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第4話 真実がわからないっ!
真実がわからないっ!③
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ユウと付き合い始めて変わったことがある。学校帰り、ユウの部活終わりを待って一緒に帰るようになったことだ。
の……はずなんだけど、今日は先に帰っててと言われた。どうやらカオルから駅前に寄り道していこうと誘われたらしい。あんのヤロ、付き合い始めのカッポーの貴重な時間を奪いやがって。
まあ、なので今日は久しぶりに一人で帰っている。
何気なくふらふら歩いてると河原沿いの道に出た。
あれ、こっちは遠回りだよな? 何やってんだ俺。
「ああ、そっか、最近ユウと帰ってたからだ」
ユウと一緒の時はこの先の高架下に寄って、そこに居ついてる猫にユウが飯をあげてたんだった。つーか、俺一人の時に来てどうすんだっての。エサとか持ってねーし。思わず苦笑いが出る。
それと時間を持て余してるせいか、普段は気にも留めないことが目に入る。
この河原沿いを流れる川はかなりデカい。ここから見渡せる範囲だけでも大きな橋が何本も架かっていて、中でもよく立ち寄る高架下の橋が一番長い。それ故か歩道があるにも関わらず車専用状態だ。歩いて渡ってる人なんて稀だし、自転車ですらたまに見かける程度だ。
けど珍しいな、渡ってる人がいる。それによく見たら、うちの学校の女子っぽい。しかも走ってんぞ!
「まさか、ユウじゃないよな!?」
なんて冗談めかしたら、ユウではなかったが、見知った人だった。《倉木アイ》だ!
あの長い黒髪といい、どこかお上品な走り方といい、間違いない。つーか何やってんだお嬢様が!
橋の中央に差し掛かろうとした時、今度は河原からスーツ姿の男が二人上がってきたのが見えた。その二人ともが橋を渡り出す。
なんだなんだ? 今日は結構人が渡ってんだな……って、なに呑気なこと言ってんだ! どう見たってあれ、追われてるじゃないか! おいおい、黒スーツだぜ? ただ事じゃないだろ!
いやいや、だけど彼女だって俺からすれば要注意人物だ。できるだけ関わらないようにしようって決めたばかりだろ……
アイが橋を渡りきった時、男達は橋の中央まで迫っていた。明らかに差が縮まっている。
なんだ? 何が起きてるってんだ?
「くっそ、とにかくあれこれ考えるのは後だ!」
アイは橋を渡り切ると左手に向かった。その進行先を確認すると、もう一つの橋が目に入った。地形上、川上に当たる向こうの橋を渡れば先回りできそうだ。
そのことに気付くと、アイとスーツ姿の男達を目で追いながら俺は走り出していた。幸い向こう岸にはオフィス街が集中してる。そこに紛れ込めば、あの追っ手どもを撒けるかもしれない。
川上の橋は川幅が狭くなって長さが丁度良いせいか、人や自転車の往来がそこそこあった。向こう岸を走っているアイを見逃さないよう、周りにも注意しながら走る。
お互い真っ直ぐ進んでいけば合流できそうだ。
そう思った矢先、アイは細い路地に入ってしまった。
「ちょっ! 待った、見失っちまう!」
いや、アイなりに追っ手を撒くつもりなんだろう。あそこで元来た方向に戻るとは考えにくい。だとすれば、このまま進めば追っ手より先に合流できるはずだ。その一心でひたすら足を奔らせた。
なんとか橋を渡り切った頃には、すっかり息があがり足だってあがらない。
「くそっ! きっつ……」
こんなことなら普段から運動しときゃ良かった。
息を整えながら周囲を見渡した。アイがさっきの路地を抜けてくるなら、そろそろ合流してもいいはずだ。そう思うと同時に少し先の曲がり角からアイが飛び出してきた。
「来た!」
アイもこっちに気付いたはずなのに、急に進路を変えてしまった。
「バカ! そっちに行ってどうすんだ!」
すぐに後を追いかける。
「なんでアナタがここにいるのよ!? ああもうっ、そうじゃない! ついてこないで!」
あれだけ走ってこの元気、なんだよお嬢様、結構タフじゃないか。
「なに言ってんだ、追われてんだろ! その先の道を左に入れ、オフィス街がある!」
「私に指図しないで!」
アイは「ふん」って息を荒くしたが、左手を見ると素直に曲がった。オフィス街に入った方が得策だと判断したようだ。
なんだよ素直じゃないか。
案の定、そこは予想を超える人でごったがえしていた。ちょうど退社が始まり出したタイミングに重なったらしい。これなら自然と人ゴミに紛れ込むことができる。
ものの5分としないうちに追っ手を振り切ることができた。まあ、正確にはこちらからも向こうを見失った訳だが。
そうはいっても油断はできないので、アイと俺は適当なビルの地下駐車場に隠れることにした。ここなら人気もないし、誰か来たとしても足音ですぐに分かる。パッと逃げ込んだにしては上出来だった。
の……はずなんだけど、今日は先に帰っててと言われた。どうやらカオルから駅前に寄り道していこうと誘われたらしい。あんのヤロ、付き合い始めのカッポーの貴重な時間を奪いやがって。
まあ、なので今日は久しぶりに一人で帰っている。
何気なくふらふら歩いてると河原沿いの道に出た。
あれ、こっちは遠回りだよな? 何やってんだ俺。
「ああ、そっか、最近ユウと帰ってたからだ」
ユウと一緒の時はこの先の高架下に寄って、そこに居ついてる猫にユウが飯をあげてたんだった。つーか、俺一人の時に来てどうすんだっての。エサとか持ってねーし。思わず苦笑いが出る。
それと時間を持て余してるせいか、普段は気にも留めないことが目に入る。
この河原沿いを流れる川はかなりデカい。ここから見渡せる範囲だけでも大きな橋が何本も架かっていて、中でもよく立ち寄る高架下の橋が一番長い。それ故か歩道があるにも関わらず車専用状態だ。歩いて渡ってる人なんて稀だし、自転車ですらたまに見かける程度だ。
けど珍しいな、渡ってる人がいる。それによく見たら、うちの学校の女子っぽい。しかも走ってんぞ!
「まさか、ユウじゃないよな!?」
なんて冗談めかしたら、ユウではなかったが、見知った人だった。《倉木アイ》だ!
あの長い黒髪といい、どこかお上品な走り方といい、間違いない。つーか何やってんだお嬢様が!
橋の中央に差し掛かろうとした時、今度は河原からスーツ姿の男が二人上がってきたのが見えた。その二人ともが橋を渡り出す。
なんだなんだ? 今日は結構人が渡ってんだな……って、なに呑気なこと言ってんだ! どう見たってあれ、追われてるじゃないか! おいおい、黒スーツだぜ? ただ事じゃないだろ!
いやいや、だけど彼女だって俺からすれば要注意人物だ。できるだけ関わらないようにしようって決めたばかりだろ……
アイが橋を渡りきった時、男達は橋の中央まで迫っていた。明らかに差が縮まっている。
なんだ? 何が起きてるってんだ?
「くっそ、とにかくあれこれ考えるのは後だ!」
アイは橋を渡り切ると左手に向かった。その進行先を確認すると、もう一つの橋が目に入った。地形上、川上に当たる向こうの橋を渡れば先回りできそうだ。
そのことに気付くと、アイとスーツ姿の男達を目で追いながら俺は走り出していた。幸い向こう岸にはオフィス街が集中してる。そこに紛れ込めば、あの追っ手どもを撒けるかもしれない。
川上の橋は川幅が狭くなって長さが丁度良いせいか、人や自転車の往来がそこそこあった。向こう岸を走っているアイを見逃さないよう、周りにも注意しながら走る。
お互い真っ直ぐ進んでいけば合流できそうだ。
そう思った矢先、アイは細い路地に入ってしまった。
「ちょっ! 待った、見失っちまう!」
いや、アイなりに追っ手を撒くつもりなんだろう。あそこで元来た方向に戻るとは考えにくい。だとすれば、このまま進めば追っ手より先に合流できるはずだ。その一心でひたすら足を奔らせた。
なんとか橋を渡り切った頃には、すっかり息があがり足だってあがらない。
「くそっ! きっつ……」
こんなことなら普段から運動しときゃ良かった。
息を整えながら周囲を見渡した。アイがさっきの路地を抜けてくるなら、そろそろ合流してもいいはずだ。そう思うと同時に少し先の曲がり角からアイが飛び出してきた。
「来た!」
アイもこっちに気付いたはずなのに、急に進路を変えてしまった。
「バカ! そっちに行ってどうすんだ!」
すぐに後を追いかける。
「なんでアナタがここにいるのよ!? ああもうっ、そうじゃない! ついてこないで!」
あれだけ走ってこの元気、なんだよお嬢様、結構タフじゃないか。
「なに言ってんだ、追われてんだろ! その先の道を左に入れ、オフィス街がある!」
「私に指図しないで!」
アイは「ふん」って息を荒くしたが、左手を見ると素直に曲がった。オフィス街に入った方が得策だと判断したようだ。
なんだよ素直じゃないか。
案の定、そこは予想を超える人でごったがえしていた。ちょうど退社が始まり出したタイミングに重なったらしい。これなら自然と人ゴミに紛れ込むことができる。
ものの5分としないうちに追っ手を振り切ることができた。まあ、正確にはこちらからも向こうを見失った訳だが。
そうはいっても油断はできないので、アイと俺は適当なビルの地下駐車場に隠れることにした。ここなら人気もないし、誰か来たとしても足音ですぐに分かる。パッと逃げ込んだにしては上出来だった。
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