が心の中で泣いているうちに、声を上げるものがいた、ジェラードだった。

「ネーザン国王陛下、リーガン伯とは知己ちきの仲、命に代えても私がお守りいたすと騎士の誓いをささげましょう、それでいかがでしょうか?」

 ジェラード……もしかして、本当に貴方死ぬ気なの……! 少し逡巡しゅんじゅんがあった後どうやらウェリントンも彼の真剣な目を見て決断をしたようだ。

「……よかろう、騎士がそう言いだした以上、王として見過ごすわけにはいかない。ミサをそなたに同行させよう、ただし、騎士の名誉に誓ってミサを守ると言った以上、そなたは死してもミサだけは生かせ、よいな……!」
「はっ! かしこまりました!」

 そう言ってジェラードは席を立ち、片膝を立てて地に座り、右こぶしを握り胸に当てる。ウェリントンは剣を抜き、刃を立てないよう肩に剣の腹をびしりと当てた。

 騎士の誓い、メアリーに聞いた話しだけど、この世界では騎士の誓いを捧げてしまえば最後、命をかけて守らなければならない。破ったら子々孫々まで呪いを受け自領の民からでさえも石を投げられて当然な程の大切な意味を持つ。

 悪くいけばお家断絶だ。ジェラードがここまで腹をくくっている以上、私も命がけで説得に行かなければならない。なるほどそこまでの覚悟があるなら──よし、私も腹が決まった、この戦い、私が終わらす……!

 一週間後、エジンバラ王都グロスターは大陸同盟軍で包囲して、一触即発の雰囲気だった。まずはエジンバラ王や市民に対して威圧だ、外交は剣と弁をもって行わなければならない。

 私は独りで騎乗できるような馬術を持ち合わせていないので、ジェラードが乗っている馬にちょこんと前に座らせてもらった。割と馬上は揺れるから怖い。

 まあそれよりも怖いのはこれからだ、エジンバラ王都に命がけで説得しなければならない。正直言って私がエジンバラ王の人柄を調べて思ったことは、戦争で必要ならば幼女でも斬るだろう。

 私はまだ死ぬつもりはないし、この世界にも愛着がわいている。必ず成功させなければならない。そう思うと緊張で手が震えていた。それに対しジェラードは安心するよう声をかけた。

「大丈夫だ、臣下の騎士たちにもしもの時にそなただけを逃がせるようグロスターの地下道から外に出られるよう手配している。道中は私がそなたを命懸けで守る」

「そうじゃないの、ジェラード。もし私が下手を打つと貴方が殺される可能性が高い、私は死ぬつもりはないけど、貴方は違うでしょう、この先貴方のような騎士がいないと、ヴェスペリアはどうなるかわからない。それが怖い」

「この期に及んで私の心配とは、けいは気丈だな。必ず生きるとは誓えぬが、そなたの心配を現実にしないよう気を付けよう。ブレマー家を私で断絶させては、祖先の名誉にかかわる。なら、騎士としての務めを果たすまでだ」

「そう……、少し安心した。きっとうまくいくと信じてる」
「救世主殿にそう言っていただけるとは光栄だな、名誉あるこの任、必ずや成功して見せよう」

 その彼の勇ましい言葉で安心した。彼はレディーの扱いに非常になれている感じがした、ウェリントンは女性関係が割と雑なところがあるが、この人は騎士らしい騎士だなっと、尊敬の念がますますわいてきた。

 グロスターの正門に私たち二人っきりでやってきた。敵の指揮官であろう、私たちに威風堂々と尋ねてきた。

「そなたたちこのような時期に何用か、命が惜しければ大人しく去るがいい!」
「わたしはテットベリー伯の息子トリントン子爵だ、大陸大同盟軍の使者として参った。エジンバラ国王陛下にお目通り願いたい!」

「何、テットベリー伯の息子⁉ しばし待たれよ!」

 そして指揮官は配下の者にあれこれ指示したようで30分ほどたってグロスターの正門が開いた。勝負はここからだ……!

 市内は静まりきっていた、私たちを奇妙かつ恐怖の目で見つめていた。当然だ、市民にとってこれから包囲戦が行われる恐れがあるのだ、火のついた藁の玉や腐敗した死体、岩などがカタパルトで投げ込まれ、その上、兵が入ってくれば、どうしても戦争である以上、攻略戦では略奪が起こる、市民は不安で仕方ないだろう。

 私たちはそれを避けるため来たのだ。決意を新たにして、エジンバラ王宮にのぞんだ。

 謁見室に入るとそこにはエジンバラ王が威厳をもった風体で、どっしり玉座に鎧を着て剣を抜いて座っている。周りももちろん武装している。一触即発の空気、私は息をんだ。そして私たちはエジンバラ王の前で片ひざをついた。ジェラードが恐る恐る口を開いた。

「お久しゅうございます、テットベリー伯の息子、トリントン子爵、ジェラードでございます」
「私はネーザン国宰相……」

 私の言葉を待つまでもなくエジンバラ王はジェラードに語り掛ける。

「よくぞわしの前に来られたものだ、ジェラード……!」
「お怒りは重々……」

「貴様のせいでカールトンでの大敗北を受け、多くの騎士が死んだ。この者たちの親兄弟親戚がネーザンの小僧どもの手下に手にかかり、今も捕虜となり、人質として金銭を要求している」

 一気に場が殺気立つ、周りが身構えた。まずい……。もとからエジンバラ王はジェラードを斬る気だ──

「それもすべてヴェスペリアの未来を思ってこそでございます」
「何がヴェスペリアだ! 何が魔族だ! そんなもの戯言にすぎぬ!」

「国王陛下、貴方には隠しておりましたが、すでに魔族は入り込んでおります」
「何だと……!」

 ちょっと待って私聞いてない、どういうこと──!

「エジンバラ王国の隣国、チェスター候領にすでに魔族が現れ、村が焼かれ、略奪されました。大戦さの前ということで人心を迷わせぬよう父上は黙っているようにとおっしゃっておりましたが、散発的にわが隣国で魔族の足跡が残っておりました。

 獣のような爪で村人は引き裂かれ、体は火で焼かれ、石にされた者もおりました。いずれ魔族の本格的な侵攻もまもなくはじまるでしょう……」
 
「チェスター候! ここにおるはずであるな! まことか⁉」
 
 エジンバラ王の問いに、年老いたきらびやかな、サーコートやケープを着た騎士が静かに語った。
 
「……あれは伝説に出てくる魔族の仕業と神父たちは言っておりました。騎士たちも不可思議な死体に目を疑っておりましたな」
「なぜ黙っていた⁉」
 
「戦争に勝てば、この大陸も静かになると私は考え、魔族への対策も可能と私は……」
 
「馬鹿者が……魔族がそなたらが思うほどたやすい相手ではない、我がエジンバラ王家の先祖たちが多くの血を流しこの大陸を守ったのだ、特に我がエジンバラは死力を上げ五魔貴族の一人を討ち取ったと伝説があった。古いおとぎ話だと思っていたが……」

 エジンバラ王は天井を見てため息をついた、謁見室の天井には古い魔族との伝説の戦いが描かれていた。ジェラードはそれに続ける。

「加えて、私はこの目で進軍しているうちに魔族の仕業と見える、死体を数多く見てきました。ネーザン国王陛下に上奏したところ、戦さが終わるまで口止めされておりましたが、この場に及んで隠す気はございません」

「ん……ジェラードそなたの言い方だと魔族が我が反ネーザン同盟領を狙い打ちにしていると聴こえるが?」

「魔族はどうやら知恵をつけているようです。反ネーザン同盟が負けが濃厚となるとそこのスキを付き静かに荒らし始めた兆候がございます。

 この場にいる諸侯のお歴々の方々の領地もそうです。ここに集まっているため、知っておるか知らぬか存じませぬが、領地に魔族の傷跡が残っております」

 周りは騒めき始めた、他人事と思っていた魔族侵攻が自分の領地が狙われているとなると話は別だ。ジェラードの貴族の心理をついた上手い説得の仕方だ、これならエジンバラ王も納得するはず……! そして、エジンバラ王は静かに言った。

「……ジェラード、ご苦労だった」
「はっ」

 エジンバラ王がそう言った途端、剣をジェラードのほうに向けた。──えっ? どういう……⁉

「よく最後の忠義を行った、もう良いだろう、──お前はもう用済みだ……!」
「……陛下ならそうくると思っていました」

 エジンバラ王、ジェラード、どういうことなの? まさかこの期に及んでジェラードを斬るの⁉ エジンバラ王はこの場で立ち上がり高らかに宣言した。

「我ら反ネーザン同盟は、この包囲戦に勝利したのち、魔族との戦いを行う、皆の者それでよいな!」

 なっ……? 何を言っているの、ちょっと待ってよ、無茶苦茶すぎる。周りの貴族たちもうろたえ始めている。

「トリントン子爵、いや、ジェラード、この者は我がエジンバラ国に忠誠を誓いながら、その期待を裏切り、敵と通じ、我らの同胞を殺した! よってこの場にて死刑に処する!」

 ちょっとまって、展開に追いつけない、エジンバラ王の瞳を見ると本気のようだ、王は剣を振り上げジェラードに斬りつけようとした、──危ない!

「お待ちください! エジンバラ国王陛下!」

 私は思わず叫んだ──!
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