記憶がないっ!

相馬正

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第1話 記憶がないっ!

記憶がないっ!③

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 記憶喪失のことを誰にも言わず、慎重になっているのには理由がある。そもそも何事もなければ、とっくに家族に打ち明けてる。だけど、唯一覚えていたことが邪魔をしていた。

― よくわからない《秘密》だ ―
 なぜか俺は、そのことを言わない約束をしている。もしかするとそれは夢の中での約束かもしれない。けれど、もし現実だったとしたら……昨日までの俺にとっては最後の記憶で、今の俺にとっては一番新しい記憶ってことになる。つまり過去の俺と今の俺をつなぐ唯一の鍵がその《秘密》で、きっと記憶を取り戻す重要な手掛かりなんだと思う。
 そのせいもあって、安易あんいに誰かに知られてはいけない気がした。
 だから今、俺がすべきことは、気の許せる相手を早く見つけて、全ての事情を打ち明け、記憶を取り戻す為に協力を得ることだ!
 とは言ったものの、たった今直面している問題をどうにかしないといけない。
 学校って……どこにあるんだ?

「おっす! キリオ!」

 少しのができ、はっとする。《キリオ》って俺じゃないか。ワンテンポ遅れて振り返った。
 うおっ、背ぇ高っ! しかも男でロンゲ! 誰だコイツ? いや待て、コイツが着てる制服、俺と同じだ。もしかして例の5人のうちの一人だったりするか? なんか見た目もチャラいし、「おっす」って挨拶なら、返しはこうか?
「お、おう」
 申し訳程度に軽く手も挙げてみたが、じっと見返されてしまった。
 へ、返事が変だったか? よく見るとコイツ、体格ガッチリしてるし、ハイタッチした方が良かったか? それともやっぱり俺はオタクキャラなのか?

「どこ行くんだよ? 学校と逆方向に歩いて」
「へっ?」
「しかもお前が朝から学校なんて、今日って何かあんのか?」
「ちょ、ちょっとな」
「ふーん」

 見知らぬ相手とゼロ情報で会話して、意味不明な質問までかわしたぞ! 何気なにげに凄くないか俺!? あまりの出来に、体が一瞬震えてしまった。
 実際、ツッコミが入ったのは、学校とは逆方向に行っていたことだけで、俺のキャラ自体はスルーだったよな。よっし、いける! 今日は「おう」と「ちょっとな」で乗り切ってやるぜ!

「そういえばキリオ、昨日の夜電話したのに出なかったな」
 !?
「わ、悪い、ちょっとな」
 昨日の夜、俺に電話した奴は二人! タケルと非通知の奴だ。まだ少ししか話してないけど、この距離感の間柄あいだがらで非通知ってことはないだろ。ってことは……コイツはまずタケルで間違いない! スマホの着信が一番多かったのがタケルだから、予想される俺との関係は……親友!!
 待てよ? 親友がこのチャラってことは、俺がオタクって線はなくなったんじゃないか? 益々ますますいいぞ!
「何ガッツポーズしてんだ?」
「なんでもねーよ……タケル」
 俺はさりげなくタケルの名前を口にし、恐る恐る横目で表情をうかがった。最終確認だ。コイツの表情に疑問の色は見えない。よしっ、コイツはタケルで確定だ! それにコイツと一緒なら学校にも行ける。いい感じだぞ。

「キリオ、今日はやけに機嫌いいな」
「ちょっとな」
「ははーん、分かったぞ、お前らやっぱ付き合うことになったんだろ? だから俺の電話出なかったり、朝ちゃんと起きたんじゃねーか?」
「なっ!?」
 待て待てっ! なんだこの流れ? 付き合う云々うんぬんって、唐突とうとつ過ぎるだろ! こんな話、今の俺に対応できっこない。交友関係もままならないうちに恋愛話とか、そもそも相手誰だよ! 相手って……ちょ、ちょっと気になるな。
 いやいやいや! おかしくないか!? 色々聞きたいことがあるのはこっちなのに、逆に質問されちまってる。しかも、俺の行動がおかしいこととうまく繋げてきやがった。タケルの奴、さすがに俺の親友だけのことはある。
 はっ! 待てよ、そもそもこれが俺の秘密なんじゃないか? 分かんねーけど、ここは迂闊うかつに答えちゃダメだ。

「なあ……付き合ってるかどうかは別として、なんで朝起きたくらいでその話になるんだ?」
「お、なーんかうまくごまかそうとしてんだろ? まあいっか、その口ぶりじゃ付き合ってないみたいだしな。ほら、ユウって見た目はアレで真面目だろ。だから『朝はちゃんと来なさいよ』とか『一緒に学校行こう』とか言われたんかなって。お前、さっきユウんちの方に歩いてたしよ」
 なるほど、そういうことか。慎重になって正確だった。おそらく《ユウ》も5人のうちの一人に間違いない。

 整理すると、ユウは女で、見た目はギャル風(たぶん)だけど真面目っていうギャップがある。さらに俺とは友達以上恋人未満(たぶん)の微妙な関係だ。
 よし、これで一気に親友と恋人未満が把握できたぞ、幸先さいさきいいじゃないか。
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