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世界統一編
第七話 リッチフォードの会
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「ミサ宰相閣下、中へどうぞ、国王陛下がお待ちです」
門番に通され、王宮貴族に案内されながら私はリッチフォード王宮の謁見室の扉を開けられて中に入っていき、豪華な赤い絨毯を威風堂々と歩んでいく。
「何? あれがネーザン宰相だと!?」
「まだ子供ではないか」
「あんな幼女が救世主とか、いやはや信じられぬわ」
「新たなネーザン国王は血迷ったのではないか」
リッチフォードの恐らく大貴族たちだろう、豪華な衣装を着ていて、また、口々に私の姿を見て驚いた。まあ、見た目5歳児の幼女だから仕方ない。
どんどんと玉座へ歩み寄っていき、リッチフォード国王の前に立ち、私は胸に握りこぶしを当て、頭を下げた。
「この度、謁見の機会を賜り、まことに恐悦至極に存じ奉ります。ご前に侍りまするは、ネーザン王国宰相、リーガン伯、ミサ・エチゴでございます」
「うむ」
長い白いひげを蓄えた、リッチフォード王は軽く手を上げ、威厳のある態度で首を縦に振った。
「おお、何たる立派な前口上、これが幼女か!?」
「暗記したにしてはスルスルと申したぞ、恐ろしい者よ……」
私の口ぶりに貴族たちはひどく色めき立つ。比べて、リッチフォード王は軽く目を閉じ静かに私に尋ねた。
「して、ネーザン宰相、用件とは」
「はっ、わたくしネーザン宰相は陛下がオズモンド子爵の讒言にお心を痛め、我が国に兵を挙げるとの風聞を耳にしました。ネーザン国王はその噂を聞きつけ大層驚き、無益な戦争を避けるよう、わたくしに、リッチフォード国王陛下をお止めするよう命じられました」
「何を言う! お前のような口先だけの幼女が何が讒言だ! おぬしのでたらめのせいで私がいかほどの屈辱を被ったか! 陛下! 騙されてはなりませぬぞ!」
何だ、オズモンド子爵もこの場にいたのか。子爵ぐらいなんでこういう時に口出しできるような身分でもないんだけど、ホントにリッチフォードで権力あるんだな、この人。まあ、無視しとこう。
「して、陛下のお心はいずこへ?」
とまあ、私は端的にたずねた。しかし、王様は何の動揺もなく、
「ふむ……」
とうなずいて、あごひげをなで始めた。余裕あるなこの人、流石は国王だ。これは一筋縄ではいかなそうだ。
「ネーザン宰相に問い申す」
横から男の声が遮ってくる。来たな……!
「なんでしょうか、ラッセン侯爵様」
「ぬ!?」
私が初対面で名前を言い当てたので驚いたのだ。この国の家系、紋章、爵位とその人物の肖像画はすべて暗記している。少しラッセン侯爵は慌てたが、直ぐに気を取り直し、私に問いを続けた。
「そなたは先のネーザン国王に異世界の神の話をし、そして幸福感に満ちた顔で昇天なされて、現ネーザン国王の信頼を得たとか、まことか?」
「左様です、亡き国王陛下が自身が天国にいけるかどうか不安で、御心を痛めていらっしゃったため、私の世界で信仰されている阿弥陀仏という神が存在することを話しました。
また、どのような悪人であろうとも救おうとなさる神であると説いたため、陛下はそれを信じ呪文を唱え、極楽浄土という天国に昇天なされました」
「でたらめじゃ、でたらめ、さきの国王に気に入られようと甘言を申したのだ。そなたのような曲学阿世の者の言など信じられぬ。異世界などありはするものか、まして別の神などなあ! ははは……」
ラッセン侯爵は笑い、周りの貴族たちもつられて笑い始めた。だが、口々に騒ぎ始めていく。
「しかし、幼女にしては本当に弁が立つな」
「異世界とはあの預言からもっていきたのか、しかし、異世界の神とは面白い発想だ」
「奇妙なこともあるものだな」
「では、私から聞こう」
「なんでしょうか、ミッドランド伯爵様」
「うっ……、さきの宰相であるベネディクトが陰謀を企てて、亡きネーザン国王を毒殺したと暴き、また、現ネーザン国王の毒殺計画を未然に防ぎ信頼を得たとか。まことか?」
「真実です。ベネディクトが亡き国王陛下の晩餐式において、不審な行動を起こしたのを私が察知し、問い詰めると、その怪しさがまし、主治医が自白し、ベネディクトが亡き王の主治医に命じさせて毒を盛ったと判明しました。
よって、現陛下が処罰なされ、その功績で私を宰相にすえられたのです」
「何を馬鹿な、これもネーザン国王のベネディクト失脚の陰謀であろうよ。到底信じられぬ。そなたのような幼女が暗殺計画を防いだなど、全くの事実無根であろう」
くっ、やはり一筋縄ではいかないなあ。ここではアウェーだからそうそう、有象無象の貴族を納得させるのは難しいなあ。しかしかえって、口々に貴族たちは噂話を始めた。
「しかし、ベネディクトが医師を使ったと私も聞いたぞ」
「私もだ、何でもその医師が陰謀の内容を事細かに話したそうな」
「こちらも聞いたぞ、なんと国を乗っ取るつもりであったとか何とか、事実ならば恐ろしい話だ」
「……では私から聞こう」
「これはこれは、メーガン公爵様、お初にお目にかかります」
「ほほう、そなたは、ネーザン国の宮廷の官吏たちの汚職を暴き、追放し、また、貴賤を問わず、優秀な貴族たちを登用し、ネーザン国の財政を安定させたとか。まことであろうな?」
「その通りでございます。私がネーザン国の財政の書類を見たところ怪しき数字を見て、ネーザン国王陛下の前でその不正を暴き、また、能力のある官吏たちを積極的に登用し、私の手足として働いてもらい、ついに財政改革を成し遂げました」
「……神輿は軽いほうがよいからのう。そなたは不平貴族からまつり上げられたのじゃ。まっこと、有名無実の宰相じゃな、ははは」
ぐう、難しい討論会だ、腹に一物を抱えた相手が多すぎる。これはまずったかな。──しかし。
「……この者ホントに幼女か? あまりにも道理のいく言だ」
「そうだな、私にも幼い娘がおるが、全くの子ども。こんなに頭が切れるわけがない」
「なあ……こやつ、もしや……」
「預言の救世主か……!?」
やった、この討論に信ぴょう性が増しているのか、こちらに尊敬のまなざしで観る者も増え始めた。もしかして、いける……!
「では問い申す」
「これはワーデル侯爵様、何でございましょう」
「そなたは、さきの戦争においてオズモンド子爵に家系図に偽りがあると放言し、宮中内でもうわさが飛び交っているが、まことであろうな?」
「もちろん真実でございます、オズモンド子爵の家系図に偽りがあることを明らかにし、また、のちにネーザン国内でのエファール家の家系、およびリッチフォード国内での血筋を細かに調べたところ、まったくどこにもそれが記されていないことが判明いたしました」
「……」
よし! 辺りは静まり返った。やっぱり公然の秘密だったんだ。これでもう私に反論する者はいない、と、思っていたが……!
「でたらめだー! こいつの言ってることはみんなでたらめだー!」
ってオズモンド子爵が真っ赤な顔してガチギレし始めた。ええー。わからずやの彼に私は言い返していくことにした。
「ではオズモンド子爵、出自を証明する証拠をお見せくださいな」
「うるさい、うるさい黙れ黙れ! お前だって異世界からきたとかいって、出自がわからぬではないか!」
「それは私が預言の救世主として功績を重ねたことを、ネーザン国王陛下がお認めになったからです。貴方にもよくお分かりのはず!」
「やかましい! お前が本当に救世主なら一回死んで復活して見せろ、それなら信じてやる。なんなら今すぐ私が斬ってもいいぞ!」
「はあ!? 何を無茶振り言ってるんですか、あなたは」
余りにもおかしい言い分なので、私はむしろあきれてしまう。また、
「オズモンド卿落ち着け、おぬし、言ってることがあまりにもひどすぎるぞ」
「相手は幼い子供だぞ! それを斬るとか、しかもそんな理由で、血迷うたか」
と、さすがの暴言に隣にいた貴族たちがオズモンドを止める。そら、そうだよ。
「黙れ! 何でもいいからあのクソガキを斬らせろ! 八つ裂きにしてやる!」
「もう良い! これ以上の討議は無用じゃ」
との陛下が言っておられる通りだ。やはり、リッチフォード国王は場のあまりの乱れっぷりに怒りを感じたようで、
「陛下……」
と室内の皆々は思わず声をそろえてしまった。
「これにて謁見を終了とする。皆の者さがれ! さがれ!」
「……そんな陛下、私はまだ申し上げたいことが……、あっ陛下……」
えっ!? 私の制止にもかかわらず、国王はずんずんと寝室へと帰っていった。ああ、もう、オズモンドのせいで! あの器のちっちゃい男、ホントにクズ!
私は客室へと押し込められた。鬱々と食事を済ませ、日が傾いて夜になったころだ。突然ドアがノックされたので驚いた。
「あ、はい、どうぞ」
「失礼いたします」
なんか立派な宮廷官吏の衣装を着た男が入ってきた、何だろう急に。
「国王陛下があなたをお呼びです」
「え、陛下が?」
「はい、宰相閣下もお疲れでしょうが陛下がぜひにとおっしゃっております」
「わかりました、行きます」
そうして官吏に豪奢な寝室に通された。中にはリッチフォード国王と小さな男の子がベッドに座っていた。
「拝謁つかまつり光栄にございます、ネーザン宰相であります」
「うむ入れ」
「陛下こたびは如何様な……」
「まあ、この子を見よ」
「はっ?」
「この子は亡きわしの息子のスタンリーの忘れ形見だ」
「はあ」
そういえば、この国王数年前に息子の王子を病気で亡くされているんだよなあ。まだ30手前だったとか、若いのに……。
「そなたから見れば年端のゆかぬ子ども。いやお主は立派な幼女じゃ。しかし、お主から見れば頼りないように見えるが、可愛い可愛い、我が孫じゃ」
「いえ、ご利発そうに拝見させていただいております。きっと良い王となりましょう」
「世事は良い、そこでじゃ、お主を、救世主とはまだ信じられぬが、お主は利口な子供と見込んで頼みがある。実のところを言うとな、そなたからネーザン国王に後見役を頼んではもらえないか?」
「なんと……!」
「いやなあ、わしはもう年じゃ、やることもやったし、もはや悔いはないが、孫の行く末だけが心配でのう。
このままでは死んでも死に切れんのじゃ。貴族どもは見ての通り有象無象のものばかりだ、このままわしがぽっくり逝ってしまっては、この子はいずれ貴族たちの政治の道具として玩具にされよう。
……それが心配で心配でたまらんのじゃ」
「しかし、陛下はオズモンド卿のことでネーザン国をお怒りだとお聞きいたしましたが……」
「それは臣の手前、毅然とした態度を取ったまでじゃ、別に今更ネーザンのことは気にしておらん。それにオズモンドが出自がわからぬことは最初っから知っておったことだ。しかしあいつはあれで役に立つゆえ、それを皆は黙っておっただけじゃ」
まあ、王室から見たら家系なんてはっきりわかることだもんね。知らなかったのは下々の者たちだけか。
「かしこまりました、しかし、陛下にもお頼みがございます」
「なんじゃ、取引というわけか、相変わらず見かけによらずしっかりしておるのう」
「この書簡をご覧ください」
私はその言葉と共に、ウェリントンから預かっていた書簡をリッチフォード王に渡した。
「ん、なんじゃ、これは。む、これは、もしや、ネーザン国王の……! むむ、なんと! 同盟じゃと!? おお、なんとまあ、丁寧な文じゃ、ネーザン王の人柄がわかるわ、ふむ……」
文面を熟読した王様は考え込んでしまったようだ。
「魔族の侵略に対し対抗できるよう、各国と同盟を結ぼうとネーザン国王陛下はお考えで、戦争を回避できるようならば、この書簡を見せよとのおおせでございました。
陛下はむやみな戦争は好まぬお人柄でございます。……リッチフォード国王陛下、できればご返答をお聞かせ願えませぬか?」
「ははは……!」
って、いきなりリッチフォード王は笑い出したので、何かと思って私はびっくりしてしまう。
「よい、よいぞ、もちろん異存はない! 渡りに船じゃ! ははは……。そなたもわしからの約束、忘れるでないぞ」
おお、流石、一国の王、器が大きい! オズモンドとは大違いだ。すごいなあ。
「はは、もちろんでございます、しかしリッチフォード貴族たちがなんと言うか」
「それはわしから考えがある」
こういったやり取りがあり、次の日、私と貴族たちは謁見室に集められた。貴族たちは何があったのかと、少し浮足立っているようだ。
「うむ、皆の者集まったか、皆に報告がある。わしはネーザン国と同盟を結ぶことにした」
「へ、陛下? いきなり何を申されます……」
「うむ、これはネーザン国王からの申し出じゃ、ここに書簡がある。エリオット、皆に聞かせよ」
この言葉の後に宮宰のエリオットに書簡の内容を読み上げさせ、ここにいるみんなに披露をした。
「なんとネーザン王が……」
「ふむ、確かに預言通りならそろそろ魔族の侵略が始まるころだ」
「筋は通っておるが……」
貴族たちが騒めき立つ。だが、あのオズモンド子爵は怒りに任せて叫び出した。
「騙されてはなりませぬぞ、これはネーザン国王の計略。味方の振りをして後ろから刺すたくらみに決まっておる!」
と、言い放つと、それに対しリッチフォード王は立ち上がり宮宰に剣を持ってこさせた。そして威厳に満ちた声で怒鳴り始めた。
「ええい! 黙れ、黙れ! もうわしの腹は決まっておる!」
国王がそうおっしゃった後、突然振り返り玉座の上部を剣で切りつけ、見事に割って見せた。あまりの切れ味に皆がおおっと感嘆の声を上げてしまう。すごっ……!
「このことに異論があるものは自らの領地に帰って兵を挙げよ! さすれば、このようにわしが切り捨ててくれよう、皆の者よいな!」
この勇ましい陛下のお言葉に皆が恐れおののいて、ひざまずいてしまう。うわびっくりした。でもいいなあこの王様、素敵!
「ははっ我ら陛下にお従い致します!」
おお、かっこいいシーンだ。歴史に一ページがまた一つめくられた感じだ。うーん、私、感動しちゃった!
「ネーザン宰相! わしからの文じゃ。そしてネーザン王に伝えよ、我が国はそなたらと同盟すると」
国王からの宣下があったので私は恭しくひざまずいて宮宰からの書簡を預かったのだった。
「ははっ! かしこまりました」
こうしてネーザン国とリッチフォード国との同盟が成り立った。一時はどうなるかとひやひやしたよー、でも良かった、戦争が回避できて。うー、いい仕事できたよー!
門番に通され、王宮貴族に案内されながら私はリッチフォード王宮の謁見室の扉を開けられて中に入っていき、豪華な赤い絨毯を威風堂々と歩んでいく。
「何? あれがネーザン宰相だと!?」
「まだ子供ではないか」
「あんな幼女が救世主とか、いやはや信じられぬわ」
「新たなネーザン国王は血迷ったのではないか」
リッチフォードの恐らく大貴族たちだろう、豪華な衣装を着ていて、また、口々に私の姿を見て驚いた。まあ、見た目5歳児の幼女だから仕方ない。
どんどんと玉座へ歩み寄っていき、リッチフォード国王の前に立ち、私は胸に握りこぶしを当て、頭を下げた。
「この度、謁見の機会を賜り、まことに恐悦至極に存じ奉ります。ご前に侍りまするは、ネーザン王国宰相、リーガン伯、ミサ・エチゴでございます」
「うむ」
長い白いひげを蓄えた、リッチフォード王は軽く手を上げ、威厳のある態度で首を縦に振った。
「おお、何たる立派な前口上、これが幼女か!?」
「暗記したにしてはスルスルと申したぞ、恐ろしい者よ……」
私の口ぶりに貴族たちはひどく色めき立つ。比べて、リッチフォード王は軽く目を閉じ静かに私に尋ねた。
「して、ネーザン宰相、用件とは」
「はっ、わたくしネーザン宰相は陛下がオズモンド子爵の讒言にお心を痛め、我が国に兵を挙げるとの風聞を耳にしました。ネーザン国王はその噂を聞きつけ大層驚き、無益な戦争を避けるよう、わたくしに、リッチフォード国王陛下をお止めするよう命じられました」
「何を言う! お前のような口先だけの幼女が何が讒言だ! おぬしのでたらめのせいで私がいかほどの屈辱を被ったか! 陛下! 騙されてはなりませぬぞ!」
何だ、オズモンド子爵もこの場にいたのか。子爵ぐらいなんでこういう時に口出しできるような身分でもないんだけど、ホントにリッチフォードで権力あるんだな、この人。まあ、無視しとこう。
「して、陛下のお心はいずこへ?」
とまあ、私は端的にたずねた。しかし、王様は何の動揺もなく、
「ふむ……」
とうなずいて、あごひげをなで始めた。余裕あるなこの人、流石は国王だ。これは一筋縄ではいかなそうだ。
「ネーザン宰相に問い申す」
横から男の声が遮ってくる。来たな……!
「なんでしょうか、ラッセン侯爵様」
「ぬ!?」
私が初対面で名前を言い当てたので驚いたのだ。この国の家系、紋章、爵位とその人物の肖像画はすべて暗記している。少しラッセン侯爵は慌てたが、直ぐに気を取り直し、私に問いを続けた。
「そなたは先のネーザン国王に異世界の神の話をし、そして幸福感に満ちた顔で昇天なされて、現ネーザン国王の信頼を得たとか、まことか?」
「左様です、亡き国王陛下が自身が天国にいけるかどうか不安で、御心を痛めていらっしゃったため、私の世界で信仰されている阿弥陀仏という神が存在することを話しました。
また、どのような悪人であろうとも救おうとなさる神であると説いたため、陛下はそれを信じ呪文を唱え、極楽浄土という天国に昇天なされました」
「でたらめじゃ、でたらめ、さきの国王に気に入られようと甘言を申したのだ。そなたのような曲学阿世の者の言など信じられぬ。異世界などありはするものか、まして別の神などなあ! ははは……」
ラッセン侯爵は笑い、周りの貴族たちもつられて笑い始めた。だが、口々に騒ぎ始めていく。
「しかし、幼女にしては本当に弁が立つな」
「異世界とはあの預言からもっていきたのか、しかし、異世界の神とは面白い発想だ」
「奇妙なこともあるものだな」
「では、私から聞こう」
「なんでしょうか、ミッドランド伯爵様」
「うっ……、さきの宰相であるベネディクトが陰謀を企てて、亡きネーザン国王を毒殺したと暴き、また、現ネーザン国王の毒殺計画を未然に防ぎ信頼を得たとか。まことか?」
「真実です。ベネディクトが亡き国王陛下の晩餐式において、不審な行動を起こしたのを私が察知し、問い詰めると、その怪しさがまし、主治医が自白し、ベネディクトが亡き王の主治医に命じさせて毒を盛ったと判明しました。
よって、現陛下が処罰なされ、その功績で私を宰相にすえられたのです」
「何を馬鹿な、これもネーザン国王のベネディクト失脚の陰謀であろうよ。到底信じられぬ。そなたのような幼女が暗殺計画を防いだなど、全くの事実無根であろう」
くっ、やはり一筋縄ではいかないなあ。ここではアウェーだからそうそう、有象無象の貴族を納得させるのは難しいなあ。しかしかえって、口々に貴族たちは噂話を始めた。
「しかし、ベネディクトが医師を使ったと私も聞いたぞ」
「私もだ、何でもその医師が陰謀の内容を事細かに話したそうな」
「こちらも聞いたぞ、なんと国を乗っ取るつもりであったとか何とか、事実ならば恐ろしい話だ」
「……では私から聞こう」
「これはこれは、メーガン公爵様、お初にお目にかかります」
「ほほう、そなたは、ネーザン国の宮廷の官吏たちの汚職を暴き、追放し、また、貴賤を問わず、優秀な貴族たちを登用し、ネーザン国の財政を安定させたとか。まことであろうな?」
「その通りでございます。私がネーザン国の財政の書類を見たところ怪しき数字を見て、ネーザン国王陛下の前でその不正を暴き、また、能力のある官吏たちを積極的に登用し、私の手足として働いてもらい、ついに財政改革を成し遂げました」
「……神輿は軽いほうがよいからのう。そなたは不平貴族からまつり上げられたのじゃ。まっこと、有名無実の宰相じゃな、ははは」
ぐう、難しい討論会だ、腹に一物を抱えた相手が多すぎる。これはまずったかな。──しかし。
「……この者ホントに幼女か? あまりにも道理のいく言だ」
「そうだな、私にも幼い娘がおるが、全くの子ども。こんなに頭が切れるわけがない」
「なあ……こやつ、もしや……」
「預言の救世主か……!?」
やった、この討論に信ぴょう性が増しているのか、こちらに尊敬のまなざしで観る者も増え始めた。もしかして、いける……!
「では問い申す」
「これはワーデル侯爵様、何でございましょう」
「そなたは、さきの戦争においてオズモンド子爵に家系図に偽りがあると放言し、宮中内でもうわさが飛び交っているが、まことであろうな?」
「もちろん真実でございます、オズモンド子爵の家系図に偽りがあることを明らかにし、また、のちにネーザン国内でのエファール家の家系、およびリッチフォード国内での血筋を細かに調べたところ、まったくどこにもそれが記されていないことが判明いたしました」
「……」
よし! 辺りは静まり返った。やっぱり公然の秘密だったんだ。これでもう私に反論する者はいない、と、思っていたが……!
「でたらめだー! こいつの言ってることはみんなでたらめだー!」
ってオズモンド子爵が真っ赤な顔してガチギレし始めた。ええー。わからずやの彼に私は言い返していくことにした。
「ではオズモンド子爵、出自を証明する証拠をお見せくださいな」
「うるさい、うるさい黙れ黙れ! お前だって異世界からきたとかいって、出自がわからぬではないか!」
「それは私が預言の救世主として功績を重ねたことを、ネーザン国王陛下がお認めになったからです。貴方にもよくお分かりのはず!」
「やかましい! お前が本当に救世主なら一回死んで復活して見せろ、それなら信じてやる。なんなら今すぐ私が斬ってもいいぞ!」
「はあ!? 何を無茶振り言ってるんですか、あなたは」
余りにもおかしい言い分なので、私はむしろあきれてしまう。また、
「オズモンド卿落ち着け、おぬし、言ってることがあまりにもひどすぎるぞ」
「相手は幼い子供だぞ! それを斬るとか、しかもそんな理由で、血迷うたか」
と、さすがの暴言に隣にいた貴族たちがオズモンドを止める。そら、そうだよ。
「黙れ! 何でもいいからあのクソガキを斬らせろ! 八つ裂きにしてやる!」
「もう良い! これ以上の討議は無用じゃ」
との陛下が言っておられる通りだ。やはり、リッチフォード国王は場のあまりの乱れっぷりに怒りを感じたようで、
「陛下……」
と室内の皆々は思わず声をそろえてしまった。
「これにて謁見を終了とする。皆の者さがれ! さがれ!」
「……そんな陛下、私はまだ申し上げたいことが……、あっ陛下……」
えっ!? 私の制止にもかかわらず、国王はずんずんと寝室へと帰っていった。ああ、もう、オズモンドのせいで! あの器のちっちゃい男、ホントにクズ!
私は客室へと押し込められた。鬱々と食事を済ませ、日が傾いて夜になったころだ。突然ドアがノックされたので驚いた。
「あ、はい、どうぞ」
「失礼いたします」
なんか立派な宮廷官吏の衣装を着た男が入ってきた、何だろう急に。
「国王陛下があなたをお呼びです」
「え、陛下が?」
「はい、宰相閣下もお疲れでしょうが陛下がぜひにとおっしゃっております」
「わかりました、行きます」
そうして官吏に豪奢な寝室に通された。中にはリッチフォード国王と小さな男の子がベッドに座っていた。
「拝謁つかまつり光栄にございます、ネーザン宰相であります」
「うむ入れ」
「陛下こたびは如何様な……」
「まあ、この子を見よ」
「はっ?」
「この子は亡きわしの息子のスタンリーの忘れ形見だ」
「はあ」
そういえば、この国王数年前に息子の王子を病気で亡くされているんだよなあ。まだ30手前だったとか、若いのに……。
「そなたから見れば年端のゆかぬ子ども。いやお主は立派な幼女じゃ。しかし、お主から見れば頼りないように見えるが、可愛い可愛い、我が孫じゃ」
「いえ、ご利発そうに拝見させていただいております。きっと良い王となりましょう」
「世事は良い、そこでじゃ、お主を、救世主とはまだ信じられぬが、お主は利口な子供と見込んで頼みがある。実のところを言うとな、そなたからネーザン国王に後見役を頼んではもらえないか?」
「なんと……!」
「いやなあ、わしはもう年じゃ、やることもやったし、もはや悔いはないが、孫の行く末だけが心配でのう。
このままでは死んでも死に切れんのじゃ。貴族どもは見ての通り有象無象のものばかりだ、このままわしがぽっくり逝ってしまっては、この子はいずれ貴族たちの政治の道具として玩具にされよう。
……それが心配で心配でたまらんのじゃ」
「しかし、陛下はオズモンド卿のことでネーザン国をお怒りだとお聞きいたしましたが……」
「それは臣の手前、毅然とした態度を取ったまでじゃ、別に今更ネーザンのことは気にしておらん。それにオズモンドが出自がわからぬことは最初っから知っておったことだ。しかしあいつはあれで役に立つゆえ、それを皆は黙っておっただけじゃ」
まあ、王室から見たら家系なんてはっきりわかることだもんね。知らなかったのは下々の者たちだけか。
「かしこまりました、しかし、陛下にもお頼みがございます」
「なんじゃ、取引というわけか、相変わらず見かけによらずしっかりしておるのう」
「この書簡をご覧ください」
私はその言葉と共に、ウェリントンから預かっていた書簡をリッチフォード王に渡した。
「ん、なんじゃ、これは。む、これは、もしや、ネーザン国王の……! むむ、なんと! 同盟じゃと!? おお、なんとまあ、丁寧な文じゃ、ネーザン王の人柄がわかるわ、ふむ……」
文面を熟読した王様は考え込んでしまったようだ。
「魔族の侵略に対し対抗できるよう、各国と同盟を結ぼうとネーザン国王陛下はお考えで、戦争を回避できるようならば、この書簡を見せよとのおおせでございました。
陛下はむやみな戦争は好まぬお人柄でございます。……リッチフォード国王陛下、できればご返答をお聞かせ願えませぬか?」
「ははは……!」
って、いきなりリッチフォード王は笑い出したので、何かと思って私はびっくりしてしまう。
「よい、よいぞ、もちろん異存はない! 渡りに船じゃ! ははは……。そなたもわしからの約束、忘れるでないぞ」
おお、流石、一国の王、器が大きい! オズモンドとは大違いだ。すごいなあ。
「はは、もちろんでございます、しかしリッチフォード貴族たちがなんと言うか」
「それはわしから考えがある」
こういったやり取りがあり、次の日、私と貴族たちは謁見室に集められた。貴族たちは何があったのかと、少し浮足立っているようだ。
「うむ、皆の者集まったか、皆に報告がある。わしはネーザン国と同盟を結ぶことにした」
「へ、陛下? いきなり何を申されます……」
「うむ、これはネーザン国王からの申し出じゃ、ここに書簡がある。エリオット、皆に聞かせよ」
この言葉の後に宮宰のエリオットに書簡の内容を読み上げさせ、ここにいるみんなに披露をした。
「なんとネーザン王が……」
「ふむ、確かに預言通りならそろそろ魔族の侵略が始まるころだ」
「筋は通っておるが……」
貴族たちが騒めき立つ。だが、あのオズモンド子爵は怒りに任せて叫び出した。
「騙されてはなりませぬぞ、これはネーザン国王の計略。味方の振りをして後ろから刺すたくらみに決まっておる!」
と、言い放つと、それに対しリッチフォード王は立ち上がり宮宰に剣を持ってこさせた。そして威厳に満ちた声で怒鳴り始めた。
「ええい! 黙れ、黙れ! もうわしの腹は決まっておる!」
国王がそうおっしゃった後、突然振り返り玉座の上部を剣で切りつけ、見事に割って見せた。あまりの切れ味に皆がおおっと感嘆の声を上げてしまう。すごっ……!
「このことに異論があるものは自らの領地に帰って兵を挙げよ! さすれば、このようにわしが切り捨ててくれよう、皆の者よいな!」
この勇ましい陛下のお言葉に皆が恐れおののいて、ひざまずいてしまう。うわびっくりした。でもいいなあこの王様、素敵!
「ははっ我ら陛下にお従い致します!」
おお、かっこいいシーンだ。歴史に一ページがまた一つめくられた感じだ。うーん、私、感動しちゃった!
「ネーザン宰相! わしからの文じゃ。そしてネーザン王に伝えよ、我が国はそなたらと同盟すると」
国王からの宣下があったので私は恭しくひざまずいて宮宰からの書簡を預かったのだった。
「ははっ! かしこまりました」
こうしてネーザン国とリッチフォード国との同盟が成り立った。一時はどうなるかとひやひやしたよー、でも良かった、戦争が回避できて。うー、いい仕事できたよー!
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