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世界統一編
第五話 領地侵略
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予算の都合がつき、ついに宮殿にてウェリントンの戴冠式が始まった。輝く豪華な装飾品で飾ったマントに、かっこいい金髪男性の晴れ姿。王冠が大司祭から授与されてついにウェリントンは正式な王になった。貴族たち皆、称賛の声を上げはじめる。
「ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン!」
「ウェリントン国王陛下バンザーイ! バンザーイ!」
もちろん私もお祝いの斉唱をした。なんて神聖な瞬間だったろう、華麗な我が王の姿に感動する。ウェリントン、カッコいい……! 式が終わった後、祝宴会が盛大に行われたのだった。
またもやずらりと並べられた豪華な料理の数々! ひゃー、待ってました!
珍品から美味そうな料理がたくさん。ガチョウの卵やクジャクの丸焼き。うーんガチョウの卵を口にするとこってりした脂がぎっしり詰まって、鶏の卵と違い独特な風味がする。
ふむ、これが貴族の味か。クジャクの肉は柔らかいものの歯ごたえがあってキジのような珍妙な味がする。ふむふむ、高貴な方って変わった食べ物が好きなのね、まあそうか、毎日美味いものは喰い飽きているから。
でも私は庶民だから普通においしいものが好きだな、このボロネーゼは太く平たいパスタに赤ワインとトマトを煮込んだソースが絡まって美味いこと美味いこと。
シンプルな生ハムの肉が分厚くて野生のままあぶられて肉の味がぎっしりと詰まってる、肉大好き。ああ、うめえ──!!!
私が食事をたっぷりと楽しんでいるとメアリーがこちらのほうへやってきた。
「素晴らしい弟の戴冠式だったわ、私なんか涙出ちゃった。これも貴女のおかげよ、ミサ。貴女には感謝の言葉を重ねても足りないぐらい」
「なーに、宰相だから自分の仕事を忠実にしただけだよ」
「謙虚ね、あなたは、ホント育ちが良いのね。貴族と言えばあることないこと、話を盛ったり虚勢を張ったり、私、もう、うんざり。
貴女みたいな賢い幼女が側にいると、心が癒されるわ、ねえ、ずっとこの国で暮らしてよ、そうだと私嬉しい」
うーん私は仏になるための修行でこの世界に来たんだけどなあ、まあ先がどうなるかわからないけど。
この世界にいろんな人がいたけど、周りの人は割と純粋な人であふれていて、私の事、救世主だと立ててくれるし、居心地良いけど、いつかは去る運命なんだよなあ。でもそんなこと言うとメアリーが寂しがるから私は、
「うんいいよ、貴女のこと好きだもの。ここにいてあげる」
と言ったとき、メアリーは感激して抱き着いてきた。
「ありがとうミサ! 私たち大切な友達よね、とても嬉しい……!」
う、メアリーって美人だから、そんな潤んだ目で観られると、なんかちょっと別の感情が芽生えそう……! ううう、これも修行だよー。
そんな時だ、急に鎧を着た騎士がウェリントン国王に耳打ちを始めた。なんだろう。彼はひどく驚いたようで言葉を漏らす。
「何!? 我が領地に侵略者が現れたと!」
その大声に皆がびっくりした。えっ、侵略? ウェリントンは私のほうに近づいてくる。やばい事態になってる……、どうしよう。私が戸惑う中、冷静にウェリントンはこちらに願い出てきた。
「ミサ宰相、祝宴の中、不作法であるが緊急事態ゆえ、私とともに来てもらいたい」
──こうして張り詰めた雰囲気での軍議が始まったのだった。
「で、ギルバート、敵は誰だ? 兵はどのくらい? どこから攻めてくる?」
ウェリントンは皆にわかりやすく理解してもらうため、長年使える老騎士のギルバートに状況説明をさせた。
「はっ! 敵はオズモンド子爵で、兵は3000ほど、カルッセ地方より進軍を始めたと報告がありました」
「3000……! まずいな……」
ウェリントンは深く考え込んだ。私は戦争のことなんて知らないから素直に疑問をぶつけた。
「ねえ、国王なら、3000の兵ぐらいパパっと片づけられるほど兵士をもっているんじゃないんですか?」
「そうか、君は異世界の人間だからこの世界のことを知らないんだな」
そう言ってウェリントンは丁寧に私にこの世界の軍事を説明し始めたのだった。
「ここでは、兵、まあ、ほとんどが騎士だが、騎士たちは自分の領地に住んでまたその配下の騎士や従騎士を従えている。つまり地方に分散しているんだ。
直接王宮に仕えている騎士たちはおよそ500ぐらい、国を挙げれば20000ぐらいの兵士の数になるが、兵を招集するとかなり時間がかかってしまう。傭兵を雇うにしてもすぐとはいかない、準備や交渉に時間がかかるんだ」
「へえ、でもまって、今みたいに戦争が起こったらどうしていたの、今まで」
「当然兵が集まるまで、敵を放っておく。だが騎士とはいえ野蛮な人間も多い。村々は焼かれ、田畑は略奪され、子どもは売られ、女は犯されてしまう。」
「うげっ……悲惨すぎる」
「そうだ私は民たちを見殺しにしたくはない、できれば今から行って手元の兵をもって迎撃したいと思う」
「お待ちくださいませ陛下、それは余りにも危険です。どうかお考え直しを!」
彼の言葉に慌ててギルバートが制止した。対しウェリントンは堂々と言い放つ。
「いや、民を守るのは王の務め、私は弱いものを見捨てるような卑怯者になりたくない」
うわ、立派すぎる……! 日本の政治家なんて私腹を肥やして、市民を見殺しにする俗物なのに、比べてウェリントンはなんて立派なんだ。涙が出てきた……。感動した私はウェリントンに願い出ていく。
「ねえ、陛下、私もどうか連れて行ってください」
「何を言う! そなたは救世主とはいえ幼女だ、捕まってしまえばどんな目に合わせられるか……!」
「戦争だからきっと何の役にも立たないけど、貴方の話し相手ぐらいならできる。貴方の純粋に民を思う心に感動したの、是非力になりたい……」
「そうか……、かたじけない……!」
状況が切迫する中、私とウェリントンはギルバートと共に兵を連れてオズモンド子爵と対峙した。相手の大将は黒髪のひげを蓄えたいかついおっさんだった。
「オズモンド卿、何故由緒ある我が領地を侵してきたのだ!」
ウェリントンの問いかけが始まる。私たちは身分の高い騎士たちとともに、相手のオズモンド子爵一行と数十人たちで面と向かって討論対決を行うことになった。
ウェリントンが言うには、まず、騎士の大将たちが大声でお互い堂々と向かい合って両方の戦いの正当性を明らかにして、戦争前の兵の士気を高める儀式みたいなものがあるらしい。
このスピーチで負けた場合、一気に兵の士気が下がる。よって、これは戦争の行方を左右する重要な戦いの一つだ、そういう伝統があるらしい。問いかけにオズモンドは意気揚々と口上を述べていく。
「ネーザン王か! そなたは私欲によってベネディクト前宰相をおとしめ、その領地を奪わんと私腹を肥やすため処刑した!」
「何を言う! ベネディクトはわが父を謀殺した、よって処罰したのだ!」
「本当にそうかな? そなたは前宰相の替わりに、どこぞの馬の骨とも知らぬ幼女を宰相に据えたではないか、どう考えてもおかしかろう!」
「ここにおるミサは預言に出てくる救世主、現にベネディクトの陰謀を明らかにし、わが命を守った!」
「それこそ、そなたの陰謀なのだ! 幼女にそんな力はあるまい!」
「そんなものそなたには関係がなかろう! 大体我が領地に侵略する大義名分にならないではないか!」
「大義はある! そのベネディクトは私と同じ血が流れておる、よってその領地は私が相続するのが神の意思だ!」
「何……? オズモンド子爵がベネディクトと遠縁とは初耳だぞ!」
「いや確かだ! 現に私の家系図にエファール家の名が書いてある」
「何だと!」
そう言ってオズモンド子爵は家系図の巻物を見せて、自分の名とベネディクトの名が書いてあることを見せつけた。ん? エファール家?
「そんなばかな……!」
明らかに私たち一行は動揺した、このままでは領地の領有権があちらにあることが示されて兵の士気が下がってしまう、大変だ。でも、私はあることにはっと気づき、二人の討論の中に入っていった。
「ねえ! オズモンド子爵! もしそれが本物の家系図だとすれば証拠があるはずだよね」
「何だ子どもが口をはさんで。無論だ、ここにエファール家の印章が押されておる!」
家系図を見せ付けたのを眺めて、やった、勝ったと確信した。
「あ、その印章偽物だから」
「な、なんだと!? でたらめを申すな!」
「だって、エファール家の印章は今、私の手の中にあって、その印章と細部が一致しないもの」
「おおっ!」
私たち一行は一気に逆転したことに沸き立つ。オズモンドは動揺のあまり、軽く頭を抱えたのだった。
「ば、ばかな、何故エファールの家の印章がそなたのような幼女の手の中にある……!」
彼の疑問にウェリントンが私が印章を持っている経緯を説明していくのだった。
「現宰相ミサは前宰相の残した所有物を引き継いでおる、スムーズに王宮の政務を行うため私がそれを許可した! 何も問題はあるまい」
「な、な、なんだと!」
あまりの子爵の動揺っぷりにオズモンド陣営は騒ぎ始めた。やった! 彼らに私はさらにたたみかける。
「ねえねえ、もしかして、家系図をでっち上げて、領地をかすめ取ろうと、貴方、企んでんじゃないの?」
「な……、ち、ちが……!」
顔が真っ青になる様子を見て、オズモンド陣営は大騒ぎ。相手の騎士たちは口々に言う。
「そういえば子爵の祖父もよくわからぬ生まれとか陰口を叩かれていたが」
「当時は家系図を見せられたのでわれらも納得したが、もしかして我らはどこの馬の骨とも知らぬものに仕えているのではないか……?」
「そ、そなたらまで……!」
自分の出自の悪さにオズモンドは深く落ち込んでしまう。こうして一気にオズモンド勢は厭戦感が起こり、勝手に騎士たちが帰り始めていく。
「ま、まて、そなたら、どこにいく!? ええい! これでは戦争どころではないではないか」
「オズモンド様、これでは戦になりませぬ兵を引きましょう」
オズモンドに仕える老騎士は主に言った。引き際が肝心だよね。オズモンドも馬鹿ではないのか、冷静に戦況を理解したようだ。
「ぐっ……! 仕方あるまい、撤退だ!」
そう言ってオズモンド子爵たちは逃げていったのだった。
「流石ミサ宰相殿、舌先で貴女より秀でるものはおりませぬな」
「ははは……」
ギルバートの感嘆に喜んでいいのやら、落ち込んだほうが良いのやら。まあ、いいか。被害なく勝ったんだし。完全勝利に感動したウェリントンは私の肩をつかみ、こう熱っぽく礼を述べる。
「そなたのおかげで、無駄な血を流さず、戦に勝った。改めて礼を申すぞ」
「いえいえ、私は宰相ですし、まあ、救世主ってみんな言ってますし、当然のことをしたまでです」
「ウェリントン王バンザーイ! ミサ宰相バンザーイ! ミサミサ団バンザーイ! おおおぉぉ──っ!」
我が軍の勝利に兵士たちの歓喜の声が上がった。こうやって私たちは戦わずして戦争に勝った。うーひやひやしたよ……、戦争怖いもの。まあでも良かった、何事も平和が一番、まったりまったりだよー。
「ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン! ザ・キング・オブ・ネーザン!」
「ウェリントン国王陛下バンザーイ! バンザーイ!」
もちろん私もお祝いの斉唱をした。なんて神聖な瞬間だったろう、華麗な我が王の姿に感動する。ウェリントン、カッコいい……! 式が終わった後、祝宴会が盛大に行われたのだった。
またもやずらりと並べられた豪華な料理の数々! ひゃー、待ってました!
珍品から美味そうな料理がたくさん。ガチョウの卵やクジャクの丸焼き。うーんガチョウの卵を口にするとこってりした脂がぎっしり詰まって、鶏の卵と違い独特な風味がする。
ふむ、これが貴族の味か。クジャクの肉は柔らかいものの歯ごたえがあってキジのような珍妙な味がする。ふむふむ、高貴な方って変わった食べ物が好きなのね、まあそうか、毎日美味いものは喰い飽きているから。
でも私は庶民だから普通においしいものが好きだな、このボロネーゼは太く平たいパスタに赤ワインとトマトを煮込んだソースが絡まって美味いこと美味いこと。
シンプルな生ハムの肉が分厚くて野生のままあぶられて肉の味がぎっしりと詰まってる、肉大好き。ああ、うめえ──!!!
私が食事をたっぷりと楽しんでいるとメアリーがこちらのほうへやってきた。
「素晴らしい弟の戴冠式だったわ、私なんか涙出ちゃった。これも貴女のおかげよ、ミサ。貴女には感謝の言葉を重ねても足りないぐらい」
「なーに、宰相だから自分の仕事を忠実にしただけだよ」
「謙虚ね、あなたは、ホント育ちが良いのね。貴族と言えばあることないこと、話を盛ったり虚勢を張ったり、私、もう、うんざり。
貴女みたいな賢い幼女が側にいると、心が癒されるわ、ねえ、ずっとこの国で暮らしてよ、そうだと私嬉しい」
うーん私は仏になるための修行でこの世界に来たんだけどなあ、まあ先がどうなるかわからないけど。
この世界にいろんな人がいたけど、周りの人は割と純粋な人であふれていて、私の事、救世主だと立ててくれるし、居心地良いけど、いつかは去る運命なんだよなあ。でもそんなこと言うとメアリーが寂しがるから私は、
「うんいいよ、貴女のこと好きだもの。ここにいてあげる」
と言ったとき、メアリーは感激して抱き着いてきた。
「ありがとうミサ! 私たち大切な友達よね、とても嬉しい……!」
う、メアリーって美人だから、そんな潤んだ目で観られると、なんかちょっと別の感情が芽生えそう……! ううう、これも修行だよー。
そんな時だ、急に鎧を着た騎士がウェリントン国王に耳打ちを始めた。なんだろう。彼はひどく驚いたようで言葉を漏らす。
「何!? 我が領地に侵略者が現れたと!」
その大声に皆がびっくりした。えっ、侵略? ウェリントンは私のほうに近づいてくる。やばい事態になってる……、どうしよう。私が戸惑う中、冷静にウェリントンはこちらに願い出てきた。
「ミサ宰相、祝宴の中、不作法であるが緊急事態ゆえ、私とともに来てもらいたい」
──こうして張り詰めた雰囲気での軍議が始まったのだった。
「で、ギルバート、敵は誰だ? 兵はどのくらい? どこから攻めてくる?」
ウェリントンは皆にわかりやすく理解してもらうため、長年使える老騎士のギルバートに状況説明をさせた。
「はっ! 敵はオズモンド子爵で、兵は3000ほど、カルッセ地方より進軍を始めたと報告がありました」
「3000……! まずいな……」
ウェリントンは深く考え込んだ。私は戦争のことなんて知らないから素直に疑問をぶつけた。
「ねえ、国王なら、3000の兵ぐらいパパっと片づけられるほど兵士をもっているんじゃないんですか?」
「そうか、君は異世界の人間だからこの世界のことを知らないんだな」
そう言ってウェリントンは丁寧に私にこの世界の軍事を説明し始めたのだった。
「ここでは、兵、まあ、ほとんどが騎士だが、騎士たちは自分の領地に住んでまたその配下の騎士や従騎士を従えている。つまり地方に分散しているんだ。
直接王宮に仕えている騎士たちはおよそ500ぐらい、国を挙げれば20000ぐらいの兵士の数になるが、兵を招集するとかなり時間がかかってしまう。傭兵を雇うにしてもすぐとはいかない、準備や交渉に時間がかかるんだ」
「へえ、でもまって、今みたいに戦争が起こったらどうしていたの、今まで」
「当然兵が集まるまで、敵を放っておく。だが騎士とはいえ野蛮な人間も多い。村々は焼かれ、田畑は略奪され、子どもは売られ、女は犯されてしまう。」
「うげっ……悲惨すぎる」
「そうだ私は民たちを見殺しにしたくはない、できれば今から行って手元の兵をもって迎撃したいと思う」
「お待ちくださいませ陛下、それは余りにも危険です。どうかお考え直しを!」
彼の言葉に慌ててギルバートが制止した。対しウェリントンは堂々と言い放つ。
「いや、民を守るのは王の務め、私は弱いものを見捨てるような卑怯者になりたくない」
うわ、立派すぎる……! 日本の政治家なんて私腹を肥やして、市民を見殺しにする俗物なのに、比べてウェリントンはなんて立派なんだ。涙が出てきた……。感動した私はウェリントンに願い出ていく。
「ねえ、陛下、私もどうか連れて行ってください」
「何を言う! そなたは救世主とはいえ幼女だ、捕まってしまえばどんな目に合わせられるか……!」
「戦争だからきっと何の役にも立たないけど、貴方の話し相手ぐらいならできる。貴方の純粋に民を思う心に感動したの、是非力になりたい……」
「そうか……、かたじけない……!」
状況が切迫する中、私とウェリントンはギルバートと共に兵を連れてオズモンド子爵と対峙した。相手の大将は黒髪のひげを蓄えたいかついおっさんだった。
「オズモンド卿、何故由緒ある我が領地を侵してきたのだ!」
ウェリントンの問いかけが始まる。私たちは身分の高い騎士たちとともに、相手のオズモンド子爵一行と数十人たちで面と向かって討論対決を行うことになった。
ウェリントンが言うには、まず、騎士の大将たちが大声でお互い堂々と向かい合って両方の戦いの正当性を明らかにして、戦争前の兵の士気を高める儀式みたいなものがあるらしい。
このスピーチで負けた場合、一気に兵の士気が下がる。よって、これは戦争の行方を左右する重要な戦いの一つだ、そういう伝統があるらしい。問いかけにオズモンドは意気揚々と口上を述べていく。
「ネーザン王か! そなたは私欲によってベネディクト前宰相をおとしめ、その領地を奪わんと私腹を肥やすため処刑した!」
「何を言う! ベネディクトはわが父を謀殺した、よって処罰したのだ!」
「本当にそうかな? そなたは前宰相の替わりに、どこぞの馬の骨とも知らぬ幼女を宰相に据えたではないか、どう考えてもおかしかろう!」
「ここにおるミサは預言に出てくる救世主、現にベネディクトの陰謀を明らかにし、わが命を守った!」
「それこそ、そなたの陰謀なのだ! 幼女にそんな力はあるまい!」
「そんなものそなたには関係がなかろう! 大体我が領地に侵略する大義名分にならないではないか!」
「大義はある! そのベネディクトは私と同じ血が流れておる、よってその領地は私が相続するのが神の意思だ!」
「何……? オズモンド子爵がベネディクトと遠縁とは初耳だぞ!」
「いや確かだ! 現に私の家系図にエファール家の名が書いてある」
「何だと!」
そう言ってオズモンド子爵は家系図の巻物を見せて、自分の名とベネディクトの名が書いてあることを見せつけた。ん? エファール家?
「そんなばかな……!」
明らかに私たち一行は動揺した、このままでは領地の領有権があちらにあることが示されて兵の士気が下がってしまう、大変だ。でも、私はあることにはっと気づき、二人の討論の中に入っていった。
「ねえ! オズモンド子爵! もしそれが本物の家系図だとすれば証拠があるはずだよね」
「何だ子どもが口をはさんで。無論だ、ここにエファール家の印章が押されておる!」
家系図を見せ付けたのを眺めて、やった、勝ったと確信した。
「あ、その印章偽物だから」
「な、なんだと!? でたらめを申すな!」
「だって、エファール家の印章は今、私の手の中にあって、その印章と細部が一致しないもの」
「おおっ!」
私たち一行は一気に逆転したことに沸き立つ。オズモンドは動揺のあまり、軽く頭を抱えたのだった。
「ば、ばかな、何故エファールの家の印章がそなたのような幼女の手の中にある……!」
彼の疑問にウェリントンが私が印章を持っている経緯を説明していくのだった。
「現宰相ミサは前宰相の残した所有物を引き継いでおる、スムーズに王宮の政務を行うため私がそれを許可した! 何も問題はあるまい」
「な、な、なんだと!」
あまりの子爵の動揺っぷりにオズモンド陣営は騒ぎ始めた。やった! 彼らに私はさらにたたみかける。
「ねえねえ、もしかして、家系図をでっち上げて、領地をかすめ取ろうと、貴方、企んでんじゃないの?」
「な……、ち、ちが……!」
顔が真っ青になる様子を見て、オズモンド陣営は大騒ぎ。相手の騎士たちは口々に言う。
「そういえば子爵の祖父もよくわからぬ生まれとか陰口を叩かれていたが」
「当時は家系図を見せられたのでわれらも納得したが、もしかして我らはどこの馬の骨とも知らぬものに仕えているのではないか……?」
「そ、そなたらまで……!」
自分の出自の悪さにオズモンドは深く落ち込んでしまう。こうして一気にオズモンド勢は厭戦感が起こり、勝手に騎士たちが帰り始めていく。
「ま、まて、そなたら、どこにいく!? ええい! これでは戦争どころではないではないか」
「オズモンド様、これでは戦になりませぬ兵を引きましょう」
オズモンドに仕える老騎士は主に言った。引き際が肝心だよね。オズモンドも馬鹿ではないのか、冷静に戦況を理解したようだ。
「ぐっ……! 仕方あるまい、撤退だ!」
そう言ってオズモンド子爵たちは逃げていったのだった。
「流石ミサ宰相殿、舌先で貴女より秀でるものはおりませぬな」
「ははは……」
ギルバートの感嘆に喜んでいいのやら、落ち込んだほうが良いのやら。まあ、いいか。被害なく勝ったんだし。完全勝利に感動したウェリントンは私の肩をつかみ、こう熱っぽく礼を述べる。
「そなたのおかげで、無駄な血を流さず、戦に勝った。改めて礼を申すぞ」
「いえいえ、私は宰相ですし、まあ、救世主ってみんな言ってますし、当然のことをしたまでです」
「ウェリントン王バンザーイ! ミサ宰相バンザーイ! ミサミサ団バンザーイ! おおおぉぉ──っ!」
我が軍の勝利に兵士たちの歓喜の声が上がった。こうやって私たちは戦わずして戦争に勝った。うーひやひやしたよ……、戦争怖いもの。まあでも良かった、何事も平和が一番、まったりまったりだよー。
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