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第1話 記憶がないっ!
記憶がないっ!①
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「このことは絶対に秘密よ。約束だからね」
「わかった」
…………
……
ドサッ
「いって」
顔と腰に軽い痛みが走った。ん、ああ? ベットから落ちたのか。薄らぼんやりとした中、這うようにしてベットに戻る。
さっきのは夢か、なんか意味深だったな「秘密」とか言って。でも、秘密ってなんだっけ? 確か場所は河原で、二人で立ってて、相手は……誰だった? あれ、いや待てよ? そんなことより、ええと、何て言えばいいんだ……そうだ、自分! 自分はいったい、誰なんだ?
記憶が……ないっ!!!
「くぁっ!」
ショックの反動で体が起き上がった。
「最悪だ。《自分は誰だ?》なんて、そんなのありか?」
完全に目が覚めて二度寝どころじゃなくなった。
ベットから足をおろして前を向くと、すぐに次の衝撃が襲った。
「ちょっ、ここどこだ?」
駄目だ、ちょっとしたパニックだ。とにかくひとつずつ整理しないと。
― まず、ここはどこか? ―
ここは六畳ほどの部屋で、机、ラック、洋服棚、そして今自分が座っているベットがある。このベッドに一人で寝ていたとすると、十中八九ここは自分の部屋のはずだ。いや、知人の家に泊まりにきている、なんて可能性もありか。いや待て、そんなこと言い出したらきりがない。この部屋を出れば嫌でも分かるんだ、ここがどこかなんて大した問題じゃない。
― じゃあ、自分は誰なのか? ―
そうだ、これこそ問題だ。自分の名前が解らない。どんなやつかも思い出せない。
だいたい、さっきから「自分」って言い方、違うよな? 普通は自分のことを「僕」とか「俺」とか言うはずだ。それすらも解らない。
ゾクッ
急に身震いした。気付くと体中からいけない汗が噴き出していた。
「これって、寝汗……な訳はないよな」
まさに、えも言われぬとはこのことだ。頭では理解できなくても体は直感的に危険信号を発している。
駄目だ、取り乱しちゃいけない。とにかく一度冷静になろう。
「ふぅー」
静かに深呼吸した。落ち着け、一時的に混乱しているだけかもしれない。人の名前を忘れたり、《ナ行》が一つ出てこなかったり、よくあることだ。今はとにかく情報を集めよう。何かがキッカケになれば、ポーンと思い出して全て元通り、ってな。
そうだ、きっとそうに違いない、大丈夫だ問題ない。そう自分に強く言い聞かせた。
― 自分に関する情報を探そう ―
改めて部屋を見回した。飾り気のない殺風景な部屋。テレビやオーディオ、パソコンといった家電の類がひとつもない。それだけじゃない、本やマンガ、ゲームといった趣向が判りそうなものすらない。
いや、無趣味というのであれば立派な個性か。だとすると、自分は結構いい歳なんじゃないか? そう思った矢先、壁に掛かっている服を見付け、目を疑った。
「これって制服だよな、ってことは、学生!?」
部屋のドアの横に全身が映せる大きな鏡があった。恐る恐る近付いて覗き込むと、そこには確かに学生……おそらく高校生くらいの男の子が立っていた。
「これが、自分の姿……」
まじまじと下から全身をなめる。自分で言うのもなんだが、スラッとしていてカッコいい。顔つきがちょっと軟派な感じもするが、切れ長な目をした、いわゆるイケメンがそこにいた。
鏡の中にいる見ず知らずのイケメンは、手を動かしたり首を動かすと、自分の思い通りに動く。まるで操り人形を動かしているような不思議な感覚だ。
そういえば昔、人の中身が入れ替わるストーリーの映画があったな。あれも確か学園ものだった。やっぱりこういうことって多感な年頃に起こったりするものなのだろうか。ん、学園?
「そうだ、生徒手帳!」
さっきの制服に手を伸ばし、ポケットの中を全て探した。しかし、何も入っていない。机の中も探してみたが、そこにも入っていなかった。おかしい……生徒手帳どころか何もない。学生っていうには持ち物がなさ過ぎやしないか?
手掛かりのないまま時間だけが過ぎる。未だ自分の名前すら解らない。そうこうしているうちに、カーテンの隙間から明かりが射し込み始めていた。時計に目をやると針は7時前を指している。学生だったらもうすぐ登校しないといけない時間だ。けれど、今日が何曜日かも分からない。平日なのか、それとも休日なのだろうか。
どちらにせよ、この部屋に何も手掛かりがない以上、外に出るしかない。ここにずっと引き籠っていても、いつか誰かが入ってくる。とてもじゃないがそれこそ恐ろしい。
― 外へ出よう ―
ドアノブに手をかけると、少し汗ばんでいた。ただノブを回すだけなのに、今までこんなに勇気が要ったことがあっただろうか。
「今までって、そもそも今より前の記憶なんてないだろっ」
思わずツッコミを入れていた。こんな状況なのに冗談を言えてる自分がいる。ほんの僅かな時間とはいえ、もがいた行動の積み重ねが気持ちにゆとりをもたらしたのかもしれない。
だとしたら、いろいろ経験することは記憶を呼び覚ますキッカケになるんじゃないだろうか?
自然と制服に手が伸びる。
「学校……行ってみよう」
シャツにズボン、ブレザーを順に着て、改めて鏡の前に立った。
「って、茶髪かよっ!?」
さっきは薄暗くて分からなかったが、真っ先に茶色い髪が目に入った。それにこのだらしなく着くずした制服姿はなんだ? もしかして自分は、少々やんちゃなのかもしれない。
「よし! 一人称は《俺》でいってみるか」
少しずつだけど着実に前進している。全ては外へ向かう一歩を後押ししているように。
再びドアノブに手をかけると、さっきまでの汗は嘘のように引いていた。
ガチャリ
― いざ、自分探しへ ―
「わかった」
…………
……
ドサッ
「いって」
顔と腰に軽い痛みが走った。ん、ああ? ベットから落ちたのか。薄らぼんやりとした中、這うようにしてベットに戻る。
さっきのは夢か、なんか意味深だったな「秘密」とか言って。でも、秘密ってなんだっけ? 確か場所は河原で、二人で立ってて、相手は……誰だった? あれ、いや待てよ? そんなことより、ええと、何て言えばいいんだ……そうだ、自分! 自分はいったい、誰なんだ?
記憶が……ないっ!!!
「くぁっ!」
ショックの反動で体が起き上がった。
「最悪だ。《自分は誰だ?》なんて、そんなのありか?」
完全に目が覚めて二度寝どころじゃなくなった。
ベットから足をおろして前を向くと、すぐに次の衝撃が襲った。
「ちょっ、ここどこだ?」
駄目だ、ちょっとしたパニックだ。とにかくひとつずつ整理しないと。
― まず、ここはどこか? ―
ここは六畳ほどの部屋で、机、ラック、洋服棚、そして今自分が座っているベットがある。このベッドに一人で寝ていたとすると、十中八九ここは自分の部屋のはずだ。いや、知人の家に泊まりにきている、なんて可能性もありか。いや待て、そんなこと言い出したらきりがない。この部屋を出れば嫌でも分かるんだ、ここがどこかなんて大した問題じゃない。
― じゃあ、自分は誰なのか? ―
そうだ、これこそ問題だ。自分の名前が解らない。どんなやつかも思い出せない。
だいたい、さっきから「自分」って言い方、違うよな? 普通は自分のことを「僕」とか「俺」とか言うはずだ。それすらも解らない。
ゾクッ
急に身震いした。気付くと体中からいけない汗が噴き出していた。
「これって、寝汗……な訳はないよな」
まさに、えも言われぬとはこのことだ。頭では理解できなくても体は直感的に危険信号を発している。
駄目だ、取り乱しちゃいけない。とにかく一度冷静になろう。
「ふぅー」
静かに深呼吸した。落ち着け、一時的に混乱しているだけかもしれない。人の名前を忘れたり、《ナ行》が一つ出てこなかったり、よくあることだ。今はとにかく情報を集めよう。何かがキッカケになれば、ポーンと思い出して全て元通り、ってな。
そうだ、きっとそうに違いない、大丈夫だ問題ない。そう自分に強く言い聞かせた。
― 自分に関する情報を探そう ―
改めて部屋を見回した。飾り気のない殺風景な部屋。テレビやオーディオ、パソコンといった家電の類がひとつもない。それだけじゃない、本やマンガ、ゲームといった趣向が判りそうなものすらない。
いや、無趣味というのであれば立派な個性か。だとすると、自分は結構いい歳なんじゃないか? そう思った矢先、壁に掛かっている服を見付け、目を疑った。
「これって制服だよな、ってことは、学生!?」
部屋のドアの横に全身が映せる大きな鏡があった。恐る恐る近付いて覗き込むと、そこには確かに学生……おそらく高校生くらいの男の子が立っていた。
「これが、自分の姿……」
まじまじと下から全身をなめる。自分で言うのもなんだが、スラッとしていてカッコいい。顔つきがちょっと軟派な感じもするが、切れ長な目をした、いわゆるイケメンがそこにいた。
鏡の中にいる見ず知らずのイケメンは、手を動かしたり首を動かすと、自分の思い通りに動く。まるで操り人形を動かしているような不思議な感覚だ。
そういえば昔、人の中身が入れ替わるストーリーの映画があったな。あれも確か学園ものだった。やっぱりこういうことって多感な年頃に起こったりするものなのだろうか。ん、学園?
「そうだ、生徒手帳!」
さっきの制服に手を伸ばし、ポケットの中を全て探した。しかし、何も入っていない。机の中も探してみたが、そこにも入っていなかった。おかしい……生徒手帳どころか何もない。学生っていうには持ち物がなさ過ぎやしないか?
手掛かりのないまま時間だけが過ぎる。未だ自分の名前すら解らない。そうこうしているうちに、カーテンの隙間から明かりが射し込み始めていた。時計に目をやると針は7時前を指している。学生だったらもうすぐ登校しないといけない時間だ。けれど、今日が何曜日かも分からない。平日なのか、それとも休日なのだろうか。
どちらにせよ、この部屋に何も手掛かりがない以上、外に出るしかない。ここにずっと引き籠っていても、いつか誰かが入ってくる。とてもじゃないがそれこそ恐ろしい。
― 外へ出よう ―
ドアノブに手をかけると、少し汗ばんでいた。ただノブを回すだけなのに、今までこんなに勇気が要ったことがあっただろうか。
「今までって、そもそも今より前の記憶なんてないだろっ」
思わずツッコミを入れていた。こんな状況なのに冗談を言えてる自分がいる。ほんの僅かな時間とはいえ、もがいた行動の積み重ねが気持ちにゆとりをもたらしたのかもしれない。
だとしたら、いろいろ経験することは記憶を呼び覚ますキッカケになるんじゃないだろうか?
自然と制服に手が伸びる。
「学校……行ってみよう」
シャツにズボン、ブレザーを順に着て、改めて鏡の前に立った。
「って、茶髪かよっ!?」
さっきは薄暗くて分からなかったが、真っ先に茶色い髪が目に入った。それにこのだらしなく着くずした制服姿はなんだ? もしかして自分は、少々やんちゃなのかもしれない。
「よし! 一人称は《俺》でいってみるか」
少しずつだけど着実に前進している。全ては外へ向かう一歩を後押ししているように。
再びドアノブに手をかけると、さっきまでの汗は嘘のように引いていた。
ガチャリ
― いざ、自分探しへ ―
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