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世界統一編

第三話 宰相就任

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 しめやかに王様の葬儀が行われた。ウェリントンとメアリーはなんか本当に私の事を救世主だと思っているらしく、しかも王様が仏教を信じて逝っちゃったから、私にあれこれ聞いてきて、へんてこな仏教とこの国の宗教が入り混じった葬式になってしまった。

 そして王様を供養するために食事会が開かれた、待ってました! 豪華な料理がずらりと並び、貴族たちがワインをもって晩餐会ばんさんかいを楽しんでいる。

 こういうのって死んだ人のためっていうか、生きている人のために、死んだ人の思い出とか語り合って失った悲しみをいやすためにあるんだよね。

 おお、黒い卵のつぶつぶ、これはまさかキャビアではないか! 銀匙ぎんさじですくって口に運ぶと何とも珍妙な味わい。うーむなんだか奥が深い。

 うん? これはカタツムリ? いやエスカルゴです。なんか食べるのは気が引けるけど、恐る恐る食べてみると独特の風味というか、食感があって味付けのバターの味がこってりしてて美味い!

 ん? 何だこの肉のステーキ、なんかトリュフがまぶされているけど。ナイフで切り分けて、口に運ぶと濃厚な肉の脂の味。こ、これはまさか!? フォアグラのステーキではないですか! 脂がぎっしり詰まった旨味と甘さに酔いしれながら、加えて野菜のスープを口にすると、ぶわーっと旨味が口の中に広がる、美味い! 美味すぎる!

 私が食事に酔いしれていると、とある年取った貴族がウェリントンに話しかけていたのを見た。

「このたびは、なんといっていいのやら。……先の国王陛下は立派な方でした、さぞ殿下もお悔やみでしょう」
「いや、そう言ってばかりはおられぬ。王位継承権の通り次は私が王となるのだ。今この時、皆をまとめ、悲しみを乗り越えて国をまとめねば」

 おお、かっこいいぞ、流石イケメン。私が感心していると、ふとウェリントンはこちらを見た。

「それに亡き父上は、ここにおられるミサ殿のおかげで、救われて昇天されたのだ。なにも悔やむことはあるまい。また、ミサ殿は預言の救世主。この国の未来も明るい!」
「なんと、あの預言の救世主が現れたと! おお、神よ!」

 こちらを見てなんか手で十字を切って、私を拝んでいる。はは、成り行きでこうなっちゃったけど、阿弥陀様が徳を積めっておっしゃっていたし、たぶん何かの縁だろう、やるしかないね。気が重いけど。

 ふとウェリントンのそばを見ると、宰相のベネディクトが液体の入った瓶をもって王子の近くの料理をじっと見てる。……怪しい。なんか変なのでベネディクトのおっさんに話しかけることにした。

「ねえねえ、何してんの?」
「ん!? あ、ごほん、このガキじゃなかった、ミサ殿何か用ですかな?」

「その手にある瓶は何?」
「え……! あ、いや、これは……」

 わーお、無茶苦茶怪しいね。

「もしかして、次期王様に変なものを食べさせようとしてるんじゃないの?」
「何をばかな! そんな訳がなかろう! いい加減口先だけの小娘が大概にしろ!」

「何を騒いでいるのだ?」

 宰相が大声を出したので、王子や周りの貴族たちが気が付き、こちらへやってくる。チャーンス、ここは白黒はっきりさせた方が王子様のためだもんね。

「いや、殿下このたびはお悔やみ申し上げ……」
「ねえ王子! さっきこの人、王子の側の料理に変なもの入れようとしてたよ」

「な、な、何を言ってるのだ、このクソガキが!」

「ベネディクト……。どういうことだ?」

 ウェリントンは王子様だからやっぱり地は賢いらしく、ベネディクトの様子のおかしさを奇妙に思い始めたらしい。彼の言葉にベネディクトは慌てふためくのだった。

「あ、いや……その、そう! これは滋養強壮剤! 殿下に元気になってもらおうと、医師にせんじさせて、そうです、私の王子殿下への忠節心をもっての心配りを……」
「それなら、王子に黙って料理に入れる必要ないじゃん、めっちゃ怪しい」

 私のツッコミに宰相は今度はひどく狼狽ろうばいし始めた。コイツ……わかりやすい。よく宰相できたね。まあ、今回、後ろ暗すぎたのでしょうね。暗殺はやばい案件だし。と、思っていると、今度は私に罪を押し付けようとベネディクトは頑張った。

「何を言う! 大体怪しいのはお前じゃないか! 異世界か何か知らないが、勝手にやって来て、変な神の話を始めて、亡き国王陛下をたぶらかし、あまつさえ崩御ほうぎょさせるとは! まさか、お前なにか陰謀を企んで国王陛下に毒を盛ったのではあるまいな!」

 は? ん? 何言ってんのコイツ、え、何、毒ってどういうこと。

「ねえねえ、今、毒って言ったよね。私、老衰ろうすいで国王様が死んだと思っていたけど、何で毒って発想が出てきたの?」
「……そ、それは……!」

 すると、先ほどから話し込んでいた貴族のおじさんが神妙しんみょうな顔つきをし始めて語りだしたのだった。

「そういえば、医師の一人が変だと言っておったな。あのやせ方や、手足の震え、長期の嘔吐おうとはこれは普通の病ではないと。もしかして宰相閣下、何か知っておるのではありませぬか?」
「そ、そなたまで何を言うのだ……」

 その言葉に王子も深く怪しんでる。

「ベネディクト……そなた、まさか……!」
「いや、違う、これは何かの陰謀だ、私が国王陛下を毒殺したなどあり得るはずもない。そう、この小娘がでたらめを申して殿下のお心を惑わせているのだ! そうだ、そうに違いない!」

「じゃあ、その滋養強壮剤を自分で飲んでみればいいじゃん。もし、それが毒とかじゃなければ飲めるはずだよね、滋養強壮剤なら。さあ飲んで」

 私がすぐさまこの宰相の矛盾を明らかにした。くらえ!

「……ぐぬぬ……!」

 周りは大騒ぎになり口々に話し始める。ふふふ、さあーどうなるかなあ。動揺が収まりようもない中、突然、ある白いローブを着た白髪の老人が叫び始めた。

「もう、おやめください、宰相様! 貴方の命によって、医師である私が泣く泣く国王陛下に毒を盛りましたが、余りにも恐れ多い反逆です! こうなった以上、素直に罪を告白して神に許しを請うのです!」
「き、貴様! だまっておけとあれほど!」

 王子は怒りに満ちて、そぐさま周りの兵士たちに目配りをした。辺りがざわめき立つ。その様子についに宰相は観念した。終了。

「くそ! 国王を毒殺し、王子を毒殺し、この国をわがものにしようとするわしの深謀遠慮しんぼうえんりょなる野望が、こんなクソガキのせいでついえるとは!」

 そう言って毒の入った瓶を床にたたきつけてくやしがった。はは、ざまあみろ、悪は滅びるのだ。ばーかばーか。

「謀反人ベネディクトを捕らえろ! こいつにはたっぶり話してもらうことがある」
「はっ!」

 王子の命令に兵士たちがベネディクトの手を掴み、遠くへ連れて行かれていく。

「くそー、おのれクソガキめ、お前は地獄に落ちるがいい!」

 はっ! ばーか、地獄に落ちるのはお前だ、ていうか、私死んでるし。せいぜい己の罪をあがないなさいな。こうやってことが終わるとウェリントン王子が私の手を握り深々と頭を下げてくる。

「ありがとうございます、ミサ殿。私の命を救ってくれただけでなく、父の仇をうてるなど、すべて貴女のおかげです」
「べ、べつに……そんな大したことじゃないですよ」

 うっ、イケメンが涙ながらにこっちに礼を言ってくる。や、やめてよね、なんかズキュンとくるじゃない。遠くから私たちのやり取りを見ていたのだろう、メアリーが騒ぎを理解してこちらに近寄ってきた。

「わお、すごいわ、ミサ、流石救世主。この国の危機を救うだなんて。それにしても貴女の賢さは幼女にしてはもはや天才だわ」
「私も同感だ、ミサは素晴らしく頭が切れる幼女だ」

 いやーなんか照れるな。そんなに褒められたの初めてだよ。

「そうだわ、ちょうど宰相の席が空いたことだし、ここはミサ殿に宰相になってもらいましょう。預言の救世主だしそれがいいわ!」
「は?」

 な、何言ってんのメアリー、私なんかが宰相なんて出来るわけがないでしょう。や、やば、無茶ぶり始まった……! しかし、ウェリントンも深く感じ入ったようで、メアリーに同感する。

「私もそう思う、次期国王としてお願いしたい。宰相となってこの国を動かしてほしい、頼む」

 ううう、イケメンにそんな懇願こんがんされると断れない……。わかった、わかりましたよ! やればいいんでしょ、やれば!

「わかりました、非才の身ですが王子様のため、この国のために精一杯頑張らせてもらいます」

 そう私が言うとみんなから拍手喝さい。あの、さ、この展開は逆に私が困るパターンなんですけど。なのに、周りがみんなもろ手を挙げて歓迎してくるのだ。

「ミサ宰相バンザーイ! 救世主ミサ殿バンザーイ! この国に栄光あれ!」

 あー。もう! ううう、なんか大変なことになっちゃったよ……。
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