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世界統一編

第十二話 戦争序曲

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 大戦争が始まるとなって私の日常はあわただしくなった。騎士たちの装備は自前で用意するものだが、民兵の装備、矢の膨大な準備、食料、輸送計画を私が陣頭指揮をして、取り仕切ることとなった。

 中でも私を悩ませたのが騎士たちが出兵した後、その空白期間の間、領地の治安をどうするかだ。

 騎士の総動員となると各領地の治安が悪化する。盗賊、山賊、海賊退治などは、騎士たちが行うものだ。傭兵に任すと、勝手に領地をのっとって荒らしまくる。

 この世界、略奪など日常茶飯事だ。戦争に勝っても国が傾いたのでは意味がない。だから、私はジャスミンにこう提案した。

「治安維持のため、民兵治安組織を構成するよう、国務大臣と調整してくれない?」
「……民兵組織ですか、それは国庫負担ですか? そうなるとただでさえ、戦争で財務状況が火の車なのに、さらに出費となると……」

「この際、各領地に王宮から徴税人を派遣して、各領地がバラバラで非効率な徴税バランスを見直すようにするつもり」
「なんと……、それは……禁忌きんきではないでしょうか。各領地はあくまで領主の物。中央の支配を受けるとして各領主が納得しないと思われます」

「この総動員のなか、徴税効率が悪くなるのは領主たちもわかっているはず。なら、民兵組織費用として、負担分を領主たちでまかなうための徴税としての名目ができる。

 領主だって出兵中に自分の領土が乗っ取られるのはなんとしても避けたいでしょう。代わりに戦争にかかる債務さいむを王宮が持つことで帳尻を合わせましょう、これならおたがいwin-winで飲むはず」

「……ミサ様、もしや戦争を機に王宮の中央集権化とネーザン国全体の財政改革を成すつもりではありませんか?」
「……察しがいいね、ジャスミン」

 私は静かにかつ、わずかに笑った。

「貴女は悪いお方だ」
「ありがとう、誉め言葉として受け取っておくね、事前に各大臣たちに話し通して、陛下と一緒に閣僚会議で法制定を決定づけるつもりだから、法案の準備を急いで」

「かしこまりました」

 そこへだ、別の官吏が宰相室に入ってきた。何かと思い威厳を持って対応していると、どうやらウェリントンからだ。

「ミサ様、陛下がお呼びです。午後に謁見を許すと」
「謁見……? ああ、公式な頼みってことね、分かった。昼休みした後、陛下にうかがうと伝えて」
「かしこまりました」

 連絡を受け、せっせと仕事をさばいた後、私は休憩タイムをはさんだ。メアリーももちろん呼んでる、最近メアリーとばっかりつるんでいた、だって二人は親友だもん。二人とも王宮の中、気心の知れた女同士は居心地がいいみたいで、最近べったりだ。

「うーん今日も食事美味しかったー」
「そう? 私食べ飽きちゃったけど、ミサにはまだ新鮮みたいね」

 なーに贅沢ぜいたく言っているのかしらこの娘は、私みたいな庶民は美味しい肉が食べられるだけで大喜びでござんすよ。

「こちらシェフより食後のデザートでございます」

 とか考えていると、使用人が私たちにスイーツの皿を持ってきてくれた。

「やったー、スイーツ、スイーツ!」
「あら、これはワックスリバー産のエクレアじゃない。それにこれはサウザック産のガレットかしら」

「シェフがおっしゃるには同盟国とのお祝いに、とのことです」

 使用人のオシャレな言葉に私は「シャレてるじゃん! いただきまーす」と言ってまずはエクレアを口にする。

 チョコレートのほろ苦い甘みに、柔らかな生地。その中に入ったカスタードクリームの甘ったるさが口に広がり、噛めば噛むほど、甘みが出てくる、ん? 中に何か入ってる。おおっこれは栗かーなるほどエクレアの甘味に合って、自然のささやかな舌触りで栗特有の甘さが絡まっておいしーい。

「ワックスリバーのエクレアは良いわね、特産の栗が入って私好きだわ。すっとした甘みが広がっていく」

 たしかに。そのメアリーの意見に私は同意する。

「そうだね、私コンビニやスーパーの洋菓子ばっかりたべてたけど、シェフが作ると全然違う、パティシエっていうんだっけ、おいしーい」
「コンビニ? スーパー? パティシエ?」

「ああ、わからないならスルーして私の世界の話だから」

 彼女はどうやら異世界の事と認識したようだ。メアリー意外と私の事情を察してくれるので助かる。

 今度は私はガレットを口にする。アーモンドの入ったパイで、こんがり焼けていてパリッパリの食感、柔らかな甘みでありながらも甘すぎず、食べやすいため手が止まらない。

 アーモンドのビターさが甘さを引き締めて、スイーツの調和が保っており、香ばしい匂いが口の中から鼻の奥まで広がってく、おいしいよー。

「サウザックのガレットデロワは好きだわ、食べやすいし香りがいい、紅茶によく合う」
「うんうん、甘ったるいスイーツも好きだけど、こういうサクサクした食感のお菓子は食べ心地が良くて食べた後の口に残るさわやかさがいいね」

「そうねー、女同士で食べるスイーツは最高ね」

 和気あいあいと紅茶を飲みながら、甘さの祭りの余韻よいんを楽しみ、彼女との会話で私は上機嫌だった。

「はあー、私は最近忙しくて、こういう息抜きが、ああ生きていてよかったーて、感じるようになったよー」
「ミサは大変でしょうね、なんせ大陸を二分する戦争の支えを切り盛りするのだから。宰相を進めた私も貴女に任せてよかったと思ってるし、王族として感謝するわ」

「いやいや、何もしないより私仕事しているほうが好きだし、今仕事楽しいよ」

「働き者なのね、貴族ったら働かないでえらそうなことばかり言って、もうやんなっちゃってたところに王宮へあなたが来て、みんな本当に救世主が来たと信じ切ってるわ。王宮もだいぶいいほうへ変わったし、みんなあなたを尊敬してるわ」

「へへーそれほどでもないよ」

 彼女の言葉に私は素直にうれしかった。日本では仕事を評価してくれる人がいなかったけど、この世界の人間は私を多分に評価して頼ってくれる。それが何よりもうれしかったんだ。私が思いふけっていると、メアリーはあっと気づいたように私に告げた。

「そうそう、貴女が考えた、貴族の団結、上手く行ってるわ、エジンバラ王かなり嫌われていたみたいね、最近では知らない貴族からもエジンバラ王に対抗するなら手を貸したいと手紙がどんどん送って来るようになったわ、姉さんも同じみたい」

「エジンバラ王は戦争上手で気性が荒く、周りの領土を荒らしまくっていたらしいからね、貴族たちの本音のところはこっち側みたいだね。ただ怖くて今まで公然と味方してくれなかっただけということ。ありがとう、メアリー、協力してくれて」

「何言ってるの、貴女と私の仲じゃない、それに王族として当然の務めだと思ってるし、何より私の文筆力が生かされてむしろ楽しいくらいよ」
「そうなんだ、ふふふ」

 私たちはほのかな新しい親友との食事タイムを楽しんで、そのあと私はウェリントンへの謁見に向かっていく。

「陛下、ミサ・エチゴただいま参りました」
「ん。そなたを呼んだのはほかでもない、こたびの出兵にそなたを連れて行こうと思ってな」

「私を……ですか……?」
「戸惑うのも無理はない。そなたは宰相だし、幼女だ。そなた自身は戦争に直接的には無縁であるべきだろう。だが、困った事情ができた」

「なんでしょうか?」
「実はな、こたびの出兵、賛同する貴族も徐々に増えて最終的にはわが軍は10万に膨れ上がると見える」

「10万……! おめでとうございます、陛下」
「ん。我らの大勝利は疑うべくもないが、なんせ規模が規模だ、出兵に際し、輸送準備が騎士たちでは手に余るのだ」

「手に……あまる……?」
「そなたは軍事に関して素人だから説明させてもらうと、基本、食料などは現地調達だ、略奪も起こるだろう。

 しかしな、これが敵国であればいたしかたないが、我らはワックスリバーが主な主戦場だ、行軍も同盟国を通っていく。なら、野蛮な略奪などすれば同盟の絆にひびが入るだろう。

 しかも十万もの大軍、農地は焼け野原になる恐れがある。それを各国は恐れているのだ。なるべく軍事物資は現地で規律の整った徴発を考えておる」

「ご立派なお考えです」

「ああ、そこでだ。騎士どもはそなたは上級貴族しか接したことがないだろうが、下級貴族の騎士など、もはや字すら読めるか怪しい者たちばかり。そのようなものが規律正しい、徴発ができるとは思えぬ。

 だから事務能力にたけたお前たち官吏にその指揮をお願いしたい。無論、そなたたちに騎士たちが従うよう厳しく命じておく、必要ならばそなたが軍法制定に関わっても良い」

「なるほど……そういう事情が……。わかりました。ですが、問題点があります。気心の知れた官吏やその他を一緒に連れていくつもりですが、こたびの出兵に私ともども連れていくとなると、ネーザンの内政がおろそかになってしまうのではないかという心配がございます」

「その点については心配ないと国務大臣は言っておった」
「は……?」

「どうやらな、そなたの人事改革のおかげで、ミサミサ団であったかな、まあそれはよい。とりあえず貴賤きせんに問わず能力によって官吏を登用しているのが各国で評判になって、諸外国の貴族たちが自分の子弟を王宮内で雇って欲しいと大量の申し出が来ているようだ。

 貴族の子弟など領地がなければ、騎士として傭兵でもするか、教会に入るしか道はないからな。

 ぜひとのことだ。そなたが抜けた分、大量に王宮で雇おうと思う。これは対魔族戦線を考えてネーザン国が各国との縁を強めるうえで重要な政策になる。そなたの許可が必要であるが、どう思う?」

「よいお考えだと思います。私も政府機能を拡大するつもりでした。それには優秀な人材が大量に必要です。幸い、ミサミサ団の能力も高まっており、新しい人材を受け入れる余地があります。わかりました、こたびの出兵に付き従わせていただきます」

「お前には感謝しても、しきれほどの恩があるな……。すまぬ」
「何をおっしゃいます、陛下が私を用いてくださったおかげで身に余る扱いを受けております。すべては陛下のおかげです」

 むしろ私にとってみんなが私を頼ってくれるのは嬉しかった。私は今充実している。しかもウェリントンみたいなイケメンの王様に頼られるなんてかえって一人の女として誇らしいよ。

「そういってくれるとありがたい、また、そなたにはもう一つ頼みがある」
「何なりとお申し付けくださいませ」

「うむ。エジンバラ王国にもネーザンとゆかりのある貴族がいてな、代々テットベリー伯爵を輩出しているブレマー家だ。かの家系はエジンバラ国の大司教も輩出しており、信心深い家系だ。

 神の預言のもと、魔族へ対抗しなければならないとエジンバラ王にたびたび苦言を申しているそうだが、どうやら聞き入れてもらえぬらしい。

 そこでだ。私は負けるつもりはさらさらないが、勝った後どうするかを今から考えねばならぬ、エジンバラ国と交渉できるよう手を打っておかねば」

「なるほど、今からよしみを結んでおけとのことですね、戦後交渉ができるよう宰相である私に」

「理解が早くて助かる。敵国ゆえ、警備の騎士は手練れを用意する。また、簡単に受け入れてもらえるかどうかはそなたの弁力にかかっておる、頼むぞ、ミサ」
「かしこまりました」

 ありがたく光栄のある特命を頂戴して私は、テットベリー伯爵家へと向かった。エジンバラ国は遠く20日ほどかかったが、今頃戦争の初戦が始まったころだろう。

 だいぶ私は緊張してきた。戦時中、敵国領へと私は殴り込みに行くことになったのだった。
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