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第3話 また記憶がないっ!
また記憶がないっ!⑥
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「なっ!? 今なんて!?」
「だからー、キリオの記憶を消したのはアタシです」
突然の告白だった。でも、どうして急に? 彼女が折れる必要はどこにもなかったはずだ。
「きっと先輩が一番の被害者ですよね。今までのことは素直に謝まります。ごめんなさい。何ならあの二人にもこのこと全て話してもいいです」
「アナタ……いった何考えてるの?」
予想外の展開に頭が追い付かない。けれど、少しして彼女の肩が揺れ始めた。
「くっくく……ああ、ごめんなさい。アタシ今、謝ってるところでしたっけ?」
一之瀬カオルの態度が変わった? どういうこと、犯行を認めたのに、まだ何かあるっていうの?
まさか……私の記憶も消そうっていうんじゃ!?
思わず足が後退る。
「あーおっかし、別にアンタの記憶は消さないよ。追いつめられてるのはアタシじゃなくて、先輩の方だし」
「どういうこと?」
「先輩がアタシにやっきになってる間、あの二人、キリオとユウはいい感じになっちゃってたでしょ? あれ、アタシの仕業」
「えっ」
「先輩、アタシに構い過ぎてあそこの高架下にも行ってないでしょ? キリオは何度か来てたみたいだけど」
!!
「あっはっは、でも大丈夫。《キリオ》も《猫のキリオ》も、ユウが面倒みてくれてるから。あっははは」
「なんでそれを!?」
「先輩って本物のお嬢様なんですね」
一之瀬カオルが意味ありげな台詞とともに橘の方を見た。
「どういうこと?」
私も橘を見ると、橘は視線をずらし顔を伏せた。
「……まさか?」
思わず唇をかむ。
「仕えの人はアンタを心配してるんじゃない。いつでも家のことを心配してるんだよ! 先輩の相手はキリオじゃ駄目ってさ!」
「橘っ! どういうこと!?」
「申し訳ございません。隠していた訳ではないのですが、旦那様にどこからか連絡が入ったようでして……」
やられた!
ううん、予兆はあったんだ、急に門限が厳しくなったり、電話をかけることさえ制限され始めた。
一之瀬カオルを睨みつける。
「くっくくく……」
「何がおかしいの!?」
彼女は笑いを堪えきれないといった様子で続けた。
「いや、おかしーでしょ。先輩が必死に色々嗅ぎまわってくれたおかげで、確か《非通知の女》だっけ? キリオは先輩、アンタを疑ってんだよ。あはははは、傑作!」
「そんな……!」
目の前が一瞬真っ暗になると、全身の力が抜けたようにしゃがみ込んでいた。
「だから今さら本当のこと話したって、今の状況が逆転することは絶対ないでしょうね。ユウは一途にキリオを想い続けてたけど、先輩はどうだった? ははっ! もう元には戻らないんだよ。そう……アタシの力を除いてはね」
!?
そんなバカげた話あり得ないと分かりつつも、自分の肩がビクっと揺れたのが情けなかった。思わず彼女の言葉に反応してしまっていた。
彼女の言う通り、途中からキリオとの関係が絶望的になって、私は《一之瀬カオル》の調査に没頭し、そのことを見ないようにしていたんだ……
「いいの? このままだとあの二人、付き合っちゃうよ?」
許せない! この女!
「キリオとユウは今ちょっと喧嘩中でね、お互い仲直りするキッカケがほしいのよ。そこで、アタシがキリオを連れて高架下に行けば、晴れて二人は……」
絶対に許せない……でも、それは私自身も……
「さっきの電話で、謎の女を演じてキリオに発破を掛けておいたの。駅前に来いってね。同時にユウにはキリオを高架下に誘うように言ったの。人っておかしいでしょ? 追いつめられると意思が強くなるの。ま、どっちに転ぶもアタシ次第なんだけど」
一之瀬カオルの勝ち誇った顔が私を責め立てる。
悔しい……
!?
責める……? 何を? 何だろうこの違和感?
けれど、今はとても正確な判断ができそうにない。私はどうすれば……?
彼女は来た道を戻ろうとしている。このタイミングを逃してしまったら、本当にキリオとは……
彼女は最後にもう一度だけ念押ししてきた。
「それじゃあ先輩、アタシもう行っちゃいますけど、本当にいいんですか?」
いいわけがない。けれど……何も言葉にできなかった。
(四話に続く)
「だからー、キリオの記憶を消したのはアタシです」
突然の告白だった。でも、どうして急に? 彼女が折れる必要はどこにもなかったはずだ。
「きっと先輩が一番の被害者ですよね。今までのことは素直に謝まります。ごめんなさい。何ならあの二人にもこのこと全て話してもいいです」
「アナタ……いった何考えてるの?」
予想外の展開に頭が追い付かない。けれど、少しして彼女の肩が揺れ始めた。
「くっくく……ああ、ごめんなさい。アタシ今、謝ってるところでしたっけ?」
一之瀬カオルの態度が変わった? どういうこと、犯行を認めたのに、まだ何かあるっていうの?
まさか……私の記憶も消そうっていうんじゃ!?
思わず足が後退る。
「あーおっかし、別にアンタの記憶は消さないよ。追いつめられてるのはアタシじゃなくて、先輩の方だし」
「どういうこと?」
「先輩がアタシにやっきになってる間、あの二人、キリオとユウはいい感じになっちゃってたでしょ? あれ、アタシの仕業」
「えっ」
「先輩、アタシに構い過ぎてあそこの高架下にも行ってないでしょ? キリオは何度か来てたみたいだけど」
!!
「あっはっは、でも大丈夫。《キリオ》も《猫のキリオ》も、ユウが面倒みてくれてるから。あっははは」
「なんでそれを!?」
「先輩って本物のお嬢様なんですね」
一之瀬カオルが意味ありげな台詞とともに橘の方を見た。
「どういうこと?」
私も橘を見ると、橘は視線をずらし顔を伏せた。
「……まさか?」
思わず唇をかむ。
「仕えの人はアンタを心配してるんじゃない。いつでも家のことを心配してるんだよ! 先輩の相手はキリオじゃ駄目ってさ!」
「橘っ! どういうこと!?」
「申し訳ございません。隠していた訳ではないのですが、旦那様にどこからか連絡が入ったようでして……」
やられた!
ううん、予兆はあったんだ、急に門限が厳しくなったり、電話をかけることさえ制限され始めた。
一之瀬カオルを睨みつける。
「くっくくく……」
「何がおかしいの!?」
彼女は笑いを堪えきれないといった様子で続けた。
「いや、おかしーでしょ。先輩が必死に色々嗅ぎまわってくれたおかげで、確か《非通知の女》だっけ? キリオは先輩、アンタを疑ってんだよ。あはははは、傑作!」
「そんな……!」
目の前が一瞬真っ暗になると、全身の力が抜けたようにしゃがみ込んでいた。
「だから今さら本当のこと話したって、今の状況が逆転することは絶対ないでしょうね。ユウは一途にキリオを想い続けてたけど、先輩はどうだった? ははっ! もう元には戻らないんだよ。そう……アタシの力を除いてはね」
!?
そんなバカげた話あり得ないと分かりつつも、自分の肩がビクっと揺れたのが情けなかった。思わず彼女の言葉に反応してしまっていた。
彼女の言う通り、途中からキリオとの関係が絶望的になって、私は《一之瀬カオル》の調査に没頭し、そのことを見ないようにしていたんだ……
「いいの? このままだとあの二人、付き合っちゃうよ?」
許せない! この女!
「キリオとユウは今ちょっと喧嘩中でね、お互い仲直りするキッカケがほしいのよ。そこで、アタシがキリオを連れて高架下に行けば、晴れて二人は……」
絶対に許せない……でも、それは私自身も……
「さっきの電話で、謎の女を演じてキリオに発破を掛けておいたの。駅前に来いってね。同時にユウにはキリオを高架下に誘うように言ったの。人っておかしいでしょ? 追いつめられると意思が強くなるの。ま、どっちに転ぶもアタシ次第なんだけど」
一之瀬カオルの勝ち誇った顔が私を責め立てる。
悔しい……
!?
責める……? 何を? 何だろうこの違和感?
けれど、今はとても正確な判断ができそうにない。私はどうすれば……?
彼女は来た道を戻ろうとしている。このタイミングを逃してしまったら、本当にキリオとは……
彼女は最後にもう一度だけ念押ししてきた。
「それじゃあ先輩、アタシもう行っちゃいますけど、本当にいいんですか?」
いいわけがない。けれど……何も言葉にできなかった。
(四話に続く)
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