13 / 29
第2話 恋がしたいっ!
恋がしたいっ!⑥
しおりを挟む
「どうしたの?」
「いや、今、アイが言ったこと……俺、前にも、この場所で同じ台詞を……」
「覚えてるの!?」
夢で見たのも河原だった。同じシーンで、全く同じ台詞……その後に俺は記憶をなくした。
って、待て、待て! なんだこの漠然とした不安は……まさか!?
非通知の女が頭をよぎる。気持ちとは裏腹に、思考は悪い方に向かっていた。
「アイ……」
「何?」
「俺に電話したことある?」
「電話? したことないけど。それが、どうかしたの?」
自分の周りの空気が濁ったように不穏になる。開こうとする口が重い。
「俺、記憶をなくす前に……誰かと電話で話してるんだ」
「!? それが私って?」
「いやゴメン! 分からないんだ、覚えてなくて。でも、付き合ったその日なら電話くらいするんじゃないかと思って……」
アイを疑うような発言に後ろめたさを感じたが、当の本人は何やら考え込んでいた。
「確かにそうね。でも、本当に私からは電話してないわ。ウチは厳しくて、了解がないと家の電話は使わせてもらえないし、私、携帯型の電話も持たされてないから」
「そ、そーだよな。それに、かけるなら俺からだろうし……」
「ううん。家の番号だって伝えてないから、キリオからウチに電話することもあり得ないわ」
「そっか、そうだよな。はは、良かった……」
そうだよ、アイが非通知の女の訳がない。今だってほら、記憶はちゃんと残ってる。
「良くない!!」
「え!?」
アイの声とは思えないほどの声量だった。
「早く言いなさいよ、そういうことは!」
「え?」
「記憶がなくなる直前に誰かと電話で話してたんでしょ!?」
「あ、ああ」
「それって記憶喪失と関係あるかもしれないじゃない! 誰と話してたの!?」
えらい剣幕だ。そりゃそうか、誰かのせいでこうなったのだとしたら、アイだって被害者だ。
「いや、だから判らないんだってば! 電話は非通知だったし、けどそいつは俺の記憶のことを知ってたんだ」
「ねえ……それって本当に記憶喪失なの?」
「なんだそれ、どういうこと?」
アイは神妙な面持ちで思いがけないことを言った。
「もしも、もしもよ……その電話の相手が、キリオの記憶を消したとしたら……」
「は? ええ?」
そんな可能性、考えもしなかった。単純に記憶喪失だと疑いもしなかった。別に知らない病気じゃないし、誰だってなる可能性がある訳で。それがたまたま自分だったんだろうと、だから仕方がないと思っていたのに。
「そんなバカなこと……」
あり得ない。
「分かってる。でも、記憶がなくなる前に電話があって、記憶をなくした後もそうして連絡がある。さっき言ったことは考え過ぎかもしれないけど、怪しい人物ってことは確かよ」
アイは腕組みをし、右手をあごの下に持っていった。きっと、あらゆる可能性を考えてくれているのだろう。
「やっぱり良かった」
「だから何が……」
「記憶をなくす前も今も、アイを好きになって良かった」
すっと出た言葉に俺自身驚いた。
アイもびっくりした顔でしばらく固まっていたが、コクリと小さく頷くと俺に寄りかかってきた。
「淋しかったんだからね」
「ゴメン」
「キリオは謝ってばっかり」
「はは、ホントだ」
「ニャーゴ」
鳴き声のした方へ振り向くと、さっき逃げた猫が戻ってきていた。
「キリオ!」
は?
「今なんて?」
アイは《しまった》といった感じで顔を赤くした。
「だから淋しかったって言ったでしょ!」
あ……俺の名前を猫に? そうか、来た時にアイの言った「君の変わり」って、そういう意味だったのか。
俺が記録をなくしてもずっと待っててくれたんだ。
《秘密》も《過去の記憶》もまだ何も分かってない。だけど、それ以外の大切なことを気付かせてくれた。
今日ここに来て、アイと話せて本当に良かった。
「そろそろ帰らないと」
急にアイがそう言い出したが、まだ日も暮れてすらない。
「え、もう?」
「門限っ」
おおっ、マジもんのお嬢様かよ。
「ホントにあるんだそういうの」
「まあね。さっきは話切られちゃったけど……」
「ん?」
「今後、非通知の電話は一切出ないこと!! いーい?」
「わ、わかった」
しっかりアイに念押しされ、お互い河原をあとにした。
「いや、今、アイが言ったこと……俺、前にも、この場所で同じ台詞を……」
「覚えてるの!?」
夢で見たのも河原だった。同じシーンで、全く同じ台詞……その後に俺は記憶をなくした。
って、待て、待て! なんだこの漠然とした不安は……まさか!?
非通知の女が頭をよぎる。気持ちとは裏腹に、思考は悪い方に向かっていた。
「アイ……」
「何?」
「俺に電話したことある?」
「電話? したことないけど。それが、どうかしたの?」
自分の周りの空気が濁ったように不穏になる。開こうとする口が重い。
「俺、記憶をなくす前に……誰かと電話で話してるんだ」
「!? それが私って?」
「いやゴメン! 分からないんだ、覚えてなくて。でも、付き合ったその日なら電話くらいするんじゃないかと思って……」
アイを疑うような発言に後ろめたさを感じたが、当の本人は何やら考え込んでいた。
「確かにそうね。でも、本当に私からは電話してないわ。ウチは厳しくて、了解がないと家の電話は使わせてもらえないし、私、携帯型の電話も持たされてないから」
「そ、そーだよな。それに、かけるなら俺からだろうし……」
「ううん。家の番号だって伝えてないから、キリオからウチに電話することもあり得ないわ」
「そっか、そうだよな。はは、良かった……」
そうだよ、アイが非通知の女の訳がない。今だってほら、記憶はちゃんと残ってる。
「良くない!!」
「え!?」
アイの声とは思えないほどの声量だった。
「早く言いなさいよ、そういうことは!」
「え?」
「記憶がなくなる直前に誰かと電話で話してたんでしょ!?」
「あ、ああ」
「それって記憶喪失と関係あるかもしれないじゃない! 誰と話してたの!?」
えらい剣幕だ。そりゃそうか、誰かのせいでこうなったのだとしたら、アイだって被害者だ。
「いや、だから判らないんだってば! 電話は非通知だったし、けどそいつは俺の記憶のことを知ってたんだ」
「ねえ……それって本当に記憶喪失なの?」
「なんだそれ、どういうこと?」
アイは神妙な面持ちで思いがけないことを言った。
「もしも、もしもよ……その電話の相手が、キリオの記憶を消したとしたら……」
「は? ええ?」
そんな可能性、考えもしなかった。単純に記憶喪失だと疑いもしなかった。別に知らない病気じゃないし、誰だってなる可能性がある訳で。それがたまたま自分だったんだろうと、だから仕方がないと思っていたのに。
「そんなバカなこと……」
あり得ない。
「分かってる。でも、記憶がなくなる前に電話があって、記憶をなくした後もそうして連絡がある。さっき言ったことは考え過ぎかもしれないけど、怪しい人物ってことは確かよ」
アイは腕組みをし、右手をあごの下に持っていった。きっと、あらゆる可能性を考えてくれているのだろう。
「やっぱり良かった」
「だから何が……」
「記憶をなくす前も今も、アイを好きになって良かった」
すっと出た言葉に俺自身驚いた。
アイもびっくりした顔でしばらく固まっていたが、コクリと小さく頷くと俺に寄りかかってきた。
「淋しかったんだからね」
「ゴメン」
「キリオは謝ってばっかり」
「はは、ホントだ」
「ニャーゴ」
鳴き声のした方へ振り向くと、さっき逃げた猫が戻ってきていた。
「キリオ!」
は?
「今なんて?」
アイは《しまった》といった感じで顔を赤くした。
「だから淋しかったって言ったでしょ!」
あ……俺の名前を猫に? そうか、来た時にアイの言った「君の変わり」って、そういう意味だったのか。
俺が記録をなくしてもずっと待っててくれたんだ。
《秘密》も《過去の記憶》もまだ何も分かってない。だけど、それ以外の大切なことを気付かせてくれた。
今日ここに来て、アイと話せて本当に良かった。
「そろそろ帰らないと」
急にアイがそう言い出したが、まだ日も暮れてすらない。
「え、もう?」
「門限っ」
おおっ、マジもんのお嬢様かよ。
「ホントにあるんだそういうの」
「まあね。さっきは話切られちゃったけど……」
「ん?」
「今後、非通知の電話は一切出ないこと!! いーい?」
「わ、わかった」
しっかりアイに念押しされ、お互い河原をあとにした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。
ほんのりと百合の香るお話です。
ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。
イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。
★Kindle情報★
1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
★第1話『アイス』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
★Chit-Chat!1★
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる