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後日談 4
しおりを挟む昼休憩が終わり、何か用事があったのかと思いきや、何もないらしくシャノンは僕を仕事場まで送ると戻って行った。……ユンにはまたちゃんと話さないとなぁ。と思いながら、仕事をしていた僕。そろそろ終わるなと思っていた時、
「れ、レーテル、宰相様が……」
慌てたようにタイラが呼んできて、顔を上げるとシャノンが上司と話していた。何だ、僕を迎えに来たわけじゃないのか、と顔を背けてからハッとする。何故自分を迎えに来たとか思ってるんだ僕は……!仕事中なのに、と頬に手を当てて小さく唸る。これもタイラが変な呼び方をしてきたせいだ、とジロッと睨む。タイラはあたふたとしながら、
「れ、レーテル、それは駄目だと思う」
とあわあわしながら言ってきて、何言ってるんだこいつ、と怪訝な顔を隠せない僕。何が駄目だ、駄目なのはお前の山積みの書類だろ。どうしてそんなに溜まってるんだよ、僕のデスクに侵入してきたら燃やすからな。僕の考えていることが分かったのか、タイラは泣きそうになりながら書類を片付け始めるが、何故かチラチラと見てきて鬱陶しい。
「こっち見るなバーカ」
「うっ、そ、そんな顔でそんなこと言わないでよお」
「可愛い顔を見られて満足だろ」
けらけらとタイラをからかってやると、何故かタイラはこちらを見て固まると、顔を青ざめさせた。ん?と首を傾げた時、
「レーテル、それはあまり感心しませんね」
視界が覆われて暗くなり、驚いて僕も固まる。
「仕事は終わりましたね?では行きましょうか」
頬に当てていた手を取られ、引っ張られて立った僕は、シャノンの顔を見ることが出来ない。そんな僕を気にしていないのか、職場から出ようとしたため、慌てて踏ん張った。
「僕まだ仕事が……」
「許可は取りましたよ。急ぎの案件もないとのことなので、帰宅して良いと」
思わず上司を見ると、笑顔でひらひらと手を振っていた。口を噤んだ僕は、シャノンに促されるまま足を動かす。人通りが少なくなった辺りで、突然足を止めたシャノンに、ビクッと肩が揺れて慌てる。すると、何故か方向を変えたシャノンは何の部屋なのか、扉を開けて中に入り僕の両腕を掴み顔を覗き込んできた。
「レーテル、嫌になりましたか?」
「……え?」
突然、そう言われて思わず顔を上げた。表情が抜け落ちたようなシャノンの顔に息を飲む。
「今更手放してやれませんよ。事を強引に進めている自覚はありますが、これでも焦っているんです。君を早く私のものにしたくてたまらない」
頬に手を当てられて言われた言葉はあまりに熱烈で。一体何が起きているんだとポカンとしてしまう。そんな僕に気付いたのか、シャノンは少し首を傾げる。
「あの、シャノン。一体、何の話ですか?」
「婚姻を結ぶことが嫌になったのでは?」
「え。い、嫌というわけではないです、早いなとは思いますけど」
「では何故思い詰めたような顔をしてたのですか」
そう詰められて、言葉に詰まる。いや、だって……。
「さ、さっき、タイラと話している時、その、シャノンに注意されたでしょう?仕事中に下らないことをしてしまったと……」
仕事をしている時にシャノンに注意されるのは、結構堪えるんだなと僕もさっき自覚した。仕事ができるシャノンに、仕事のことで注意されるのは恥ずかしいし、失望されるとまではいかなくてもちょっと落ち込む……。仕事が出来ない奴と思われたくないんだ、尊敬している人には。だから、ちょっと怖くなっただけで……とごにょごにょ話す僕に、シャノンはため息をついた。それにもちょっと反応してしまう僕。
「あれは、レーテルがあまりにも無防備だったからですよ。君の可愛い姿を見せたくなかっただけの、ただの私の独占欲です。仕事は関係ありません」
ため息をつかれながらそう言われて、は?と疑問符が飛ぶ。いや、うん、可愛いと思ってくれているのは分かったけど、別にあの場所では可愛くしてないし、タイラと話していただけだったと思うんだけど。むしろ、可愛くないことを言っていた自覚がある。あれ、シャノンって感覚ズレてたりする?と失礼なことを考え始めた僕に、
「……はぁ、もうそれはいいです。今から届けにサインをしてもらいますが構いませんね?」
「届けって、婚姻の?……いい、けど」
「けど?」
「……僕のこと好き?」
「……レーテル、君は襲われたいのですか?」
自分が結婚するだなんて考えたことはなかったのだ。この見目で寄ってくるやつらはいるし、相手には困っていない。でも今後もずっと一緒にいるとなれば、僕だって歳を取るわけで、そうなるとこの容姿だって衰えていく。それでもいいのか、確認をしたかった。ただ、それだけだったんだけど……。呆れたように返されてムッとする。もういい、と言おうとすると、
「言っているでしょう。すぐにでも自分のものにしたいと焦るぐらい、君のことばかり考えているんです。好きだなんて可愛いものじゃないんですよこっちは」
当たり前だろうと言わんばかりにため息をつかれる。
「そ、うなんだ。でも僕、今は可愛いかもしれないけど……」
「ふふ、そんなこと考えているんですか。あぁ、どうしましょうか。君が可愛すぎてどうにかなりそうです」
背中に腕を回されて引き寄せられると、ギュッと強く抱き締められる。こめかみに唇を落とされて、僕はポカンとシャノンを見上げた。
「え、どういうこと?」
「君が愛しくて仕方ないということです。婚姻届を提出したらすぐに帰りましょう」
そう言うと、理解が追いついていない僕を部屋から連れ出して、宰相部屋へ。ペンを渡されると、促されるまま書類にサインする。そして、そのまま別の部屋へ。なんと、奥の椅子には国王が座っており固まる僕。こんなに近い距離で会ったことなどない国王様に慌てて頭を下げようとすると、手で制される。
「よい、楽にしなさい。シャノン、お前ぐらいだろうよ、私に婚姻の証人になれという者は」
どこか可笑しそうに言った国王様は、シャノンが渡した書類にサラサラとサインをしてそのまま手渡した。
「ありがとうございます。ではこれで」
「えっ、あ、ありがとうございます」
速やかに僕を抱き寄せて立ち去ろうとしたシャノンに慌てて、国王様に頭を下げる。というか、それでいいの!?国王様だよ!?いくら宰相として国王様とは近い距離で仕事しているとはいえ、不敬じゃない!?焦っている僕を見て察したのか、
「構わん、いつものことだ。おめでとう、二人に祝福を」
にやりと笑った国王様はそう言って手を上げて答えてくれた。シャノンはそれに何を言うでもなく扉の前で一度頭を下げると、僕を連れて部屋を出たのだった。
「シャノン、あれ、国王様、いいの!?」
出て、思わずシャノンに詰め寄ると、
「もともと話は通していたので問題ありませんよ。今は仕事ではありませんし、王も了承してくれていたことです」
「いやそこじゃないんだけど!あんなに、その、なんていうか適当というか……!」
「あぁ、仕事以外ではいつもあんな感じですよ。レーテル、明日は休みですね?私も休みを取ったので、荷物は明日運びましょう」
そう言ったシャノンは、どこか急ぐように僕を促してくる。そのまま届けを出して、実感がないままシャノンとは家族になった僕。シャノンの家に帰ると、扉を開けた瞬間に強く抱き締められた。
「やっと、私のものです」
「え、んっ……!」
合わせられた唇に、目を見開くとシャノンの顔が近くて慌てて目を閉じる。シャノンの服にしがみついて、少し唇を開くと、そこから熱い舌が入ってきて僕のそれと絡めてくる。気持ち良くなってきて、僕もシャノンのそれに絡めると、後頭部に手を差し込まれる。何度も角度を変えて合わさる唇に、体も熱を帯びてきた。離れた時、もっと、と自分からシャノンの唇を追いかけると、それに応えるように重ねてくれた。唇を合わせたまま抱き上げられ、寝室に入るとベッドに降ろされ、覆いかぶさってくるシャノンの首に腕を回す。水音が響いて、どんどんそういう気分になってきた時、服の裾から手が入ってくる。ひんやりした手が腹をなぞって上がってきたとき、ハッとする。
「あっ、待っんんっ!ま、って……!」
止めようとするが、降ってくる唇に言葉を遮られてしまう。
「しゃ、シャワー……!」
浴びたい、と腕を掴んでなんとか止めた僕に、シャノンはにっこり微笑んだ。それにホッとして起き上がろうとすると、
「却下で」
と肩を優しく押されてシーツに縫い付けられる。首元に顔を埋められ、チクッとした痛みが走る。んっ、と声が出た僕は、慌ててシャノンを押そうとするがびくともしない。その間に上がってきた手が胸辺りで怪しく動く。触られそうで触られないもどかしさに、体をよじると、弄ぶように指でいじられる。
「あっ、ん……。まって、僕、汗かいたからぁ……っ!」
「可愛い、レーテル」
全然話聞いてないなこの人……!と思った瞬間、首筋を舐められ、ビクッと肩が揺れる。汗かいたって言ってるのに!とさすがに恥ずかしくなって顔が熱くなる。
「ちょ、っと、やめ……っんぁ……っ!」
そのまま少し歯を立てられ、指は飾りをいじってくるため体は素直に反応する。邪魔だといわんばかりに服を脱がされて、露わになった肌に唇を落とされる。自身も服を脱ぎ捨てると、僕の胸に舌を這わせて、コリコリと固くなったそれを口に含んで遊ばれる。
「んんっ…ぁ…っ!」
腰にも腕が回って、逃げられないようにグッと固定される。シャノンの頭を抱えるようにしがみつき、刺激にビクビクと体が震え、息が荒くなる。顔を上げたシャノンに唇を塞がれ口内を蹂躙されると、離れた唇に銀の糸が引いて、いやらしさに顔を背けたくなる。
「レーテル、可愛い」
至近距離で、愛おしいとばかりに目を細めてそう言うシャノンに恥ずかしくなって、うん、と呟く。そんな僕に、また可愛い、と言ったシャノンは唇を合わせてきたと思うと、手を下へと滑らせてすでに立ち上がっている僕のそこをいじり出した。
「あっ、あっ、待って、しゃの……!」
キュッと握られたり、大きな手で包まれて擦られると、達しそうになるため、待って、とシャノンにしがみつく。だが、言ったのに容赦なく攻めたてられて、逃げようとする間もなくその手の中に出してしまい、
「待ってって、言った……!」
思わずシャノンを責める。シャノンは、僕の出したものがついた手をじっと見ていて、何をしているのかと伺っていると、あろうことかそれを口に……!?
「なっ、何してるの!」
慌ててシャノンの腕にしがみついて止める。何しようとした!?と驚愕しながら、傍にあった布でシャノンの手を拭う僕に、「あぁ……」と残念そうな声を出される。
「ばか!ばかだ!ばか!」
「ふふ、そう可愛いことばかりしないで下さい」
罵倒する僕に、シャノンはそう言って笑うと引き寄せてくる。啄むようなキスを贈られ、目を閉じて応えると、優しく唇を割って入ってきた舌を絡め合う。シャノンは僕の腰に手を這わせ、ゆっくりと撫でてくる。シャノンの首に腕を回して抱き着くと、グッと腰を抱かれて、固くなっているシャノンのそれを押し当てられドキッとする。
「あ、ん……ん……」
絡み合う舌が気持ち良い。また押し倒されると、貪るようにキスを繰り返す僕たち。体に手を這わされながら、ゆるく立ち上がってきた僕のそれに、シャノンの熱く硬くなったものを押し当てられる。僕も押し付けるようにして腰を上げて擦り付けると、後ろに指を滑らせてゆっくりそこに入れられる。
「レーテル、ここですか?」
反応を見ながら指で良いところを探り当てられ、ビクビクと体を震わせた僕に意地悪く笑ったシャノンは、そこに自身のものを当ててきた。
「いいですか?レーテル」
「んっ、……はっ、あぁっ……!」
コクリと頷くと、そのまま押し進められて中に熱く硬いものが入ってきた。圧迫感に声が漏れるが、乳首をコリコリと指で摘んだり弾かれたりと刺激を与えられて腰が動く。それに合わせてシャノンが中で擦り付けてくるため、頭が馬鹿になりそうになる。
「あっ、あっ、しゃの、だめ、あっ!」
挿れられたまま抱き抱えられ、シャノンの上に跨がる形になると、ズンッとシャノンのものが奥まで入ってきて、突然の強い快感に頭が真っ白になる。
「あぁっ!あっ、だめ、動かないで……っ!」
「可愛い、レーテル。ここですか?」
動くと良いところに当たるから、落ち着くまで待って欲しいと言ったのに、シャノンは容赦なく突き上げてきて、手を取って指を絡めると、引き寄せて噛みつくようなキスを贈られる。
「あっ、あっ、はっ……ぁ……!」
シャノンにぐったりともたれかかるようにして体を預けると、背中に腕を回されて強く抱き締められる。そして、唇を合わせられ、舌を絡めながら、中の良いところを突かれて呆気なくイッてしまった。息を切らす僕に、シャノンは自身を抜かずゆっくりまた中を擦ってきて、強制的に熱を上げられる。ビクビクと刺激に敏感になっている僕の体を這い回る手と落ちてくる唇に、翻弄されながら熱を共有し、夜が更けていったのだった。
ーーーーー
「体中がだるい……」
目が覚めると、全身の倦怠感に起き上がる気力を失う僕。体はベタベタしていないから、恐らく拭いてくれたのだろう、覚えてないけど。隣で眠っているシャノンの頬をつつく。綺麗な顔しているな、相変わらず。お互い裸のままで、下を覗き込むとシャノンの割れた腹筋が目に入る。
「どうして割れているんだ、事務仕事のくせに……」
事務仕事、という面では同じのはずなのに、この鍛えられている体は何なんだ。着痩せして、脱いだらすごいだなんて一番ずるいと思う。指をシャノンのお腹に這わせると、ピクッと動いてちょっと悪戯心が出てくる。するすると指で撫でて、下へといこうとした時、ガシッと腕を掴まれる。
「起きた?」
「……さすがに起きますよ。悪い子ですね」
薄く目を開けたシャノンは、可笑しそうに笑うと僕を引き寄せてその腕の中に閉じ込めた。肌が触れ合って温かくて気持ち良い。ぐりぐりと頭を押し付けると、背中に回されている手が怪しい動きをし始めた。
「シャノン……?」
「ん、レーテル、おはようございます」
腰を撫でられながら言われて、シャノンから逃げようとするが、がっしりと抱き締められているため逃げられず。足を太ももの間に入れられたかと思うと、上に擦りつけてそこを刺激してくるシャノンに、反応してしまうそれを止めることができず、気持ち良さを求めて自分から腰を擦り付けてしまう。
「んっ、んん……っふ、ん……」
そこをずっと刺激してくるシャノンに、声が漏れて息が荒くなる僕。
「レーテル、可愛い」
耳元で言われて、ゾクゾクと体が震える。シャノンは僕の上に覆い被さると、髪をかき上げて見下ろしてきた。その色気に、喉を鳴らした僕は、まだ朝だというのにシャノンの首に腕を回し、降ってくる唇を受け止めたのだった。
……結局、起きたのは昼を過ぎてからだった。
起きて、抱えられるとそのまま浴室に連れていかれて全身を洗われた。そこでもまぁ、反応しちゃって体を重ねて、出た時にはヘロヘロだった僕。柔らかいシーツで体を包まれ、横抱きにされながら口移しで水を飲ませてもらう。何度かされるうちに、いつの間にか舌が入ってきて絡め合うと、深くなる口付けに気持ち良くなってしまう。
「んっ、シャノン、気持ち良い……」
「はぁ、煽るなと言っているのに。困った子ですね」
シャノンは全然困っていない声で言うと、僕の瞼に唇を落とした。
「シャノン、僕のこと好き?」
「愛しています。ふふ、何ですかその可愛い質問は」
僕は、当たり前のように返して嬉しそうに言うシャノンに抱き着いて、キスを強請る。
「ね、キスして。気持ち良いの、もっと」
「……これは、分かっててやっていますね?」
そう言われて、ふふ、と笑う。だって、僕のこと好きでしょ?僕、可愛いでしょ?と、小首を傾げて、ん、と口を尖らせる。ため息をついたシャノンは、唇を重ねてくると、僕の後頭部に手を差し込んで優しく撫でてくれる。
こうやって一緒に朝を迎えてだらだらと過ごすのは初めてだ。付き合っていた人の家に泊まったことなんてない。だって、ずっと『可愛い僕』でいないといけなかったから。そこまで頑張って一緒にいたい人ではなかったこともあり、夜には絶対に帰っていた。
でも、いいものなんだね。こうして僕自身を受け入れて愛を注いでくれる人と、一緒に過ごすのは。ずっと満たされて、触れて欲しくて、愛して欲しくて。どんな僕でも、求めれば答えてくれる。『可愛い僕』じゃなくても、可愛いと思ってくれるらしい人。
「可愛くなくなっても、愛してね」
「そうなってくれると、心配事が減るので私としては嬉しいのですが」
「でも可愛いままの方がいいでしょ?」
「君の魅力は、容姿だけではありませんよ。まぁ、それは私だけが知っていればいいです」
上目遣いでシャノンを見ると、笑って瞼にキスを落とされる。
「可愛い僕も好き?」
「ふふ、好きですよ。レーテル、何故そんなに可愛いことばかり聞くのです。煽っているんですか?」
「煽ってないけど……。何だろう、分からないけどもっと好きって言って欲しい」
「……レーテル、それは煽ってますよね」
「んふふ、好きって言って」
「好きです。レーテル、君は懐に入るのを許すと甘えてくれるようになるんですね」
分かっているだろうに、欲しい言葉をくれるシャノンに甘えて、ギュッと抱き着く。シャノンはどこか嬉しそうにそう言うと、僕のおねだりに応えてくれる。
「……今日は荷運びをする予定でしたが、無理そうですね。」
「荷運び?……あ、僕の荷物か。うーん、夕方に必要な物だけ取りに行ってくるよ」
「いえ、今日はもう出す気はないので、また後日にしましょう」
そう言って微笑んだシャノンは、僕を抱きかかえたまま立ち上がり歩き出す。寝室に連れて行かれた僕は、またシャノンに愛され、結婚1日目はずっと二人きりで過ごしたのだった。
ーーーー
「良かった、レーテル辞めないんだね!」
「良かったよぉ、結婚したら辞める人がほとんどだったから……」
後日、結婚の報告と共に仕事は続けることを伝えると同僚たちに泣かれてしまった。なるほど、だからあんなに辞めるのかどうか聞いてきたのかと今更になって理解する僕。仕事は辞める気はない。これでも仕事は嫌いじゃないし、この同僚たちもまた、そうだから。
「ユン、いる?もう休憩?」
王宮図書館に行くとユンに声を掛ける。すると、もう休憩ということで、一緒に開放されている庭へ。そこで、シャノンと婚姻を結んだことを伝えた。笑顔でおめでとうと言ってくれたけど、どこか曇っている表情のユンに首を傾げる。ユンも、カイト隊長と結婚の約束をしたと聞いたから、もしかして不安とかもあるのかなと思っていると、
「あの、あのね、レーテル。その、結婚しても、僕とも遊んでくれる?」
涙をためて今にも零れそうな目で、不安そうに伺うように言われて、あまりの可愛さに僕は思考が停止する。え?僕と一緒に過ごせなくなるって思って悲しくなっちゃったの?寂しくなっちゃったの?何それ可愛すぎない!?
「当たり前じゃん!ユンはずっと僕の親友だよ!」
思わず叫ぶように言って、勢い良くユンに抱き着く。どうしよう可愛すぎる、僕の親友が可愛すぎてどうにかなりそう……!と悶えながらギューッと抱き着くと、ホッとしたように抱き締め返してくれるユン。あぁ、どうしよう、すっごく可愛い……!グリグリと頭をユンに擦り付けると、くすぐったそうに笑う声が聞こえて、頬が緩む。癒される至福の時間を過ごしていた僕たちだったのだが、
「レーテル、新婚早々に堂々と浮気とは感心しませんね。」
突然、後ろから肩を引かれてユンと引き離されたかと思うと、後ろに傾いた体を受け止められる。ハッとしてユンを見ると、向こうはカイト隊長が受け止めていた。
「……ユンだよ?」
浮気だなんて、相手はあの可愛い可愛い僕の親友のユンだよ?と、見上げて無表情のシャノンに言った。
「だからです」
何故かユンに対して嫉妬全開になるシャノンに首を傾げる。そして結局、お互いシャノンとカイト隊長に回収されてしまった僕たち。笑ってユンに手を振ると、ユンも安心したように笑って振り返してくれた。ユンに嫉妬だなんて、シャノンって変わっているなと思う。
「レーテル、ユンさんの前だと可愛くなりすぎです」
仕事が終わり、シャノンと一緒に帰っているとそう言われてポカンとする。
「僕はいつでも可愛いでしょ」
「えぇ、可愛いですが、ユンさんの前だと一層可愛くなっています。気を付けて下さい」
ふざけて返すと、真面目にそう言われて、唖然とする。そうなの?でもそう言われてもピンとこない。そんな僕に、ため息をついたシャノンは、
「可愛いことを自覚して下さい」
と僕の可愛いところを注意してくる。
「僕が可愛いのは分かってるもん」
「その言い方も可愛いことを分かってますか?」
僕が何を言ってもシャノンにとっては可愛いらしい、と思わず笑ってしまう。それからも、シャノンの注意は続いたけれど、結局僕が可愛いということしか分からない話だったから、受け流していた。
「僕が可愛いのは分かったよ。……そろそろ可愛がってくれないの?」
「……レーテル、可愛いにもほどがあります」
家に付いてからも続く話に笑って言うと、シャノンはそう返して、僕に唇を落とすと、抱き上げてそのまま寝室へとなだれ込んだのだった。
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