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理由がないと動けない俺は言い訳を探す
しおりを挟むあれから、ディランの態度はますますあからさまになり、会うと必ず声を掛けてくるばかりか、スキンシップもとってくる。それも、距離が近かったり腰を抱いてきたり、周りに誰もいなければ頬にキスをされる時だってある。その度に俺は挙動不審になってしまうが、ディランは気にならないらしく俺の反応を見て微笑むぐらいで意地悪なことだって言ってこない。だから俺も食って掛かることがないし、傍目には仲直りしたように見えているらしく。だからなのか、
「ルイス~。最近、ディランと仲良いじゃねーか。連携取るにはお互いの信頼が大事だからな。もう大丈夫だろ。ってことで、次の遠征、お前らで組んでおいたからな。」
と副隊長に言われてしまい、俺は唖然とした。
「えっ、いや、仲良いって訳じゃ……!」
「周りのやつらも言ってるぞ。最近、お前らがよく一緒にいるところ見るって。良かったじゃねーか。今までお前らは一人ずつでも問題なかったから組ませなかったが、やっぱり同等の力があるやつ同士の方がやりやすいだろ。一度組んでみて、何かあれば言ってくれ。」
俺は反論しようとしたが、副隊長に笑顔でそう言われてしまい、口を噤む。確かに良い関係性を築いている者とペアになった方が良いのは分かる。俺とディランは一緒に組んだことはない。言わずもがな、会えば喧嘩や言い合いばかりだったからだ。ま、まぁ、それも俺の勘違いだったわけだけど……。
「あ、の、その、ペアになったら、寝泊まりは……。」
「はぁ?何言ってんだ。ペアで一つのテントに決まってるだろ。今までもそうだっただろーが。」
怪訝な顔で言われ、そうですよね……と引き攣った顔で返事をした。副隊長はそれ以上何も言うことがないらしく、じゃあ頼んだぞ、と肩を叩いて行ってしまった。
「嘘だろ……。」
俺はその場で頭を抱えて蹲った。
ディランと一緒のテントで寝泊まり!?いや、いいのかそれ?告白してきたやつと寝泊まり。しかも俺はあいつに、だ、抱かれたことが、ある訳で……。い、いや、遠征だし、仕事だし、いくら何でも手出してこねぇよな?いや、別に手を出して欲しい訳じゃねーけど!
悶々と頭を抱えていると、
「うわっ!びっくりした、ルイス、何やってんだよ。」
同僚のレニーが俺を見てギョッとして声を掛けてきた。
「なっ、何でもねーよ!」
俺もびっくりして、バッと立ち上がって焦りながらそう言った。
「いやいや、何でもない面じゃねーよ。どうしたんだよ。」
笑ってそう言われ、ぐっと言葉に詰まる。俺は、キョロキョロと周りに視線を向けると、誰もいないことを確認してレニーの腕を引っ張り隣の空いてる部屋に連れ込んだ。
「おっ?何だ何だ、俺と逢引きするのか?」
「うるせぇ!そんな訳ねーだろ!」
「冗談だろ~。で、どうしたんだよ。」
「い、いや、あのさ、遠征の時、ペアって、その、テント一緒だろ?」
「あぁ。お前も遠征行ったことあるだろ。それがどうし……。あ、もしかして発散のことか?」
レニーは俺の質問に不思議そうな顔をした後、聞き慣れないことを返してきた。
「……発散?」
「え、何、知らねぇの?遠征とか何日も掛けて行く時、男なら溜まるもんあるだろ?それを発散するために、ペアのやつ同士でヤることも多いらしいぜ。だいたい事前に声を掛けるのが暗黙のルールみたいになってるけど、お前、遂に声掛けられたのか?」
そう言われて、俺は目を見開く。ペア同士でヤる……?
「な、何だそれ、俺そんなの知らねぇよ!」
「あ、やっぱり?今までお前と組んでたやつってだいたい戦闘で発散できるタイプの人たちばっかりだったもんな。」
「え、そうなのか?いや、それも初耳だぞ!」
「あー、だろうな。まぁ、お前もそのタイプだから今まで特に何もなかったんだろ。編成考えてるのは隊長だし、変なトラブルにはならないようにちゃんと考えてくれてんだよ。でも、今回は違うかったんだな?」
ニヤニヤとした顔を隠さず言われて、うっ、と視線を横に向けた。
「い、いや、別に何も言われてねーんだけど……。」
――ガチャ。
ペアを変えてもらうことは出来ないのかと相談しようとしたところだった。扉が開いた音がして、バッと振り返ると、
「―――こんなところで、二人で、何の話をしているんですか?俺も混ぜて下さいよ。」
そう言い放ちながらレニーに笑っていない目で真っすぐ視線を向けるディランの姿。
「で、ディラン、何でここに?」
「ルイスの声が聞こえたので。一体、何の話をしていたのですか?」
「べ、別に大した話じゃねーよ!」
「遠征中、ペア同士でヤることもあるって話をしてたんだよ。じゃっ、俺はこれで~。」
「なっ!レニー!お前~っ!」
とんでもない爆弾を放ったレニーは、誤魔化そうとする俺をさっさと見捨てると、さっさと部屋から出て行こうとしやがった。俺は咄嗟にレニーの腕を掴もうとしたのだが、
「……ルイス、レニーにもう用はないでしょう?ペアの話なら、ペアにするのがいいのではないですか?」
伸ばした腕を掴まれてそう言われ、俺はその言葉にピシッと固まる。その間に、レニーはさっさと出て行ってしまって扉は目の前で閉められ、ディランと二人っきりになってしまった。
「丁度、俺もさっき副隊長に聞いたんですよ。今回は、ルイスとペアだと。ねぇ、それなら、俺と話をする方が合理的ですよね。」
閉められた扉と挟まれるように、後ろにディランが立ち、覆い被さるようにしてそう言われる。後ろに、触れそうで触れない位置に立たれて存在だけ確実に感じることに、ドクンドクンと心臓の音が大きくなる。
「あ、え、で、でも、俺らには関係ない話だし……。」
「関係なくはないですよね。俺はあなたを抱ける機会があるなら抱きますよ、当たり前でしょう。」
スルッと腹に腕を回され、臍当たりを手でさすられながら耳元でそう言われ、ビクっと肩を揺らしてしまう。
「だっ、抱くってお前……!」
ディランに言われた言葉に、耳まで熱くなりながら、言葉を詰まらせる。
「恋焦がれて、欲しくてたまらない相手と寝所を共にして、我慢できるほど人間出来ていませんよ。」
そのまま、腹に回された腕をグッと引かれて、後ろから抱き締められる。俺は驚いて思わず振り返ると、
「んっ…!」
唇を重ねられる。頭を引こうとするも、いつの間にか頬に当てられた手で動かすことができず、深くなる口付けに息が切れて、足に力が入らなくなる。
「はあ、はあ……。」
離れた時、銀色の糸がお互いの唇を繋いでいるのを見てカッと身体が熱くなる。足に力が入らない俺を力強く抱き留めるディランは、熱を帯びた目で見下ろしてきて、啄むようなキスを贈られる。
「可愛いですね。このまま部屋に連れて帰りたいですが、あいにくまだ仕事が残っているんですよね。ルイスはもう上がりですよね。俺の部屋で待っていて下さい。」
「な、なんで、い、嫌だ……。」
息を整えながら、ディランの部屋に行くなどまるで抱かれに行くようなもんじゃねーかと思い、視線を下に向けた。
「……そうですね、では遠征のことで話し合いをしましょう。俺達が任されているのは先陣ですし、副隊長に地図や魔物の特徴も聞いてきたので、連携の取り方も摺り合わせた方がいいでしょう。これ、俺の部屋の鍵です。先に待っていて下さい。……あぁ、それと、戻る時はもう少し経ってからにして下さいね。可愛い顔を他のやつに見せたくないので。」
俺が口を挟む間もなく、ディランはそう言うと、名残惜しいですが、と俺の額に唇を落とすと、エスコートするように椅子に座らせられて部屋を出て行ってしまった。そして、俺の手にはあいつの部屋の鍵が……。
「ま、まぁ、遠征のペアだし、話はちゃんとしないといけないしな……。」
俺は一人で言い訳をしながら、顔の熱が引くのをそのまま待ったのだった。
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