パン屋の僕の勘違い【完】

おはぎ

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パン屋の僕の勘違い

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――良い匂い。今日も美味しそう!
 早朝からパンを焼き、それを店内に並べると香ばしい良い匂いが鼻を掠める。お腹が空いて来る匂いだ。僕は、店のパンとは別に、焼いていたパンを袋詰めする。そろそろなはずだけど…。
―――チリンチリン
 そう思っていると、ドアの鈴がなった。
「おはよ~ミラちゃん。今日も良い匂いだね~。あ、それ?じゃあもらってくね。はい、今週分のお金。ねぇミラちゃん、明日休みだよね?デートしない?おすすめの店があってさ~。」
入ってきて早々にマシンガントークを始めるウォルニア様。見上げる程の身長に、にこっと微笑むだけで一瞬で虜にしてしまう甘いマスク。柔らかそうなウェーブがかかった茶色の髪に、カウンターに肘をついて首を傾げる彼からは色気を感じる。僕は、そんな彼に苦笑しながら、
「明日は、パンの試作をしようと思っていて。お誘いいただいたのにすみません。」
 そう言って袋詰めされた大量のパンを渡し、お金が入った袋を受け取った。
「ちぇっ。残念だな~。じゃあこれありがとね~。」
 全く残念に思っていなさそうな口調でそう言うと、ウォルニア様は僕に手を振って店を出て行ったのだった。
……はぁ。
 僕は、ドキドキしている胸を押さえて、ため息を吐く。
 ウォルニア様が初めて来店した時。毎朝、騎士団の朝食のパンを作って欲しいという依頼の話だった。朝の分であるなら出来ないことはなかったため了承すると、毎朝大量のパンを焼いては取りに来るウォルニア様に渡す、というのが今の日課になっている。
 取りに来るのは決まってウォルニア様で、副団長様なのに忙しくないのだろうかと首を捻るが、騎士団のことはよく分からないため聞けずにいる。そして、騎士団の朝食用のパンを作って一週間が経ち、次の日が休日、といった時。初めてウォルニア様に、次の日に一緒に出掛けないかと誘われたのだ。僕は、もしかして口説かれているのではと、熱を持った頬でわたわたと断った。丁度、次の日は小麦の仕入れや、店のパンを屋台で使いたいと言ってくれている人と話し合いをするための用事があったのだ。泣く泣く断り、それに嫌な顔をすることなく店を後にしたウォルニア様に、あんなに素敵な人が僕を…?と内心浮かれまくっていた。しかし、その日、僕は予想以上に早く終わった話し合いに、街をぶらぶら歩いていると、ウォルニア様を見掛けたのだ。僕は嬉しくなって近寄ろうとすると、その彼の腕を絡みつくように掴んでいる可愛らしい男の人がいるのを見て、動きを止めた。一瞬で悟った僕は、踵を返して、その場を足早に後にする。
……恥ずかしい……!
 僕は自分の店に戻ると、併設している自宅に駆け込んだ。
 あんな素敵な人が自分を好きかもしれないなんて、何て分不相応なことを思ったのだろう。浮かれていた自分が恥ずかしいし、あからさまに顔を染めて断ったのも恥ずかしい。そんな気なんてなかっただろうウォルニア様は、きっと呆れていたに違いない。きっと、ただの社交辞令だったのだ。それなのに、あんな反応して…!あまりの自分の恥ずかしい勘違いに、僕は顔が熱くなった。
……うん、うん、大丈夫。逆に、彼の誘いにのらなくて良かった。もしのっていたら、冗談も分からないやつだと思われたかもしれないし。僕はプラスに考えようとして、頭を振る。
……うぅ~でも僕みたいなのにそんなこと言ってくるウォルニア様もひどい。そんなこと言われたら勘違いだってするよ……。
 ベッドに顔を突っ伏していたが、起き上がってパンを捏ね始める僕。恥ずかしさを全部、そのパンに詰め込んだ僕は、焼き上げると、まだ熱いままそれらを食べ始める。何とか気持ちが落ち着いた後、自分の顔を叩くと、明日のパンの仕込みをし始めるのだった。
――それからも、ウォルニア様の誘い言葉は続いている。
 もうさすがに勘違いすることもなくなり、顔を赤くすることもなくなったが、やはり言われる度にドキドキと心臓は早くなってしまう。
 ウォルニア様は、それからも見掛ける度に以前とは違う別の男性であったり、綺麗な女性だったりを伴っていることが多く、僕はいつもそっと顔を背けて立ち去るのだ。街では、ウォルニア様の噂をよく聞く。今日は強盗を捕まえていたとか、暴漢を叩きのめしていたとか。それとは別に、色んな人と遊んでいるのだとか、今日は可愛いと噂のカフェの店員を連れていたとか。僕はそれを聞く度に、気分が沈む。
 毎朝顔を合わせるウォルニア様は、パンを焼いた後取り出す時に火傷したり、紙で指を切ったりすると、そんな細かいところまで目敏く見つけては、心配してくれたり、労わってくれたりするのだ。
「ミラちゃん、その傷どうしたの?火傷?可哀そうに、大丈夫?気を付けるんだよ~?」
 わざわざ僕の手を取って、そう言いながら撫でてくれるウォルニア様。そんなの、もう好きにならない方がどうかしている。
――そんなある日、朝にパンを取りに来たのはウォルニア様ではなく、別の人だった。
「おはようございます!副団長の代わりに来ました。」
 その人は身体が大きく、鍛えているのが分かる身体を騎士の服で包んでいた。
「あ、俺、キトラって言います。副団長は2週間ほど緊急で遠征に行くことになりまして。その間、俺が取りに来ますので!」
 元気よく、にかっとはにかんで言われて、僕も笑顔を返し、内心はホッとする。
……もう来なくなるのかと思った。
 仕事なら仕方ない。僕はキトラを名乗った人を少し談笑した後、店を出る彼を見送ったのだった。
――そして2週間経った日。同じようにキトラが朝にパンを取りに来た。
 あれから、キトラとはよく話すようになり、何と同じ年であることが分かった。それからは敬語も外れ、キトラは朝だけでなく普段も店に来てパンを買ってくれることも増えた。
「なぁ、ミラン。明日祭りあるだろ?一緒に行かねぇか?俺さ、いつもその警備に当てられてたんだけど、今回は休みもらったんだ。俺、祭りに参加したことねぇんだよ~。」
……そうか、明日は祭りだ。すっかり忘れていた。
「うん、いいよ!僕も、祭りに行ったことないんだ。」
「え、そうなのか?じゃあ丁度いいじゃねぇか、一緒に行こうぜ!」
 キトラに誘われて、僕は二つ返事で頷いた。僕も、祭りに行きたいとは思うのだが、何だか気後れしてしまってなかなか行けなかったのだ。僕はこの街出身じゃないし、今でこそ知っている人も増えたが、誘えるほど仲の良い人もおらず……。
「楽しみ!じゃあ、待ち合わせする?」
「そうだな、でもどうせなら祭りの前に街で遊ぼうぜ!」
 僕たちは、約束をして別れたのだった。
……服、どうしよう。
 僕はその夜、悩んでいた。そう、着て行くような服がないのだ。仕事着や、部屋着ならあるのだが遊びに行く服となると迷ってしまう。早々に諦めた僕は、明日、街で服を買おうと決意し眠りについたのだった。
――祭りの日の朝。
「あ、キトラ!」
 すでに待ち合わせ場所についていたキトラを見掛けて、手を振り近付く。
「おー、ミラン!って、お前どうしたそれ。」
 僕を見て驚いた声を上げるキトラ。そうだよね、何を隠そう、僕が来ているのはよく分からない模様が描かれたTシャツにパンツ、財布は手で持っている状態なのだ。
「あはは…あのさ、僕遊びに行く服とか持ってなくて。だから今日買おうと思って。」
 そう、本当に着て行ける服がなかった。街に行くときは基本的に仕事関連で行くことが多く、外用の仕事服で行くため困らなかったのだ。
「あぁ、なるほど。じゃあ先に服買いに行くかぁ。」
 そんな僕を笑ったキトラは、こっちだ、とおすすめの服屋に案内してくれた。そして、僕は何がいいか分からないため、全てキトラが選んでくれた服を買って、そのまま着て行くことになった。
「なぁ、本当に捨ててよかったのか?」
 着てきた服は服屋で処分してもらい、買った服を着ている僕。
「うん。そもそも、全然着てなかった服だしね。それより、選んでくれてありがとう。僕もおしゃれになった気分だよ。」
 ほくほくと気分が上がっている僕。新しい服は、薄手のニットにパンツ、その上から大きめのカーディガンといったような、僕では考え付かないコーディネートだ。それに、大きめのポケットがついているため、そこに財布を入れることができた。
「そっか、じゃあ、次は何か食べに行こうぜ!」
 キトラはそんな僕を笑って、頭をぐりぐりと撫でて来る。キトラには下に兄弟が3人いるらしく、僕のことも弟のように扱ってくることがある。それに満更でもない僕。
 そんな中で、キトラに連れられて食べ歩きする僕たち。どれもこれも美味しくて、楽しくて、笑みが零れる。
夕方に近付くにつれて、人が多くなってきていた。もうすぐ、祭りが始まる。僕はわくわくしながら、キトラと喋ってその時を待っていた。
……その時。
「おっ、キトラじゃねぇか!そうか、今日は非番だったな。さっそくデートか?この野郎。」
 騎士服に身を包んだ人が寄って来て、キトラに絡みだした。
「先輩、やめて下さいよ。ミランです、ほら、朝のパンの。」
 キトラは笑いながら、そう言って僕を紹介してくれた。
「えっ!あ、あのパン屋の!?え、お前、え?」
 何故か、狼狽えるように、僕とキトラを何度も見るその人。
「ま、マジか……。お前、やるなぁ。」
 謎の言葉を呟かれて、僕とキトラは首を傾げる。
「ま、まぁ、そんなこともあるよな……、うん。じゃ、じゃあな。あ、ちなみに副団長もさっき帰ってきて、こっちの警備隊に合流するらしいから……。うん、気を付けろよ……?」
 そう言い、手を振って去っていく後ろ姿を見て、僕とキトラは顔を見合わせる。
「……あの人、どうしたんだろうね?」
「さぁ、何のことだったんだろうな。先輩も疲れてんのかな。」
 その後、すぐに始まりの笛の音が鳴り響いた。祭りが開催された合図だ!と、僕たちはどこから回ろうかと浮足立ったのだった。
 その祭りでは、様々な屋台が立ち並ぶ。この街の定番料理や、異国の料理。面白い品を売る店や、ボール当てなどの遊べる屋台など、色々だ。僕は目を輝かせて、はぐれないようにキトラに引っ付きながら店を回った。そして、キトラのホットワインをもらって一口飲んだ時、全身が熱くなり、ふらっと足がおぼつかなくなってしまった。
「おいおい、ミラン、お前酒駄目なのか?大丈夫か?ちょっと待ってろ、水買ってくるから。」
 キトラは、そんな僕に驚き、少し人気のないベンチに座らせてくれた後、そう言って走っていった。
……ひんやりする。
 身体が熱いだけで、特に気分が悪いわけではないのだが、キトラは心配性だなぁとベンチの手すりに頬を付けたまま考える。そうしていると、
「……っ、ミラちゃん!?」
 誰かが駆け寄ってくる音が聞こえた。
「どうしたの?!こんなところで、気分悪いの?今日、店に行ってもいないからさ~、もしかしたら祭りに行ってるんじゃないかと思って、こっちに来てみたんだけど、なかなか人が多くて見つけられなくてね。ね、もしかしてお酒飲んだ?酔ってる?一人だよね?送っていくから、もう帰ろう?」
 見覚えのある人が、しゃがみ込んで僕の頬に手を当て、怒涛の言葉をその口から発せられる。
「……ウォルニア様?」
 その触れられている手が冷たくて気持ち良い。僕はすりっと頬を擦り付けながらその人の名前を呼んだ。
「そーだよ、ミラちゃん、帰ろっか。でも一人でこんなところ来ちゃ駄目だよ?襲われちゃったらどうするの。」
「……副団長?」
 腕を背中に回された時、キトラの声が聞こえた。
「……あ、キトラ、おかえりぃ。」
 僕はふにゃっとキトラに顔を向けて笑った。
「……は?キトラ?……もしかして、キトラと来たの?」
「はい、キトラと来て、この服も全部、キトラが選んでくれて……。」
 低くなったウォルニア様の声に気付かず、僕は何故か嬉しくなって、今日を楽しみにしていたこと、とても楽しかったことをべらべら喋った。
「お疲れ様です、副団長。すみません、ミランが。ほら、ミラン、水買ってきたから、こっち来い。」
 キトラは焦った様子で、近付いてきて僕の腕を掴んだ。僕もキトラの方に行こうと、足に力を入れようとする。すると、
「……何、どういうこと?ミラちゃんはキトラと付き合ってるの?」
 僕の腕を掴むキトラの手を振りほどいたかと思うと、逆にウォルニア様に掴まれて引き寄せられる。顔を覗き込むようにして言われ、僕は首を傾げる。
……ウォルニア様、どうして怒っているんだろう。
 僕は言われた言葉の半分程度しか理解できず、眉間に皺を寄せているウォルニア様を見返す。
「……?キトラ、キトラのことは好きです。」
 そう言うと、ウォルニア様の目が冷たいものに変わったのが分かった。
「へぇ、あぁ、そう。いつから?いつから付き合ってんの?俺何も知らなかったな~。ミラちゃん、だからずっと俺の誘い断ってたんだね。へぇ、そっか、だからか~。ふ~ん……キトラが好きなんだ~ミラちゃん。……妬けちゃうな。」
 そう言いながら、僕の腕を離さないウォルニア様の顔を覗き込んだ僕は、またしても首を傾げた。
「……あ、あの、副団長。俺とミランは別に付き合ってません。ただの友人です。」
 そんな僕たちを見て、戸惑ったようにキトラが言った。
「うん?キトラは、友達、ここでできた僕の、初めての友達。」
 にこにこと笑って言った僕に、ウォルニア様が少し目を見開いた後、はぁーっと大きな溜め息をついた。
「ミラン、これ水。副団長、俺、ミラン連れて帰るので…。」
「いや、俺が引き取る。キトラ、その水ちょーだい。ミラちゃん、おいで。あらら、力入ってないじゃん、大丈夫?はい、水代。」
 キトラの言葉に被せるようにしてそう言うと、ウォルニア様に抱き抱えられる。頭に顔を埋められるような感覚に、くすぐったくて、ふふふと笑ってしまった。
「え、でも……。」
「いーから、祭りはまだまだ続くだろうし、今日休みの騎士連中が中沿いの店で集まってるの見たから行ってきなよ。ミラちゃんは責任持って預かるからさ~。」
どこか有無を言わせない声でそう言うと、返答を待たずにウォルニア様は歩き出した。
 何処かに着いて、降ろされたのは見慣れない部屋のソファ。優しく下ろされると、持っていた水をコップに移し替えて差し出してくれる。僕がそれを受け取ろうとすると、ひょいっとコップを避けられた。首を傾げた僕は、もう一度手を伸ばすも、同じように避けられる。
「ミラちゃん、力入んないでしょ?俺が飲ませてあげる。」
 そう言ったウォルニア様は、何故か自分でそのコップの水を飲み始めた。僕は回らない頭で近付いてくる顔を見上げていると、
「んぅ………ん……んく……っ……!」
 口付けられ、目を見開くと、至近距離でウォルニア様と目が合った。僕は恥ずかしさに咄嗟に逃げようとするも後頭部に手を回され固定される。そのまま、強引に開かれた唇から、少しぬるくなった水が流れ込んでくる。無意識的に、ごくん、と飲み込んでしまい、離れていく唇を呆然として見送るしかなかった。
「美味しい?まだ欲しい?まだぼーっとしてるね、俺が誰か分かってる?ミラちゃん、今キスしたのは俺だよ、ちゃんと覚えててね。ミラちゃん、キトラと仲良かったの?一緒に祭りに行くほど?」
 僕は、今さっきされたことによる衝撃で、話し掛けられていることは分かっていても、頭に入ってこない。
「き、キトラ……。」
 唯一、聞き取れた単語を繰り返す僕。
「……へぇ、キトラに来て欲しい?残念、キトラは今頃まだ祭りを楽しんでるよ。ねぇ、もしかして俺の代わりにパンを受け取っていたのってキトラだった?そこで仲良くなっちゃったの?俺の誘いは断るのに、キトラとは遊びに行くんだね。何で?キトラはそんなに特別なの?」
「き、キトラは、友達で……。」
「友達なだけ?好きじゃない?付き合ってないんだよね?てかさぁ、今着てる服、キトラに選んでもらったってどういうこと?まさか家に入れたの?俺としては、今すぐそれ脱いで欲しいんだけど。」
「え、え、す、好きだけど、付き合っては……。服は、買って……。」
 ぐるんぐるんする頭で、怒涛の質問で責めてくるウォルニア様にどう返答したらいいか分からず、とにかく何とか言葉を繋ごうとする。
「へぇ~……。そう、つまりミラちゃんの片想いってこと?あぁ、そうなんだ~へぇ~。…でも今の状況分かってる?男の家に連れ込まれて二人っきりって、俺に襲われるかもとは考えない?それとも、俺はそんな対象にはならない?」
 何故か、どんどんウォルニア様が近付いてくるため、僕はソファの上でずりずりと後退る。カーディガンの袖をキュッと握り、ソファの肘掛の部分に身体が当たって止まる。
「キトラが選んだその服、似合ってるのがまたむかつくな~。とりあえず、脱いでもらっていい?」
 僕を囲うようにソファの背に両手をつき、そう言われたかと思うと、カーディガンのボタンを外される。僕は固まり、ボタンを外されるのを呆然と見ていた。
「あ、の、これは、キトラが……。」
 僕に似合うって選んでくれて……。
「あのさ~ミラちゃんの口からキトラの名前が出てくるの、すっごいむかつくんだよね。…俺の方が先に見つけたのにさ~。まさか横から掻っ攫われるとは思わないじゃん。でもミラちゃんの片想いなんでしょ?なら、俺にもまだ勝機はあるよね?」
 するするとカーディガンを脱がされ、ニットに手を掛けられた時、はっとしてウォルニア様の胸を押し返す。しかし、全然力が入らず、パタン、と腕が落ちる。
……あ、あれ……?
 僕は、ぐわんぐわんと血液が一気に回り出したような感覚に、段々と意識が遠退いていったのだった。

――――――

……ここ、どこ?
 目が覚めた時、自分がどこにいるのか理解できず固まる。そして、意識が遠退く前のことを思い出し、青褪めた。
……ここ、もしかして、ウォルニア様の?
 そうだ、僕は近いウォルニア様の顔に、声に、身体に、心臓がうるさくて仕方なくなった時に、酔いと合わさって目が回ったんだ。とにかく、起きようとその寝かされているベッドから出る。すると、
「ん~……。」
 隣で唸るような声が聞こえた。ビクつきながら恐る恐る横を見ると、そこには寝ていても格好良いウォルニア様の姿があった。僕は再び身体を固くすると、そーっと後退り、目に入った扉を開けると体を滑り込ませた。扉を閉めた後、そこにもたれかかると、止めていた息を吐く。
……と、とにかく帰らないと!
 勝手に歩き回るのは駄目だと思うけれど、今はそんなこと言っていられない。僕の財布と…あれ?その時、初めて自分が着ている服に目を落とした。
……これ、誰の服?
 大きめのシャツ一枚で、下は下着だけだ。かろうじて下着は隠されているが、明らかに僕の服ではない。僕が固まったままでいた時。
「おはよ~ミラちゃん。何してるの?もしかして、服探してる?今日も店は休みだよね?じゃあ俺と出掛けよっか。服も、俺が、選んで買ってあげる。」
 後ろから覆い被さるようにして抱き締められた。そのまま、首に顔を埋められたかと思うと、ちゅっと音が響く。その時、チクッと痛みが走った。
「ひっ……!」
「ひっ、だって~。可愛い。」
 そのまま、ちゅっちゅっと何度も首に口付けられ、僕は全身に血が巡り、ドクドクとうるさいぐらい心臓が波打つのを感じた。
「あ、あの、ウォルニア様?僕、買ってもらうなんて…。僕の、服は…。」
 真っ赤になっているであろう顔を俯かせ、抱き締められたまま何とか声を出す。
「……キトラが選んだ服がそんなに大事?」
 耳元で、唇をそこに触れるようにして言われ、直接響く低い声に、腰が抜けそうになる。
「ぅ……ぁ……。」
 もう言葉を発することもできなくなってしまった僕を抱き締めたまま、ソファへと移動される。
「ミラちゃん、駄目だよそんな反応したら。俺みたいなのにつけ込まれるよ~。あと、キトラの名前出すのは禁止ね。ミラちゃんのことめちゃくちゃにしたくなっちゃうから。」
 抱え込まれたまま座ったウォルニア様にそう言われ、僕はこくこくと頷く。
「ミラちゃん、可愛い~。俺の服着てるのたまんない。服買いに行きたいけど、ここに閉じ込めておきたい気もするな~。ねぇミラちゃん、どっちがいい?ここで俺といちゃいちゃする?」
「……ひゃっ……!?」
 言われている意味が分からず固まる僕に、耳をカプッと甘噛みされる。ウォルニア様の手は、僕のお腹や出ている足を撫でてきて、ぞわぞわと得体の知れない感覚に震える。
「ひっ……あっ……!?」
 太ももを撫で上げられたかと思うと、そのまま服の中に入ってくる手に、思わず裾をギュッと掴み侵入を拒んだ。
「ちぇっ。流されなかったか~。まぁいいや。俺の服貸すからそれ着てね。確か、昔のがあったと思うんだよな~。」
 ウォルニア様は、そう言って一度僕をギュッと抱き締めると、するっと腕を解いて扉の方へと歩いて行った。
……な、何が起こっているんだろう。
 僕は、ウォルニア様の激しいスキンシップに動揺した状態で、耳元の低い声だとか、噛まれた時に触れた熱い息だとか、身体に触れられた大きな手だとかを思い出し、羞恥に頬が染まる。そのまま、ポスンっとソファに横たえた。今の状況が理解できない……。
……夢でも見てるみたいだ。
 ウォルニア様の家にいるこの状況。キトラと祭りに行って、ワインで酔ってしまって、その後ウォルニア様が来て、家に連れて来られて。キトラとは、あまり仲が良くないのかな。そもそも、何故……。
……あぁ、そうか。
 僕はその時、ストン、と浮かんだ考えに頭が冷静になる。立ち上がった僕は、そっと扉を開け、きょろきょろと見回す。
……あ、あった。
 カゴの中に、僕が着ていた服が畳まれて置かれていた。僕はそれを手に取ると、着ているシャツを脱いで着替える。そのシャツを畳むとそのカゴへと戻した。
……財布は、いいか。
 もともと中身は祭りで使ってしまったし、露店で買った財布だ。何となく使っていただけの物だし。僕は、挨拶だけでもしなければとウォルニア様を探す。部屋から出て、玄関が見える廊下に出た。その時。
「……本当にさ~、可愛さ余って憎さ百倍とはこういうことを言うんだね。ミラちゃん、どこ行くの?そんな服着て。」
 後ろから、持ってきたのだろう服を手に持ったウォルニア様が、壁に肩を付け腕を組み、僕を見て、目を細め低い声でそう言った。
「あ、の、ウォルニア様、昨日はありがとうございました。僕、帰ります。ご迷惑を掛けてすみませんでした。」
 僕は、重い雰囲気を放つウォルニア様に、言葉がつかえながらも、何とかそう返す。
「……へぇ。帰りたいんだ?そんなに、俺といるのは嫌?傷付くなぁ~。……本当、めちゃくちゃにしてやりたいよ。」
 表情を消したウォルニア様は、服を放り投げると、ずかずかと僕に近付いてきて、腕を取られる。そのまま、強引に引っ張られると、朝に見た覚えのある部屋へと連れて行かれた。ボスン、とベッドに倒されて、起き上がろうとした僕に覆い被さるようにその腕で囲われる。上から見下ろされるウォルニア様の冷たい視線に、僕は身を強張らせた。
「怖がらせたくはないんだよ、俺も。でもさぁ、さっきまで良い気分だったのに、一気に地獄に叩き付けられた気分。ミラちゃん、わざと?わざと俺の嫉妬を煽ってるの?それとも、キトラに会いたくなっちゃった?キトラに助けてもらおうって?残念、キトラなんて俺の足元にも及ばないよ。助けに来たって、叩きのめすよ俺。」
 そう言われ、僕はじりじりとベッドの上から逃げようと腰を動かす。
「悪いけど、買い物は中止。ここで俺と過ごそっか。俺、それなりに上手いと思うよ。ちゃんと気持ち良くするし、優しくするし。ねぇミラちゃん、初めてだよね?初めてなら尚更、キトラみたいなのは止めといた方が良いよ。ああいうやつはがっつくからね、痛い思いするのはミラちゃんだよ。」
 続けて言われた言葉に目を見開く。
……そこまでして……?
 僕はもう、好きな人にここまで言われてしまったことに、どんどん胸が痛くなって、悲しくなって、気持ちを押さえるように唇を噛んだ。
「ミラちゃん、大丈夫だよ。気持ち良いことしかしないから。俺に任せて。ミラちゃ…っ!」
 僕は我慢できなくなって、熱くなった瞼から涙が頬を伝い落ちた。それから、堰を切ったようにどんどん溢れては流れる涙に、ひっくひっくと嗚咽が混じる。
「み、ミラちゃん。ごめん、ごめんね。怖かった?ごめん、何もしない、何もしないから。」
 そんな僕の様子に目を見開いたウォルニア様は、身体を起こすと、僕の腕を引いてその胸に顔を押し付けるようにして抱き締められる。少し焦った口調で、謝られるも、涙はなかなか止まらない。
「ミラちゃん、ごめんね。ちょっと強引にいきすぎた。ミラちゃんがキトラを好きなのは知ってるけど、俺のことも考えて欲しいんだ。キトラより、絶対俺の方がミラちゃんのこと好きだよ。俺、顔も悪くないでしょ?ねぇ、お願いミラちゃん。俺を好きになって。絶対幸せにするから。」
 そう言われた言葉に、僕はピタリと涙が止まる。
「え……?」
「ん?」
 僕は、まだヒック、と震える身体を押さえ、聞き返した。
「す、好き……?」
 唖然としたまま見上げると、ウォルニア様は不思議そうな顔で僕を見てきた。
「うん?好きだよ?」
……好きだよ??
 僕の頭にははてなが浮かんで回っている。
「……え、嘘でしょミラちゃん。俺、結構あからさまにアピールしてたつもりなんだけど。……え、じゃあ俺のこと何だと思ってたの?」
「き、キトラが、嫌いなのかなって……。」
「……嫌な予感がするけど、聞くよ。」
「キトラと、僕が仲良いから……。」
 ウォルニア様がキトラを嫌いで、そんなキトラと僕が仲が良くて、キトラに嫌がらせ的な感じで僕で遊ぼうとしてるのかなって……。キトラは良い人だから、仲の良い僕が遊ばれたりしたら怒るだろうし。ウォルニア様は、自分の格好良さも分かっているし、僕みたいなの手玉にとるのなんて簡単だろうなって。それに、ウォルニア様にはいっぱい遊んでいる人だっているみたいだし……。僕が誘いに乗らず、キトラと遊んでたことも、キトラの方がいいって言われてるみたいで癪に障ったのかなって……。すごく怒っていたし……。
 僕は長々と、考えていること、思い込んでいることを吐露していく。そんな僕に、ウォルニア様は静かに聞いていたが、どんどんと顔を俯かせ、しまいには片手で額を押さえるようにして項垂れてしまった。
「……俺のアピールが全く伝わってなかったことがよく分かったよ。何、昨日からの俺は、ただキトラに対抗心燃やしてミラちゃんに構ってると思われてたってこと?……マジで?そんなことある?」
 項垂れたまま、呟くように言うウォルニア様の顔は見えない。
「あの、僕で遊んでも面白くないと思うし、僕は色々本気にしちゃうし、他の人と遊ぶのをいいよって言えないと思うし、あと……。」
 僕は、そのまま思っていることを、何とか言葉にしていくと、ウォルニア様から「待った」がかかった。
「うん、うん。分かった。色んな勘違いと思い込みが凄いことになっていたってことが。あぁ~マジかぁ……。え、ちょっと待って、じゃあキトラのことは?好きだけどまだ付き合ってないって言ってたよね?」
 そう言われるも、何のことか全く分からない僕。不思議そうに首を傾げる僕を見て、ウォルニア様も首を傾げた。
「え、好きって、付き合ってはないって言ってたよね?」
「キトラは友達で、友達だから好きで、付き合ってはないです。」
 嘘だろ、とウォルニア様は自分の頭をがしがしとかいた。
「じゃあ、キトラのことは好きじゃない?」
「キトラのことは、友達として好きです。」
 そう答えた僕に、大きな溜め息をついたウォルニア様。
「あぁ、もう、何だったの俺のしたこと。本当にごめん、俺も勘違いしちゃってたね。うわ、マジか~。ミラちゃんのこと言えないね、俺も。」
 苦笑しつつ、脱力したようにごろんと横になった。
「あ~あ、俺かっこわる~。」
 腕を目元に置いてそう言うウォルニア様。
「ウォルニア様は、いつも格好良いです。」
 僕は、慌ててそう言った。格好悪いなんて、とんでもない。
「……ここで、そういうこと言っちゃうんだ~。意識されてないのか、危機感がないのか。……どっちにしろ問題だよね。ってかさぁ……。」
「わっ!」
 目元に当てている腕をずらして、僕を見てそう言ったウォルニア様は、僕の腕を掴み引っ張るとそのまま腕の中に囲われる。
「え、え……。」
「ねぇミラちゃん。そういえばさぁ、遊ばれるとか、俺が遊んでるとか言ってたけど、あれどういうこと?」
 抱き締められたまま聞かれたそれに、目が笑っていないウォルニア様を見て、近い距離にある顔と共に息を飲んだ。
「あの、僕、街でウォルニア様を見掛けて……。」
 見掛ける度に別の男の人や女の人を連れていたこと、どの人も綺麗だったり可愛い人ばかりだったこと、それ以外にもよく噂が流れていたことを伝える。
「僕、初めて誘ってもらった日、街で別の人といるの見掛けて、勘違いして浮かれてたのが恥ずかしくて、それで……。」
「あ~もう最悪~!」
 焦ってどんどん色んなことを言い始めた僕に、そう叫ぶように言うと、ぎゅーっと痛いくらい抱き締められる。
「違うんだよ、それは。あぁ、もう最悪すぎる。そもそも俺のせいだったか~。違うんだよ、それは別に遊んでたんじゃなくて、ただの知り合いに会っただけなんだよ。」
「うっ……くるし……。」
「あ、ごめんね。」
 緩んだ腕の中でもぞもぞと動く。
「あのね、俺、孤児院出身なのね。」
 その言葉に目を見開く。
「あ、やっぱり知らなかった?だよね、ミラちゃんここの出身じゃないもんね。多分、ミラちゃんが見たのは同じ孤児院出身のやつらだよ。街で働いているやつが多いし、皆、俺を見掛けたら絡んでくるんだよ~。高給取りだろ、何か奢れ~ってさ。」
 僕は、予想外の話に目をぱちぱちと瞬かせる。
「だいたい、そういう噂してるのはここの出身じゃない人か、俺を妬んでるやつか?それか、ただ単に面白がって言ってるだけだよ。でもそのせいで俺が遊び人って思われるはめになるとは。あ~やっちゃったな~。ねぇ、ミラちゃん。俺がさっさと訂正していたら、誘い受けてくれてた?」
 覗き込むようにしてそう聞かれ、僕は戸惑いながらも頷いた。
「あ~最悪~。もっと早く気付いていたらな~。」
 そう言ったウォルニア様は、抱き締めた僕ごと起き上がると、腕を緩めて対面する形で座る。
「ミラちゃん、誤解はもう解けたよね?じゃあ俺と付き合って?俺、絶対浮気しないし、これでも高給取りだし、見た目も悪くないでしょ?」
 軽い口調や言葉とは裏腹に、真剣な顔でそう言われて、僕は真っ赤になる。
「あ、の、僕、僕も、ウォルニア様が好きで、だから……。」
「待って、本当に?俺が言うのもなんだけど、流されてるわけじゃないよね?本当?」
「は、はい。あの、ずっと好きだったけど、誘うのも社交辞令だろうなって、僕それを真に受けないようにって……。」
「そっか~、そうなっちゃうよね、ごめんね。俺もさぁ、断られてるのに店に尋ねに行くのはさすがにやりすぎかな~って思って、街で偶然会ったりしないかな~ってぶらぶらしたりしてたんだよね。そっか、俺を見掛けてたのか~。で、俺が他のやつといたから避けていたと。そりゃ会わないはずだよ。」
 納得したように言うと、僕を真っすぐ見つめて、
「……ごほん。じゃあミラちゃん。俺と付き合ってくれますか?」
 真面目な様子で言われたそれに、僕は笑って頷いた。
「……よっしゃ!」
 嬉しそうに笑ったウォルニア様に、また抱き締められる。
「あ~すごい嬉しい。もうミラちゃん俺のだもんね。あ~可愛い。ずっと一緒にいようね。」
 ちゅっちゅと頬や額、瞼、顔中に口付けられ、僕はくすぐったいやら恥ずかしいやらでぎゅっと目を閉じてされるがままになっていた。その時、唇に柔らかいものが当てられる。はっと目を開けると、至近距離でウォルニア様と目が合った。
「そんな顔してちゃ、好き勝手されちゃうよ?」
 いたずらに笑うウォルニア様は、もう一度口付けてきて、啄むように何度もキスされる。僕は手をどこに置けばいいのか分からず、あわあわと動かし、キュッと目も口も閉じて受け入れていると、離れたウォルニア様が笑う気配がした。
「なに、もう、可愛すぎるんだけど。はい、手はここね。」
 腕を取られて肩に乗せられると、ぐっと腰を引かれて体が密着する。後頭部に手を差し込まれたと思うと、再び唇が僕のそれと重なる。僕は、そのまま腕を首に巻き付けるようにして抱き着くと、唇を舐められる。それに驚いて口を開けた時、舌が割って入ってきて、口内を舐められる感覚に、背中が震えた。密着された身体と後頭部を固定された状態では逃げられなくて、舌が触れ合った時にびくっと肩が揺れる。
「ぁ……っ……ん……はっ……は……ぁ……っ」
 熱い舌が僕のそれを絡み取り、ウォルニア様の口内へと招き入れられる。軽く歯を立てられては震え、吸われては生理的な涙が浮かんでくる。全身に血が回っているような感覚に、頭がぼーっとしてくる。抱き着いている腕に力が入らなくなり、支えられているまま、くたっと全身を預ける。
「はぁ、可愛い。ミラちゃん、腰砕けになっちゃったね。気持ち良い?か~わい。でも心配になるなぁ、キスだけでこんなんなっちゃって。だから、いっぱい練習しようね?」
 離れた唇に、僕はウォルニア様の肩に頭を預ける形でもたれかかると、耳元でそう囁かれる。
「ひぅ……ぁ……っ……!」
 そしてそのまま、耳を噛まれたかと思うと、生温い感触がして、水音がダイレクトに伝わりゾクゾクと身体が震えた。
「あ~駄目だ、やばいなこれ。止まれるかな~。」
 熱い息を吐きながらそう言われたかと思うと、僕は身体を離され、ころんと横に寝転ばされる。
……?
「とろんとしちゃって……。その顔は駄目だよミラちゃん~。」
 そう言いながらも、覆い被さるウォルニア様の目には獰猛な光が宿り、密着させられる下半身に、ごりっと硬いものが僕のそこに当たる。
「ひっ……!」
 緩く立ち上がりかけている僕のそれに当てられ、刺激に声が漏れた。
「あ~そんな反応しちゃうんだ。あ~俺、もっとゆっくり進めていこうと思ってたんだよ?これでも。でもさぁ、ミラちゃん可愛すぎて無理だわ。そんな初々しい反応されたらたまんない。ごめんねミラちゃん。でも気持ち良くするから。」
 自分の上の服を脱ぎながら早い口調で言うウォルニア様から、噛み付くようなキスを贈られて、下半身をそのままぐりぐりと刺激される。今まで出したことのない声が上げる僕に、ウォルニア様の手が服の隙間から入れられたかと思うと、そのまま剥ぎ取られる。下半身も手を伸ばされて、パンツを取られ、下着の中に手を入れられ、僕のものをその大きな手で包み込まれる。
「……ぁ……ぅ……あぁっ……あっ……!」
 口角からお互いの唾液が流れても、唇を離されることなく貪られ、唇の感覚がなくなってくる。そのまま、足の間も刺激され、強い快感にびくびくっと全身が震えて達してしまう。
「はぁ、はぁ……あっ……んぁ……っ。」
 ようやく唇が離れ、僕は頑張って酸素を取り込もうと呼吸を繰り返していると、ピンと主張している胸の飾りを舌で押し潰すように舐められる。その刺激で浮いてしまった腰の下に腕を入れられ、ぐっと体を密着させられると、そのまま舐められいじられながら、後孔に指を入れられる。
「ぁっ、ウォル、ニア様、待っ……あぁっ……!」
「ミラちゃん、ウルって呼んで。ウーでもいいよ。気持ちいーね?ここ?」
「ひあっ……あ、あぁ、やめ、そこ……っ!」
 指で触れられ、突かれた時、一瞬頭が真っ白になる。その敏感な部分を指で押されて声が上がる。指を抜くと、そこに硬いものが押し付けられる。
「ミラちゃん、もっと気持ち良くしたいんだけど、いーい?」
 ぎらついた目で、唇を舐めたウォルニア様の色気に息をのむ。快感を拾うしかできない僕が拒否できるわけもなく、ただ見上げて息を荒げる。
「っ、そんな潤んだ目で見ないでよ~我慢できなくなっちゃうからさぁ~。」
 そう言いながら、ウォルニア様の硬いものがゆっくり入ってきて、内臓を押し上げられる感覚に息が止まる。怖くなり、手を上げてウォルニア様の背中に縋りつく。
「っごめんね、ゆっくりしてあげたいんだけど、俺が我慢できないっぽい……っ!」
「ぅあっあっ……あぁっ……っ……!」
 敏感なところを的確に突かれ、身体を揺さぶられる。強い快感を与えられ、上がる声までも食べられそうな口付けを贈られる。
「う、ウー、ウル、こわ、怖い……っ!」
 強すぎる快感に、自分が今どうなっているのか分からず、自分の身体が分からなくて恐怖心が出てくる。そんな僕を、ぎゅっと抱き締めてくれたウォルニア様は、
「ミラちゃん、怖くしてるやつに、助けを求めちゃ駄目だよ。それ、本当もう、逆効果になるからね。」
 そう言いながらも、優しく頭を撫でてくれる。揺さぶられていた身体が、少しゆっくりとした動きになる。すんすんと鼻をすする僕に、顔中に唇を落とされた。
「……っ、はぁ、ミラちゃん、怖い?ここ、気持ち良いでしょ?」
 ゆっくりと擦られるそこに、僕はきゅっと口を結びながらも、震える身体は正直で、びくびくと反応してしまう。
「声、聞きたい。ミラちゃん、ね、お願い。」
 ちゅっちゅっと音を立てて唇にキスされ、下唇を軽く歯を立てて舐められる。
「ひぅっ……ぁっ……んんっ……!」
 漏れた吐息に出る声が合わさる。打ち付けられる腰の動きを速められた時、全身を走った刺激に、強く抱き締められて、僕は意識が遠退いていくのを感じた。

――――――――――

「いらっしゃいませ!……あっ!」
「よっ!今日は午後休みでさ。昼ご飯に買って帰ろうと思って。あ~パンって本当、いい匂いだよな~。」
 にかっと笑顔で、片手を上げて入って来たキトラは、そう言っておすすめを聞いてきた。談笑しながら、パンを袋に詰めて手渡す。
「なぁミラン。俺、あの子と付き合えることになったんだよ。」
「えっ!本当!?おめでとう!」
「ありがとな~!ミランと副団長のおかげだよ!」
 そう言って、その恋人と一緒に食べるよ、と嬉しそうに店を後にしたキトラに手を振って見送った。
……僕のおかげっていうか……。
 キトラは、もともとある女の子が気になっていたらしい。その子が、ウルと噂になっていた、カフェの可愛いと言われていた店員さんで。
 その子も孤児院出身らしく、ウルが紹介してくれて。その後、僕がキトラと出掛けた先で、カフェの前を通り掛かった時、その子が僕に気付いて手を振ってくれたのだ。キトラから、あの子と知り合いかと聞かれて、キトラの想いを知ったのだった。
 それに全面協力してくれたのは、何を隠そうウルだった。その子にキトラを勧めると、早々に二人を会わせてデートをさせたらしい。その子はミーディアちゃんというが、なかなかしっかりしており、騎士なら安泰!とむしろ積極的にキトラに迫っていったらしい。キトラも真面目だから会ってすぐ、とはならず、会う日を重ねて、ようやく告白に踏み切ったらしい。良かった良かった。

――――――

「おかえり、ウル。あのね、キトラがね……。」
 僕たちは、あれから一緒に住むようになった。というか、ウルが僕の家に寝泊まりするようになり、二人で住むには狭いからと、増築、リフォームまで行われ、いつの間にか二人の新居となっていた。ウルのもともとの家は、孤児院に寄付という形で明け渡した。
 街でウルと出掛けると、確かに色んな人に声を掛けられた。僕が見掛けた男の人も女の人も、皆ウルが一人一人紹介してくれた。皆、良い子たちで、僕がパンを卸している店で、買って食べたことがあると、毎日食べるにはお金がかかるから、週1回の贅沢な朝食にしていると笑顔で伝えてくれた。
 それを聞いて、僕は小さいパンを試行錯誤し作っているのだ。安く売れるように、押さえられるところは押さえて、でも味は保ったままで。結構ずっしりしたパンや、大きめのご飯替わりに食べられるものが多いため、値段もそれなりだ。だから、そういったお客さんの声はとても勉強になるのだ。
 そんな状況で、帰ってきたウルに、キトラのことを話したくて玄関まで出迎えた。
「ただいまミラちゃん。ねぇ、帰って早々、他の男の名前聞かされるのきついんだけど。キトラはいいから、俺はミラちゃんを感じたい。」
 報告しようとするも、そう言われ、腕を引かれて抱き締められる。
「あ~ミラちゃんだ。会いたかった~。可愛い。ね、ちゅーしていい?嫌って言われてもするけど。」
「んっ……ぁ……待っ……て……っ!」
 抱き締められたまま、顎を指ですくわれて口付けられる。すぐさま入ってきた舌で口内を蹂躙され、僕のそれと絡めて貪られる。ようやく離れた唇から、銀色の糸がお互いと繋がり、生々しさに顔が真っ赤になった。それを舐めとったウルが、最後にもう一度ちゅっと口付ける。
「ねぇ、ベッド行こっか。」
「え、あ、だ、だめ……!ご飯!」
 最近、毎日帰って来てはこの流れになってしまい、2回に1回は腰砕けになるまで口付けられて、ベッドへ運ばれてしまうのだ。今日は何とか腕の中で暴れて逃げようとする。
「あはは、ミラちゃん駄目だよ、そんな子猫みたいな抵抗じゃ。本当に逃げる気ある?それともフリでミラちゃんもベッドに行きたい?」
 僕の抵抗なんて物ともしないウルにそう言われて、悔しくてうぅ~と唸る。
「え~何それ、可愛いんだけど。ねぇもうどうしたいの俺を。今すぐ抱きたい。可愛すぎるんだもん。」
 ちゅーっと首に顔を埋められ、僕は負け時とじたばた暴れる。
「き、キトラが、付き合えたって…!」
 何とか、伝えたかったことを言葉にすると、ウルが顔を上げた。
「あ、そうなの?それは良い報告だね。キトラは馬鹿真面目だし、恋人いたらミラちゃんに手を出すことないだろうしね。にしても、遅すぎない?ミィはもういつでもドンと来いって感じだったのに。まぁこれで心配事が減ったし、最高だね。」
 嬉しそうにそう言うウルに苦笑する。そう、今だにウルはキトラを敵視していて、さっさと恋人を作らせたかったのだ。そんな中で、キトラに好きな人がいて、それがミーディアちゃんだと分かった時のウルの行動は早かった。それが、この結果なのだ。
「キトラ、嬉しそうだったよ。」
「うん、キトラの話はもうおしまいね。」
 にっこり笑ったウルは、僕を抱き上げた。
……え。
「仕事で疲れて帰ってきたのに、迎えてくれた恋人は他の男の話ばっかりするから、俺傷付いちゃった。だから、癒してくれるよね?」
 そう言いながら歩き出したウルに、慌ててしがみ付くと、そのまま寝室へと繋がる扉を開けられてしまったのだった。


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