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ルーベルトside
しおりを挟む――ルーベルトside
……何だこの可愛いのは。
店に入り、笑顔で出迎えた店主に止まる思考と身体。茶髪のくるくるとした髪と、同じく茶色の瞳。見上げると自然と上目遣いになり、固まる俺を見て首を傾げているその様子に心臓が跳ねる。聞きたいことも、店内をゆっくり吟味したかったことも忘れて早々と店を後にする。
……何だあれは。妖精の類か?
俺は魔術師たちが研究に使っている塔に行くと、あの店で買った薬を分けてくれた同僚を捕まえた。
「おい、何だあの店は。」
「はぁ?… …あ、薬屋?行ったの?あそこ、知る人ぞ知る名店だよ。色んな薬あったでしょ、どれも効果すごいし、変な薬草使ってないから安全……。」
「そんなこと聞いてない。あの店主だ。妖精の血が入っているのか? 何故あんなに可愛い者が保護されていない。今まで襲われたりしていないのが奇跡だ。今すぐ保護し、安全な……。」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっとストップ! え、何、何の話? 店主? まぁ、確かに可愛いけど、妖精ってギャグ? いや、お前がそんなギャグ言わないのは分かってるけど、ちょっと待って。」
「何を待つんだ。だから、あの店主を何故保護してな……。」
「ストップ!……え、お前、まさか……店主のこと好きになったの?」
……好き?
同僚の言葉に、俺は焦り出てくる言葉を止め、少し考える。
第一印象は、可愛い。声も通りが良く、低過ぎず高過ぎず耳に心地よい。あの柔らかそうな茶色の髪に指を通してみ
たい。照れた顔で見上げて欲しい。願うなら小さいあの唇に自分のものを重ねて堪能したい。そこまで考え、一つ頷いた。
「あぁ、好きだな。あれを俺のものにしたい。」
「うぉー……。マジかよ。ならまぁ、店に通って交流を深めろ。会話するんだぞ。突拍子もないことするんじゃないぞ? いつも俺らに対するみたいに、研究の成果が上がらないからって冷たく言ったり馬鹿呼ばわりすんなよ?」
こいつは俺のことを馬鹿にしているのか。そんなことする訳ないだろう。そもそも、あれは研究内容が理解できてないから結果が出せてない馬鹿だったから言っただけだ。
それを言うと、呆れたように同僚は、これだから天才様は…と呟いたが誉め言葉として受け取っておく。
同僚の言葉には耳を貸さず、あの店に行かねばと明日の予定を頭で組み立て直していた。
――――――
……何故だ。
翌日、研究所で研究についての論文を完成させながら今日の薬屋での出来事を思い返していた。名前はノルン、同僚に聞いた。すぐにでも結婚したいが、それまでの過程が重要だと散々言われ、会話をするに至ったのだが……。
……何故泣くんだ。
謝られ、涙を流され、柄にもなく焦ってしまった。確かに、言わなくてもいいことまで言ってしまった自覚があるが、店をやっていく自信がなくなり畳むことになれば収入が減る。そこでノルンを俺の研究の手伝いでも家政婦でも、雇えばすぐに距離も縮まるだろうとの考えがあるのは否定しないが。
……泣かせたいわけじゃない。泣くことはその相手に負の感情を持っていることを表す。それは駄目だ。
同僚が経過を聞きたがり、隠すことなく話すがあれは駄目だこれは駄目だ、こうしろああしろと、途轍もなくうるさい。
それでも、店に行っては泣かせて帰るという、関係は進展しないまま時は過ぎていく。
そんな中で、時間ができたため店に顔を出しに行った時。扉を開けると、見覚えのある顔の者がノルンを抱き締めている様子が目に飛び込んできた。
俺の頭は怒りとそいつに対する殺意で膨れ、攻撃を仕掛けた時にここはノルンの店だと思い直す。だが、その直後にノルンがそいつを庇うように前に出てきたため、ノルンについ当たってしまった。
すると、耳に入ってきたのはノルンの拒絶を表す言葉。頭が真っ白になった俺は言葉を失くす。グランが俺の様子を見て、耳打ちしてきた。
「……素直にならなきゃ、今の関係のままだぜ?」
ノルンに触れたグランを許していないが、その言葉はすっと耳に入ってきた。
そして、俺はとにかくノルンに許してもらえるように言葉を重ね、許してもらえたばかりか恋人になることができた。名残惜しくも、残っている仕事を片付けるため、一度塔に戻ったのだった。
「お、今日も行ってきたんだろ? どうだった?」
「ノルンの恋人になった。書類を取りに行く。明日提出し、結婚する予定だから結婚休暇を取る。残っている仕事は全て片付けるから、しばらく話掛け……。」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待て! 昨日の今日で何がどうなってそうなったんだ!? それ本当に合意だろうな!?」
会った同僚が聞いてきたため答えたが、今はとにかく時間が惜しい。やっと俺のものになるんだ、さっさと用は済ませて会いに行かねばならない。わーわーと横でうるさい同僚は無視して仕事を終わらせると、さっさと塔を後にした。迎えにいったノルンは可愛くて、こんな可愛いんだから狙っているやつも多いだろうと、手っ取り早く周知させるために街へと連れて歩く。予想通り話し掛けてくるやつが多く、その度に牽制しノルンは俺のものだと宣言した。
家に連れて帰り、抱き締めると戸惑いながら顔を赤くするノルンが可愛くて可愛くて。その様子を見るに、こうしたことは慣れていないんだろうと考えられ、余計に愛しさが増す。だから、事を進めるのはゆっくりでもいいと思っていたのだが……。
我慢出来ず、唇を合わせるとそれだけで腰砕けになるノルンに、もう抑えは効かなかった。早々にベッドへと運び、その身体を開いてしまった。
その朝、ノルンの全身に口付けを落としていると、恥ずかしがり身を捩る姿に、そのまま覆い被さりたい気持ちを抑えるのに苦労した。さんざん刺激や快感を与えてしまったため、どこかとろんとした様子のノルンに何とか書類に名前を書かせた。そして、そのまま寝ているようにと額に唇を落とし、家の鍵を掛けて書類を提出しに行ったのだった。
帰宅し、ノルンに書類を提出したことを伝えると呆然とした様子に首を傾げる。そして、俺はノルンに自分の気持ちを伝えていないことに気付いた。
だから、そのまま気持ちを伝えたのだが、まだまだ言いたいことはあるのに止められる。まぁいい。もうノルンと俺は結婚したのだから、俺のものだ。
そこから、外でも中でもノルンに触れるのを我慢することはなくなった。俺のものに俺が触れて何が悪い。だが、ノルンの可愛い顔を見せるのは癪だから、その時は腕に囲って周りのやつらを睨み付けている。
「……あのさぁ、皆ノルン君を見てるんじゃなくて、お前がそうやって囲って溺愛してるのを珍しがって見てるんだって。あんなに人に興味なかったやつが、王の命令さえも拒否して言い返すようなやつが、まさか結婚してその相手を溺愛するなんて夢にも思わなかったしさぁ。」
「ノルンはあんなに可愛いんだ。それなのに、本人がその自覚をしていない。もし俺が迎えに行けないことになった時、一人で帰らせるなんてできない。今、ノルンの店と俺たちの家を繋ぐゲートを作るための術式を考えている途中だ。」
「……うん、俺の話聞いてねぇな。ってかそんなの考えてんの? それ実用化したらすごいことになるぞ!? おい、それ王に申請してんだろうな!?」
俺は忙しいと言っているのに、同僚がうるさく隣でわーわーと何か言っている。あぁ、もうこんな時間か。そんな同僚を置いて、俺はさっさと帰り支度を始めた。俺の唯一の愛しい者を迎えに行くために、今日もまた聞き慣れた鈴の音を鳴らすのだった。
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