記憶がないっ!

相馬正

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第4話 真実がわからないっ!

真実がわからないっ!⑤

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 追われているアイを助けようとしたり、バイクの男に食い下がったり、なんか最近の俺はどうかしてる。
 ただの思い過ごしかもしれないけど、この一連の出来事は俺にも関係があって、それも知ってる奴が絡んでるんじゃないかって……そう思ったんだ。

 バイクの男から聞き出した人物の名前は《中川シンヤ》。俺のスマホに入ってる連絡先の中で、まだ一人だけ顔を合わせてない奴がいる。そう、《シン》だ。
 《中川シンヤ》と《シン》は……同一人物なんじゃないだろうか?
 何の根拠もないし、こんな決めつけは強引かもしれない。だから、確かめるしかない。明日、隣町の高校へ行こう。

 翌日、アイは学校を休んでいた。昨日のことが関係しているかもしれない。親御さんにバレたとか? いや、それともまさか……昨日の今日でまた危ないことに首を突っ込んじゃいないだろうな?
 とにかく急いだ方が良さそうだ。それとユウにも声をかけておかないと。変に心配させるといけないからな。

 放課後、俺は部活に出る前のユウをつかまえた。

「ユウ、悪い。今日ちょっと用があってさ、一緒に帰れないんだ」
「そっか。うん、わかった」
 ユウは何の詮索もなく返してきた。屈託のない笑顔に、真っ直ぐこちらを見つめる大きな瞳、それが逆に心苦しい。

「ホントごめん。明日は一緒に帰れるから」
「いいよー、そんなに気にしないで」
 お互い笑顔で手を振った。

― ここが一つの分岐点になるかもしれない ―

 ユウと帰っていれば、これまで通りの日常が続いたのかもしれない。
 だけど、あのバイクの男の口ぶりからすると、おそらくアイを巻き込んでしまったのは俺だ。だから、アイが何に首を突っ込んでいるのか、俺は突き止めなきゃならない。
 まあ確証も何もないただの勘だから、単なる痛いカッコつけ野郎って可能性もあるけど。けどそのが言ってるんだ、このモヤモヤした先にあるもの……それがあの《秘密》なんじゃないかって?
 だからこそ、中川シンヤが何者か、それを確かめる必要があるんだ。

 河川敷にかかる橋を渡りながら、頭の中で色々な考えを巡らせる。

 そんな俺の集中力を切らしたのは、目の前に見えたカオルだった。つーか、なんでこんなとこに!?
 別に今は下校時間だし、どこをうろついてようがアイツの勝手だ。だけど、わざわざ橋を渡った先にうちの学校の生徒がいるって、おかしくないか? 俺だって今日みたいに特別な用でもなきゃここにはいない。
 特別な用……カオルがこっち側に来る理由っていったいなんだ?

 気付くと俺は、カオルの後をけていた。特に迷うことなく歩くカオルは、以前もここに来たことがあるのだろうか。
 嫌な予感がする。

 着いた先は、とある学校だった。部活している生徒や下校中の生徒をみる限り、俺たちと同じくらいだから高校だろう。
 スマホで現在地を確認する。マジか……ここって俺が今日行こうとしていた隣町の高校じゃないか。
 嫌な予感が益々大きくなる。

 俺は近くの高台から、気付かれないよう遠目に様子を窺うことにした。

 カオルは……俺とユウの仲をとりもってくれた。本当に感謝してる。それは俺だけじゃなく、ユウだってそうだ。
「頼むから勘違いであってくれよ……」

 カオルは学校の敷地内に入ると校舎脇を通り、焼却炉の辺りで止まった。他の生徒達はカオルをめずらしげに見ていたが、当の本人は特に気に留める様子もない。
「誰かを待ってるのか?」

 そこへ若い男が一人近付いてきた。周りの生徒達の反応を見る限り教師のようだ。
 カオルがその男に気付き会釈をした。間違いなくコイツに用があるようだ。

「なんだ……考え過ぎだったか」
 確かカオルは生徒会に入っていたから、学校間の行事か何かだったんだろう。
 ホッとして気が抜ける。なんでも疑い深くなっちまったな俺。

 いや、待て!
 教師だからってとは限らない。そもそも俺はシンの顔もだけど、歳だって知らないんだ。
「まさかとは思うけど……」
 スマホに登録されている《シン》にかけてみる。
「出るなよ……」

 プルルル プルルル

 2コール
 3コール

『もしもし?』
 出た……
 カオルの前に立つ教師は電話に出た。間違いない、アイツが……シン。

「よおシン」
『どうしたんですか?』
「いや、たいした用じゃないけど、近々会えないか?」
『え?』
 シンはカオルから顔をらした。電話の声が聞こえないようにしているようにも見える。

『はい、いいですけど、いつにしますか?』
 こういうことは、できるだけ早い方がいい。
「そうだな、今日これからってのは?」
『これから!? いや、ちょっと今日は駄目です。今日はずっと立て込んでるので、こちらからまたかけ直します』
「そっか、残念。じゃあまた今度な」
『それでは』

 通話の終了と同時に教師……シンはスマホを下ろした。「今日はずっと立て込んでる」って言ったな。それはたった今、カオルと大事な話ってことだよな。
 まあ、話の内容なんてどうだっていい。カオルとシンが会っていた。理由なんて分からないし、知る必要もない。
 少なくとも、シンのことを知らないと言っていたカオルは、俺に嘘をついていたことになる。

「くっそ……いったい何がどうなってんだ」

 俺は誰を信じればいいんだ……
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